青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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⑥純白カミ―リア

 夜になり、ご満悦で天体観測を続けていたはずの結良の悲鳴のような非難の声がオレの耳朶を打つ、そして思わず同じように耳を塞いだ()()が、暗い中ではあるが顔を青ざめさせたような絶望した顔をした。大丈夫、怖くはないはず。思いっきりわかりやすくしてる誤解が解けたらだけどな。

 

「……ま、また女の子を……しかもロリっぽい」

「ロリ……」

「しかもロリなのに、おっぱいはおっきい!」

「……気にしてるのに」

「おい結良、年上だからな、失礼のねぇように」

「あこちゃん先輩に遭遇した時並の衝撃を受けたよ今!」

 

 そのロリ巨乳……ではなくてれっきとした今年でハタチになるはずの彼女は結良の剣幕に限界だったようで、思わずといったようにオレの影に隠れてしまう。大学生とは思えねぇ小動物感だなぁと感心していると結良は益々眉間の皺が深くなっていく。だから別の女じゃねぇって、つか結良がいるのにヒロイン増やしてどうすんだよ。結良に生徒七人でもうお腹いっぱいだろうが。

 

「あら、ましろじゃない!」

「あ、こころさん……こんばんは」

「どうしてここにいるのかしら?」

「迷子になったんだとよ、スマホも置いてきちまってて困ってたみてぇだ」

「そうなのね!」

 

 彼女の名前は倉田ましろ。オレが彼女を知ったのはまだ彼女が高校生になったばかりの頃だった。と言っても羽丘でも花咲川でもなくて、月ノ森っていうめちゃくちゃな歴史と伝統のお嬢様学校の出身なんだけど。世間は狭いもんで、この子もうちの生徒たちと同じく共通点にガールズバンドをやってるって経緯がある。それでその時期に知り合って未だに時折顔を合わせるバンドはもうひとつあるが、それはまた羽沢珈琲店でのんびり話してる時にでも出てくるだろう。

 

「さ、最初、怖い大人かと思って……清瀬先生で、よかったです」

「倉田は、いつものアイツらとか?」

「は、はい……ちょっと作詞に行き詰まって、それじゃあって七深ちゃんちの別荘に」

 

 モニカメンツは相変わらずのようで。お嬢様学校で組まれたバンドよろしく五人中、この薄幸そうな白髪女子以外は実家が金持ちとかいう財力でテキトーに表すと弦巻こころが四人いるバンドなんだよな。その中でも土地をお持ちの広町七深はこころやヒナとも割と仲がいい。というか積極的に会話する機会どころか、会う機会すらねぇのって目の前の倉田か八潮瑠唯くらいな気がしてきた。

 

「透子に連絡しといたから、大丈夫!」

「あ、ありがとうございます……よかったぁ」

「さて、桐ヶ谷がくるまでコッチで天体観測してくか?」

「少し、騒がしいけれど」

「あはは……騒がしいのは、あんまり変わんないから大丈夫です」

 

 いや、こっちはハタチ過ぎて成長したなと思わせておいて童心忘れてねぇバカがいっぱいいるから。ヒナとかこころとか。

 ベンチで座りながら満天の星空を眺めて、思わず眺めながらタバコを吸おうとして、リサにひったくられてしまった。なんだよと思ったが、そういや隣にはゲストの倉田がいたのを忘れていて悪いと謝る。

 

「もう、カズセンセーってばすぐタバコ吸おうとする」

「そ、そういえば、初めて会った時も吸ってましたね」

「このセンセーさ、学校の屋上で吸うんだよねぇ」

「喫煙所ないんですか?」

 

 どうやら月ノ森にはちゃんと喫煙所あるらしい。羨ましいなおい。ただ駐車場は外車とか高級車まみれだそうで、やっぱ羨ましくねぇ。なるべく見た目的にカッコつけた車に乗ってはいるけど、値段の話すると高級車とは言い難いんだよなぁ。それと同時に、でもと倉田は高校の思い出を語った。

 

「先生みたいなヒトは、いなかったなぁ……」

「いてたまるか」

「せ、先生って、なんか……んーっと、太陽みたいな星、って感じ」

「……太陽も星だろ」

 

 そういえばこのおっとり薄幸娘もいい性格してる後輩(かおり)金髪太陽サマ(こころ)と同じように小宇宙を感じる部類の人間だったな。変人には変人が寄ってくる。なるほど誰が変人だおいコラ。

 倉田はオレのツッコミにそうじゃなくてと表現が難しいようで、濃紺の空を埋め尽くす白い光、そして時折見える黄色や青色、赤い光を指さして、語ってくれた。

 

「先生は、真夜中の太陽……です。あの赤い星がもっと近くにきちゃった、みたいな」

「それって、星の輝きを消しちゃう的な?」

「そう、ですね……眩しすぎて、真夜中にいるのは、星が輝けないからよくなくて」

「なるほどねぇ」

 

 リサが納得したような声を出して、オレを飛び越えて会話が成立してる。おい、その真夜中の太陽さんは置いてけぼりを食らってんだけどな。オレは全然なるほどねぇとはなってねぇんだからな。

 結局、解説がされることなく倉田は迎えにきた四人に引き取られていった。そして見えなくなってから、オレはリサに声を掛けた。

 

「なんか勝手にリサって倉田みてぇなヤツは苦手だと思ってたよ」

「まぁ苦手かも」

「だろうな……なんせ」

「言ったら怒る」

 

 なんせ、きっとリサの元カレが求めるようなカノジョ像は、きっと倉田みたいなヤツなんだからな。ああいうの女子の敵って言うんだろうなってのは察知したよ。つかいたいた、ああいうオドオドっとしてて鈍臭いけど男子にはモテてる謎の女。オレの自然消滅した初恋の子もあんな感じだった気がする。

 

「ふぅん?」

「ま、由美子にぜーんぶ上書きされたけどな」

「あのセンセ、嫉妬深いっぽいケドね」

「そうだけど、なんで知ってんだよ」

「夢の中で自己紹介されたからね〜」

 

 はぁ? と首を傾げる。詳しくはそれこそ夢の中の出来事だからボヤけてはいるけど、どうやらリサは夢枕に由美子が立ったことがあるらしい。屋上でオレと同じ銘柄のタバコ吸ってて眩しいけど淡くて悲しくなりそうなキラキラの笑顔でオレのことを語る女。うんそりゃ由美子だな。なにしてんのあのクズ教師。お祓い行った方がいいやつかこれ。

 

「守護霊なんじゃない?」

「イマの女に嫉妬向けてくるバカがか?」

「……その言い方も、ヤだな」

 

 とにかく会話の中身はよく覚えていないが、オレにとっての先生と呼べるヤツだったってことと嫉妬深そうなヒトだってことだけは強烈に覚えてたらしい。アイツは先代クズ教師であり初代メンヘラエロ悪魔だからな。なんせ屋上でいたいけな男子高校生を押し倒してキスして告白してくるようなクズだからな。

 

「一成の師匠って感じだよね」

「悲しいことにな」

「でも、一成がアタシたちに出逢うきっかけでもある」

「教師になりてぇって思ったきっかけだからな」

 

 もう既に頭が痛くなることもなくなったから、結良にも話したしみんなに伝えたけど、川澄由美子ってクズ教師はオレの愛したヒトであり、オレが教師っていう夢を抱く道筋をくれた恩師でもある。大人になって、死んだ時のあのヒトの年齢を越しても、いや一生かかたって敵わねぇ相手でもあるけどな。

 

「一成にとって、アタシはイマでいいの?」

「リサ以外にもいるけどな」

「……そだね、だから一成は、アタシにはあんまり積極的になれないんだよね」

「そうだな、浮気してんのは事実だからな」

 

 なんならその浮気相手がリサであって、残りの生徒たちであって。どんなに頑張っても本命は音羽結良ただ一人だ。オレが将来を奪ってやりたいって思った相手も、オレの生涯を懸けて笑顔を守りてぇって思ったのも、結良だけだ。言っちまえば、結良と幸せになるために必要だから、結良との幸せの邪魔になるかもしれねぇから、こうやって後悔をなんとかしようって奔走してんだからな。

 

「あー、でも、でも……なんでかな」

「なんでだろうな」

「好き、好きになっちゃったんだ、一成のこと。大好き、アタシの将来全部懸けていい。一成が欲しい。一成と一緒にいたい。結婚して、子どもができて、その子どもが大きくなっていくのを、一成の隣で笑ってたい」

「……リサ」

「この気持をちゃんと言う前に、ちゃんとフッてもらう前に……アタシの恋は終わってた」

 

 相手が浮気性のクズなハズなのに、元カレで傷ついたのにそれにさらに輪をかけてクズであるハズなのに、リサはオレに恋をした。それは諦められるどころか、時間を積み重ねる程に大きく膨らんでいって、でも言えなかった。オレが空虚な顔でずっと、生徒たちを送り出そうとしていたから、自分もそうなるのが怖かった。

 

「大学生になってさ、独り占めできたの……すっごく嬉しかった。いっぱいデートして、リサって名前呼んでくれて、それ以上のことは何もないけど、それでも……アタシにはあの時間が宝物だった」

「けど、本心は違ったんだろ?」

「当たり前じゃん、だって流されやすいって聞いたから、ここで帰りたくないって言ったらホテルとか連れてってくれるのかなとか、キスしたら絆されてくれるのかなとか、ずっと悶々としてた」

 

 

 そのくれぇ欲張りでいいと思うけどな、オレは。静かに消えてくはずの気持ちを掘り起こしたのはオレへの未練の世界だった。

 オレだってなんの冗談かと思ったよ。リサはあんなに傷を隠してオレと生徒たちの物語を見届けてくれて、なのに勝手にフェードアウトしようとしやがって。オレがそんなの許すわけねぇだろ。

 

「それはお前がよくわかってんだろ、リサ」

「でも、結良が」

「オレは()()()()()()()()()()()()()()()()

「──っ!」

 

 お前とのハッピーエンドの世界でも確か散々言ってるはずだけどな、リサ。

 周囲とかどうだっていいんだよ、そんなのを考えるのは二の次だ。今井リサは幸せになるべきだ。少なくとも、オレがいる前ではな。そのための言葉を、お前はもう持ってる。んで、そのジョーカーを、使っちまえばいいんだよ。

 

「か、カッコつけすぎでしょ……バカ」

「バカはお前だバカ」

「ばっ、すぐ……一成はすぐそうやってバカって言うんだ」

「バカにバカって言って悪いかよ」

「好きって言ってくれた方が、好きなんですケド?」

「愛してるよ、リサ」

「……ばーか」

 

 オレはリサが十分に愛されたくてにゃーにゃーうるさいヤツだってこと知ってんだからさ。遠慮なんてする必要ねぇだろ。んで、せめてみんなが落ち着くくれぇまでは傍にいてくれると助かる。リサは他のメンツのブレーキとしても超優秀だからな。

 大丈夫だ、お前は絶対に幸せにしてやる。どんな手を使ってでも、もう二度とリサが悲恋で泣くようなことにはさせねぇよ。

 

「いまさら、取り消しはナシだから」

「当たり前だろ」

「……アタシの処女まで、奪っちゃってさ」

「初めての男、に拘る気はねぇが、これは愛してたのに愛してやれなかった意地みてぇなところもあるな」

「もう、そういうとこ……バカだ」

「好きだろ?」

「……ん、好き」

 

 まるであのハッピーエンドの時のようにリサはそのままオレの腕の中で眠りについた。ストレスってわけじゃねぇが、それでもちょっとは遣る瀬無さがあったからテラスでタバコを吸っていると、いつの間にか背中に体重を掛けられていた。この感じは、結良だな。わかった自分がちょっとキモいことに気づき、気付いてねぇフリをしながら振り返った。

 

「えっちなんだ」

「開口一番がそれか」

「だって、体重掛けただけでわたしだって気付いてたクセに」

「抱き心地を覚えて──っと、暴力系ヒロインは流行んねぇからやめとけ」

「ばか、セクハラカレシ、クズ教師」

「何一つ言い返せねぇ……」

 

 もう大分短くなってたタバコの火を消して、オレは結良を抱きしめる。

 悪いな我慢させちまって。それこそ恵理子と葵がいなけりゃ、もっとオープンでよかったのにな。

 それについて結良に二人きりとか、あの二人抜きとかのデートの方がよかったかと問いかけると、やっぱり結良は首を横に振った。

 

「天文部だもん。新入生を除け者になんてできないよ」

「けど」

「我慢した分、後でカズくんちでイチャイチャするもん」

「何泊する気だよ」

「ずっと」

「よし、わかった」

「いやダメでしょってば、もう、わたしのことになると見境なくなるんだから!」

 

 そりゃ、もう手放したくねぇからな。正直、明日を信じれるようになったとかカッコつけたこと抜かしてるけど、由美子の件って結構なトラウマなわけでさ。ふと連絡取らねぇと、顔を見ねぇと怖くなるんだよ。

 ──いきなり愛した女が手の届かねぇところに逝っちまったって恐怖が、足元から登ってくるんだよ。

 

「怖がり」

「って言われてもな」

「そんなんだからリサちー先輩を泣かせちゃうんだよ?」

「うぐ……そりゃもう、身を以て」

「セクハラです」

「理不尽だなおい」

 

 マジでイッた余韻が幸せすぎたって理由で泣きじゃくるくれぇメンタルやられてたんだよな。やっぱ千聖の方がマシだった。アイツは心底嬉しそうでありながら申し訳無さそうだっただけだからな。

 ──はぁ、つかこれでリサ、千聖、ヒナか。まぁ結局は七人コンプするんだろうなぁって気がしてくる。するとこころもか、いやアイツの貞操観念ぶち壊したのオレとヒナだし、そのツケなんだよな。

 

「ましろちゃんって先輩は増えないよね?」

「増えねぇよ、増やしてどうすんだよって」

「えっちする?」

「そうなったら遠慮なく暴力系ヒロインになってくれ。結良が殴って許してくれねぇと命の危機が迫る」

 

 そんな冗談を言い合いながら、まだまだ涼しい風が吹く朝焼けのテラスでオレはたっぷり結良の成分を補充させてもらった。帰りは紗夜と千聖に挟まれて、特に千聖には結良と同じように倉田との関係を尋問されながらの下山となった。だから、結良だけでもアレなのにもう美人七人囲んでんだよコッチは! ホントなら初期のヒナと蘭の二人で限界だったっての! 

 

 

 

 

 

 

 

 




リサ攻略完了! 
・モルフォニカについて
 初期執筆時点では影も形も存在してなかったモニカさんですが、現状は羽沢珈琲店でつくしちゃんが登場するのが一番多いと思います。
・もう一つのバンドについて
 アイドル二人囲んでるのであの子が、Roseliaと二人関わってるのであの子が、商店街に出没するのであの子とあの子と面識があります。Afterglowとの関わりで出るか、アイドル関係で出るか。
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