ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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連日投稿控える?ありゃ嘘になった。
次回から新章入ります。


永永(エーンエーン)

 静寂。

 

 白い花が雨粒をはね返す。

 しかし聞こえるはずのサァサァ、という音は聞こえない。

 

 

 意識が沈んでいく中でジークが見たのは、不思議な世界だった。

 

 天上に広がる無数の星。それと実物は見たことないが、まるでオーロラの如き白い光。

 その光をたどった先にある、光の柱。そこから無数の光が、まるで枝のように空に広がっている。

 

 ここはいったいどこなのかと、空ばかりに気を取られていた男は、ふと気配を感じた。

 

 気配のある場所にいたのは一人の少女。

 光に照らされて淡く浮かび上がる金髪に、顔を覆う影の奥に存在する蒼い瞳。

 

 ジークは思わず息を呑む。あまりにもその少女は、妹と似ていた。

 妹────アウラ・イェーガーに。

 

 

「……アウラ?」

 

 

 少女は男の言葉に反応せず、地面の土のような──しかし色としては砂のようにも見える──を両手で掬いあげると、男の体の上にかける。そして側にある桶の水を掬って、ジークの体に触れる。

 

「俺の……体?」

 

 上半身はかろうじて動く。体を少し起こしてみてわかったが、骨盤から下がない。

 

 正確に言うと左足がなく、右足の太もも部分を少女が現在進行形で作っている。自由なのは右手と、上半身だけ。あとは感覚がなく、欠けている部分は地面の土と混ざり合うようにして欠けている。

 

 もし無理に動けば、制作中の部分からボロボロと崩れてしまいそうだ。さながら砂浜に作られた城のように。

 

 いや、それよりも、少女を認識してから気になってやまないことがジークにはある。

 

 

「何で、泣いてるんだ?」

 

 

 堪えようとして失敗し、涙を流している少女。

 悲痛なその表情にジークが思わず手を伸ばせば、叩かれる。それは、明確な拒絶である。

 

「お前は……始祖ユミルなのか?」

 

 瞳を伏せ、少女の手を見つめながら、男は呟いた。

 

 エレンが兄に語っていた内容。妹の話を伝え聞いた話によれば、始祖ユミルはアウラ・イェーガーにそっくりだという。

 状況が理解できずその話を忘れていたが、現状を整理する中で唐突に彼は思い出した。

 

 妹の寵愛の件や、始祖の目的など、聞かなければならないことは山ほどある。

 しかして少女の涙を前にして、その考えはジークの中で雲散霧消した。

 

 大声をあげて泣けばいいものを、必死に堪えようとする。とてもではないが見ていられなかった。こちらまで胸が苦しくなる。

 

 その感情はひとりの兄としての思い。始祖ユミルを妹と重ねて、その上でジークは慰めてやりたかった。

 

 

「作るよりほら、お兄ちゃ………俺の胸貸してやるぞ?」

 

『………』

 

 ジークが伸ばした手はしかし、また叩き落とされる。妹であったらこれで一発で機嫌が直るというのに。

 

「……というかその前にここ、どこなんだ?」

 

 ようやっと彼ははじめの疑問に行きつく。答えを知っている少女は泣きながら自分の体を作るばかり。

 

 そうして、途中少女が水を汲みに行く様子を眺めたり、ウネウネとミミズのように蠢く空の光を見たり、中心(意味深)に伸びる少女の手を反射的に掴んだり。

 

 一瞬のような、はたまた悠久のような。奇妙な時間の流れだった。

 

 元よりおしゃべり好きな男は、暇つぶしとばかりに少女に話しかけた。質問をしたところで何も返ってこないため、一方的な思い出話に留めて。

 その間何度も手を伸ばしたが、やはり拒絶される。その度にジークは感じた。

 

 

 ──────人間のようだ、と。

 

 

 始祖ユミルはとっくの昔に死んだ存在である。

 その少女がジークの体を作っている。あるいは生成される巨人も少女が作っているのではないのかと、長い思考の中で彼は思った。

 

 ずっとここにいたのであろうか、一人で。

 

 孤独に、巨人を作り続けながら?

 

 

 なぜこの不思議な場所にユミルが居続けるのかジークにはわからない。否、この場所の正体には、気づき始めていた。

 

 道。クサヴァーが語っていた、エルディア人をつなぐ座標。

 それこそがこの世界ではないのか、と。

 

 そんな場所で孤独であり続ける存在は、きっと人間ではない。あるいは、人間ではいられない。

 人間としての感情があるなら、殺風景もいいところな場所で奴隷のようにあり続けるなど、到底耐えられるわけがない。

 

 しかし、ジークにはユミルが一人の人間にしか見えなかった。

 泣いて、睨みつけて、鼻水が出ている少女が。

 

 

 

「鼻水で顔ぐしょぐしょにするところも、アウラと似てるんだな」

 

『………』

 

「……なぁ、ユミルちゃん」

 

『………』

 

「お前はどうして、俺の妹を特別に想っているんだ?」

 

 男の左足を作っていたユミルの手が止まる。

 

 少女はうつむき、はじめて口を開く。そこから音が紡がれることはない。パクパクと動いたその口に対して、原理は不明だがジークは正確にその意味を理解する。奇妙な感覚だ。脳内に直接言葉が送られているような。

 

 その声はジークの補正がかかっているのかもしれないが、妹のものと酷似している。

 

 

 

 ──────わたしを最初に、「()」してくれたから。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ユミルを愛した。

 

 世界中の誰よりも彼女を愛して、愛し続けてくれた。

「愛」を捧げて、捧げ続けた。

 

 それを理解できなかったユミル。わかったのは彼女が死ぬ時だった。

 

 自分を愛してくれていると思っていたフリッツ王が、彼女をただの“奴隷”としてしか最期まで見ていなかった現実。

 

 彼女がはじめて愛したのが王だった。その「愛」はけれど、どこまでも一方通行だった。

 彼女が死に、そしてその遺体の周りで泣いていた娘たちは、ユミルを愛していただろう。

 

 だがそれは、最初ではない。

 

 生きることに絶望し、死を選んだ女。

 その果てに待っていたのは、王の命令に従いつづける虚無な存在としての在り方である。

 

 

 奴隷「ユミル」。

 彼女はそれ以上にも、それ以下にもなれない。

 

 誰かの下で、自由なき人生を歩む。

 それは人間に食われるためだけに存在する家畜と、何が違うというのだろう。搾取されるだけで、自分で羽ばたくことが許されない。

 

 だからこそ彼女は“自由”を欲した。

 あの日────家畜の柵に手を伸ばしたことは、ユミルが起こした世界への小さな()()だった。

 

 

 その反逆は大きな代償を伴い、少女の自由をより奪う。

 

 彼女の人生の中で同じ姿、形をした少女の存在は、忌まわしいものでしかなかった。みな、気色の悪い少女を嫌っていた。ユミルもまた、嫌いだった。

 

 ずっと、ずっとずっと、付いてくる存在。物心ついた時から側にいた。離れることはなく、離そうと思っても離れない。

 

 それは、ユミルの自由を奪う存在だった。

 ユミルから自由を、奪った存在だった。

 

 そんな存在が王の「自由」の言葉を受けて笑った時、ユミルは人生ではじめて人を殺したいと思った。

 両親が殺されても抱かなかった感情を、同じ存在(きょうだい)に抱いた。

 

 

 だが誰よりもユミルを愛してくれたのは、『×××××』で。

 

 王の愛がなかったことを知り、そして『×××××』の愛を自覚したときにはすでに、その少女はいなかった。

 死んでいた。もうこの世に、いなかった。

 

 殺したのはきっと、ユミルに他ならない。

 

 自由を求めて家畜を逃さなければ、その少女は死なず。

 腹の中でのたうち回るような激情を抑えて生きるために走っていれば、その少女が自分を助ける状況はできず。

 

 そもそも『×××××』がユミルへ向けるものが「愛」であると理解できていれば、もっと違った人生だったはずだ。

 

 あるいは二人とも幸せに暮らして、生きられたかもしれない。

 

 

 後悔しきれない感情を抱えて、奴隷として束縛され続けた長い長い時間。

 自分の自我さえ薄れ、その先で見出した解放。

 

 少年(エレン)少女(ミカサ)が彼女を呪縛の時から解き放つ前にしかし、現れる。

 

『×××××』と似た存在。

『×××××』が“奴隷”として呼ばれていた名を持つ「アウラ」。

 

 少女は道を通して、その存在を観察した。

 そして自我が育たぬ幼児を不思議に思いのぞいた時、見てしまった。

 

 

 死体。死体。死体。

 

『×××××』の死体。地平線の果てまで狂ったように世界を覆う、死体。

 真っ暗な世界。その上で回るエビのような、奇妙な回遊魚。

 

 ユミルは知った。幼児が『×××××』と似た存在ではなく、『×××××』そのもので。

 

 奇妙なエビのようなものが、彼女と接触した光るムカデと似た存在であることを。

 

 否、似ていると言っても、それは人間を超越したものである──という意味で、その二つはまったく似て非なる生き物なのだと。

 何が異なるのかは、ユミルにもわからない。

 

 だがその奇妙なエビが『×××××』を束縛し続けているのはわかった。

 

 ゆえに最初のテコ入れとしてダイナ巨人に食われた時、アウラを自分のなるべく近い場所におけるよう改造した。

 二回目は死に急ぎ野郎(エレン)より死に急ぐ女を考慮しての魔改造だった。

 

 さまざまな手回しを経て、万が一ユミルの意識が向いていない時でも、死にかけた場合()()が起動できるようにした。

 アウラが一部分でも始祖の力を使えるのは、これが関係している。

 

 

 だが、長らく動きをみせなかった回遊魚が動いた。

 

 あっという間にアウラをたぐり寄せ、暗闇に導いた。ユミルの、一瞬の隙をついて。

 

 元よりそれはどうにもならないことだったのだ。いくら彼女がアウラを助けようとしたところで、ずっと女と回遊魚はつながっている。切り離せない。それはまるで、ユミルと光るムカデの関係のように。

 

 彼女はアウラの腹のキズを、()()()()()()

 

 治したのは回遊魚。

 いや、違う。殺したのが回遊魚。

 

 そうしてきっとアウラは、『×××××』は、死に続けている。

 

 なぜ死んだはずの『×××××』が蘇ったのか、ユミルは知らない。

 奇妙なエビの目的も、わからない。

 そもそもエビに目的があるかどうかもわからない。

 

 ただ、ユミルは救いたかったのだ。狂ったように殺されて、捨てられ続ける『×××××』を救いたかった。

 

 

 どうすれば『×××××』は地獄を見ずに済んだのだろうか。

 どうすればエビに再び捕まってしまった『×××××』を、救えるのだろうか。

 

 回遊魚と接触して以降、アウラとのリンクは取れない。この道へ導くことも、アウラが何を思っているかもわからない。

 

 わからない。

 

 ユミルはあの時───『×××××』が死んだ時、どうすればよかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロと、少女の瞳から涙がこぼれる。

 男を直していた手も止まり、涙を拭う。

 

 ジークは困ったように頬をかき、そっと手を伸ばした。払われることを覚悟の上で。

 

 しかし今度は少女の髪に触れることができた。そのまま撫でれば、柔らかい撫心地とともに、指にからまった金の糸が輝きながら落ちてゆく。

 

 

「もしかして、何かケンカしたのか?アウラと」

 

『………』

 

「俺困っちゃうんだよ、妹に泣かれてるみたいで」

 

『   !』

 

 少女の拳がジークの顔面に炸裂する。小さな体格から繰り出されるその拳は大した威力にもならないが、より男の心臓をえぐる。

 何度も何度も、その拳が体に当たる。少しのこそばゆさを覚えつつ、ジークは少女の体を抱きしめた。

 

 瞬間、男の脳内で流れた「憲兵さん(アニたそ)コイツです!!!」という言葉。

 たいへん遺憾である。

 

 

「俺は少女趣味じゃないから。というか、どこでそんな言葉覚えたんだ…」

 

『   』

 

「あ……………アウラかッッ!!!」

 

 アウラ・イェーガーはろくな知識を始祖ユミルに与えていないらしい。これは現実に戻ったら問い詰めなければならない。

 

 というより、ジークは自分がここへ来た経緯もイマイチ覚えていない。

 戻ってから何が起こったのか思い出すだろう。ここへ来る前に起こったことを。そして夢のように、少女との奇妙な邂逅は、虫食いの記憶になるに違いない。

 

 

 だが不思議と少女の涙は忘れないだろうと、彼は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ハンジたちが移動する中、()()()()は聞こえた。

 

 雨が今にも降りそうな天気の下、揺れる地面。おそろしいスピードで近づくそれに、一度女型の速度を経験したことのあるハンジは目を見開く。

 例えば他の足止めがなければ、簡単に追いつかれてしまう巨人の速度。その主はまっすぐに、巨大樹のある方角へ向かって走った。

 

 全体一度、ねらわれる可能性を感じた兵士らは、馬に指示を出し周囲へと散らばる。巨人がいる中で壁外調査を行っていた時代ならまだしも、今はわざわざ長距離索敵陣形をとる必要性もない。

 

 そのためハンジは連携の取れないイェーガー派の移動に、思わず眉を寄せた。

 

 

 しかしそれよりも気にかかるのは、頭蓋の巨人体。

 その元が王家の血であるがゆえか、他の巨人とは異なる体つきである。

 

 助骨の飛び出た巨人は、ハンジも何度か見たことがある。だが顔の骨が出ているのは初だ。厳密に言えば耳元や首元へいくと、肉がうっすらと付き始める。

 

 また女型と同様に、胸がある。本人には失礼かもしれないが、人間の時よりその胸囲はあった。同室であったゾエは何度か、恨みがましげな視線をアウラから受けたことがある。自身の胸に向かって。

 

 

「ジークの命令で動いているのか……?」

 

 

 先ほどまでは反応がなかった頭蓋の巨人。

 それに動きがあった以上、何かしらジークが命令を出したと考えるのが自然である。

 

 巨人はみるみるうちにその姿が見えなくなる。

 驚き体勢を崩した兵士らは立て直し、馬を走らせた。連日の不安定な天気でぬかるんでいたため、残っていた巨人の足跡を追跡するようにして。

 

 

 

 

 

 それから雨が降り始め、しばらくして聞こえた爆発音。

 

 音の元をたどると、そこには重体と見られるリヴァイや、体にキズを負った馬。また爆発の衝撃で壊れた荷車に、巨人の姿があった。足の跡がここまで続いていたとおり、アウラ巨人体である。

 

 その巨人は顔を上に向け、佇んでいる。

 

 奇妙な体勢にハンジが疑問に思いながら、周囲にいるはずのジークを探した。音の爆発音から、その正体が雷槍のものであることはわかっている。

 

 そして直後、起こった爆風。

 

 巨人は倒れ、そこから出てきたのはmappa(マッパ)の男。巨人がうなじを削がれていないのにも関わらず蒸発して消えていく異常事態に、その中から出てくるジークという光景。

 彼は腹の部分の骨あたりから落ち、転がる。そして側の骨をつかみ、ふらつきながら立ち上がった。

 

 何度も言うが、全裸である。

 

 

「………?」

 

 

 ジークは状況を理解できていないようだった。それはイェーガー派も同様に。

 

 ハンジは一同ジークへ視線が向いている隙に、重体のリヴァイを抱え川へ飛び込んだ。彼女はフロックに兵長が死んだ──と言っていたものの、脈を見た時一応まだ息はあった。

 

 人類最強の男は生きている。それだけで今のハンジには十分である。

 

 銃声とともに弾丸が川へ向けられる間、フロックはジークへ近寄った。

 

「いったい……何があったんですか?」

 

「……わから、ない」

 

 ジークは返事もおざなりに、周囲を見渡す。

 エレンとの約束であれば妹も来ているはずだ。しかし姿がない。

 

 それにフロックは重々しく口を開く。

 

 

 元より今いるイェーガー派は、少なからずアウラ・イェーガーに憎しみを抱く面々で構成されている。意図的に選んだのはフロックだ。

 

 憎まれる理由を作ったのはアウラ本人。ゆえにフロックは手にかけた。それはひとえに姉のせいで苦しみ続けたエレンを、側で見ていたことも理由として。

 

 フロックの行いを正当化する。当然それをジークが納得するかどうかはわからない。だが難しければ、彼はアウラ・イェーガーが狂った理由の元凶が兄であることを引き合いに出して話す。

 

 そこまで言われればジークも反論はできまい。なにせ男が妹を「楽園送り」にしたことは、まごう事なき事実であるのだから。

 

 無論エレンに知れれば、かなりの確率で殺される。

 

 だがそれを覚悟の上で、フロックは行った。()()()()()()()()()()()()

 狂った女を、殺すことを。誰かがやらなければならなかった。

 

 そう信じてやまない彼もどこか、狂っているのかもしれない。

 

 まさしく、感染する狂気─────と、言ったところか。

 

 

「アウラ、イェーガーは……」

 

 

 その時。蒸気が辺りに蔓延する中で、音がした。

 音に反応したジークとフロックが、視線を向ける。瞳を凝らしてその正体を探り、そして見えた、黒い人影。

 

 巨人のうなじの部分にいるその人影は、また何か音を立ててうごめく。ブチブチという音に、ジークは聞き覚えがあった。

 

 巨人のうなじに潜む人間が体を出す時に、つながる巨人体と自身の体を引き剥がす時に聞こえる音。

 それにひどく似ていた。

 

「エレン?いや、違………」

 

 壁内にいる知性巨人はジークとエレンのみのはず。無知性巨人についても、すべて討伐されている。

 ならば、いったい──────。

 

 

 立ち込める蒸気の中で見えたのは、見覚えのある髪色。それが蒸気に吹かれて揺らめく。

 いつも付けていた純白のバンダナは見当たらない。

 

 腕を出し、そして下半身も取り出したその人物は、うなじの部分に立ち上がる。白いシャツと、紅い血のような長いスカートが覗く。

 そのまま右足へ重心をかけてフラついた女は、つまずき、骨の上を転がって地面に落ちる。

 

 ジークはしかしその髪の色が見えてから、すでに駆け出していた。

 

 

 

「アウラ!!」

 

 

 

 腕の中に妹を捕まえた兄は、地面を転がる。

 妹の名を呼ぶ声に閉じていたまつ毛が震えると、その瞳がのぞく。

 

 それはかつて、ジークが見た色。

 

 薄い紫のような、銀のような──ー不可思議な色の中で無数の光が散らばる。

 さながら星を集めたような瞳が、そこにあった。

 

 思わず息を呑んだ男の頬に触れる手。その手はひどく冷たい。

 

 

「じぃーく」

 

 

 うっそりと、微笑んだアウラ。

 彼女はジークに抱きつく。

 

 そして愉しそうに、狂ったように。

 

 笑った。

 

 

 

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