青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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⑧蘭華ガールズロック

 ひとまず逃げ回るレアキャラと化したこころはまぁ置いとくとして。オレはAfterglowのライブに招待された。いや正しくはオレではなくオレと結良だが。なんなら結良がメインだけど。

 なんだかんだで、結良はライブに結構足を運んでるらしい。そりゃ先輩方がガールズバンドやってるんだからそうなるんだろうな。

 

「カズくんってロックが好きなんじゃなかったっけ?」

「オレはジャズだよ」

「あ〜」

 

 なんだそのリアクションは。それはどっちの考察なんだ。カッコつけたいから落ち着いたものを選んでるんだなぁって納得なのか、どうせ昔の女がジャズ好きでそれに釣られてハマったのかなぁってリアクションなのかどっちだ。ちなみに答えは悲しいことにどっちもなんだけどな。きっかけは後者、今も趣味になってるのは半分前者みたいな。

 

「とゆーわけで、カズくんのTシャツを頼んで確保してもらったよ、あとバングルも」

「お、おう」

「ちなみに蘭ちゃん先輩が赤で、これはアフグロの基本色、モカちゃん先輩が青緑で──」

 

 なんかめっちゃ詳しくなってるしなんでキャップとタオルもバッチリなんだよお前。しかもこれお前の白のシャツとオレの黒のシャツ柄一緒のペアルックになってんじゃん。それについてはいいじゃんと笑いながら、それに今回のライブのシャツだからペアルックいっぱいいるよと反論されてしまった。確かにそうか。

 

「ヒト多いな」

「そりゃそうだよ、商店街の人気バンドなんだし」

 

 今回はツーマンライブだから大きめのハコ、ああライブハウスのことか。ハコを用意したんだとか。大学時代遊んでた遊んでたって言われるオレだがクラブとかライブとか音楽系は触れてきてねぇんだよなぁ。前半マジメだったし後半はもっぱらスポーツ観戦の方ばっかりだったからな。あれ、思ったよりオレって健全だな。

 

「それとそれと〜、カズくんが来るってゆってくれたからこれももらってきてあげたよ!」

「なんだそれ」

「関係者パスポートっ!」

「なんでもらえてんだよ」

「モカちゃん先輩がね、楽屋に寄ってほしいって」

 

 まぁモカの頼みなら。というか結良のコネがすごいんだよな。まぁ後輩としてめちゃくちゃ可愛がられてるからな。なんならアイドルバンドとして再出発し始めたパスパレのイベントにもヒナにゴリ押しされて歓迎されたっぽいしな。コイツの方がオレの生徒攻略してんじゃねぇのってくれぇ優遇されてる気がする。

 ──そんな魔性の女の導きによって早めに到着したオレは「Afterglow」と書かれた楽屋の前に来た。これで着替えててみてぇなハプニングはお約束だがそういうのは結良に怒られるためきちんと連絡した上で扉を叩こうとしたところだった。

 

「せんせー」

「おっと、モカ外にいたのか」

「えへへぇ、蘭より先に甘えとこうと思って〜」

 

 抱きついてきた衣装姿のモカを抱きとめる。あんまやるとセットとか化粧が崩れるから気をつけろよ。髪は汗でどのみちぐちゃぐちゃになるからへーきと幸せそうな笑顔を見せてきた。

 そうかよ、つかそんな風に笑えるようになったんだな、お前は。

 

「今はせんせーがいるからね〜」

「そうか」

「さぁさ〜、入って入って〜」

 

 そう言ってまるでタイミングを測ったかのようにそのまま扉を開けやがった。するとそこには着替えかけのまま尻をコッチに見せたセクシーポーズで固まる上原の姿があった。

 ──狙ってただろ、モカ。視線を向けるとこの悪魔はまるで偶然だ〜とごまかすような顔で微笑んできた。

 

「せ、せんせっ!?」

「恨み言はコイツにぶつけてくれ」

「と、とりあえず出てってください!」

 

 モカによってお約束ハプニングを起こされ、オレはため息混じりに扉を閉めて結良の顔を見る。よかった怒ってはなさそうだ。上原はあれだな、度々モカによってそういう扱いをされるから不憫だよなぁ。オレが担任やった時も結構ヒドい目に遭ってたしなぁ。アイツの下着見た回数、数えるのもバカらしいくれぇには。

 

「今ひーちゃん先輩のパンツの色思い出してなかった?」

「思い出すまでもなくピンクだろ」

「えっち」

「不可抗力なんだよなぁ」

 

 まぁほら、上原が幾ら美人でいい身体してるからって言っても生着替えにばったり出くわしたくれぇじゃ興奮するわけでもねぇし。そもそも生着替えとか見慣れてるしなぁという感想が最初に出てくる。それは変態だと罵られても仕方ねぇ気がしてきたな。下着姿に興奮なんてこれからそいつを脱がせるんだ、って時くれぇだし。昨日の結良とか。

 

「えっち」

「認める」

「なんで思い出したの」

「新しいから見てほしいって言ったの結良だろ」

「そっ、そうだけどさ!」

「なに楽屋の前で痴話喧嘩してんの」

 

 言い合いをしていたら扉から顔を出した蘭に怒られた。どうやら蘭は上原のパンツ見たことに対しても怒ってるようで、目つきが鋭くオレを刺してくる。そうだな、モカの悪戯を無警戒だったオレも悪いな。

 いいよと言われて入ると苦笑い気味の羽沢と顔を真っ赤にしてる上原、それを気にすんなよと慰めてる宇田川と、そこからやや離れて我関せずのモカがいつものようにパンを食べていた。

 

「わ、悪いな上原」

「い、いいんです……モカのせいだし」

「それに、見せ慣れてるだろ、高校ん時なんて──」

「それは今言わなくていいのっ、巴のバカ!」

 

 そこに結良が慰めに加わって上原が抱きついて離れなくなってしまった。久々だったし結構恥ずかしいポーズまでついてたからな、立ち直るのは大変だろう。オレは他人事として処理させてもらうとさて置き、蘭の隣に座った。

 蘭は緊張してるわけではねぇだろうが静かに集中力を上げてるようだったが、オレが来るとそれを緩めて手を伸ばしてくる。

 

「いいのか?」

「今日は一成がいるから、触れ合ってる時の気持ちもステージに持っていきたい」

「オレはロックから程遠いだろ」

「そんなことない」

 

 伸ばした手に手を重ねて指を絡める。蘭の手はちょっと冷たくて、握るとじわりと暖かくなっていく。それ以上甘えてはこねぇ、でも今の蘭はそれでいいって思える気がした。今は、手一つ分くらいの甘えで十分で、後はステージを成功させてから。そんな想いが伝わってきた。

 

「あたしは甘えないとやだ〜、もっと甘えたい〜、なんならちゅーする〜」

「したら興奮するだろ」

「一成がね」

「モカもだよ」

「……否定しないんですか」

 

 ヒロイン外の生徒だった上原は知らんだろうが、オレを流されやすいクズたり得ているのはキスで割と興奮することなんだよな。これはヒナのルーティンがきっかけなんだが、主犯曰く十秒ねっとりキスしたら準備完了になって抵抗力がなくなるらしい。覚えなくていい豆知識な。

 

「カレシとライブデートって、なんかよくない?」

「そうなのか?」

「嬉しいもんだよ、恋人が自分の趣味に付き合ってくれるのって」

 

 そうしてバックヤードから抜け出し、ライブは二人で楽しんだ。わかんねぇ曲も、手を上げて汗かいて盛り上がるって結構楽しいもんだなぁと言うと、結良は笑顔でそう返してきた。すると歴代カノジョもそういう気持ちを持っててくれたのかな。それを訊ける唯一のヤツは多分、なっくんと一緒にいられるだけで幸せだったよとかマジな顔で言ってきそうだからやめとこう。

 

「楽しそうだったな、アイツらも観客も」

「だね」

 

 みんな笑顔で帰っていく姿を見て、こころが世界を笑顔にするために音楽を選んだ理由がわかる気がした。言葉を捻って捻って拗らせて伝えるよりも、音楽の方がどストレートに想いが伝わるんだよな。

 感想を言い合いながら結良を家まで送っていく。ホントはオレとしても泊まってってほしいけど、流石に何日も何日もってのはよくねぇしな。

 

「ホント、結良にベタ惚れだね一成は」

「オレは元々そういうヤツなんだよ」

「そっか」

 

 ライブが終わってオレのところに来たのは、予想に反して蘭の方だった。

 モカだと踏んでたが、もしかしたらアイツも直前で物怖じしてるんだろうか。風呂上がりの湿気を纏いながらコッチに身体を寄せてくる蘭を抱きしめながら、情報を訊き出していく。

 

「モカは、また自分が壊すんじゃないかって、怖がってるんだよ」

「相変わらずだな、アイツは」

「うん、でも傍にいたい。だから結良と仲良くなろうとするし、一成に甘えてくるんだ」

「複雑な乙女心だな」

 

 あのままじゃモカは前に進めなかった。ずっと淀んで、凪いで、そのまま停滞して不幸になっていく状態だった。だから、オレはそんなアイツがちゃんと明日を信じられる世界を作りたかった。自分が信じてねぇのにそんなこと言っても説得力なんて欠片もありゃしねぇだろうけど。

 でも、あの幸せな世界を経験してちょっとでも前に進みたいと思えるようになってくれてたらそれでいい。オレはそんなモカを愛してやれるんだ。

 

「それ、ちゃんとモカに伝えなよ」

「だな……いくらヤンデレストーカーっつっても、知らねぇことだってあるだろうしな」

「そういうこと。少なくとも今の一成の気持ちは、モカに伝わってないから」

 

 じゃあちゃんと伝えなきゃだな。モカにも、それから蘭にも。

 つかお前は手を出していいのか未だに迷ってるところなんだけど、親御さんに殺されねぇかな。あと婚約者のあの男、ノリで一緒に飲みに行った仲間だし当然オレと蘭の関係も知ってる。

 

「……まだ結婚してないし、そもそも付き合ってるわけじゃないから」

「そうだったのか?」

「だから、言ったじゃん。アタシにはアタシのぺースがあるって」

「モカの元カレとのデートのやつか」

「そう」

 

 それは知らなかったな。つうことはなんだ、お前なんだかんだで今フリーってことになるのか? それともこうなることを予測して先回り……できるほど器用なヤツじゃねぇから。アレか、未練を抱えたままじゃ嫌だったって感じか。

 蘭はその言葉に頷いて、当たり前じゃんとくっついてくる。

 

「将来とか約束とか、そんなチープなもんで、お前の明日を狭めんじゃねぇよ……って言ったクセに」

「懐かしいな」

「一成がアタシにくれた宿題だもん」

「そうだな、お前はやりてぇこと全部やって、生きたいように生きてるんだな」

「父さんにはもう一回だけ、恋をさせてほしいって……今度こそ、アタシが納得できる形で、一成に送り出してほしいから」

「わかったよ、蘭」

 

 ホントはコイツも、もうとっくにその宿題の答えを見つけてるんだろうな。まっすぐ全部こなして、青春という名のロックを奏でて、その先にオレがいねぇと知ってもそれでも。いやそれは許してなんてくれなくて、ちゃんとお別れを、納得できるお別れを欲していた。それが蘭の後悔。あの日、オレの顔はきっと曇ったまま、ひでぇ顔してたんだろうな。蘭もボロボロに泣いて怒って、ひでぇ顔だった。そんな納得できねぇ別れは、なかったことにするんだ。

 

「だからその日まで、またよろしくね……変態クズ教師」

「今度こそお前を、お前らを抱いて人生バラ色になったって宣言してやる」

「ふふ、通報していい?」

「バカ野郎」

 

 これで人間関係的に最大の恐怖だった蘭を安心して抱いて、残る標的はモカ、紗夜、こころと三人になった。

 クズ教師たるオレのエンジンもそろそろ温まりつつある中、そろそろ羽丘は夏休みが到来しようとしていた。まぁ大学生は基本的に八月まで前期あるだろうし、その間はオレも夏期講習があるからな。結良を構って、遊びに来るヒナやリサを相手にする日々だろうな。

 つか蘭も遊びに来いよ。羽丘の卒業生なんだしお前のことは担任したことあるって実績もちゃんとあるからな。

 

 

 

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