ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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あと5話で最終回になります…。最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
イェーガー派へのRTAが敢行されてる回です。


んんんん(∞)

「地ならし」が始まってから一夜明けても、大型巨人の進行は続いていた。

 

 夜になってからはマーレ側が歩哨を立て一時戦闘を中止したことで、イェーガー派も戦闘の疲れを回復させるため、同様に歩哨を立て休息に入った。この間敵前逃亡を「否」とする流れも、イェーガー派の中にはあった。

 

 

 そしてイェーガー派に気づかれないよう動いた、マーレ側とアルミンたち。

 

 数名で密かに合流した彼らは作戦を組み、翌日の陽が上がって間もない頃、イェーガー派を取り押さえることに成功したのである。

 

 義勇兵については、一部以外は念のため拘束された。

 ジークの真の計画を知っていたイェレナについては、言わずもがな。

 

 また、彼女についてはエレンが向かう行き先を知っている可能性があるため、情報を吐かされている。これについてはイェーガー派も同じである。

 

 この際イェレナの尋問──否、拷問を行ったのは、マガトだった。

 

 

 

 そんな中、懸念視されたのは、エレンやイェーガー派を推す住民たちの声。

 

 しかし壁内でも壁の崩壊に巻き込まれ、少なくない被害が出ていると予想でき、エレンに不信を募らせている者も現れていると推測できる。

 

 どの道エレンを止めれば、世界の悪意がパラディ島に向く。さすれば混乱も当然起きる。

 要は、遅いか早いかの話だ。それでも彼らはエレン・イェーガーを止めようと動く。

 

 島の人間の命の代わりに、その外にいる種や生命が淘汰されることを、「否」として。

 

 

 ひとまず巨人の行進が止まるまでは、動くことができない。

 超大型を持つアルミンなら別かもしれないが、彼が巨人化すればシガンシナ区にいる人間を危険に晒す。

 

 そのあと動く場合、アルミンたちはアズマビト家の力を貸りる必要がある。

 

 彼らについては、エレンがユミルの民に告げた「壁内以外が地ならしによって踏みならされる」事実を告げれば、十分力を得られるだろう。

 

 ただし、硬質化が解かれたことによってライナーのヨロイ(ガビ談)も剥がれたり、バラバラに進むのではなく列を成して巨人が進んでいる点から、エレンの意思が反映されている可能性がある。

 

 そのため、パラディ島の味方であるヒィズルが地ならしの標的にそもそも入っていない可能性も考えられた。

 

 

 

 

 

 

 

「…ミカサ?」

 

 各々が一時の休息を取っている中、ノックの音とともに、アルミンの声が響く。

 返事がないため彼が部屋の中に入れば、部屋の隅でうずくまっているミカサの姿が目に入った。ミカサは赤いマフラーに顔を埋めている。

 

「パン……持ってきたんだ。何か食べないと、体が保たないよ」

 

「………」

 

「…マフラー、付けたんだね」

 

 その言葉に、ミカサが少し顔を上げる。

 彼女の隣に座ったアルミンは、半分パンをちぎり、ミカサの手に握らせた。

 

「マフラー…ルイーゼが付けてた」

 

「ルイーゼが?」

 

 ルイーゼとは、四年前トロスト区の壁が壊された時、ミカサが助けた少女の名前である。

 

 彼女に憧れ調査兵団に入った少女はしかし、イェーガー派の一員となる。

 どのような心境の変遷があり一派に加わったのか、ミカサにはわからない。そこまで興味がないと言ってしまえば薄情になってしまうが。

 

 でも、事実なのだ。

 

 彼女の中の世界は両親が死んでからエレンでできていて、その中にいつの間にかアルミンやイェーガー夫妻、104期生など、エレンを押しやって彼女の中に入ってきた。

 

 それが心地いいと思うミカサは、精神的に大きく成長している。

 

 

 それでもエレン・イェーガーに依存しているのは、変わっていない。

 

 エレンがどのような感情を抱いているのか、彼女はわからずにいる。

 少なくともミカサは彼のことが好きだ。家族として、異性として。

 

 エレンも自分のことを好いていてくれれば、嬉しいと思う。

 

 向こうがキスをしようと顔を近づけてきた経験があるにも関わらず、自信を持って「エレンは私のことが好き」と言えないのは、ひとえにミカサの精神性のせいである。ちゅーと、好きの回路が繋がっていない。これを繋げるにはお互い言葉として、「愛」を表現する必要がある。

 

 

 少し話は逸れたが、件のルイーゼは、今回の戦いで雷槍の破片が腹に当たり、もう長くは生きられない状態となった。

 

 ルイーゼがマフラーを持っていた経緯については、マーレの襲撃が起こる前に、エレンが彼女にマフラーを捨てるよう頼んだ。

 そしてその持ち主が恩人のミカサのものであったこともあり、捨てられずに身につけていた結果、マフラーがミカサの元に戻ってきたのである。

 

 ちばみにミカサがマフラーを持っていなかったのは、イェーガー派に捕らえられた後に、武器と共に取られたからだった。

 

 

「…エレンはこのマフラーを、捨てようとしていた」

 

 

 その内容が、ミカサとアルミンに突き放すようなマネをした、エレンの姿と重なる。

 

 アルミンの言うとおり、エレンがジークに従うフリをしていたのは確かだ。

 その理由は仲間を、ひいてはパラディ島を守るためである。

 

 その気持ちは嬉しい。けれどその過程で多くの人間が死ぬことは、あってはならない。

 

「私たちを拒絶しなくても、よかったはず。でもエレンは言った。私のことが「大きらい」だ……って………」

 

「……ミカサ」

 

「私は、私はエレンのことが好き……でも、でもっ……」

 

 ミカサはまた顔を埋め、肩を小さく震わす。

 

 

「…エレンはきっと、僕たちをわざと遠ざけたんだよ」

 

「………」

 

「言っておくけど、ミカサ。僕だけじゃなくて104期生のみんなも、二人が互いを想い合ってるって気づいてるからね。もちろんこれは“ライク”じゃなくて、“ラブ”の方だよ」

 

「……え?」

 

「マーレの難民キャンプの場所で、二人がキスしそうになってたのも知ってるからね」

 

「えっ……!?」

 

「二人が居なくなったから探して、そしたらスリをした子どもについて行く姿を発見してね。その後をみんなでコッソリ追ったら……ね?」

 

「……ッ、〜〜!!」

 

「そういうわけだよ。ミカサが違うと思っていても、側から見た10人中10人、キミらを恋人同士って思うよ」

 

 イイ雰囲気になった二人を目の当たりににし、一人のイケメンが血涙を流しながら沈んだ地平線に駆けていきそうになったが、それはまた別の話である。

 

 アルミンはトドメに、テントで二人が手をつないでいた件を話そうと思った。

 ただミカサは顔を真っ赤にして呆けてしまっている。これ以上追い詰めれば、倒れてしまうかもしれない。

 

 しかし彼は話した。ゲス顔で。

 

 

「……………」

 

 

 ハニワのようになったミカサは、ズシャリと横に倒れる。

 アルミンが「多分テントのやつに気づいたのは僕だけだよ」と言うが、今のミカサには何の慰みにもならない。

 

「…ねぇ、ミカサ。ここまできて、エレンが本当にキミのことを嫌いだと思うかい?」

 

「……ううん」

 

「その言葉が聞けてよかったよ」

 

 アルミンはミカサを引っ張り起こし、二人並んでもそもそとパンをかじる。

 ここにいるべきはずのもう一人は、いない。その無視できない居心地の悪さを、二人は感じている。

 

 

「…アルミン、エレンはどうして、私たちを遠ざけるようなマネをしたんだろう」

 

「……これは、僕の憶測でしかないよ」

 

 大切に思うからこそ、突き放したのではないのか、と。

 エレンの言葉の一部にその真意が出ていたと、彼は言う。

 

「アッカーマン家の性質について、エレンは語っていたでしょ?一人の主君に云々……って」

 

「…うん」

 

「その性質の真偽についてはさておいて、ミカサは実際エレンに依存している。それを見越しての発言だったんじゃないかな」

 

 エレンもアルミンも、寿命が限られている。特にエレンはあと四年の命である。

 

 それだけでなく「地ならし」を行った後、エレンは止めようとする勢力は現れる。

 それにミカサを巻き込みたくなかったのかもしれない。

 仮に地ならしを終えても、壁内に反イェーガー派を掲げる人間も現れるはずである。

 

 

「もしくは……止めて欲しいのかもね」

 

「止めて…ほしい?」

 

「わからないけど、エレンは少なくとも「もうこの方法しかない」と思って、その上で地ならしを行ったんだ。僕がもし同じ状況に追い込まれて、そして命を冒涜する行為を行わざるを得なくなったなら、救いを求める」

 

「……それが、私たちってこと?」

 

「わからない。わからないんだ………でも、僕はそう信じたい。エレンが心のどこかで、僕らに止めて欲しいと、願ってるって」

 

 残ったパンを口に詰め込んだアルミンは、持っていた水筒の水を胃に流し込んで立ち上がると、背筋を伸ばし、右手を心臓に当てる。そして、ミカサに向き直った。

 

 

「4年前にトロスト区襲撃が起こった時、エレンは僕をかばって巨人に食われた。そのあと腑抜けになった僕をミカサ、キミが立たせてくれた。戦意を失ったみんなに刃を掲げて、己の力を示した。ミカサは強い。それは、間違いない」

 

「………」

 

「でもキミは人間だ。僕も人間だ。そしてエレンだって……人間だ」

 

 強さばかりじゃない。弱さも持ち合わせるこそ人間なのだ。

 

 だからこそアルミンは戦う。仲間のために、壁外の人間のために、そしてエレンのために。

 

 

「僕たちといっしょにエレンを止めてくれ、ミカサ。あのバカを止めるには、絶対にキミが必要だ」

 

 

 差し伸ばされた、アルミンの手。

 

 それを見つめていたミカサはパンを口に詰め込み、アルミンから水筒を引ったくる。咽せるのも構わず胃に水を流し込みと、アルミンの手を握った。

 

 その漆黒の瞳はまっすぐな意志を伴い、彼女に剣を握らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 シガンシナ区側ではエレン阻止に向け、メンバーが決まっていった。

 

 メンバーはまず、巨人化能力者は参加必須である。

 

 その他については、一歩間違えればエレンを阻止しようと動く彼らがパラディ島にとっての「反逆者」となり得るため、メンバーの人選も言い方としては変だが、()()()()()()()()()()()()()()────に、限られた。

 

 

 そして、一夜経ってぐっすり寝ていたナイスガイも話し合いに加わり、本当にどうしようもない男にジャンの「んんんん」が決まった。マルコの死の真相をジャンが知ったためである。

 

 マルコを殺した巨人を、怒りに任せて殺した兵士ライナー。

 

 対し、マルコを巨人に食い殺させたのが戦士ライナー。

 

 

 一回聞いただけでは意味がわからないが、これが事実なのだから本当にどうしようもない。

 

 過呼吸ぎみに「俺を許さないでくれ…」と語った彼の望みは叶っただろう。

 どんな形であれ、ジャンがマルコのことについて、戦士たちを許すことはないのだから。

 

 それとはまた別で、共同戦線を行うメンバーとして歩み寄りを見せたものの。

 

 

 

 して、巨人化能力者の他に、104期生の面々も参加。

 

 戦士候補生については、生き残ったマーレ兵同様、ピクシスにより安全を保障された上でパラディ島に留まることになった。

 

 マーレ人にとっては複雑な心境だが、彼らが「悪魔の民」と称するこの場所が、皮肉にも今世界で一番安全な場所なのだ。マガトの判断に否定する者はいなかった。

 

 またマガトも参加し、オニャンコポンも自らの意志で参加を選んだ。

 

 対しハンジと兵長についてはフロックの証言で、生存が望み薄とされている。特に雷槍を受けたリヴァイに関しては。

 エレンの目的地については結局、イェレナもフロックも吐かなかった。

 

 さらにアニが混乱のどさくさに紛れて行方をくらませたため、マガトらは彼女への不審も強めていた。

 

 

 

 そしてようやく、巨人の足音が止んだ頃。

 

 被害の状況確認やガレキの撤去作業に向けて、シガンシナ区に集められていた憲兵や駐屯兵団が、目まぐるしく働く中。

 

 ハンジたちが、アルミンたちに合流する。

 ちょうど彼らがキヨミがいる港へ向かうべく、列車の準備をしていた時だった。

 

 

 イェーガー派がすでに全員取り押さえられていた事実を知り、驚いたハンジたち。さらにその中にしれっと混ざっているアニ&アウラ。

 

 ちなみにフロックから、アウラ・イェーガーにジークの脊髄液を飲ませた件や、ジークの“叫び”に反応して(?)彼女が巨人化したのち、腹から兄を生み出してうなじから出てきたこと。

 また、シガンシナ区に現れたガイコツの巨人=アウラであることは、語られている。

 

 

 ということは、エレンが姉を食い殺したことに他ならない。

 

 この情報についてはアルミンやピクシスに、フロックを尋問した兵士など、ごく一部の者しか知らなかった。

 

 事前に事情を知っていたアルミンとしては、本当にわけがわからない。

 しかしそれ以上にアニを前にして、彼は心臓を抑えるハメになった。

 

 

 互いに情報交換が必要となり、一同がアウラが語る内容に衝撃を受ける中。

 

 アニを見つめ、もじもじとするアルミンにアニが煩わしそうにしつつ、話が進む。

 

 そして参加する巨人化能力者の中にアルミンが入っていたことで、アニは消去法で彼が超大型を継承していることに気づいてしまった。

 

 

 

 本日二回目の、「んんんん」が起こった。

 

 

 ライナーの時以上の暴力がアルミンを襲う。

 血で溺れかけ、息ができず、理性を失ったアニを止めようとジャンやコニーが動いて、吹っ飛ばされる始末。

 

 最終的にミカサが動き止めることができたが、一歩間違えればアルミンは死んでいた。いや、むしろ死ななかったのが奇跡というほどである。

 

 激昂するアニ・レオンハートをしかし、誰も咎めることはできなかった。

 

 誰もきっと、見たことがなかった。それこそ付き合いの長いライナーやピーク、マガトでさえ。

 

 

 そこにあったのは、ミカサに羽交締めにされ、涙を流すひとりの女の姿。

 

 

 アルミンは「…ごめん」とつぶやいた。

 

 その姿さえアニには、ベルトルトと重なって見えた。

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