少女型端末エレクトリア。体長20㎝ほどの高度に発達した情報処理能力、万能性、そして容姿の親しみやすさにより発売以来、時には家族のように、時にはライフラインとして時にはエレクトリアによるバトルの人々に親しまれていた。彼女たち備え付けられたコアにより得た感情とともに、見聴きし感じ取り言葉を話す。エレクトリアは今や家電の域を超えて、人間の生活に結びついていた。ある日曜の朝、長い藤色の髪を二つに結わえた青い瞳のエレクトリアがノートパソコンの操作を行っている。
エレクトリア、メロペーは主人の端末のデータチェックを行っていた。
チェックポイントから想定を超えてデータが増えていないか。
所在、内容をスキャンし、メンテナンスも行っていく、彼女の日課だった。
「今日も問題なしね…あら?」
メロペーは不審な画像データが増えていることに気づく。
ウイルスの類でないかメロペーは中身を確認すると、変哲もない画像ファイルということがわかる。
「何の写真かしら、ご主人様に教えてあげないと…」
そのまま中身を見たメロペーの目に飛び込んできたのは、際どい女性の裸の写真。
銀髪のスタイルのいい女性が煽情的に肢体を強調するようなポーズで何枚も入っていた。
「む…」それを見たメロペーの顔は赤くなりコアが熱くなるのを感じた。
年頃の男性であるオーナーが興味を持つのは理解できる。
できるのだが、仕える主人がだらしなく鼻の下を伸ばしていることが気に入らなかった。
「もう…!気分が悪いから消去しておくわ。」
怒りのままメロペーは画像を消去した。その姿を見てほくそ笑む小さな影が窓の外にいるとも知らずに。
メロペーの気持ちなど知りもせず、オーナーはメロペーを買い物に連れ出した。
メロペーは頭部のアンテナと護身用に最低限の装備だけを備えたキャミソールとミニスカートのようなライトウェアに身を包みおしゃれもばっちりだ。
一人暮らしのオーナーは1週間の食料品や消耗品の買い足しを行っていく。
その最中もメロペーはそわそわと落ち着かない様子だった。
(今の女性の人、ちょっと薄着すぎないかしら、ご主人様もちらちら見てたかも。)
「どうかした?メロペー」メロペーの気持ちなど知らずに、いつもの調子で親しくオーナーは話しかける。
「なんでもないわ。」それにメロペーはツンとした返事を返す。
独りでにぷりぷりと不機嫌になっていった。
買い物が終わり、日も落ちてあたりが茜色に染まるころについにメロペーの怒りが爆発する出来事が起こった。
夕焼けに照らされる、白銀の髪をした黒いエレクトリアがオーナーとメロペーとすれ違う。
それをみたオーナーの口から零れ落ちた一言がメロペーの逆鱗に触れた。
「今すれ違ったエレクトリア、すごくきれいだった。」
「~っ!!最低、ご主人様のスケベ!もうしらないわ!」
感情のまま叫び、メロペーは夕日の街に消えていく。
「あ、まって!メロペー!」走り出して追いかけようにも、小さく、飛行可能で素早いエレクトリアをとらえるのは不可能だった。
オーナーは手に持った袋もそのままに相棒の名を呼びながら街をさまよう。
彼女を探すうちにあたりは暗くなり、人気のない路地裏まで来てしまった。
がっかりと下がるオーナーの背中に、鈴を転がすような声が話しかける。
快活で明るく大人びたメロペーとは異なる、甘くつややかな声。
黒のフリルのついたドレスに抜けるような白い肌と銀髪のエレクトリアだった。
「キミは…さっきの」オーナーは呆けたような声で答える。
「わたしはヘレーネ、野良エレクトリアなの。さっきのやり取り見てたわ。あの子、怒りっぽくてわがままなのよ、きっと。代わりに私をパートナーにしない?何でも言うことを聞くわ。」
「ヘレーネ…それは、聞けない。メロペーは、大切なパートナーだから。」
言い終わらないうちにオーナーの頬を熱と閃光がかすめる。
「ねえ、あなた状況を分かっているの?あなたを守ってくれるエレクトリアはいない。おとなしく私のものになるのが賢明じゃないかしら。」ぞっとするような冷たい銃身のライフル。威圧的な両肩のドリル。悪魔の羽のような機械のスラスター。衣装の黒と対照的に鈍く輝く白のアーマーは嗜虐的な彼女の本性をあらわすように攻撃的なものだった。
「どうして…キミはそこまでして…強くなりたいのか。」静かにオーナーは聞く。
「そのとおりよ、強くなって、もっといい生活を。カラスに追いかけられるのはもう嫌だもの。アリーナの時から目を付けていたのよ。エレクトリアに惜しみなく尽くすかわいいオーナーがいるってね。そのためにあなたのエレクトリアに少しいたずらもしたけど。」
「いたずら?」オーナーは知るはずもなかった。その言葉の意味を理解できるのはただ一人。
「よくもやってくれたわね、泥棒猫!覚悟なさい!」夜の闇に光る青い剣閃とともに現れたメロペーだった。
勢いよくブースターを吹かせて切りつける一撃はヘレーネのエネルギーシールドに阻まれ、お返しにドリルの重い一撃を返される。
土煙をあげて叩きつけられたメロペーのもとへオーナーは駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「平気よ、それとごめんなさい、私の早とちりでひどいことを言って。」2人の間のわだかまりは一瞬で消えていた。
「いいんだ、それより今は。」
「あいつを倒すわよ。いつもの装備セット、お願い」
「わかった!」そういい、オーナーはメロペーを着替えさせる。
青いセンサーカラーが照らす、漆黒のアーマー。背部の大型のスラスターと腰と足に備え付けられたブースターから光の粒子がほとばしる。
「ちょっと着替えたくらいでなんだというの!私の敵じゃない!あなたを壊してあなたのオーナーのパートナーになる!」激昂とともに放たれる大型ミサイル。超破壊力の攻撃をメロペーのヘルメットから放たれる緑色のレーザーが迎撃する。
「甘いわ」一瞬で飛び上がったメロペーの狙撃がヘレーネを狙う。
「速い‥!?」驚きとともに何とかかわすヘレーネの行き先から先回りしたメロペーの銃口が突き付けられる。今度は変形した銃の散弾レーザー。
たまらず盾を構えた彼女の死角を神速のレーザーブレードが引き裂いた。
彼女の高速戦闘に合わせたスキルに調整を施された装備。ただ強力な装備を乗せた自分が敵うわけがなかった。ヘレーネはそう痛感する。ヘレーネがショートする回路の視界に見たのは、愛される自分の姿の甘い夢だった。
メロペーと喧嘩したあの日から数週間後、オーナーとメロペーは食事に出かけていた。新しくオープンしたエレクトリア同伴のカフェの扉を開けるとメイド服に身を包んだエレクトリアが飛びついてくる。
「ご主人様、お会いしたかったわ!」聞き覚えのある甘い声の主は
「ヘレーネ!?」
「ご主人様が修理に出してくれた後近衛インダストリアルの計らいでこのお店で雇ってもらえたの」オーナーとメロペーはあのあとヘレーネを修理に出していたのだった。メロペーも同族として彼女の境遇に思うところはあった。しかし、これは別の問題で。
「あんたまた凝りもせず!アリーナに来なさい!もう一度叩きのめすから!あとご主人様って呼ぶの禁止よ!」
「きゃ~メロペーがこわいです~」
バトルでも駆け引きでもヘレーネはこれからメロペーの強力なライバルになりそうだった。
メロペー。姉妹で唯一ヒトに恋をした女神の名を持つ彼女の恋路は前途多難のようだ。