青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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⑦初夏ホリデー

 結良に始まり、クズ教師として立つと決めてからそろそろ三ヶ月、すっかり暑さが際立つようになってからもオレの新居に独りということはほとんどなかった。

 日曜、出勤もしねぇ最高の休みの日にオレはふわふわの赤茶色の髪を撫でつけながら、微睡みの中で船を漕ぐ彼女を腕に収めていた。

 

「リサ、今日は予定ねぇの?」

「……んー」

「手帳、勝手に見ていいか?」

「ん」

「よ、っと」

 

 手を伸ばして簡単なダイアリーもつけれる緋色の手帳を手にとってパラパラとめくる。

 七月の、と今日の日付を探し、その前の日やちょいちょい記される夕日のマークになんだろうかと疑問に思ったがそんなことはスルーしてそこに青薔薇のシールと一緒に「十五時〜スタジオ」と記されているのを見つけた。

 ってことは午前はなんも予定ねぇのか、安心してオレはまた寝息を立てているリサを抱きしめた。

 

「なんか、いい匂いする」

「ん? あー確かに」

 

 そこから三十分くらい甘ったるい時間を過ごしていると、リサが目を開けてそんなことを言い始めた。確かに、これはホットケーキの匂いだ。窓は開いてねぇはずだけどやけにダイレクトに匂いがするな。不思議に思ってオレは床に落ちていた寝間着を身に着け、リサの下着を投げて寄越しながら、寝室のドアを開けた。

 

「おはようございます」

「おはよ、カズくん……ぷっ、寝癖すご」

「せんせー、ゆーたんにいつこんな料理仕込んだの〜? やりますな〜」

「モカちゃん先輩言い方、あと大げさだよ」

 

 そこに居たのは外出用の格好をした紗夜、相変わらずちょいラフなパーカーに短パンのモカ、そしてエプロン姿にスカートが揺れる結良という三人だった。いつの間に、とは思うが結良には合鍵を渡してあるからおかしくはねぇ。ホントならみんなに渡してぇところだが、流石に数が多くなりすぎるからってことで結良だけだ。

 

「かずなり、誰か……いたね〜」

 

 後ろから出てきたリサが甘えモードから一瞬で元のリサに戻った。モカがその変わり身の早さに驚いてるのがちょっと面白いな。そのまままた寝室へと引っ込んでいったリサを結良以外の全員が見守っていた。

 やらかしたかな、みたいな反応だがいいんだよ。リサは甘えるのがめちゃくちゃ下手くそなんだから。

 

「確かに〜、はーれむの時もさ〜、リサさんがべったり〜みたいなこと記憶にないもんね〜」

「そうですね、今井さんが恋人の時ですら、いつもの雰囲気は崩れませんでしたね」

「そういうヤツなんだよ。まぁオレからすればお前ら二人も負けず劣らずだったけど」

 

 紗夜がそうですねと苦笑いをしてモカが確かに〜と肯定した。まぁでも更に言うとモカがピカイチだったな、そもそも逆にその二人きりの時にしかない空気、みたいなので胸中無限にマウント取ってたみてぇだし。紗夜は時間が経てばちゃんと甘えてくれるようになったしな、と手をのばすとそわっと直立になる。

 

「ちょーきょーされてますな〜」

「か、一成さん!」

「悪い悪い、これでいいか?」

「そ、そういうことではなく……ん」

「モカちゃんにも〜」

「……ねぇ、わたしいるの忘れてない?」

「アタシのこともねぇ?」

 

 両手でわんこを二頭撫でていると唇を尖らせた結良と後ろからリサの声がした。なんだリサ、悔しかったら甘えてこいよ。視線でそう伝えると結良がこれで全部だよと皿の上にホットケーキを置いて、それから無言で両手を広げてきた。

 悪い、蚊帳の外だったな。そんな気持ちで一番の甘えん坊を抱きしめていく。

 

「おはよ、結良」

「うんおはよぉカズくん、えへへ〜」

「……ほらリサも」

「ムリムリ、ぜーったいむり!」

 

 顔を真っ赤にしてオレから一番離れた席についたリサ。その隣が紗夜で、モカの隣に結良が座った。一人暮らしなのに椅子が多いんだよなぁと普段は思うが、こころや結良はこういうのを想定してたんだろうな。

 コイツらが後悔してると知ったらオレが何をするのか、なんて決まってる。バレててもバレてなくてもきっと、オレはクズ教師としてまた失われた時間をやり直すってな。ちょっとムカつくのは結局、こころはルールを敷く側であってオレがアイツの創り出した舞台で頑張ってるだけってことだな。

 

「で、お前らこれからの予定は?」

「私は夕方まで暇なので一成さんに会ったら練習しようかと」

「ゆーたんとデート〜」

「うん」

「あ、アタシも練習カナ〜」

 

 つまり紗夜が練習ついで、モカと結良がデートついでに寄っただけってことか。んでリサは夕方まで暇だからオレの相手をしてくれるってことだな、把握した。

 なんか微妙な顔してるけどせっかく着替えたのにって言うんだったら出かけるか?

 

「いや、あの、わかってて言ってるよねセンセー」

「なんだよ、置いてくのかよ」

「あ〜、せんせーがかわいそ〜」

「そうだよリサちー先輩、寂しがりのカズくんの相手してあげてよ」

 

 お前ら背中押すフリして実は背中刺してるよな。紗夜も無言で頷いてるし。コイツはコイツでどうやらもう練習スタジオを予約してしまったらしく、リサがそれなら紗夜だってと言うもののどこ吹く風だ。

 やがて逃げ場がなくなったことを察したのか、リサはため息を吐いてわかったよと頷いた。

 

「悪いなリサ」

「もう、ホントにバカなんだから」

 

 紗夜を見送り、モカと結良の相手をして再び二人きりになる。そこでようやくまたリサが腕の中にゆっくりと吸い込まれていく。

 ホントに甘えベタなんだよお前はさ。もうちょい素直に甘えてくれてもいいと思うんだよな。まぁどんなシチュエーションでも甘えるのに時間がかかったリサに言うだけ無駄なのかもな。

 

「そもそも、今は結良のカレシなわけじゃん」

「でも、リサを愛していたい」

「浮気者」

 

 そう言われると弱いな。けど、ホントに嫌なら平手でも打って去ってくれていいんだ。リサがそんなことしねぇってのは知ってるとはいえ、こんな状況で嘘吐く意味なんてあんのかよ。

 お前の後悔は素直に甘えたい、愛してほしいと言えなかったことなんだろ? すぐ近くにあった幸せを、取り逃がしたことなんだろ? 

 

「だからって……こんな、こんなのずるいよ」

「ずるくなんかねぇよ」

「だって、結良に悪いし……一成にも」

「なら、今すぐここから出てって、全部忘れるか?」

「……無理だよ」

「じゃあ、クズに捕まったと思って諦めるんだな」

 

 もう、と文句でも言うような視線がこっちを向き、自然に唇が重なる。ゆっくりと、だけどオレの反応を確かめるようにじっくりと。

 離れようとしても腕が絡まってきて、言葉とは裏腹な貪欲さをオレは呆れ半分で受け入れる。こういうところ、言ったら絶対怒られるだろうし納得いかないって言われるだろうから黙っとくけどな。

 

「じゃあ、もっと……捕まえてて」

「朝からか?」

「だめ?」

「オレがダメって言うと思うか?」

「あはは、だよね……じゃあ」

 

 ──コイツのシたがりはヒナ並みなんだよな。全く類は友を呼ぶというべきか、蓋を開けてみればあのメンヘラクソ悪魔と同等にキスしよえっちしよの肉体言語を使ってくるのがリサなんだよな。美人に求められて据え膳で、流されやすいクズのオレがその誘惑に耐えきれた試しがねぇってのも、問題の一つな気がしてならねぇけど。

 

「送ってくれてアリガト」

「おう、また連絡あってもなくてもいいが、ちゃんと甘えに来いよ」

「うん、もう遠慮しないから」

「そうしてくれ。じゃねぇとまた寂しいって泣く羽目になるからな」

「はーい、じゃあねカズセンセ!」

 

 見送って、ようやくリサも覚悟を決めたっつうか諦めたっつうか、とにかくこれ以上我慢してもバカらしいということはわかったらしい。まぁリサの場合はああ言っといて全然来ないとかありそうなパターンだからこれは、紗夜に要相談だな。そんなことを考えながら、独りで家にいるのもアレだしと思い羽沢珈琲店へと足を運んだ。

 

「いらっしゃいませー!」

「いつものと、チーズケーキで」

「かしこまりました!」

 

 若宮に出迎えられ、ブレンドコーヒーとチーズケーキを頼む。そうしてテキトーな席へ着こうとすると、こんにちはとまるでふわふわと水中を浮遊しているかのような柔らかな声で挨拶をされ、オレはそっちに目を向けた。そういやここ数ヶ月全然会ってなかったなと思い至って久しぶりだなとなんとか声を絞り出したのは、ゆるふわかわいい系女子、松原花音だった。

 

「先生?」

「なんですか」

「なんで敬語なんですか……?」

「いや……思わず」

 

 脳裏に浮かぶのは殺気を飛ばして壁ドンしてきた記憶、もう一年経つのかあれから。早いもんで、それから数回顔は合わせたものの、いつも殺意を感じるほどの眩い笑顔で接してくるから苦手なんだ。なにせ千聖との世界でも壁ドンしてきたしな。あんなに嬉しくねぇ壁ドンもそうそう体験できるもんじゃねぇよ。

 

「もう怒ってません」

「……え、マジ?」

「だって、千聖ちゃんと向き合う気になったんですよね?」

「そうだな」

「だったら、私は先生に怒ったりしません」

 

 そうですか、とか言いつつトゲのようなものを感じるのはオレの気の所為だろうか。まぁクラゲって毒あるヤツ多いしそういうことだろう。と、そこまで話してそういえば松原に関して千聖が怒ってたことを思い出した。なんかやけにチャラい系の男と付き合い出したからあんな男に花音を、みたいなこと言ってたな。

 

「大丈夫か? 奥沢の元カレしかりオレしかり、基本女好きはロクな男いねぇよこの世界」

「チャラいの、見た目だけですから」

「あ、そうなのか」

「それにリサちゃんに紹介されたヒトなんです、幼馴染だって」

 

 へぇ、つかリサに湊以外に幼馴染だって言えるヤツいたんだ。知らんかったなと思いつつ、なんでも小学校の時の同級生らしい。じゃあ松原は健全にタメか。いいぞ、オレの知り合い、年上にしか興味ねぇやつばっかりでどうなんだろうなって思ってるから。奥沢も白金も、なんならウチの生徒みんな年上なんだよなぁ。

 

「先生が一番年の差ありますけどね……」

「言うな、愛に年齢はとかカッコつけんのも嫌なくれぇ年下なんだから」

 

 結良は今年十八だからな。そもそも松原と干支同じなんだよオレ、それより更に四つ下なんだからマジでヤバいんだよなぁ。よく考えるとオレが由美子に惚れて色々してる頃に産まれてんだもんな、やば、今更だけど犯罪とかいうレベル超え過ぎてて吐きそうになってきた。

 

「教師よりは、マシだと思います……」

「だけどバンドマンでベーシストはやめとけ、ロクでもねぇってよく言うだろ」

「それは偏見ですよ」

 

 まぁでも松原もガールズバンドやってるんだから同じ趣味に惹かれるよなぁ。そして中々奥手らしく、でもそんな奥手なことを気にしているところがかわいいんですよおと松原は惚気を爆発させてきた。

 ──やっぱクラゲは肉食だもんな。千聖、お前がずっと守ろうとしてきたゆるふわピュア女子はとっくの昔に手遅れだったみてぇだ。類は友を呼ぶって言葉、今日実感するのは二回目だな。違いは千聖は愚痴が止まらねぇタイプだがコイツは惚気が止まらねぇタイプだ、マシンガンのように惚気けてきやがる。

 

「と、ところで松原」

「はい?」

「今日はハロハピ関連で用事あったか?」

「ありましたけど、お昼で終わっちゃってますよ?」

「……そうか、やっぱりそうか」

「こころちゃんのことですか?」

「察しがいいな」

陽太(ようた)くんのことがあるので♪」

 

 もういい、もう十分だから。これ以上オレの中の松原の印象をぶち壊さないでくれ。恋をするとヒトが変わるってのはよくある話だし実際オレも体験してきてはいるが、紗夜あたりで。だからってこれはキツい。何がって千聖が守ろうとしていた宝箱の中身がとっくの昔に腐ってた並の辛さがある。アイツのことを芸能人ではない自分をまっすぐに見てくれる親友だからこそ、時折ピュアな笑顔ででかけた時のこととかを語ってくれたこととかあるしな。そして千聖があんな男とどうたらって言ってた理由もよーくわかった。

 

「カレシで忙しいところ悪いが、こころのことよく見といてくれると嬉しい」

「はいっ……ふふ」

「なんだよ」

「やっぱり、先生はそうやって誰かのために走り回ってる姿が一番、カッコいいなあって」

「惚れても手がいっぱいだからな」

「浮気はしませんよお」

 

 大人になるってこういうこともあるんだな千聖。オレは女の花を咲かせる松原になんとも言えねぇ表情をすることしかできなかった。

 じゃなくて、頭を切り替えろよ。えーっと、やっぱこころが今回の一番の難敵だな。とりあえずは蘭やモカから、Roselia関連で忙しい紗夜もなんとか時間をコッチに割きたいからもう少し待ってほしいって言われてるし、太陽サマは雲隠れも上手いらしいから、奥沢にも協力してもらうかな。確か結良がアイツの家に同居人と仲がいいはずだしな。

 

 

 

 

 

 

 




モブ紹介
・赤坂陽太くん(黄昏の世界)
一体どこのカンベくんなんだ。
黄昏時空では高校までリサとの絡みもほとんどなし(リサが中学の時に惚れてないため)な上に紗夜B時空で付き合ってたトーマがコンビニバイトをしていないので大学でばったり再会した形。その後「九歳差」の宮坂さん相手に見事に玉砕した花音にリサがクソ童貞だけどと紹介、現在お付き合いをしている。やったね花音ルート!
ビッチではないがやはり千聖の親友なので徐々に毒クラゲとしての才能を如何なく発揮し始めている。
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