二章はその名のとおり、主人公のクソデカ感情が爆発していきます。お兄さま♡を当分出せないので仕方ないね。
私、アウラ・イェーガー。
謎の少女とイチャイチャ(意訳)して気づいたら、身体がものすごく揺れていた。いや、胸は揺れてないけど。あと左手がすごく痛いんですけど。
暗さに慣れず這う形で明かりのある方に動けば、夕暮れに染まった世界が目前に広がっている。下には木や岩がまるでゴミのように小さく見え───、
「ん?」
どうやら私今、巨人の手の中にいるみたいなの。
景色を眺めるついでに偶にいる巨人たちを見るが、やはり小さい。時折近いサイズの個体はいるものの。
体感私のいる地点で、地表から10m以上はある。ソイツらはこちらに視線を向けれども近寄ってこず、止まって静観している。
いや、それより、何故私は巨人に持たれているのか。お母さまの体内に帰ったはずだったんだけど。もしかしてこの巨人はお母さまで、私を食べたはいいものの不味くて吐いたんだろうか。いや、それはないか。だってこの巨人、明らかに頭じゃない部分に毛が生えている。今体勢を保てるよう手で掴んでる感覚が、モジャシックワールドだもの。お母さまは美しいストレートだったのよ。
「………」
とりあえず思いきり毛を引っ張ると、巨人の動きが止まった。覚悟の準備はいいですね?あなたを幼女ちゃん誘拐容疑で逮捕します。
────アァァ ア アァ。
そんな言葉のようなものを、巨人は発する。私が引っ張っていたのは胸元の毛だったようだ。状況的にこの巨人は私を掌の上に乗せ、もう片方の手でその周囲を覆い、胸の位置に固定するようにして走っていたらしい。
とがった耳はお母さまが読んだ絵本の「吸血鬼」のようで、髪は肩に付くほど長い。もみあげから続くようにヒゲが顎周りを覆い、それが胸元まで群生していた。
私と同じ髪の色と、こちらを見つめる瞳に、見覚えがある。
優しく、巨人は指で私の頭を撫でた。
「……おとーたん?」
表情の変化はわかりにくいが、巨人が頷く。
私は何がなんだか全くわからない状況に、混乱するしかなかったのである。
◻︎◻︎◻︎
それからお父さまの胸毛をむしったりしながら時間を潰し、夜が深まってきた頃にまた寝た。お父さまはずっと走っているのに、疲れないのだろうかとも思った。しかし娘を抱えている手前、限界を超えても走り続けているだろう。
胸毛むしりの中考えていたのは、お父さまがどうして巨人になったのかについて。基本エルディア人が脊髄液をお注射♡されたら、無知性の巨人になる。しかしお父さまには“知性”があった。
ならば、私がお母さまに体内回帰した後何かが起こり、お父さまは巨人の力を得たと推測できる。私は恐らくドロドロアウラちゃんになる前に、お母さまから取りだされたのだ。元の服の代わりにお父さまのシャツを着ているから、この説はかなり有効。おしゃれに頭に布まで巻いてくれている。
で、次に向かっている場所について。これは私が起きてからわかることになる。
──えぇ、そうです。幼女ちゃんはこの時点で、睡眠欲求に勝てず眠ってしまったのです。
「アウラ、アウラ!!」
「ん………おと、たん?」
「……ッ、……」
絵面的に半裸の男が、全裸の上に大人用のシャツを着た少女を抱きしめている光景。どうか現行犯逮捕しないでください、この人は実の父です。
「よかった、よかっ……」
「おとーたん、あれなぁに?」
お父さまにも色々事情はあるのでしょうが、まずは目前にある巨大な壁について説明してくれ。
して、お父さまは端的に話してくれた。
あの壁は、巨人から人を守るためのものだと。昔、パラディ島へ多くのエルディア人やその他の民族を連れ壁を作った、145代フリッツ王の所業云々───と。
幼女ちゃんの反応は小首を傾げるだけですが、私としては納得がいきました。
お父さまは私と共に、壁の王国へと訪れた。逃げられた理由や巨人化の経緯は不明。ただ目的は考察できる。お父さまはただでここに来たというわけではないでしょう。
“復権派”のメンバーが、マーレの始祖奪還を聞きつけ、ジークお兄さまを“戦士”にさせようとしていたのは覚えています。「眠りのアウラー」は夜のお客──という名の復権派メンバーである──が家に来た時は、頑張って起きるようにしていましたから。その多くは途中で眠ってしまったんですが…。
そもマーレが5〜7歳のエルディア人の子供を中心に兵を募集していたのも、帝国の始祖奪還に先駆けてのものであった。しかし表向きは国の体裁を守るため、『パラディ島に逃げたフリッツ王から宣戦布告を受けたから』と、偽りの理由を語っていたのです。
ならばお父さまがここに来た理由は必然と、始祖をマーレより先に見つけるため、と考えられる。
思考していると不意に頭を撫でられ、お父さまが口を開く。
「その、大丈夫かい…アウラ?」
「なにが、ぱぱ?」
「…だ、ダイナのこと……」
「まま?」
あら、そう言えば私死ぬと思っていたものだから、お父さまたちが見ている中で色々口走ってしまったんだ。
嫌ですわ、過去の私ったら。死ねばいいのに。曹長のヤツの言葉で感極まってしまったからといって、かわいい幼女ちゃん失格な言動を取ってしまった。あの時完全に皆さん「気が狂ったな」扱いでしたものね。──あぁ、それなら気が狂った幼女ちゃんで行きましょう、これから。元々狂ってるので誤差だよ、誤差。
「まま?…?ままどこ……まま!」
キョロキョロと辺りを見渡す私。目の当たりにしたはずの巨人になった母親の記憶を覚えていないかのように、涙を浮かべる。
娘の様子に察してくれたらしいお父さまは、お母さまを探そうと勝手に歩き出す私を抱きしめ、泣き始めた。
お父さま、そんな自分を責めるような顔をなさらないで。興奮する。
「ママは……ここにはいないんだ」
「そーなの?」
「あ、あぁ。私の仕事でアウラは一緒に来た」
「きょじんになるおしごと?………あっ、わかっちゃ!ぱぱ、“せんし”なのね!」
「そんな…ところだ。だから、ダイナとジーク……それにおじいちゃんたちとは、当分会えない」
「まま、じーたん、おばーたにあえないの?」
「……ごめん」
「………おにーた…」
「ごめん…ごめんよ、アウラ、ごめん……」
「おにーた……おにーたにあいたいよぉ…!!」
お兄さまに会いたい。これは本当の気持ちなので、半ば本気で涙が出る。
お兄さまに会えない、それって生きている意味がないもの。生きながら死んでいるようなものだもの。そのまま死ねていたら、この苦しみはなかったのでしょうね。お兄さま、お兄さま、お兄さま────!!!
まぁ、仕方ないですね。生きてしまったのですから、ここはポジティブに行きましょう。クソ幼女ちゃんは手のひらクルーが音速なのです。
ですのでお父さま、私が生きるために必要なものを、もちろん与えてくださいますよね?私を、
人の不幸を、人の悲劇を────。
それがなければ私は「私」の生を実感することができないのです。人の負の感情を食べてこそ、それは私の血となり肉となり栄養となって、
私はクソ野郎だ。四肢を馬につなげて引きずり回されてもしょうがないほど下劣で、どうしようもない。
それでもそんな私を愛してくれるお父さまが、私は好きですよ。少しでもお兄さまの面影を感じさせて。
ギャン泣き幼女ちゃんを抱きしめながら、謝り続ける父。
今にも死んでしまいそうなお父さまの歪む表情は──とても、甘かったです。
◻︎◻︎◻︎
私とお父さまはその後、門前にいたところを「キース」という馬に乗った一人のおじさんに回収されました。連行、が本当は正しい表記ですが。
お父さまは事前にお仕事──“任務”のため、私に壁の
アウラちゃんは約束を守れるいい子(一人で勝手に家を出なかった点を含めて)なので、約束すれば大丈夫、とお父さまからの信頼は厚い。
私の「いつおうちにかえれるの?」に問いについては、「わからない」とお父さま。クソ幼女ちゃんは小さく頷き、暗い表情をしました。ついでお父さまも曇りました(ニチャア)
そしてまず壁内に入ったはいいものの、お父さまはキースおじさんが相談したハンネスというおじさんに事情聴取を受けました。どうやら壁内には『壁の外に出てはいけない』というルールがあるそうです。
それにしても、キースおじさんの私とお父さまを見た時の顔が忘れられません。これでもかというように驚愕の表情を見せて、「何をして……いるんだ?」と言っていましたから。
半裸の男と、シャツ一枚の幼女。ただの事案でした。
同時に壁の外に人がいたことに驚いていたようでしたが。
して、お父さまは
利便性の乏しさのあまり驚いた。だが人間の形は同じ。
お父さまが勾留されている間キースおじさんに連れられ、一足先に壁内文化を見ていた私の感想が以上である。
一応説明しておくと、連れて行かれる際私がお父さまに「ぱぱ!!」と叫んでいるので、二人の関係性は明らかになっている。
記憶のない父らしき男。
対し私は「お母さんはどうしたんだ?」とハンネスおじさんに聞かれ、お母さまの巨人化したトラウマ設定で「ま、まま、まま…?ま」とおかしなことを言い始める。
最終的に、家族が何らかの事件に巻き込まれ、壁の外へ出された(方法は不明)。この際母親は死亡、少女には過度のストレスがかかり気が狂れ、父はそれ以上の精神負荷がかかり記憶を無くした────というように考えられた。
とんだ悲劇の家族のできあがりである。だが実際はそれ以上の悲劇の末私とお父さまがいるので、現実は非情だ。
キースおじさんは、本当に私に優しくしてくれた。彼はハンネスおじさんが私に事情を聞いていた時の様子を見ていたので、余計だったのだろう。クソ幼女は演技だけは一級品なのである。
とりあえず、事件性はあるものの、壁の外に出ていたことが知れると大事になってしまう点と、被害者の二人の傷をこれ以上大きくすべきではない──と判断し、ダブルおじさんはすぐにお父さまを釈放してくれた。絶対に犯人を見つける──と、語っていた二人が頼もしかった。全部私とお父さまの嘘なんですけど。
お父さまはそれから「シガンシナ区」という場所で、キースおじさんたちから壁内のことを教わりながら医者をし、私はよくその手伝いをしながら過ごした。
ちなみにお父さまが覚えているのが、医者の知識や私についてである。
空想の悲劇に巻き込まれながら慎ましく暮らす親子に、キースおじさんはともかく、酒臭いハンネスおじさんはよく泣いていた。
一度はジークお兄さまに捧げた命だったけれど、私はまだ生きている。
今この時、お兄さまが同じ世界で生きているのだと考えれば、私はそれだけで一歩、進めるでしょう。その一歩でいくつの悲劇が生まれようとかまいません。
お兄さまにはもうきっと、会えないかもしれない。しかしお兄さまがいずれ「戦士」となり、始祖奪還に向けてこの壁の世界へと訪れた時には、私は笑顔でお兄さまを迎えたいと思います。妹が生きていたのを知ったらお兄さまは泣いてくださるでしょうか。それとも壁の中の人間の一人として、情けをかけず殺すでしょうか。まぁどれでもいい。どの選択でも、お兄さまの選択なら私は受け入れます。
でもきっとお会いできたその時は、私は言うでしょう。溜まりに溜まった私の感情を、ぶつけるでしょう。
愛しております、ジークお兄さま──────と。
その時どんな表情を、お兄さまは浮かべるでしょうか。
会えない可能性が高いと思いながらもそれでも、
お兄さま、お兄さま、会いに来て。ジーク……お兄さま。
私、死にたい。
【備考】
・グリシャの巨人化について
クルーガーから力を継承した後壁まで来たと思われるので、初期エレンよりしっかり力を使いこなせていると推測。ライナー発言の「レトルトさんは最初から力を使いこなせた」など、力の扱い慣れには個人差もあるようなので。
・静止する巨人たち
謎の少女ちゃんが交通整理していた模様。『こ、今回だけ特別なんだからねっ!』