青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
天体観測、となればヒナとこころの名誉部員どもは絶対に参加してくる。前回はそんな二人に蘭とモカが後から合流したという形だった。だが今回のメンバーの多さには流石の新入部員たちも驚きに顔を染めてオレを質問攻めにする始末だった。
ヒナが卒業生で生徒会長なのはもはや羽丘の黒歴史であり武勇伝みたいなところはあるんだが、それ並の有名人がたくさん来たらなんかの撮影かと疑うんだろうな。
「なんでRoseliaの二人が!?」
「白鷺千聖さんってやっぱりあの女優のですよね!」
「先生とどういう関係なんですか?」
「卒業生じゃないですよね!」
──まぁそうなるわな。あとリサは卒業生だからな。
すっかりお馴染みとなった弦巻カーを停めた駐車場前に現れたのは前回メンバーに加えて千聖、リサ、紗夜が増えていた。前回はRoseliaは番組出演の関係で忙しくて、千聖はそもそも芸能人だしな。
「学生時代の頃に、一成先生に色々と指導してもらったの、そうイロイロと、ね?」
「私たちの母校の花咲川に来たことと、妹がお世話になっていたので」
嘘は吐いてねぇっつうか千聖は誤解、じゃねぇ真実を察知されるような言い回しをするな。一応最近はマジメな先生に戻りつつあるんだぞこの野郎。クズ教師なのほんの二年かそこらの話なんだからな実は。
とか言いつつ一番ヤバいのは解禁されたおかげでストーカーに戻ったモカが離れねぇことなんだけど。
「モカ、みんな揃ったよ」
「せんせーの温もり〜、久しぶり〜、えへへ〜」
「はいはい、後で構ってやるから、蘭も」
「アタシは……いや嬉しいけど」
そんな新入部員である恵理子と葵はそっちには触れてこねぇ。いやもう触れたらヤバいことはわかってるんだろう。別にオレとしては昔の女としか紹介する気ねぇしなぁみたいな。問題は結良がむくれてるところかな。二人がいる手前は恋人としてではなく生徒として接するしかねぇことで不満が溜まりに溜まってるようで。
「カズ先生、イチャイチャしすぎ」
「ゆーたんごめんね〜」
「モカちゃん先輩にはゆってない……まぁその通りだけど」
「それじゃあ、出発するわよ!」
こころがタイミングよく音頭を取って、ヒナやリサ、千聖なんかが恵理子と葵を連れて先に車に乗り込んでいく。空気の読める生徒ばっかりで嬉しい限りだ。モカも紗夜と蘭に連れられて結良から名残惜しそうに離れていく。お前は結良を構いすぎ、オレにもイチャイチャさせる時間を残しとけよ。
「結良」
「……今はいい」
「そうか、んじゃ後でな」
「うん」
抱き寄せようとすると拒否られてしまう。けど後ろ姿はやっぱり寂しそうで、ヤキモチでどうにかなりそうなんだなってことは察しがつく。だからとりあえずは背中を叩いて先に車に乗ることにした。もどかしいな、これが二人きりなら遠慮なく一緒にいられるんだけどな。やっぱこうやって天文部としての活動じゃダメだったか、そんなことを悶々と考えてるとモカとこころにサンドイッチされた。
「よしよし、お悩みですな〜せんせーは」
「大丈夫よ、ダメじゃないわ」
なにこの甘やかしコンビ。そういやオレが由美子のこと思い出してクサクサしてた時もこの二人が真っ先にオレんちに来て殴ったり激飛ばしたりしてきて、そっからまた立ち直るきっかけになったんだったな。別に口に出してねぇのにそうやってオレの考えを否定したり肯定したりしてくれんのは、嬉しいけど怖いんだよな。
「ゆーたんは、せんせーと一緒にいるのも好きだけどさ〜」
「こうやって賑やかに星を観るのも好きだから大丈夫よ!」
「……ステレオで慰めてくんなよなぁ」
昔だったらそれこそうるせぇクソガキどもと振り払うところだが、まぁコイツらすっかり大人になっちまってまぁ。もうオレが上から目線で説教することなんてほぼねぇよ。最後のクズ教師だって張り切ったはいいものの、昔みてぇにごまかせることもなくて、嬉しいような寂しいような、なんとも言えねぇな。
「あたしは下心ありきよ? こうやって先生のポイントを稼いでおけば、甘えても許してくれそうだもの!」
「ピュアなスマイルでクソみたいなこと言ったなお前、いやまぁその通りなんだろうけど」
「あたしは〜、せんせーがいるだけで幸せだよ〜」
「ありがとな、モカも」
「えへへ〜」
ただ、昔よりもいいところは一人で後悔したり悩んだりすることがなくなったことだな。成長した生徒たちがこれでもかってくらいに甘やかしてくれるせいで、しかめっ面をすることも、ストレスの捌け口に
後は、譲り合いができるようになったところかな。モカとこころはオレが大丈夫そうだと判断したらしく、オレの隣の席にリサを押し込んできた。
「引っ越しん時以来だな」
「そだね、Roseliaの海外ツアーとか忙しかったしさ」
「そうだったな、そっちの労い忘れてたよ……お疲れ、リサ」
「アタシだけじゃなくて紗夜にも……ん、アリガト」
リサは、リサの恋は始まる前に終わってた。気付いた頃にはもうオレの周囲にはヒナがいなくなってて、千聖や蘭、モカと次々に送り出していく様子を間近で見ていて、自分の気持ちを押し留めていた。
──言わなければ、傍にいられると思ったから。もしかしたら、時間が解決してくれて、一人残った時が自分のチャンスじゃないかと思ってたのかは、わかんねぇけど。
「カズ、センセーってさ」
「別に
「……聞かないフリしてよ」
「んで?」
「それもう手遅れじゃん……えっと、一成ってさ、結局はゆーらと付き合ってるんだよね」
「そうだな」
少し声のトーンを落として、事情を知らねぇ二人には聞こえないようにして訊ねてくる。
肯定すると、予想はしていたがリサはだよねと笑う。アレなんだよなぁ、リサはどうか知らねぇけどあの未練を昇華してる最中にあったハーレム作ってた頭の悪い展開、あの時にリサもメンバーに入ってたわけだけど、どうやってこの純愛を信じるピュアガールを口説いたんだろうな。イマイチ思い出せねぇんだよなぁ。
「アタシも、なんでああなったのか思い出せない」
「思考を読むな」
「一成の、ことだし」
参ったな強敵だ。正直な、リサは曲者っつうかオレの浮気性にキレて泣いて、関係が崩壊しかけた上で最後まで待たせて付き合ったんだよな。そもそも正史の上でも度々オレの悪癖を非難してきたヤツだし。
──ただこれ以上コイツを放置しとくのもよくねぇ。リサは現在進行系で未練と後悔って海に自分を沈め続けてる。オレが、なんて野暮なことを言うつもりもねぇけど、救って上を向かせてやんなきゃ、幸せな未来なんてものも見えるわけねぇしな。
「リサちーのこと、苦戦してるっぽいね」
「ヒナ……ああ、正直な」
「一成さんは、今井さんのことを前々から測りかねていましたよね」
「紗夜まで……ん、まぁ言われるとそうなるのか?」
天体観測会の準備が終わった夕方頃、テラスに用意されたベンチに座っていると両隣に双子が座ってきた。
アイツはそこまで積極的に関わってこようとする方じゃねぇしな。あくまでお前らの友達、知り合いって枠であって。言い方は悪いがオレって物語が紡がれたとして、メインヒロインはお前ら五人で、リサはサブヒロインみたいな感じだ。ちゃんとオレが面倒を見て生徒として絆してクズ教師らしい関わりをしてくるのにはひとまずエンディングまで言って新規データをロードしなくちゃならんくらいには、関わりが限定されてたしな。
「それに、リサはオレの生き方をどうしても認められねぇ。いや、アイツの失恋を考えたら認めちゃいけねぇんだよ」
「今井さんは、カレシに浮気されていた……のでしたね」
その話は白金のカレシから事情聴取したな、ちょっと前に。桜田くん、だったっけ。あの大人しそうな子がご主人様で拾っていただいて云々とか抜かしてたからどんなやべぇのが出てくるかと身構えてたら、案外フツーの男が出てきて拍子抜けしたのがまだまだ真冬の寒さを醸し出す頃だった。
「あー、コンビニでバイトしてたタメのやつですね去年まで一緒でしたよ」
「マジか! バイト、まだしてたのか……そっか、思ったよりも近くにいたのか……そりゃリサーチ不足だったな」
「青葉も多分内緒にしてたと思うので、それくらい触れにくいってことじゃないですか?」
「モカ、そうだよな……アイツは知ってるよな」
とりあえずはかつてのバイト仲間で同年代の同性としてどういうヤツかを訊ねてみた。どうやら当たり障りのないヤツではあったけど、しきりに白金と桜田くんの関係を羨んでいたのだと言っていた。桜田くん的にはあの子の言うご主人さまというのにはそれほど主従の意味は込められてないとは前置きしてくれたけど。後モカ的にはオレがこれ以上リサへ踏み込んだらどうなるかってのくらい予想できてたんだろうな。あのヤンデレストーカーの考えることだ、人数増やすのは許可してくれるわけねぇしな。
「リサって、ホラ、構いたがりじゃないですか」
「だな、実感してる」
「有り体に言えばあいつは構われたがりの方が好きなんですよ。下から覗き込んで、甘えて、なんなら主従のように付き従ってほしい……みたいな」
「女がステだと思い込む類か」
「まぁ、言っちゃえば」
はぁまたここにクズがいたよ。リサの世界で事情はそれなりに聞いてたけど同性からもこの評価じゃあ残念ながらリサに男を観る目がねぇって評価をしなくちゃならねぇな。オレって存在も含めて。
最初はリサの世話焼きは男としての優越感を満たすには絶好だった。だけどアイツの世話焼きは尋常じゃなくて、そのうち、自分が管理されるような錯覚に陥ったんだな。それで、甘えん坊のかわいい系の女に浮気した。指摘されてあっさりとリサを捨てるほどに。
「紗夜から、訊きました」
「なにをだ?」
「年下の女を囲うのが得意なクズ教師だと、先生のことを」
「……紗夜のヤツ」
言うようになったじゃねぇかアイツ。ガキの頃は盲目に尻尾振ってきたヤツと同じ言葉とは思えねぇな。つか一周回って元の評価に落ち着いてるのもなんか笑っちまうな。惚れられる更に前はそうやって敵視してきたっけか。あの時の夏休みとか懐かしいな。そんな思い出に遠い目をしていると、桜田くんはでも、と言葉を続けた。
「燐子を拾って、元カノに捨てられて、色々な恋愛話を聞いて思ったんです。その本人たちにしかわからない愛し合う関係ってものがあるんだって」
「キミと白金のようにか?」
「そうですね、なにせ
「そっちの純愛をこっちの下世話な恋愛と一緒にしちまうのはヤだな、けどありがたく受け取っとくよ」
フツーの恋愛なんてねぇんだなと思わされたよ。リサに度々問いかけてきたフツーの恋愛。千聖に一時期押し付けようとしたフツーの恋愛。そんなもの、きっとどこにもなくて、千差万別であり十人十色なんだってことにオレは気づくことができなかった。
──そもそも流されてヤリてぇって気持ちと愛おしくて仕方ねぇって気持ちが高じたヤリてぇって気持ちに区別ついてなかったオレが恋愛を語るのはおかしな話だがな。
「あはは、たしかに!」
「お前もだろバカヒナ」
「では、私たちは……?」
「言わせてぇだけだろ、それ」
「言ってほしいわ、一成の口から」
「愛おしくてしょうがなかったよ。腰が砕けてもいいくれぇにはな」
その言葉がきっかけだったようで、紗夜がキス待ち顔になる。それに応えてやるとヒナがずるいとばかりに舌を突っ込んできやがるからまたギャーギャーと騒がしく、けど昔のような言い合いをしていた。
それを紗夜はオレの手を握りながら愛おしそうに見つめていて、やっぱりお前は追われる恋愛より追いかける恋愛なんだなってことを再確認したのだった。
続く
モブ紹介
・桜田翔太
白金燐子の
「捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど」という過去の連載作の主人公でもある。
・恵理子と葵
エリちゃんとアオちゃん。「黄昏ティーチャー」のアナザーエンディングにおける弦巻こころの世界で言及された「日菜、こころのキャラに耐えきれる面白さ」と「フツーの枠から抜け出した部活動についてこれる胆力」の二つを併せ持つ選ばれしものたち。アオちゃんは商店街のミッシェルとは違うキグルミのバイトをしている。オーナーは弦巻こころ。