ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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二章開始。お気に入り評価、感想等いつもありがとうございます。
早々に申し訳ないですが、投稿頻度少し減らすかもしれません。狂気系主人公の一人称ってその…書いてると結構、精神が持っていかれるんやね…。


【二章】クソデカ感情持てあまし編
砂の大地に紡がれていく足あと


 私、クソ幼女ちゃん。

 お兄さまが作られたお母さまの体内(おなか)に入って早々ヘブン状態になり、意識を飛ばしたアウラ・イェーガーである。

 

 その後真っ暗な世界に精神が行く感覚がしたので、私は死んだのだろうと思います。意識がないまま、お母さまのお腹の中で溶けたのは幸いでしょうか。巨人の身体の作りは詳しくは知らないですが、大体は合っているでしょう。

 

「………?」

 

 奇妙な感覚だ。暗闇から一転したのち精神だけだったはずの私に、肉体の感覚がある。足元には何かサラサラしたものが。肌にくっ付くでもなく、身じろぎすれば足についたそれはあっという間に落ちて行く。

 

 瞼裏越しに明るさを感じるものの、まだ開けることは躊躇われた。私のいる場所が現実ではないと、うっすらとわかっているからだ。

 

 天国や地獄でもない。ここはもっと別の、()()()()()()場所。そんな気がした。

 

 

 一先ず目は閉じたまま手探りで辺りを触る。っていうか、私全裸じゃないか?まぁいいけど。

 

 触れたのはサラサラした物体。砂──だろうか。恐らく私がいる周辺は、確実にこの砂で覆われている。

 ついで下の方を触っていた手を上辺りに探らせて、何か柔らかい感触が触れ───「ふぇっ!!?」

 

 …残念、かわいらしい声を出したのは、私でした。ついでに触ってしまったのは感触的におっぱいでした。自分でも気持ち悪いくらい少女っぽい声が出ました。死の。

 

 

「………」

 

 ドッドッド、と心臓の音が早まる。思わず開けてしまった私の瞳に映るのは、一人の少女。

 

 自分が置かれた場所を考えるあまり、自分がどういった体勢でこの場にいるのかを失念していた。頭に砂の感覚がなかったのだから、初めに気づけというもの。しかし私が見ている少女も、気配というものが全くないのだから不思議だ。もしかしてこの人は神様なのだろうか。それで私を異世界に転生させてくれるのかもしれない。転生特典はジークお兄さまでお願いします。

 

「あの、えっと……?」

 

 私はどうやら、この少女に膝枕をされているらしい。

 

 服は現代じゃ考えられないほど古めかしい。数百年前どころじゃない昔の雰囲気で、例え方が難しいけど……端的に言うなら袖のある白いワンピースといったところか。

 所々ボロボロで、足には草履のような履き物を。髪に付けたバンダナがその少女を、特徴づけるようなアイコンに感じる。

 

「えっと、膝枕はもう結構です……あ、ダメなんですね、わかりました…」

 

 私の頭が少女の手によって相手の太ももの位置に固定されたので、大人しくそのままにすることにした。ただハッキリとその顔が見たかったので、横寝の状態から仰向けの状態に変える。

 

 少女の表情は目元が影になっていて、口元はずっと横一文字。言葉を発することはない。しかし不気味と思わないのは、容姿がお兄さまに似ているからか。

 

 太陽のような髪色に、時折見える雲ひとつない快晴のような瞳。

 

 お兄さまよりも、お母さまの方がこの少女に似ているかもしれない。

 いや、むしろお母さまよりも私の方が似ているかも。髪の長さも似ている。容姿だって────容姿だって?

 

 

(似過ぎて、ないか?)

 

 

 まるで鏡合わせのような、そんな印象。

 

 違いは幼女と少女の大きさしかない。あとは髪と瞳の色か。

 

 まぁ、世界には似ている人間が三人いると聞くし、この少女が何なのかすらよくわからないのだ。神であったら、人の前に現れる時形あるものになる上で、その人間に似た姿形を真似ることもあるのかもしれない。この少女が悪魔と言われれば、それまでなんだけど。というか胸があるので私の前世の姿な気がしてきた。

 

「んへへ」

 

 少女に、頭を撫でられる。とても気持ちいい。

 

 少女の頭上に広がる黒い空。地面から天まで昇る光の柱が無数に分かれて、雲のように空に浮かんでいる。手を伸ばせども、届かない。

 

「ねぇ、あなたのお名前はなんて言うの?」

 

『………』

 

「私はアウラ・イェーガーって言うの。クソ幼女ちゃん、って呼んでね」

 

『………』

 

「ねぇねぇ、神様か、悪魔なのか──前世の私なのかよくわからない人。ここはどこ?あなたは誰?私って死んだの?」

 

『………』

 

「ふーん、ダンマリですか。まぁそちらがその気なら結構ですよ?何も言わないならおっぱい触りますから」

 

『………』

 

 

 なので触った。というか揉んだ。少女は無表情でただ私を見つめるのみだった。

 

 私は仕方ないと目を瞑り、そのまま眠ることにした。そして、一回目を覚まして、自分が取ったさっきの行動に虚しさを覚え……体勢を再び横にし、寝ることにした。

 

 将来アウラちゃんも、お母さまのような大きさになる予定だったんだ。そうしたらお兄さまが触ってくれ……いや、小さいなら小さいで、お兄さまに揉んでもらえば大きくなる────。

 

 真剣に考え込んでいたら、頰に何か触れた。視線を移せば少女が微笑んで、私のほっぺを人差し指で突っついている。

 

 

『   』

 

 

 そして、少女は口を開く。それが音になることはなかった。赤い口内から見えたのは、途中で切れた舌。

 

 あぁ、そうか。この少女は喋らないんじゃない。()()()()()()

 

 何を言ったのか音ではわからない。でも私には少女が何を言ったのか、わかった。

 まるでその音が頭に入ってくるように、すんなりと脳に溶け込んで。

 

 

 ────「アウラ」と。

 

 

 その少女は、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 グリシャ・イェーガーは、目の前で起こった現実にただ呆然とするしかなかった。

 

 妻が巨人となり、その光景を見て気狂った娘が自ら身を投げた。その娘の姿を、その最期を直視することができず、彼はただ狂ったように叫びながらうずくまり、泣くことしかできなかった。

 

 そしてその後、グリシャは曹長の男に「娘と一緒に妻の腹の中でよろしくやりな」と、壁の上から蹴落とされそうになった。

 

 それを止めたのはクルーガーという男───否、正体不明の「フクロウ」を名乗った人物。

 

 フクロウは曹長の男を落としグリシャを助けると、次に壁の裏の海に停泊していた艦艇を持ち上げて真っ二つにした。

 

 

 ────巨人の力を、使って。

 

 

 巨人の力のうち、7つをマーレが有しているのは言わずとも知れたことである。

 しかし最も強力な始祖の力はパラディ島にある。そして残りの一つの巨人の力のみ、未だ行方知れずとなっていた。

 その力こそ、フクロウが宿していたものだったのだ。

 

 ことが公になる前に巨人となったフクロウが、船もろともいた治安当局員を殺害。残ったのは、フクロウである「エレン・クルーガー」と、グリシャのみとなった。

 

 

 

 クルーガーとグリシャは実は、これが初めての出会いではない。復権派が捕まったのち、グリシャの尋問を担当したのがクルーガーであった。グリシャはこの時、ダイナがフリッツの血を引くことを語ってしまっている。しかし、これはまだ二度目。一度目は彼が幼少期、フェイ・イェーガーと飛行船を見に収容区を抜け出した日、妹と川辺で飛行船を眺めていたところを、仕事をサボっていた曹長の男とその隣にいた男と出会った。その男こそ、クルーガーであった。

 

 仮に尋問官だったクルーガーならば、ダイナを助けることができたろう。「フリッツ家」の血はそれだけ貴重なものなのだ。ユミルの民の中で唯一、巨人の真価を引き出すことができるのだから。

 

 縦え謀反を起こそうとしていた人間でも、少なくとも楽園送りにはされなかった。そもそもグリシャにダイナを会わせるよう手引きしたのは、フクロウ本人である。

 

「何故、ダイナを…」

 

「彼女がフリッツの血を引くことが政府にバレれば、悲惨な未来しかなかっただろう。だからお前が話した事実を揉み消した」

 

「悲惨な未来…だと?」

 

「敵国のために、子を産み続ける。その苦しみはいかほどのものだろう。その上娘までいたのだからな」

 

「……ぁ」

 

「幸いジーク・イェーガーは密告した際、自身がフリッツの血を引くことを語っていなかった。彼の身は安全だろう」

 

「……むす、めは」

 

「何だ?」

 

「娘をここに連れてこないようにすることは、できたんじゃないのか、あんたなら……ッ!!」

 

「う…ッ」

 

 グリシャに襟元を掴まれ、クルーガーは呻き声を漏らす。

 

 曹長は行くと言って聞かない少女を、連れて行こうとしていた。しかしその他一部は気乗りしない顔をしていたのである。大半は曹長の気を損ねないよう、知らんぷりをしていたが。

 クルーガーは曹長の()()の時間に付き合わされるとおり、男から一定の信頼を得ていた。ゆえに彼が曹長に進言すれば、止めることも十分できた可能性が高い。

 

 彼は、少女に「楽園送り」の意味も含め、少女に話したことを思い出す。

 

 愛らしい、子供だった。まずそれが一つ。

 

 そしてどこか、寒気の感じる得体の知れない少女だった。

 

 

 普通なら死を恐れるはずだ。縦えそれが倫理観が満足に確立されていない子供でも、「楽園に行けば死ぬ」と言われれば、行くまい。子供にとって“恐怖”とはもっとも避けて通りたいもの。

 しかし少女は死ぬのをわかった上で、それでも両親と共に行きたいと言う。

 

 何故だ、と彼は問うた。

 

 それに少女はキョトンとして、首を傾げる。さながら「あんたの方が何を言ってんだ?」と言わんばかりに。まぁそれは気のせいだろう。まさか相手はただの幼児なのだから。

 

 

 ────わたちがいたら、おにーたんはずっとくるしんじゃうの。だから、いきたいの。

 

 

 少女は、そう言った。

 

 クルーガーはこの時、少女から感じた寒気の正体を理解した。

 

 彼はジーク・イェーガーがグリシャとダイナを告発したことを踏まえ、二人──特に、リーダー的立ち位置にいたグリシャがジークの育て方を誤ったと感じていた。

 両親を告発するという所業を、まさか普通の7歳の少年ができるはずがない。相応の負荷がジーク少年にかかっていたのだろう。そしてそれを、妹は敏感に感じ取っていた。

 

 少女の生い立ちは粗方知っている。その上でグリシャたちの過去の経緯を踏まえ、娘に過剰に愛情を育てたのだと考えれば…必然と、少女が「兄が苦しむ」といった話にも理由が見えてくる。

 

 

 自分がいるから、兄は愛情をもらえない。だから、死ぬ。

 

 少女の底知れなさは、死ぬことを受け入れている異常さだった。

 

 

 彼はだからこそ、少女を連れて行った。でなければ少女は別の理由を作り自害することが予想できたから。

 およそ4つの少女がそんな選択肢を取るなど、恐ろしいだろう。

 

 深い深い深淵を、クルーガーは垣間見た気がした。

 

 

 

「……俺はな、イェーガー、お前以上に巨人の力を渡していいと思う奴はいない。だが親としては最低だと思っているよ。あんな少女を、作り出したのだから」

 

「……ッ、何を…」

 

「今お前は息子に行ったことを、後悔し始めている。己が彼に十分な愛を与えなかったことを」

 

「………」

 

「だが悔いるべきは、娘もだ。かつてのお前の妹のようになることを恐れて、家の中に閉じ込め、愛した。お前の娘は「フェイ・イェーガー」だったのか?違うだろう、あの少女は「アウラ・イェーガー」だ。お前の行っていたことは、マーレ人が収容区のエルディア人に行っていたことと大差ない」

 

「違う、私は…」

 

「何も違わないッ!!」

 

 ちっぽけな世界。世界よりも小さな場所で暮らす収容区のエルディア人よりも、もっと隔離された世界。

 そこで少女は育ち続けた。少女の世界はきっと両親や祖父母、それに兄だけだろう。そして世界の中の一人、兄が苦しんでいるのを見つけた。それだけだった。

 

 だがそれだけで、少女は兄のために死のうと考えた。

 全ては少女の世界が狭かったから。

 

 それを作り出したのは、いったい誰だ?

 

 

「………アウ、ラ……アウラ…う、うあぁ……」

 

「後悔はいくらでもできる。だがお前は進み続けなくてはならない。お前が自由を求めた、代償なのだから」

 

「わ、私はこんな、結末になるのだったら…」

 

「進まなかった、か?それは違うぞイェーガー、お前はもうすでに、ダイナと出会う前から進み続けているのだ」

 

 飛行船を見たいと願ったフェイ・イェーガーを連れ、収容区を出たその日から、一歩踏み出したその時から───、全てはすでに始まっている。

 

 始めたのは誰でもない、今クルーガーの前で、無用に頭を抱えうずくまっている男だ。

 

 

 

「これが、お前が始めた物語だ」

 

 

 

 ならば進め続けなければならない。物語を始めた本人が、その手をいくら汚しても掴み取らなければならない。

 

 自由を、その手に。

 

 

 

 

 

 その時、大気が震えた。

 

 意味をなさない声。それは巨人から発せられたものである。

 

 二人が驚愕し音の元凶に視線を向ければ、壁の下にいた巨人の一体が、突如こちらに向かってくる。

 それは少女を捕食した巨人。ついでに落ちてきた曹長の下半身を噛みちぎった元、ダイナだった。

 

 巨人は壁に手をめり込ませ、壁を登ってくる。

 

「嘘だろ…無知性の巨人が、壁を……」

 

「だ、ダイナ…?」

 

 巨人は壁の上に到達し二人を見下ろす。正気に戻り、巨人化しようとクルーガーが手を噛み切ろうとした瞬間、ダイナ巨人は片足を壁の上に乗せバランスを取りながら、両手を使って腹を裂いた。

 

 聞こえるのは肉の繊維がちぎれていく音。ついでにボトボトと、熱い熱風と血をまき散らしながら臓物が壁の上にこぼれ落ちる。

 

「ッ……!」

 

 クルーガーは自傷をやめ、呆然としたままのグリシャの胴に腕を回して横へと避けた。

 

 ダイナ巨人は溢れ出た臓物の一つを掴む。それをお菓子の袋でも開封するように引き裂くと、中から現れたのは────、

 

 

 

「アウラ!!?」

 

 

 巨人の体内構造は消化器官がない。そのため腹が満たされると吐く。ここに巨人=過食嘔吐説でも成り立ちそうだ。だが胃液はあるので、中に入った人間はドロドロに溶ける。ゆえに巨人の嘔吐物の中には白骨死体も多い。

 人間で考えれば、食べ物が胃に入った後の消化時間は平均2~3時間。少女がダイナ巨人の体内に入ってから一時間程度経っている。

 

 

 この時点で、取り乱し正常な判断ができなくなっていたグリシャはともかく、クルーガーが丸呑みされた少女を助けず放置していたのは、明白な事実である。

 

 彼もまた少女の望むように死なせたかったこともあるが、これから自身の巨人の力をグリシャに継承させようとしている折、少女の存在はジャマになる。

 

 仮にアウラを助け、グリシャに巨人の力を渡したとしよう。しかしその後グリシャが少女を持ち、パラディ島の人間が住む場所まで行くのは不可能だ。巨人であっても無知性巨人に襲われる。普通の人間ならば尚更。

 

 少女を守りながら行くなど、戦士ならばまだしも、継承したばかりのグリシャには無理に等しい。

 

 

 ならば少女をそのまま死なせてやればいい。幸いグリシャ本人は娘の死に際を見られず、発狂していた。死んだと疑わず、「助けろ」とはまだ言ってこない。そして後で違和感に気づいたところで、少女は死んでいる。

 

 少々手荒だが、それでもやはり少女を死なせるしか、方法がなかった。

 

 

 

 だが、どうだろう。

 

 一時間も経ち、皮や肉がドロドロになっていなければおかしいのにも関わらず、少女はそのまま全裸で出てきた。()()()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず、身体だけ綺麗に。対し曹長の下半身はドロドロと溶けている。

 

「あ、アウラ!!アウラ!!!」

 

 グリシャが少女の肩を揺さぶる。アウラは動かないが、息はしていた。

 

「……いったい何がどうなっているんだ…?」

 

 クルーガーがダイナ巨人を見やれば、腹を裂いた彼女はそのまま蒸発していく。うなじを切られたわけでは、ないはずなのに。

 まるで、()()()()()()()()()()、このような奇妙なことが起こったかのようだ。

 

 一瞬始祖の巨人がクルーガーの頭の中によぎったが、それは壁の中の王家にあるはずだ。そも、九つの巨人を宿す者が力を継承させる前に死んだ場合、巨人の力はそれ以降に誕生するユミルの民の赤子に突如継承される。

 

 そう都合よく、王家が継承をし損ねるとは思えない。しかし完全に可能性を捨て切ることもできない。

 

「………」

 

「おい、クルーガー何し……!?」

 

 クルーガーはナイフを少女の手に突き立てる。それを引き抜き様子を見れど、傷口が塞がることはなかった。

 

「貴、様っ……!!」

 

「すまない。だが落ち着け、巨人の力の可能性があると思ってしまったんだ」

 

「……巨人の、力…?まさか娘がそんなわけ…」

 

「あぁ、違った。傷が治っていないからな。なら先ほどの現象はどう説明を付ければいいと思う、イェーガー」

 

「………フリッツの、血か?」

 

「あるいは…な。その可能性が今は一番大きいだろう」

 

 クルーガーは、深く息を吐いた。運命というのはどうやら、少女を生かしたいようである。神の寵愛───いや、悪魔?まぁ、どちらでもよいか。どれでも変わらないのだから。神でも悪魔でも、それを指すのはこの世で一人だけ。

 

 

「「()()()()」なのかもしれないな、アウラ・イェーガーという少女は」

 

 

 ユミルの寵愛を受けし、フリッツ家の血を引く子。

 この子供ならば、死ぬことはあるまい。少なくともクルーガーにはそう思えてならなかった。

 

「グリシャ・イェーガー、お前に最後に託したいことがある」

 

 

 そしてクルーガーは、自身の力を彼に託したい旨と、その方法を話す。巨人の継承期間が13年であることなども。またグリシャができないのなら、娘に押し付けることも可能だ──と、半ば脅しをつけて。

 

 全ては始祖奪還をもくろみ戦士を徴兵し出したマーレよりも先に、始祖を手に入れるためである。

 

 それにグリシャは少女を見つめ、ついでクルーガーの顔を見、頷いた。

 

 

「わかった。だがこれは私の意思だ。私の意思で、進むことを決めた。そこはわかって欲しい、クルーガー……それと、すまなかった」

 

「いや、俺の方が悪かった。その子には後で代わりに謝っておいてくれ」

 

 グリシャが継承すれば、必然的にクルーガーは死ぬことになる。それは、無知性巨人が知性巨人を持つ人間を食べることで能力を得る、という性質に習って。

 

「13年か…この子と、いられるのも」

 

「その子はお前の罪の一つに過ぎない。───今一度問おう。お前は自分の罪を背負いながら、進み続ける覚悟はあるか?」

 

「……ある。迷いは、もうない」

 

「…なら、お前に託す。俺の巨人の力を」

 

 クルーガーは少女の頭を撫で、ついで懐からジークが密告したその日、グリシャの家から押収していた家族の写真を渡す。

 グリシャは娘に着ていたシャツを羽織らせ抱き上げたのち、それを受け取った。

 

「さぁ、下に行こう、グリシャ・イェーガー」

 

 そして三人は下の砂漠へ続く階段を降りていく。不意にグリシャは後ろをふり返り、ダイナ巨人が消失した場所を見やる。彼に微笑み巨人となった彼女は、異形に姿を変えても笑顔を浮かべていた。

 娘を食べながらも、また()()()()()()()()()()彼女───ダイナ・フリッツ。

 

 

「私も愛しているよ、ダイナ。…ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な、光景だ。

 

 夜が深くなり始め、青空と夕陽の境界線が混ざり合った世界。天上には無数の星がぶら下がり、陽がその下の砂の大地へと沈もうとしている。幻想的な光景は、まるで進む彼らのためにできた「道」のようだ。導いたのはきっと───。

 

「ハハッ、本当にユミルの「寵愛の子」にしか見えなくなってきたよ」

 

「……この子は私とダイナの子だ」

 

「冗談が通じんな、お前は……そう言えば」

 

 クルーガーは、眠る少女の首元を指す。グリシャが不思議に思えば、何か布のようなものがあることに気づいた。確か壁の上に連れてこられた際、娘はつけていなかったはずだ。

 

 疑問に思えども、答えは出てこない。クルーガーは手を伸ばしその布を、まるで正しい位置に戻すように付け直す。

 

「何も知らないで眠りこけやがって、いい身分な娘だ」

 

 少女の頭に、つけられた白いバンダナ。

 

 そこに吹いた風が夜に相応しい色の髪をさらい、揺らした。

 

 

 

 

 

 ────さぁ、ここからだ。

 

 

 進撃の火蓋が今、切られる。

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