ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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新章ディス。
一部切り取ると18禁にしか見えない部分があるので注意してください。許されなかったら修正します。


【九章】「神聖悪魔ちゃん」編
私は私の選択をするとき、私ではない他人の選択を見て私の選択を選ぶようだ。


「私」は知っている。

 

 私が狂う理由を知っている。

 私は人の狂気で「私」ができあがったことを知っている。私たちの肉塊がその証拠。狂ったように殺されて狂うことを知っている。

 

「私」は知っている。

 

 私が人を狂わせることを知っている。

 人を私が狂わせて狂った人が私を殺すことを私は知っている。

 

「私」は知っている。

 

 回るあのクソヤロウが狂っていることを知っている。

 狂ったように回り続けて、すべてを狂わす狂気そのものだと知っている。そのクソヤロウは人間の狂気を食べて狂い、そして狂ったクソヤロウが人間を狂わせることを知っている。

 

「私」は知っている。

 

 誰かが誰かを狂わせて、その誰かがまた誰かを狂わせて、そうして狂気が回り続けていることを知っている。

 クソヤロウはだからこそ回る。

 終わりのない回遊。

 だからこそ終わりを求めて。

 

 

「私」もクソヤロウも、回っている。

 

 ぬくぬくとした、狂気の中で。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 ……あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

 

 この私、アウラ・イェーガーちゃんが目を覚ましたと思ったら、目の前に素っ裸のジーク・イェーガーがいた。

 

 な…何を言っているのかわからないと思いますが、私も何をされたのかわからなかった。元々どうにかなっている頭がさらにどうにかなりそうだった。

 

 なぜかお兄さまに全力で抱きついていた私は我に返って、まずその上半身を凝視した。「お筋肉」が丸出しだった。もうこの時点で鼻血が出ていた。

 

 そしてそのまま視線がゆっくり下に行き、臍のところにまで向かい、あるはずのボトムスがないことに気づいた。丹田に浮き出ている血管がえっっっ。

 

 つまり、お兄さまのお兄さま♂が少し視線をずらせば見えるということ。

 四年の共同生活でも、難攻不落の防御力を誇っていた、お兄さま♂

 

 しかしついに拝む時がきたわけです。

 

 

 驚異の子の、驚異の子♂をなァ──────ッ!!

 

 

 

 

 

「ふひゃんっ」

 

 

 が、物事とはそう上手くいくものではありません。というか私が限界でした。

 

 興奮のあまり私は気絶した。気を失った時間は一瞬のことでしたが。

 

 終始固まったままだったお兄さまは、反射的にこの愚妹の体を支えてくださった。

 その接触だけで甘()きしてしまう私はビンカン処女。兄様、私のバージンをもらえ。

 

 気が戻った時視界に入ったのは、逆さまになった兵士の顔です。

 背中を支えられた私はのけぞるようにして後ろを向き、その体勢で彼らの顔を見た。

 

 蒼白する者や、口を開けたまま固まっている人間。総合すると怯えと、ドン引く視線がこちらに向いている。

 

 公衆の面前で()ってしまったことに羞恥と更なる興奮を覚えつつ、フラつく体を支えようと兄の肩をつかんだ。

 

「大丈夫か……?」と屈んで、こちらの顔を覗き込み、本気で心配するお兄さまはイケメンで。

 私はまた、ブッ倒れそうになった。

 

 

 

 その後顔を覆いながら、ガチ目に泣きつつ服を着てもらうよう懇願して、お兄さまはようやく何一つ身に纏っていないことに気づかれた。そして私の顔が真っ赤な理由を察し、頬をかきながら小さく謝る。

 

 しかし兵士らの面々が急きょ取りつくろった服は、ボトムスのみ。アウラちゃんはもうお兄さまを直視できません。

 

 〜完〜

 

 

「悪いが、約束どおり少し時間をもらう」

 

 

 ジークお兄さまは「フロック」と呼ばれる兵士にそう告げ、彼らから距離を置いた森に移動した。

 

 妹の手を引っ張る兄は上裸。まともに前を見れない上、いつの間にか生えていた右足の感覚に慣れずつまずき、結局抱えられた。お姫さまだっこです。これが天国か………(享年、26歳)

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ジーク・イェーガーの前には今、美人な容貌を台無しにしたばかりの妹がいる。

 

 人目を忍び移動したジークは妹を木に寄りかかるように座らせ、自身も屈み視線を合わせる。

 未だほんのりと赤い妹の顔が、逃げるように逸らされた。

 

 側から見て明らかに異常だったアウラの様子は、兄の知るいつも通りの姿に戻っている。ジークを好きすぎるがあまり狂う、そんな妹。

 

 聞きたいことはたくさんある。だが、時間はあまりない。すでに兵団はイェーガー兄弟を阻止すべく動いている。

 

 

 まず彼はマーレ国で共に暮らしていた間、始祖ユミルの寵愛の件をなぜ黙っていたのか尋ねた。

 

 すると予想通りというか、アウラは兄との関係性の悪化を懸念して、話さなかったことを明かした。

 

 失踪したのも、接触してきたエレンがこの事をジークに知らせた後のことを考え、逃げたため。

 

 タイバー家の擁護下にいたのは、始祖ユミルがモブおじさんたちから危険な目に遭う彼女を心配して、意図的に取り入れさせたから。またタイバー家ならその権力もあり、愛する子(アウラ)が動きやすいだろう、と。

 

 さらにアニ・レオンハートを利用したことも、アウラは語った。

 彼女については、マーレに来た時アウラ自身の身の安全を確保するために、用意した存在である。

 

 エレンにアニの件も聞かされていたジークだが、どれも始祖の力をゴリ押しした案件ばかりで、頭の痛む思いがした。

 

 というよりさらっと強姦に遭いかけていたことを知り、兄の情緒がさらに死んだ。

 

 

「…飛行船で撃たれた時のことは、覚えているか?発狂したことも」

 

「撃たれた?発狂?………あ、そうだ、撃たれてた」

 

 今思い出したと言わんばかりに、アウラは服の上から腹を触る。それからシャツをめくり上げると、白い肌が見え、細い体が現れた。

 そしてあるはずのキズが無いことを確認し、「おぅ…」と、何とも言えない声を上げた。

 

「お前な、俺の前だからって平然と腹を出すな」

 

「全裸だったお兄ちゃんが言わないで」

 

「うっ」

 

 ぐうの音も出ない。いや、そんな兄に鼻血を出した妹の方こそどうなのだ。

 

 

 しかしジークが全裸になった経緯をかいつまんで話すと、途端に逸らされていた白銅色の瞳が兄をとらえ、朱に染まっていた顔が青白くなる。

 

 雷槍を爆発させた理由については、リヴァイから逃れるための賭け(、、)だった、と彼は話した。

 本当のことを言えば、妹が発狂するかもしれない。

 

「あ、う、い、生き……生きてる?」

 

「生きてるだろ」

 

「じ、ジーク、ジーク・イェーガーは生きてる?」

 

「…生きてるよ」

 

 アウラは兄の胴に手を回し、心臓の位置に耳を当てた。

 

 ジークは異常なほど震える妹の背を宥めるように叩いて、落ち着かせる。その間白銅色の瞳はチカチカと不安定な灯りのように、その色を何度も変えた。

 

「死んじゃダメ死んじゃダメ死んじゃダメ」

 

「……ごめんって」

 

「だめ、いやだいやだ、だめ、だめだめだめ……!!!」

 

「…苦しい、アウラ」

 

 細い腕はあばらを折って内臓に食い込ませんとするほどに、男の腹に巻きつく。

 

 鈍い痛みが積み重なっていき、うめいたジーク。止めようと動かした手で妹の横腹をくすぐると、途端にすっとんきょうな声を出したアウラは地面に倒れた。

 

 

 

「は、はひぃ……♡」

 

 

 ヤムチャしやがった体勢の女の、めくれたスカートから細い右足が覗く。

 

 それを徐にジークがつかむと、一瞬大きく体が跳ねたのち妹は動かなくなった。手羽先感覚でいいようにその足が動かされていると、黄泉の国から戻ってきたアウラの瞳が開く。

 

「お前、巨人のうなじから出てきたんだけど、覚えてるか?」

 

「は、ふっ…………え?」

 

「正直に答えないと、後悔することになるぞ」

 

「え?え、え?」

 

「………」

 

「あ、しょ、しょこはらめぇ……!」

 

 靴が脱がされ、晒された足の裏に無骨な手が伸びる。

 髪を振り乱しこそばゆい尋問を受けつつ、妹は涙ながらに何も知らないことを語った。

 

 

「本当に何も知らないのか?」

 

「し、しら、んんっ……ない!!」

 

「じゃあ何で俺がお前が出てきた巨人の中から出てきたんだよ」

 

「わ、わかん、な、い!」

 

「嘘ばっかりで、お兄ちゃんお前のこと信用できないんだけど」

 

「ほ、本当にしらな、おっ、おか…っ、おかしくなっひゃうぅ……♡♡」

 

 本当にアウラは何も知らなさそうである。兄が手を離すと、荒い息を吐きながらよだれを垂らし、放心する妹ができあがった。

 

 妹がヘブン状態の中ジークは、やりすぎたか?と、心配の色を覗かす。

 

 フロックが見れば、完全にヒゲ面の男、現行犯逮捕案件だった。

 当の男は妹の脳内に「♡」が乱舞していることに気づいていない。そこで鈍感系ヒロインを発揮するのか(ボブ訝)

 

 

「……え?っていうことは、お兄さまが言ってた巨人が私だったの?」

 

「…本当に覚えてないんだな」

 

「産んだの?アウラちゃんが??処女懐胎?」

 

「しょ………俺蒸発した巨人から出てきた、って言ったよね」

 

「何で私が巨人になってたの?」

 

「俺が聞きたい」

 

「ユミルちゃんが私を巨人にしたの??」

 

「だから、俺が知らないって」

 

「ま、待ってね。こういう時は巨人の数を数えればいいってゾエが言ってた。ソニーが一匹、ビーンが二匹、ハンジ・ゾエが三匹───」

 

「人間が混ざってるけど」

 

「私が巨人化してお兄さまを体内に取り込んで、そこから蒸発してお兄さまが全裸?」

 

「落ち着け」

 

 ケモノのように唸りながら、アウラは頭を抱える。

 そしてふと、止んだ雨の後にできた水たまりに映る己の姿を見て、固まった。

 

 その瞳は夜の世界を照らす小さな灯りを、かき集める大罪を犯して作られたような、不可思議な色。

 目を瞬かせ己の瞳を見ていた女は、そのままゆっくりと、水たまりに顔を近づける。

 

 

 

「いる」

 

「何がいるんだ?」

 

()()()

 

「私たち?」

 

「「私」になれない、終わったまま終われない私たち」

 

「………は?」

 

 水滴が地面に落ち、シミを作る。雨ではない。女の瞳からポロポロと、蛇口を少しずつ緩めていくように水が溢れているのだ。ただ、涙を流す女の口角は、わずかに上がっていた。

 

 呼吸を忘れて妹を見ていたジークは、思い出したように息を吸い込む。

 

 おかしい。その四文字で表せられる今の、アウラ・イェーガーの様子。

 

 

「瀕死の兄を私は食べて、ジーク・イェーガーは死の淵から蘇った。私の時と同じだ。私も食べられて、復活した」

 

 

 その行いはユミルによるもの。ジークはそこで夢のような世界──と言っても、土の感触や視界に入る情報があまりにリアルだった──を思い出し、あ、と声を漏らす。

 

 エレンの言うとおり、始祖ユミルと瓜二つだった妹。

 寵愛の理由を裏付けるような発見が、今の今まで頭から抜けていた。

 

 

「ジーク・イェーガーはユミルを見た?“奴隷”のユミル。王の束縛から逃れられない、かわいそうな少女。王に愛されなかった女。彼女は「自由」の奴隷。自由になろうとして、さらに地獄を見続けている」

 

 

 アウラはジークの知らぬ内容まで、ユミルから聞かされているらしい。

 それはきっとどの文献にも残っていない、歴史の真実に他ならないのだろう。

 

 男の中で“奴隷”の言葉が反響する。ふいに「自由」と聞いて思い浮かべたのは、エレンの姿だった。

 

 

「あれが“道”で正しいなら……お前にそっくりな女の子が、泣いていた気がする」

 

「泣いていた?」

 

「お前とケンカでもしたんじゃないのか?」

 

「会ってないよ。私はあの子に会ってない」

 

 相変わらずアウラの視線は水たまりの中に固定されていて、お世辞にもキレイとは言えない水面が些細な衝撃で波紋を作り、それが全体に広がると女の顔も歪む。

 ブヨブヨと、あるいはドロドロと、悍ましい形に変わる。

 

「ユミルがジーク・イェーガーを治したんだ」

 

「…あぁ」

 

「私の願いだから聞いたのかな?それとも私が王家の人間だから逆らえないのかな?まぁどれでもいい。だって治すしかないんだから。私にとっての一番はジーク・イェーガーなんだもん。ユミルじゃないんだもん。やっぱりあの子は奴隷だね」

 

 くすくすと、息をこぼすように、女は笑う。

 少女のような、無邪気さで。

 

 そして瞳をかすかに伏せて、彼女は立ち上がった。

 

 

「お兄ちゃん戻ろうよ。みんなが首を長くして待ってるよ」

 

「待て、まだ本題を話し合えてない」

 

「本題?」

 

「計画の件だ。エレンに「地ならし」を利用した、人類の大多数を殺す選択を迫られている」

 

「何を迷うことがあるの?ジーク・イェーガーの本願は、トム・クサヴァーとの約束を果たすことでしょ?」

 

「そう…だが、………わからないんだ」

 

 結論が出せないからこそ、ジークがが悩む根幹にある妹の生死の答えを見出すべく、アウラと話し合おうと思った。

 

 妹はけれど、兄の出す答えに従うと言う。

 どの道ジークより先に死ぬ気で、兄の寿命の延命が不可能な以上、あがいてもどうにもならない死。

 

「ギリギリまで悩むしかないよ。幸い、二人が接触して行き着くのは“道”。一瞬が悠久のあの場所ならいくらでも時間はある。それより早く行こう。兵士の一人も敵が迫っているって、言ってた」

 

「……俺は」

 

「大丈夫だよ、ジーク・イェーガー(お兄ちゃん)

 

 

 ──────私はずっと、いっしょにいるよ。

 

 

 兄を引くように握られた、妹の手。

 冷たい感触が伝わり、自分の手の脈の音を、ジークは感じた。

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