ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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終わらなかったら怖いので、十章表記にしてる最終章です。
もうちょっとだけお付き合いいただけたら幸いです。


【十章】丹碧の境界線編
帰るときによく泣いていた子どもの手は、小さかった。


 壁に入った無数の亀裂は、シガンシナ区だけでなく壁全域に引き起こされる。

 

 アルミンが当初考えていた。エレン・イェーガーの目的。

 誰よりも付き合いは長いため、エレンの人間性はよく知っている。

 

 だからこそ『安楽死計画』に賛同するとは思えず、エレンがジークやイェレナに賛同すると見せかけ裏切ると考えていた。

 

 

「地ならし」は、すべての巨人の硬質化を解く必要はない。

 

 世界最強の軍事力を誇るマーレがシガンシナ区に集結しているのだ。その周囲の壁の硬質化を解いて襲わせればよい。

 さすればパラディ島は、数十年の間は他国に手を出されずに済む。

 

 しかし、壁はウォール・マリアまで壊れている。

 

 そこから覗くのは巨人の頭。そして、胴体。

 

 

 エレン・イェーガーの首の切断面から飛び出たのは、触手のようなものだった。

 

 長いそれはヒトの脊髄のようでもあり、うごめく様はミミズとでも言える異様さ。

 そして巨人化が始まると、巨大な骨組みが浮かび上がっていく。

 

 超大型はおろか、推定約120メートルとされたロッド・レイスを優に凌ぐ、圧倒的な大きさ。

 

 アルミンたちはエレンが始祖を掌握したことを認識したと同時に、ウォール・マリアの壁の異変に気づいた。

 

 直後アルミンとミカサ、そして二人だけでなく、すべてのユミルの民の意識が座標へと引き込まれた。

 

 

 そこで耳にしたのは、エレン・イェーガーの宣言。

 

 すべてのユミルの民を殺すまで、止まらない世界。

 だからこそ彼は数多の巨人を引き連れ、世界に侵攻する。

 壁の中をおびやかす脅威を、駆逐する。

 

 

 

 空を仰いで悠々と青い世界を泳ぐ鳥に、思いを寄せていた少年は。

 

 本当の悪魔へと、その身を昇華させた。

 

 人々は耳にすることだろう。

 進撃の、その轟を。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 場所は変わり、マーレ。

 

 同時刻、収容区の人々がエレンの“人類駆逐放送”を聞き、騒然となった。

 この放送はユミルの血を継ぐ者にしか聞こえない。

 

 アニの父やライナーの母、戦士隊の親族たちもその言葉を耳にしたのである。

 

 

 一方でこの言葉をベッドの上で逆立ちになり、その重心を親指のみで一身に受け止めていた男も聞いていた。

 

 白いタンクトップの上からでもわかる、隆々としたその筋肉。

 

 まるで彫刻家が美しい人間の筋肉像を作らんとして、掘り続けた末に生み出された作品のような肉体が、呼吸ひとつで躍動する。

 

 足に大ケガを負い、切断したばかりだというのにこの男、医者が止めてもまったく言うことを聞かず鍛錬を怠らない。

 

 シーツに汗を染み込ませ、それを頻繁に片づけなければならない看護師の小言もまた、仕方のないことだった。

 

 

 

 逆さになっていた体を正位置に戻したポルコ・ガリアードは深く息を吐く。

 頭に溜まっていた血が下へ降りてゆく感覚を味わいながら、サイドテーブルにあった水に手を伸ばして渇いた喉を潤した。

 

 

「そこにある命を駆逐するまで………ねぇ」

 

 

 エレン・イェーガーが語っていた言葉。

 

「地ならし」が始まると、瞬時にポルコは察した。マーレ側がジークやエレンを止めることに失敗したのだろう、とも。

 

 数日のうちに、マーレにも地をならす進撃の足音が響くのだろう。

 その後に残されるものは何もない。

 

「っま、アニやピークでもダメだったんだろ?俺にできることなんて何もねぇしな…」

 

 世界連合軍が集まったところで、飛んで火に入る夏の虫。

 

 大型巨人によって、あっという間にペシャンコにされて終わる。

 ポルコの中で一瞬ライナーの顔が脳裏によぎり、「何してんだあの野郎は」と、悪態づいた。

 

 

 ポルコに代わってヨロイを継承した、ライナー・ブラウンという男。

 

 

 兄のマルセルが、ライナーをかばって死んだことも。

 アギトを失わせておきながら己の保身のために、ベルトルトやアニを脅迫して「始祖奪還計画」を続行させたことも。

 それが失敗して、最終的に超大型まで奪われたことも。

 アギトを継承していた女が結晶化し、「戦士」にまたなれなかったポルコに、同情心であれ何であれ、ヨロイを託したいと考えていたことも。

 ウダウダと悩んで自分を追い込み、苦しんでいる……と思っていれば恋をして、精神的に立ち直ったことも。

 

 ライナー・ブラウンのすべてが、ポルコの逆鱗に触れる。

 とにかく気に食わなかった。

 

 

 しかし結局、「戦士」に選ばれたのはライナーで。

 

 選ばれなかったのが、ポルコ。

 

 

 その線引きは彼の中で、あまりにも大きなものになり過ぎていた。

 

 現状の足では多少の不自由はあるが、巨人の力を継承すれば問題ない。肝心の鎧が誰に継承されるかはわからないが。

 

 すでに軍部の中枢の人間はレベリオ区の一件で一掃された。判断はマガトによる。

 

 戦士を目指す気持ちはある一方で、合理的に継承した後のことを考えると、ガビたちに継承させた方がよいのだろう。

 

 そこらの感情に区切りをつけるにせよ、あまりにも複雑で、脳を動かすより先にポルコは肉体を動かすようにしている。考え過ぎれば先に精神の方が参るからだ。

 

 

「全部殺されたら、名誉マーレ人もクソもねぇよ…」

 

 

 マルセルが一度戦士になった手前、ガリアード家には名誉マーレ人の称号がある。

 それでも戦士を目指すのはもはや意地なのだろう。

 

 11年前、場を共にした7人の子どもの中で、唯一選ばれなかったポルコ。

 

 選ばれなかった者の努力や思いが、報いを受けることはない。

 

 名誉マーレ人になれたのだから、と簡単に片づけられる感情でもないのだ、ポルコの抱くものは。

 

 

「……どうすっかなぁ…」

 

 

 現在彼がいる場所は、軍事基地内にある医療施設。そこでリハビリと療養を行っている。

 

 兵はレベリオでの戦いに続き、パラディ島侵攻作戦で多くが投入されているため、マーレの守備は薄っぺらだ。

 しかしその状況を見てマーレに侵攻する国もいない。

 

 今は全世界の共通の敵が、エレン・イェーガーとして認識されているのだから。

 

「最後くらい家族といるか、それとも…」

 

 ピークは死んでしまっただろうか。ポルコにやたらと絡んでくる女は。

 

 もしかしたらまだ生きており、エレンの侵攻を止めるべくあがいているかもしれない。アニや、ドベ野郎も。

 

 何も行動に起こさず終わるのはどうにも腑に落ちない。

 ただ今の状態の自分が何かの役に立てるとも、思えない。

 

「………」

 

 何をするべきか悩んでいた時、ポルコの脳裏に不意によぎったのは、そばかすの女だった。

 

 軍事関係者の、しかも限られた者のみしか入れない場所に保管されている少女。名は皮肉にも、始祖と同じ名前の「ユミル」。

 

 力を継承することになったあの日、注射器を握りしめた感覚をよく覚えている。周りの空気の冷たさも。

 それに、女が己に投げかけた言葉も。

 

 

 

『ただいま』

 

 

 

 その意味はいったい何であったのか。

 

 元々少女は「楽園送り」にされた人間であるため、故郷マーレに帰ったことに対する言葉だったのかもしれない。

 あるいは、故郷に残してきた者たちへの言葉であったのかも。

 

 しかし、ポルコは不思議とその言葉が自分に向けられたものであると感じていた。

 

 まっすぐに彼を見つめていたユミル。そして、言った。

 

 ポルコとユミルは面識がない。

 うっすらと考えられるのは、女がマルセルの記憶に影響されて、言葉を発した可能性である。

 

 だからこそ彼は、打とうとした注射器の手を止めてしまったのかもしれない。

 

 

「兄貴……」

 

 

 なぜ女は結晶に包まれたのか。『ただいま』の真意が何だったのか。

 

 巡る思考にポルコが唸りはじめた中聞こえた、部屋をノックする音。

 

「ハァ、ハァ……ッ」

 

「よう、ウド」

 

 入ってきたのはウドだった。ちょうどポルコやゾフィアの様子を見にきていた最中だったらしい。

 少年は顔を真っ青にしてエレン・イェーガーの件を話し出す。

 

「ど、どうすればいいですか、ガリアードさん!!」

 

「落ち着け、まず先にゾフィアの様子を見てこい」

 

「は……はい!」

 

 ドアも開けっぱなしのまま、嵐のようにウドは走り去っていった。

 

 ポルコは深く息を吐いて、立てかけておいた松葉杖を取り歩き出す。

 今なら結晶が保管されている地下へ行くことも可能だろう────と、考えて。

 

 

 ちょうどその頃、一人の少女もまた激しく咳き込みながら、目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 四方がレンガで囲まれた部屋の中、壁に取り付けられたランプの光が揺れる。

 

 意識がおぼつかないまま床に倒れていた少女は、上の灯りをぼんやりと眺めた。

 段々と現状を理解するまでに数分。外気に晒され、濡れた体が冷えていく。

 

 

「あー……」

 

 

 少女────ユミルは目を覚ます前に見た、聞き覚えのある声を思い出す。

 

 エレン・イェーガーと、聞き覚えのあるその声の主は名乗った。

 その者がパラディ島以外の人間を皆殺しにすると言う。

 

 ヒストリアが生きられるならよかった、と己のことは二の次に彼女は思った。

 

 継承儀式の前に着せられた白いワンピースのような服は、ビショビショに濡れている。

 両手両足を拘束していた鎖は中途半端に切れたまま残っていて、ユミルが少し動く度にジャラジャラと煩わしい音を立てた。

 

 

 

「………ポルコ、ガリアード」

 

 

 空気に溶けるように呟かれた男の名前。マルセル・ガリアードの、弟。

 

 食われる覚悟は決まり、それでもヒストリアと結婚したいと切に思いながら、瞳を閉じたユミル。

 処刑台をカタチ取った高台の下には、注射器を持った少年がいた。

 

 最期に愛しの少女を脳裏に思い浮かべようとして、しかしユミルが視界に入れたのは、マルセルの弟だった。

 

 袖をまくった腕に注射器を近づけながら、その針の先を見ていた男。

 かすかに震えるその姿を見て、直後二人の視線が交差した。

 

 

 その時ユミルは、不思議な感慨を抱いたのである。

 

 温かいような、泣きたいような、心に注がれる今まで経験したことのない感情。その出所はきっと、マルセルのものだったのだろう。

 

 彼女が抱いたのは、“家族”への想い。

 

 孤児だった少女が今まで得られなかったもの。その感情がマルセルを通して、彼女の中に流れ込んだ。

 そして気づけば「ただいま」と、声を漏らしていた。

 

 果たしてその言葉を言ったのはユミルだったのか、それともマルセルだったのか。

 

 

「余計なことしてくれんじゃねぇかよ、あの弟大好き野郎…」

 

 

 ヒストリアよりも、ベルトルトやライナーの顔を立てることを選び、その果てに起こったのは結晶化。

 

 夢を見ていた気がする。内容は詳しく思い出せない。

 その感覚は長いこと巨人としてパラディ島を彷徨っていた時のものと、似ている気もした。

 しかし不思議と自分が結晶に包まれていた、という認識はある。

 

 床に広がる水溜まりを見る限りでは、ユミルの容姿は変わっていないようだ。

 

 エレンが生きているということはつまり、彼女が眠ってから驚くほど時が経っている──ということでもないだろう。

 

 

 ユミルの中に過ぎった、結晶化直後に聞いた声。それと、その人物の表情。

 

 視界が氷越しに世界を見ているかのようになり、体の自由が一切きかなくなる。そして意識が暗闇へと引っ張られていく。

 結晶の中でもわずかに動く瞼は閉じて、視界も真っ黒く染まった。

 

 その時聞いた声。正確には、言の葉。

 

 

『ごめんな………ごめんな』

 

 

 マルセルは謝っていた。

 

 弟に謝っていて、そして彼女の感覚的に、ユミルにも謝っていた。

 

 それで、彼女は察したのだ。

 一度は弟に自身の力を渡してほしいと願っていた様子で、それが長年「戦士」になれず苦しんでいたポルコへの罪滅ぼしになるのだと、マルセルは考えていた。

 

 しかして継承を間近にして、やはり嫌だと思った。

 

 弟に巨人の力を継承させたくない、と。

 普通の幸せを掴んでほしい、と。

 

 なんとも甘ったれた男だと、彼女は思った。

 さらにその甘い矛先が自分にも向いていることに、無性な腹立たしさを覚えて。

 

 マルセルはきっとユミルにも、偽りの「始祖様(ユミル)」として生きるしかなかった過去や、自由を手に入れた上でそれを自分から返納した姿に、同情したのだろう。

 

 そしてユミルを死なせたくないと、思った。

 

 

 ユミルとマルセルは今も繋がっている。だからこそ相手の感情が伝わった。

 

 その結果、起きた結晶化だったのだ。

 

 きっとまた力を継承できなかった弟は苦しんでいるはずで、ヒストリアも深く傷ついたに違いない。

 

 

「……ヒストリア」

 

 

 会いに行かなければならない。ユミルは、愛しの少女に。

 

 その笑みをまた向けられたいがために、彼女は行動を起こすことを決めた。

 

 しかし場所はマーレ。その上彼女の祖国の知識は、数十年遅れのもの。

 脱出することもまず難しいと悩んでいた折、引き合う磁石のようにユミルはポルコと接触する。

 

 そして互いに警戒しつつ、それでも多少の歩み寄りをみせた。

 

 ユミルが結晶化した件や、「ただいま」の意味。

 また、マルセルがわざと上官への印象操作を行って弟を「戦士」の継承権から外させ、それがきっかけで長年ポルコが苦しむ原因となり、そのことを悔いていた────などを、話し合った。

 

 

「………ふ、ははっ!」

 

 

 兄が印象操作を行っていた内容を聞いた後、ポルコは今までの感情が噴き出したように笑い出し、涙をこぼす。

 ユミルは口を引き結んで、静かにその様子を見つめた。

 

「やっぱり、やっぱり俺が上だったんだ!あのドベよりも、ライナーよりも……!!」

 

「へぇー…あの淫獣って昔ドベだったのか」

 

「いん……何だって?」

 

「あれ、知らないのか?」

 

 

 4年越しに明かされる、ウドガルド城で起こった“どすけべマタギ(ライナー・ブラウン)ムッワァァ事件(?)”

 この事件で二人の女性が被害に遭っている。

 

 

「あぁー………思い出すだけでムカついてきた。あの野郎のイチモツを切り取って、汚ねぇケツにブチ込んでやる…」

 

「………」

 

「何だよ、黙り込んで?」

 

「………」

 

 この女ならやりかねない、そんなスゴ味を感じたポルコ。「どうせ治るんだしよ…」と続いた言葉に、タマがヒュンとした。

 

 

「まぁ話はこれくらいにして、私はパラディ島に行きたいんだけどさ、何かイイ方法ってないか?」

 

「その前にお前は今世界がどんな状況なのかわかってるのか?」

 

「エレンが壁内以外をぶっ壊そうとしてんだろ、聞いたよ。…それ以外はよくわからない」

 

「何で行く必要があるんだ。まさか自分だけでも助かりたいのか?」

 

「ッハ、バカ言え。私は愛しのヒストリアに会いに行くだけだ」

 

「…ソイツと会ってどうするんだよ」

 

「結婚する」

 

「………ン?おい、待て、そのヒストリアって名前からして女じゃ…」

 

「「愛」は自由の時代だよ、ポルコ。…で、簡易的に今の状況を説明して欲しんだけど」

 

 

 それから大まかな世界の状態を知ったユミルは、マーレの兵士がパラディ島に招集され守りが薄くなっている部分に目をつけ、脱走ルートを考える。

 

 ポルコの戦士候補生という地位と、ユミルの《顎の巨人》を継承していることを利用すれば、マガトの隠し戦力として騙せるかもしれない。

 

 無理なら巨人の力を使って脅し、無理やり逃げる。

 

 移動手段には飛行船を使えばよいだろう。そもそも世界が終わるか否かの瀬戸際だ。

 エレンの宣言を聞いたユミルの民が今マーレ国内で騒ぎ始めているだろうし、その混乱もマーレ兵の目を盗む手段となる。

 

 

「お前って操縦できるか、飛行船」

 

「無理だ、さすがに」

 

「じゃあできるヤツを見つけないとな」

 

「……本当に行く気なのか?」

 

「行く。お前の仲間だって、今パラディ島で戦ってるんだろ?だったら十分行く理由になる」

 

「………」

 

「その足じゃ…って話かもしれないが、もしもの時は私を食えよ。脊髄液入りの注射器も、マーレが強襲された時に盗まれたんだろ?だからできるはずだ。私ももう腹は括ってある。ただ…今のヒストリアに会ってからで頼みたい」

 

「兄貴の気持ちを聞いた後で、俺にアギトを継げってか?……ふざけんな」

 

「大まじめだよ、私は。決めるのは私でもマルセルでもダメなんだ。やっぱりさ、物事は流されず、最後は自分で決めるべきなんだって……私は思うぜ」

 

「………」

 

「ほら、他にも戦士候補生がいるんだろ?仲間になるヤツを集めてさっさと行くぞ。ついでに兵士用の服と、この枷も頼む」

 

 軍事基地内ならば、パラディ島作戦に使われているものとは別に、飛行船が残っているはずだ。

 

 問題はポルコやその他の親族だが、レベリオ区へわざわざ向かっている暇はない。

 そも動けば動くほど、兵士に見つかるリスクは高まる。

 

 その危険性やレベリオ区が混乱状態にある事を考えれば、今集められる仲間内で行動する方が、より安全に事を進められる。

 

「まぁどうしてもっていうなら、両親を連れて来るまで待つ」

 

「……その前について行くって、俺は一言も言ってねぇ」

 

「いや、お前は連れて行く、絶対に。死なせるわけにはいかない」

 

「…それはお前の意思じゃないだろ」

 

「そうかもな。でもそれが今の私なんだから、仕方ないだろ」

 

 ユミルはポルコに手を差し出した。

 

 

「私と来い、ポルコ」

 

「………ふざけんじゃねぇよ。人の気持ちも、知らねぇで」

 

 

 ポルコはしかし、女の手を取る。

 ユミルは握られたその感触に目を見開いて、ジッと、その手を見つめた。

 

 

 

「あれ……こんなにお前の手って、大きかったっけ?」

 

 

 マルセルの体験した感覚が、彼女の中によぎる。

 

 時折のぞく兄の面影に、ポルコは目を伏せた。

 死んだはずの兄は、ユミルの中で生きている。そんな風に感じられて。

 

 なぜだかひどく、泣きたい気持ちになった。

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