作者は、イナズマイレブンの1と2を子供の頃にやりこみ、大学生になって3をやりました。
アニメや漫画も履修していて好きな作品なのですが、原作知識とかあやふやなところが多いです。あらかじめご了承ください。
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中学サッカー日本一を決める大会、フットボールフロンティア。
その決勝戦はゼウススタジアムという急遽設立された会場で行われていた。
対戦しているのは雷門中と世宇子中だ。どちらも無名ながら数ある強豪校を打ち倒して決勝まできたチーム。
どちらのチームもまた、強豪であることに変わりないが、世宇子中は全国大会での対戦相手を圧倒的な実力でねじ伏せてきたチーム。その強さは常軌を逸しており、対戦相手の雷門中と比べてもその差は歴然だ。
「いけっ! たまの!」
その試合の最中、雷門中の一人の選手がボールを受け取る。
”たまの”と呼ばれたその選手は非常に小柄なディフェンダーだ。跳ねた後ろ髪をぴょこぴょこと揺らして懸命に走る。ディフェンダーではあるが、フィールドの中盤でパスを受けたたまのはそのまま上がって攻撃に加わる。
「”メガクェイク”!!」
「っ!」
味方とパスを回しながらゴール前まで攻め込めたたまの。ボールを持った彼の前に世宇子中の大柄なディフェンダーが立ちはだかる。
そのディフェンダーが大きくジャンプして着地すると、地面が大きく隆起してたまのをボールごと吹き飛ばした。
「「「たまのっ!」」」
「やぁーっ!」
「何っ!?」
雷門のチームメイトが心配する中、たまのは隆起した地面を逆に利用して跳び上がった。空中でフリーになったたまのは世宇子のキーパーと一対一だ。
「いくぞ__!!」
空中でシュート体勢に入ったたまの。彼の右足に黒い炎のオーラが現れる。轟々と燃え盛るそれは勢いと鋭さを増し、やがてたまのの右足を通じてボールへと注ぎ込まれる。
「”神千斬り”っ!!」
聖騎士の剣のような、それでいて煉獄の炎のような凄まじいシュートが世宇子ゴールへと突き刺さった。
△
……ああ、ぼくは転生したんだ。
そう自覚できたのは5歳の頃。前世が内気な高校生だったこととか、マンガ、特に『七つの大罪』が大好きだったこととか、最期は交通事故であっさりと死んでしまったことが不意に記憶として呼び起こされたんだ。
日本の稲妻町という街で、”ごろう”という小柄な少年に転生したぼくは、幼稚園、小学校とかけていじめられっ子だった。ぼくの身体が小さくて、なよなよしてて、それでいて中身がぼくだから精神年齢の関係で周りの皆と違うから、いいいじめの的になっていた。
それに加えて、ぼくを生んで育ててくれたこの世界の両親がぼくと同じ交通事故で亡くなってしまった。こんな普通の子とは違う異質なぼくを大切に育ててくれた両親が死んで、一人ぼっちになって、ぼくはわんわんと泣いた。
周りからはいじめられて、守ってくれる人もいなくて、ぼくは真っ暗な日常を送っていた。
__ポン、ポン……。
「? ぼーる……」
そんなある日、トボトボと下校していると公園からサッカーボールが転がってきた。よく使いこまれたそれを拾い上げて、ぼくはじっと見つめる。
「おーい! 君! 拾ってくれてありがとな!」
そうしていると公園からボールの持ち主が駆け寄ってきた。黒い髪の毛が特徴的に跳ねた活発な男の子。学年が一つ上の先輩だ。名前は、確か……
「えんどう……まもる……」
「あれ? おれのこと知ってんのか?」
手に持ったサッカーボールとえんどう先輩の顔。その二つを見比べて、ぼくは目を見開いた。前世のある記憶が蘇ってきたのだ。
__ここ、『イナズマイレブン』の世界だ……!
残念ながらぼくはやったことなかったけど、アニメにもなった大人気のサッカーゲーム。その主人公の”円堂守”が今目の前にいるえんどう先輩だ。大人気コンテンツということでCМも広告もたくさんあったから、あまり知らないぼくでも主人公の顔は分かる。その顔とえんどう先輩の顔が一致してピンときた。
……でも、だからなんだというんだ。
ぼくはイナズマイレブンをほとんど知らない。ゲームをやったことないし、アニメを少し流し見していた程度だ。ここがイナズマイレブンの世界だと分かったところでぼくができることは何もないし、やる気もない。そもそもアニメに”ごろう”というキャラはいなかったから、きっとその他大勢の中の一人、モブキャラだ。
だからさっさとえんどう先輩にボールを手渡して、去ろう。きっとぼくにはそれがお似合いなのだ。
__そう思っていたのに……。
「君、暗い顔してるな。なにかあったのか?」
「……いえ、べつに……」
えんどう先輩がぼくの顔を覗き込む。そのキラキラした目が眩しくて、ぼくは目を逸らした。するとえんどう先輩は何を思ったのかぼくの手を引いて公園の方へ走った。
「えっ、ちょっ、なにを?」
「君、これから時間あるか? よかったらおれとサッカーしようぜ!」
ニコリと、どこまでも澄んだ綺麗な笑顔でえんどう先輩はそう言った。最初は断ろうとしたけど、あれよあれよと言いくるめられていつの間にかサッカーをすることになった。ランドセルを公園のベンチに置き、ゴールの前に立つえんどう先輩に向かってシュートを打つ。
「いいシュートだ! やるな!」
最初は上手くいかなくて、ボールが明後日の方向へ飛んでいったりした。だけどえんどう先輩は落ち込むぼくを何度も励ましてくれて、えんどう先輩のアドバイス通りに練習したら、少しずつ上手くいくようになってきた。
「いきますっ!」
「よしこいっ!」
ぼくがボールを蹴って、先輩がそれを受け止める。
たったそれだけのことなのに、この世界に生まれてから一番楽しい時間だった。
やがて夕方になって、帰る時間になった。帰り道、一緒に帰っていたぼくと先輩だったが、とうとう分かれ道に来た。家の方向が違うから先輩とここで分かれなくちゃいけない。
「あの、せんぱい……。きょうはありがとうございました。たのしかったです……。さようなら……」
もっと先輩といたい。その気持ちを押し殺してぼくはそう告げた。すると先輩は持っていたボールをぼくの方へ投げ渡してきた。
どういうつもりなのか分からずに先輩の顔を見上げると、先輩はまた笑う。
「サッカーは好きか?」
「……よくわからないです。でも、きょうせんぱいとすごしたじかんは、いままででいちばんたのしかったです」
「じゃあさよならなんて言うなよ。おれもお前のボールを受けて楽しかったぜ! 今日だけじゃなく、明日も明後日も一緒にサッカーやろう! な!」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
ポカンとした顔でえんどう先輩の顔を見つめて、その意味が少しずつ分かってくるとぼくはパァーッと笑顔になって、元気に答えた。
「はいっ! よろしくおねがいします! えんどうせんぱいっ!」
「ああっ! また明日な。ごろう!」
この日から、ぼくはサッカーを始めた。えんどう先輩とするサッカーは、この世界に生まれて何もなかったぼくにとってのすべてであり、希望になったんだ。