青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
約束した通り、ヒナと至極フツーのデートしていると、オレは真正面から見知った顔が一人で歩いているのを見つけた。流石にオレも絶賛浮気のデート中だしスルーしようとしていたが、相手にそんな思考は残念ながらなく、いやねぇのは知ってたが、めちゃくちゃデカい声で名前を呼ばれた。
「なっくん!」
「……はぁ」
「出会っていきなりため息!?」
「カズくん、この人って?」
「大学の元カノで香織のダチ」
「あ、みし……じゃなかった、伊丹未来です。なっくんの生徒さん、だよね?」
「おう」
「あたしは氷川日菜です、そっか香織ちゃんのゆってたみーちゃんって」
「うんっ、わたしだね!」
太陽と向日葵が出逢った。もうひとり太陽は知ってるが、そっちの組み合わせも結構オレは体力削られるんだが、初対面とはいえコッチの組み合わせはどうだろうか。
蘭とモカは直接出逢ってたけど、日菜と
「青葉ちゃんに訊いたら、ここで会えるって」
「不倫はNGで」
「違うよ!」
「あ、違うんだ」
青葉ちゃん、ってモカのことだよな。まぁアイツがオレのストーカー復活したのは知ってる。あのバカは一旦カレシと別れやがったからな。まぁそれはそれ、アイツは惰性で付き合ってるところあったし、きちんと付き合うためにはオレに抱いていた憎悪とか殺意とかその他諸々を精算しなくちゃならんからな。
──って、そんなストーカーから情報を訊き出した理由とは? オレ、みみ相手も未練とか後悔とかめちゃくちゃ残ってるんだよな。それこそヒナたちと同等かそれ以上のな。
「カズくん的にはやり直せたらどーするの?」
「そりゃ今度こそ素直になるさ。オレはみみの愛に応えられてねぇんじゃねぇかってさ」
「……それ、ずるい」
「不倫はやっぱナシで」
「だーかーらぁ!」
そろそろハナシを逸らすのはおしまいにして、どんな用事なのかを訊き出すことにする。
というかみみがわざわざ探しに来るんだから面倒事というか、なんか過去に取りこぼしたことのような気はしてる。オレは大学時代も結構な勢いでやらかしてるからな。
「えっとね、ずみくん……あ、旦那さんの和己くんね」
「かずみ、カズくんだ」
「ふざけんな」
「あはは、たしかになっくんと名前似てる」
「んで、旦那さんがどうした?」
ふとオレも伊丹和己って略すとみみなんだなとかロクでもねぇこと考えてたけどな。ヒナの爆弾発言には流石のみみも苦笑いになってしまう。一瞬でまたハナシが逸れたじゃねぇかとツッコミを入れてから、軌道修正をする。
みみは、少し瞳を惑わせてから結構重大なことを打ち明けてきた。
「……過去のこと、なんっにも、話してないんだ」
「──よく、結婚する気になったな旦那さん」
「つまり、カズくんのことしゃべってないってこと?」
「えと、それどころか高校の時のカレシの話もしてなくてさ……どうしようと思って」
「あ?」
高校の時のカレシ? とオレが首を傾げる。待て待て、大学時代に香織から確かみーちゃんにとって初めてのカレシだからどうのって話をされた記憶があるんだが。つかオレだってお前の高校時代のこと訊いてこなかった。するとみみは目を瞬かせ、そうだったっけとか言い始めた。おいこら。
「昔、たしかに言いたくねぇなら言わなくていいとは伝えた気がするが」
「えーわたしなっくんに隠し事とかしてたんだ、びっくり」
「カズくん、もしかしてこのひとってかなりの天然?」
「おう、相当なバカだ」
「バカはなっくんもじゃん!」
「それは確かにねー」
おいバカヒナ、お前はどっちの味方だ。そんでマジな話、高校時代の意味深な発言はされたことあるが真実は終ぞみみの口から放たれることはなかったからな。つかお前、話の流れ的に大親友たる香織にも秘密にしてたカレシいたんだろ、とりあえずはそれをゲロってくれたら相談に乗ってやらんこともねぇかな。とはいえ、オレもついこの間までみみに由美子の話をしたことなかったからそれはお互い様でもあるんだが。
「りーちゃんから訊いてたけどね、ユミコせんせーの話」
「……あっそう、じゃあ尚更ここでぶち撒けてくれねぇと割に合わねぇな」
「カズくんが悪ーい顔してる」
「なっくんってそゆとこ全然変わってないねっ!」
「お前が言うな」
という和やかな雰囲気なのに安心したのか、みみはゆっくりと語り出した。それは間違いなくみみが抱えていた爆弾というか、痛い過去の話だった。美城未来が抱えていた、オレどころか香織にすら言えなかった過去の恋愛話。
そして、みみがみみとしてオレの前に現れる原因ともなった話だった。
「そのヒトは他校の陸上部の超人気者だったんだ、大会とかで毎回顔を合わせてた」
「そういや女子校だったなお前」
「うん、それでね、きっかけは大会の後にお食事とかどうですかって誘われてさ」
なるほどな、それで当時は子どもでその言葉にある陸上部くんの男女の関係を進めてぇっつう下心というか思惑みたいなのに気づくことのなかったみみはホイホイついてったんだな。
しかも蓋を開けてみれば食事だけじゃなくて買い物や映画とか、つまりはデートだな。なにせオレが今ヒナとしてることそのまんまだからな。んで、最後には送ってもらって手を繋いで帰ったと。
「デートだねぇ」
「だよね、今考えたらかんっぺきにそうなんだけど……わたしは気付けなかった」
当時のみみはマジに純粋で、ただ目の前にある青春を楽しく過ごしていただけだった。
それが、違うんだってことに気づいたのはその男が人気者だったことが発端だったらしい。
みみは人気者にくっつく悪い虫だった。それを排除しようとする陰湿な女がみみを寄ってたかって貶したのか。
「狭いコミュニティの中じゃスキャンダルみたいに扱われてさ」
「ファンクラブあったんだ」
「うん、それで身体使って誘ったとか、そういうのいっぱい言われた」
「高校時代のみみにそんなことできるわけねぇのにな」
「あはは、そうそう……けどなんにも知らなかったわたしは、男の子はそういうことをしたがってるってことを知っちゃって……怖くなっちゃった」
色々吹き込まれたっつうか憶測の内容があまりにいかがわしい方向に行ったのが原因で男女の関係が自分が思っていたよりも怖いものだってことに気づいちまったのか。女子校あがりのみみには厳しい現実だよな。実際のところ男なんてイイ女がいれば欲しいって思うのが自然なんだし、否定する要素でもねぇけどな。
「わたしさ、元々陸上部でも浮いてたんだ」
「そうなのか?」
「あんまり強くなかったから、わたしだけが本気で陸上やってて……でもその本気でやってるのも大会であのヒトに会うためだとか男漁りしてるとか、そういう噂が嫌で……逃げちゃった」
同時に、幾ら身長が高めっつっても男性の平均身長の時点でみみよりも上なんだ。体格もでかくて、力はモチロンみみより強い男って存在が怖くなったのか。ビッチって罵ってくる女も、話しかけてくる男も怖くて、香織に縋るようにして、香織の影でのみ輝く太陽が出来上がった。そして、大学でオレに出逢ったのか。
「よくカズくんに近づく気になりましたね? 大学当時のカズくんとか性欲モンスターじゃん」
「否定はしねぇな」
「あはは、なっくんは……ううん、あのヒトも違った。ホントは触れられるのも怖くなかった」
「そうやってみみは自分を守るしかなかったんだろ」
「そうなんだろうね……でも関係ないって思えればきっと、ちゃんとお付き合いできたんだろうなぁって」
でも現実にはそうならなかった。今ならその気持が痛いほどわかるよ。隣にいるヒナと幸せになれた未来があった。きっと、いや確実にみみとオレが卒業後も一緒に暮らして、そのまま幸せになった可能性だって存在したさ。由美子のことを知ってて、その上自分の気持ちがあっても尚、オレとみみの幸せを見守る係だと豪語してた香織があの場にいたら絶対に状況がややこしいことになってただろうからな。
「でも、後悔してないんだろ?」
「なっくんとの関係は後悔してるよ」
「そういうのはいいんだよバカ」
「わたしがちゃんとなっくんの気持ちをわかってあげてれば、今みたいにややこしいことになってなかっただろうし」
それは確かにな。大学時代にみみと付き合ったままいれば、少なくともヒナや蘭なんかと未練や後悔を未だにズルズルと引きずっていかなくて済んだだろうしな。飽きた、なんてわかりやすい嘘、どうせ気づいてたクセにな。そう問うとでも、なっくんが一緒にいたくないってゆったのはホントだったよと悲しそうな顔をされた。
「……カズくんって最近までホントになんにも変わってないんだね?」
「言うな」
「どーせあれでしょ? 自分の価値がどうのとか、明日を信じてあげられないとか思ってたんでしょ?」
「……言うなって」
「わたしは、なっくんとただ一緒にいたくて、いっぱい愛してるよって伝えれば一緒にいられるのかなって考えてただけだから」
過去の女と過去の女に挟まれて痛い思いをする。
とにかくだ。とにかくちゃんと伝えてみろよ。そうやってまっすぐ過去の傷を伝えてみればいいんだ。お前が惚れた男なんだ、それを受け止めるくらいの器はあんだろうよ、オレと違って。
「んー、なっくんが最高のカレシだったかな」
「旦那が泣くぞ」
「だって、わたしがずみくんのことを好きになれたのは、なっくんのことを忘れられなくて泣いてたからだもん」
「……お前それは絶対秘密にしとけよ」
それを言ったらヒナカレシみたいなリアクションになること間違いなしだからな。いやヒナカレシは浮気性のクズ野郎だからまぁ少しくらい痛い目見とけっていうヒナの言葉に賛同はするが、まさか自分の結婚相手が自分との関係はほぼ浮気でしたとか言われてみろ、普通は泣くどころじゃ済まねぇからな。
「……はぁ、とんだデートになって悪かったな、ヒナ」
「ううん、カズくんの昔の顔が知れてちょっとお得な気分になったし♪」
「はは、みみとか香織相手はどうしてもな」
みみと別れて、ヒナと歩く。仕切り直しにどっかメシに行こうぜって誘ったのはオレだった。
昔の顔、か。香織はなんだかんだで同僚時代の記憶もあるからいいんだが、みみとの関係はあの日で止まってたからな。もしも再会が数年前だったら、オレはみみを全力で今の旦那から奪いに行ってたんじゃねぇかってくれぇには、アイツへの想いを拗らせてたからな。
「そういうカッコ悪くてカッコいいとこは、変わんないよね」
「それは褒めてんのか? けどまぁ、元カノってのはやっぱグレードが違ぇなって思う」
「男の子って過去の恋愛を保存しちゃうタイプって言うもんね」
オレは間違いなくその別途保存タイプなんだよな。由美子から始まり、大学時代の浮気相手とか、オレに好きだとか抜かしてたクセに実は本命がいたヤツとか、みみとかな。みんな、出逢ったら当時の想いをぶり返しそうで困るんだよな。確かにヒナや蘭、モカに千聖に紗夜に……お前ら生徒たちだって十分すぎるほど愛してたけど、その時に明日を信じたいと思わせてくれた元カノってのは特別だよ。
「あーあ、あたしもカズくんの特別になりたかったなぁ」
「……ヒナは、特別だろ」
「え?」
だから、お前はオレの中で特別なんだって前から言ってるだろ。レナの中退の件で理想も全てを失ってたオレがまたクズとはいえ教師やっていられたのは、ヒナがいてくれたからなんだって。
幾らお前がメンヘラクソ悪魔だったとしても、氷川日菜って存在はオレを教師としてギリギリ踏みとどまらせるには十分すぎるほどのヤツだったよ。
「えー、それ口説いてるの?」
「違ぇよ」
「じゃあご飯食べたらホテル行こーね、カズくん♪」
「結局するのか……正直お前はそこまで戻んなくてももう後悔してねぇの知ってるんだけどな」
「あたしだけ除け者にしたらヘラってやるんだから」
「冗談に聞こえねぇな」
「本気だもーん」
ヒナはそういうヤツだな。昔に戻るんなら自分も、そういう女だ。ヒナの後悔ってのは千聖なんかとは違って、自分が引き金を引いたってことだからな。ところで昔に戻りすぎててそろそろオレの腰も厳しいんだがヒナが遠慮してくれるはずもなく、けどまぁ屋上よりかは楽できたのは僥倖だったと言っておく。いやマジ、ラブホのベッドが柔らかくて助かった。
・伊丹(旧姓:美城)
詳しくは「青春バッドエンド」を参照されたし。
後で差し込むと思うけど前作の後日談「夢見る青春ドリーマー」にあった結婚式云々の話の後の時系列です。