【悲報】更木出身俺氏、イマジナリー美少女が見えてくる 作:三白めめ
「簡単な算術の話をしましょうか」
真央霊術院にて、二人の死神が向かい合っていた。互いに、始解を済ませた斬魄刀を構えている。一方は、縄で繋がれた二刀一対の斬魄刀。他方は、特に変化の見受けられない斬魄刀。しかし、そこには死神と共に実体化した、赤い髪の少女がいた。
「剣は両手で振った方が強い。つまり、二刀で戦おうとしている時点で彼我の戦力は倍の差がついてるってこと」
少女──実体化した斬魄刀である紅染は、眼前に立つ浮竹に対して心理戦を仕掛ける。
「更に、両側に注意を払わなくちゃいけないから、力はそこから半減するわ」
淡々と、斬魄刀の相性が悪かったと説明を続ける。当然、それで相手が諦めるとは思っていない。だが、刀を握るときは、精神的優位に立っている方が重要だと彼女は知っていた。
「対してこちらは、
考えるがいい。その隙に切りかかり、自身の言った意味をその身を以て理解するといい。その思考で、自らの隣に立つ主に目を遣る。
「つまり、浮竹!あなたとアタシたちの間には16倍の差が存在しているの!」
握っていた手を一瞬離し、浮竹へと突きつけた。不意を打たれてもいいように、すぐさま手を刀の柄へと戻す。
そして、挟み込むように二方向から一気に切りかかった!
丁寧に受け流されてから反撃に移られた。
なんやかんやでヤベー奴から逃げ延びた数十年くらい後の話だ。
なんか、学校ができていたらしい。いい加減蛮族シティ更木から抜け出して健康で文化的な最低限の生活を送りたい俺達にとって、就学と就職は成し遂げておきたいことの一つだった。
(ありがたいことに)なんか更木に来なくなった辻斬り女の代わりにパトロールに来てた死神を手伝っていたら、コネで入学できるかもしれないと話が来たのだ。
当然、ありがたいことというのは辻斬り女が来なくなったことだ。
さて、その学校──真央霊術院では入学試験があったが、所詮は温室育ちの都会人向けテストだ。更木で鍛え上げられた俺達の前にはちょろかったぜ。
嘘。そもそもこの死後の世界が尸魂界なんて名前だってことも知らなかった。ありがとう紅染。意外と物知りなんだな。
まあ、それはともかく。入学したんだが、俺だけハブられたんだ。聞いてくれよ。新入生は浅打なる刀を無料レンタルされるんだが、俺だけ「もう持ってるからいいだろ」みたいに渡されなかったんだ。
まあ、紅染も「あたしがいるんだからそれ以外はいらないでしょ」って言ってたからいいか。
で、ハブられた。今度は人間関係の話だ。流石に更木出身は遠巻きにされる理由として十分だったらしい。これが差別かと思ってたけど、誰だってあんな檻無し動物園育ちに近づきたくないわな。俺だって逆の立場だったらそうする。とはいえ、流石にボッチのまま卒業というのも悲しい。
なので、なんか人のよさそうな性格をしている浮竹とかいうやつに絡むことにした。
「何が二刀流よ!こっちは刀二本よ!」と俺の頭の中で主張する紅染の意見を踏まえて、始解ありで戦いを挑んだわけだが……
それなりに強かった。俺達は別に飛び道具や鬼道をそんなに使わないから、浮竹の斬魄刀が持つ能力は関係ないが、純粋な技量が高い。更木での経験が無ければ負けていた。
ちなみに、俺に白打──素手の戦いの才能はない。できないことはないんだが、ずっと脳内で「あたしがいるじゃない」と紅染が自己主張してくるんだ。こんな時だけイマジナリー美少女感出さなくていいんだけど……
生前の世界にはなかった鬼道とかいう超能力的サムシングを使えることにテンションを上げたり、なんやかんやで友達になった浮竹やその友達の京楽と充実した数年間を過ごしていた俺は忘れていた。この世界は幼子が剣を取らざるを得ないほどに過酷な世界だったのだと。
それは、護廷十三隊に入隊するときのために各隊の特色を学んでいた時の話だ。回道に長けた
俺は別に興味がなかったが、こうして命の危険を感じずに勉強ができるありがたみを知っている身として、サボろうとは思えなかったんだ。
「サボっとけばよかった……」
「逃げだしたら死ぬわね……」
そうして今、生徒の前で話をしているのが、クソヤバ辻斬り女である。正直、何も頭に入ってこない。助けて。そんな視線を浮竹に向けるが、当然気づいてない。そうだよな。お前は勉強熱心だったもんな。
そもそもあの女は卯ノ花隊長だとか、八千流さんだとか呼ばれてなかったか?卯ノ花烈ってなんだよ。まだ海王の方の烈と戦う方が生存の目があるわ。
ただ、そんな目で見たら十中八九殺されるし、質問なんてもってのほかだと考えた俺は、ひたすら心を無にして一般学生のフリをした。今なら隠密機動に入れるんじゃないかってくらいに気配を周囲に同化させたのはこれが初めてだ。
幸いにも突然殺されたりということはなかったが、この一件は俺の心に大きな傷を残した。命の危機はどこからやってくるか分からないのである。久しぶりに更木での日々を思い出した……。
それから卒業までは、現世で魂送(俺が斬魄刀を頭にぶつけられたアレだ)や低級の虚を倒す実習などもあったが、俺と紅染の前には特に障害にもならなかった。ただ、『嫁げ』という解号を言った数はとうに三十回ほどになったが。同級生の視線ってあんなに冷たくなれるんだな……。
そこからは特に語るまでもないだろう。大抵の虚は更木育ちの俺ともはやイマジナリーじゃない紅染にとって敵ではなく、護廷十三隊への入隊試験を無事に突破した。当然といえば当然だが、浮竹や京楽も無事に突破できたようで、席官として入隊することができたわけだ。
そうして百と数十年ほど経った。
──あいつら、もう隊長になったの?早くない?
俺は、十一番隊で四席にいる。そして、浮竹と京楽は隊長になっていたのだ。いや、俺も一時期は副隊長だったんだ。ただ、十一番隊の副隊長って、隊長がやらかすと剣八襲名になるわけで……。それに、隊長や副隊長になったら、会議で卯ノ花隊長と毎回顔を合わせなきゃならなくなる。怖い。まあ、そんな理由で副隊長をいい感じに他の奴に投げた。そいつが鬼巌城くんに殺されたのは、済まなかったと思ってる。ごめん。
俺だって、
そんなこんなで、十二番隊の隊長がやらかしてクビになったり、いくつかの隊の隊長が失踪したりと様々なことがあった。俺は相変わらず十一番隊の四席で、虚を狩ったり書類仕事をしたりしている。大きな怪我をして四番隊に行くこともなく、幸せな日々を送れていると言っても過言ではないだろう。病弱な浮竹はともかく、京楽とはたまに飲みに行く仲を保てている。まさしく充実した人生……死後の人生ってなんて呼べばいいんだろうな?とにかく、満足した日々を送れていた。そう、送れていたんだ……。
「旅禍……?」
斬魄刀異聞編まで書けたらいいなぁ