ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

113 / 116
半身✖︎半神、略してハンターハンター。どがじぜんぜぇぇ…(禁断症状)


半シンの母体

 夜も更けてきた中、港で話し合われたのはエレン・イェーガーがマーレに上陸した際、最初に狙う場所についてである。

 

 イェレナもエレンの腹心と思われるフロックも、ついぞ情報を吐くことはなかった。

 爪を剥がされようが腕を折られようが、決して話さない。

 

 リヴァイ論で言う、拷問を受けて爪一枚剥がされても情報を吐かないヤツは、二枚三枚剥いでも同じ、といったところだろう。

 

 

 予想として、まず最初にねらわれると考えられるのは、マーレの北部にある「カリフア軍港」。

 

 そこにはマーレ組の情報によると、世界連合艦隊が集まる場所であるという。

 地図から見てその軍港がある場所は、巨人が進んでいる方角と一致している。

 

 また他に攻撃目標となる場所がないか、ないならそのままマーレ国が踏み鳴らされ、陸続きの中東に被害が出るのか──など議論される。

 

 

「ちょっと待ってください」

 

 と、手を出し、話を一旦止めたのはピーク。

 

 

 彼女が目に付けたのは、マーレ大陸の南にある砦、「スラトア要塞」。

 この場所は飛行艇の研究基地が存在する。

 

 エレン・イェーガーはパラディ島以外の人間を全員駆逐しようとしている。

 そうなった場合、彼が手出しできない物がある。それが空に逃げた人間だ。

 

 世界連合軍を倒しても、そのスラトア要塞に兵を集め、空から攻撃をしかけてくる可能性もある。

 

 以上を踏まえ、スラトア要塞がカリフア軍港に次ぐ、第二の攻撃目標となり得るかもしれないとピークは結論づけた。

 

 

「エレン・イェーガーの進行経路としては、ここから北西に向かって第一攻撃目標へ。その次に大陸と海をまたいでやや南西よりの南に進み、第二攻撃目標に到達すると考えられます」

 

 

 時間を考慮した場合カリフア軍港には間に合わないと考えられるため、彼らが向かうのはスラトア要塞。

 そこにエレンが到達するまでには、先回りすることができる。

 

 

「アウラ・イェーガー」

 

「何でしょうか」

 

 卓に置かれた地図を囲んでいる人々。

 ランプの光が部屋をゆらゆらと照らす中で、ピークはアウラに問いかける。

 

「この際余計な疑惑は捨て去った上で、あなたをエレン・イェーガーに接触させるとしましょう。して、具体的にその“接触”とは、物理的にあの巨大な巨人に触れたことを「接触」と言っていいんですか?」

 

「えぇ、触れれば何かしらアクションは起きると思います」

 

「確信を持って言えるのは、なぜですか?」

 

 その疑問を他の人間も抱いていたようで、無数の目がアウラに向く。

 視線の中心の女はジッと、地図を見つめた。

 

 

「信じてもらえないと思いますけど、よろしいですか?」

 

 

 そう言いアウラは、みながなぜアウラ・イェーガーが始祖ユミルの「寵愛」を受けているのか、疑問に思っているだろうと前振りする。

 

 実際に、王家の人間であるから、では済まない度を越したその「寵愛」に、コニーとサシャ(ツーバカ)を除いた者が首を傾げている。

 

 その疑問を含めてアウラは、答えるという。

 

 

 

「“前世”──────と、言えばいいのでしょうか」

 

 

 

 その記憶自体は最初から思い出していたものではないとして、彼女は語る。

 

 

 ユミルと『×××××』。

 

 双子だった二人は当時…と言っても恐ろしく古い時代だが、民族浄化を行うエルディア人によって両親が殺され、奴隷にされた。

 

 そして自由を求めていたユミルと共に『×××××』も逃げたものの、追ってきた人間によりアウラの方が先に死んでしまった。

 

 ここまでが、『×××××』の記憶。

 

 

 その中に内包されている『×××××』の欠陥した異常性や、ユミルが『×××××』を嫌っていた真実は伏せられた。

 

 前世であるからと、完全には覚えていないという体でアウラは端的に話した。

 

 かいつまんで語ったそれは事実だが、例えるなら物の表面を説明しただけで、肝心の中身については触れていない。

 

 アウラやユミルがお互いをどう思っていたか話されていない彼らは、「()()()()()()()()」「()()()()()()()()()」と、まるで物語の文章の問題で、該当する人物の行動や様子からその人間の気持ちを読み取れ────と言わんばかりのアウラの語りに、「二人はお互いにとって唯一無二の存在であった」というような印象を植え付けられたのである。

 

 それそもユミルとアウラの関係性を知るのは、その二人だけである。

 

 ユミル・フリッツの過去について、歴史に残っているわけでもない。

 伝えられた彼らがそれを“真実”として認識してしまえば、それが正しいということになる。

 

 

 この場でアウラの話に誰よりも先に、「誘導された真実」に納得したのがアニだった。

 

 彼女はこの中で唯一ユミルと“座標”で会った人物であり、少女の容姿がアウラとそっくりであることを知っている。

 

「あっ」と声を漏らした彼女にみなの視線が向き、しまった、と言わんばかりにアニは口を押さえた。

 

 そもそも彼女はユミルを見たことがあることを、誰にも話していなかった。

(それを言ったら、レベリオ区でユミルを見たことも黙っていたのだが)

 

 

 そしてアニの証言を受け、アウラの話は信憑性の高いものとして確立し、信じられることになる。

 

 なにせ双子は容姿が似る。一卵性ならば尚更。

 

 自由になりたかったユミルの望みは今、エレンに託されているのだろう。

 そして少女を「愛」の呪縛から解き放つ存在こそ、“ヒロイン”のミカサであるのだ。

 

 しかしなぜアウラが再び転生したかについては、疑問が残る。

 

 そもそも『×××××』が生まれ変わったとして、かつての容姿とそっくりな赤子として生まれたのは、あまりにも出来すぎた話ではないだろうか、と。

 

 それについてはアウラ本人も、「わからない」と答えた。

 

 

 

 

 

「とりあえず接触させるなら、上から落とすのがベストと思うんですけど、どうでしょう」

 

 ピークは用意した白紙の紙に巨人や飛行船の図を描いて、矢印を書き足す。

 わかりやすく、かつ中々上手い絵を見たハンジは、無言でアウラを見た。

 

「何ですか、その目は」

 

「いやぁ………何でもないよ」

 

 落とす場合──いや、落ちる場合は飛行船の高度を落とし、立体機動を駆使すればエレンの元へ到着することも可能である。

 

 目標の始祖は規格外の大きさのため、その上に乗ること自体は造作ない。

 鎧や女型と比べても、明確な差があるだろう。

 

 

「わかっちゃいると思うが、テメェが無理なら俺がジークを殺す」

 

 

 皆の一歩後ろで、椅子に座りながら話を聞いていたリヴァイ。

 

 三白眼の瞳と、白銅色の瞳が交差する。アウラの方は瞳孔が完全に開ききっているが、一瞬顔を兵長に向けたのみで、すぐに視線を地図に戻した。

 

 この二人、行動を共にしてからこれまで一度も会話を交わしていなかった。

 

 アウラ・イェーガーがユミルを説得できないなら、ジークを殺してエレンを止めることも念頭に置かれている。

 それを誰より()る♂気でいるのが、リヴァイ・アッカーマンである。

 

 重体であったにも関わらずこの男、驚異的な回復力をみせ、他人の手を借りてではあるが歩けるようにまでなった。

 

 右手の人差し指と薬指を失ってもなお、ブレードを震わせながら握るほど残っている、ジーク(エモノ)への執着心。

 

 リヴァイを残す話も出たが、頑として彼は拒んだ。

 

 エルヴィン・スミスに託された()()を見届けるまでは、戦い続けなければならない。

 たとえそれで四肢をすべて失ったとしても、である。

 

 

「私が絶対にユミルを説得するので、兵士長の出番はないでしょう」

 

「お前の言葉は甚だ信じられねェがな」

 

「だまれこの、チッ、もごっ」

 

「はいはい、イイ子にしましょーね、アウラちゃん」

 

 もごご、と不満たらたらな唸り声が上がる。

 アウラの口を押さえたハンジは、気にせず話を続けるよう言った。

 

 

 

 それから燃料についてはスラトア要塞まで保たないと判断され、キヨミの発案によってアズマビトが所有する格納庫へ一度寄ることに決まった。

 

 場所はここから南にある、マーレ海岸都市オディハ。そこで燃料を補給して、スラトア要塞に向かう。

 

 時間的にオディハに向かうまでにエレンの侵攻が迫るかもしれないが、致し方ない。

 

 そしてアウラ・イェーガーの説得が失敗した場合は、ジークを探し出して殺害。

 もしくは頭部部分にいるであろうエレンを、アルミンの《超大型巨人》を使い吹き飛ばす。そのような方法が考えられた。

 

 しかしアルミンとしては、大型巨人の力を使うのは最終手段で、その前にエレンとの対話を望みたかった。

 

 だがアウラもアルミンも、実際に対話ができるかわからない。

 

 それでもアルミンは、胸中にある一つの考えを信じて突き進む。

 

 

「エレンが止めて欲しいと願う気持ちがあるのかどうか、何で勝手に一人で行動を起こしてしまったのか、聞かなくちゃいけないことがたくさんある。ミカサやジャンたちも、そうだろう?」

 

 104期生のメンバーは、静かに首を縦に振る。

 

 

 また、エレンが内心止めてほしい────と願っているかもしれない裏付けとして、始祖を掌握したエレンが、他の巨人化能力者の力を奪っていない例が挙げられた。

 

 始祖は文字通り、何でも可能とする。それこそ九つの巨人の継承者が巨人化できないよう、手を回すこともできるはずなのだ。

 

 しかしエレンが巨人化した後起こったのは、ライナーのヨロイが剥がれたことのみ。

 

 現状の行き過ぎた被害を踏まえれば、元々の計画にあった50年はおろか、さらに長期間パラディ島へ害をなそうとする人間は現れなくなるだろう。

 

 

 まだ、()()()()()()()()()、きっと。

 

 そして止めることができると、信じて。

 

 相入れないはずのメンバーは、手を取り合う。

 

 

 

「………」

 

 

 そんな彼らの光景を見ていたアウラ。

 

 ふと脳裏に過ぎったのは、血に塗れたユミルと、初代フリッツ王の姿。

 

 その映像が次第に歪んで、血に塗れているのは『×××××』、それを見ているのがユミルに変わる。

 

 理解し合えない者と、理解し合える者の違いが何なのか、彼女にはわからない。

 

 ゆえに、不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 陽が地平線にのぞき始めた頃、アルミンたちはパラディ島を出た。

 

 大騒ぎの末、大陸から東に進む経路を経て、一つの飛行船がパラディ島西部に到着していたことを知らずに。

 ウォール・マリアから大きく外れる形で、到着したその一行である。

 

 

 アルミンたちはその後、まだ地ならしの脅威が届いていなかったオディハで無事、燃料を補給。

 そしてすぐにそこを発ち、スラトア要塞へ向かった。

 

 すでに巨人の進行は届いており、この時点でレベリオ区が巨人に踏み均された後であるとわかった。

 彼らがオディハを出発し空から見た景色で、北側に大型巨人の姿が見えたのだから。

 

 戦士たちはその光景を見て、すぐに前を向いた。泣き言をいう軟弱者はいない。

 そんな部下たちの姿を、マガトは静かに見つめていたのである。

 

 

 それから進んだ飛行船は、右手に見える地平線の奥で()()姿()をとらえた。

 

 巨人の進みは場所によってまちまちであったが、南西に進むごとに巨人との距離は近づいていき、やがて眼下一面に巨人を一望できるまでになった。

 

 そんな中、現れた小さな物体。

 

 下が巨人の赤い色で覆われている中で、白いその姿はよく映える。

 

 ムカデやゲジなどの、多足類の虫の体を骨にしてできあがったような、異様な見た目。

 悍ましい姿の巨人こそ、エレン・イェーガーその人である。

 

 立体機動装置を身につけたアウラは、その異形の姿を静かに見つめた。

 

 

「四年のブランクがあるけど…大丈夫だろうね、アウラ?」

 

「えぇ、ご心配なく、ハンジ。イけますよ」

 

 エレンも船の存在に気づいたようで、首を動かす。

 直後、始祖の巨人の背骨から突き出たトゲのような部分の先が発光する。そしてそのトゲから生まれる、巨人。

 

 

「ふふっ」

 

 その姿を目にしたアウラは、笑った。

 

 その笑みを間近で見ていたハンジは、ヒュッと、息を漏らす。

 あまりにもその時の、アウラ・イェーガーの表情は、柔らかかった。

 

 

 まるで、そう────まるで。

 

 寝棺に入れられた、死体のように。

 

 

 

「待てッ、攻撃される可能性が────!!」

 

 

 

 ハンジの制止を無視し、アウラは構わず、開けていたハッチから飛び降りる。

 

 地上は踏みつぶされた人間の血と、巨人の赤い色で覆われている。

 

 空はしかし、青空だ。

 

 青と赤の境界線は、うっすらと白んで存在している。

 彼女を祝福するように、存在している。

 

 

 

 

 

 

「イイ天気だよ、ユミル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちて行く人間めがけて振るわれた、エレンが作り出した《獣》の巨人の投石攻撃。

 飛行船と距離があったため、中にいた人間たちはその攻撃を免れた。

 

 地上の紅いシミに混じるようにして、大型巨人の中へと石にぶち当たったアウラの姿が消えてゆく。

 

 

 

 その直後、彼女が落ちた場所から、()()()()()が現れた。

 

 

 まるで飽和するようにその白い物体は大きさを増していき、やがて大型巨人を優に超える大きさとなり、一見すれば現状のエレンと遜色ない大きさへと変わる。

 

 飛行船に乗っていた者たちはその白い物体を見て、息を呑んだ。

 

 

 白い物体には、人間のような頭と胴体が存在する。

 足は股間節部分から下がなく、地面に癒着している。

 

 異様なのはその胴体。本来ある二本の腕のほかにその下、縦一列に無数の腕が生えていることである。

 

 下の二本の腕はバランスが心もとない体を地面に固定するように押さえていて、その他はゆらゆらと蠢いている。また異形には柔らかい曲線と胸があり、女性の姿をしていた。

 

 前のめりの姿勢で下を向いている頭から生えた白い髪は長く、地面に付いている。

 

 しかし、その異形の目は見えるのだ。

 

 まるでカタツムリのように、顔のこめかみから飛び出た巨大なそれは、ギョロギョロと蠢いている。

 

 

 その異形はエレンの巨人体に目を留めると、地を無数の手で這いながら動き出す。

 

 同時にその白い質量は増え続ける。異形の下からは小さな人らしきものが次々と生まれ、周囲の巨人にまとわりついて行った。

 

 その増加のスピードは目に見えてわかるほどで、どんどんと巨人を──────()()()()()()

 

 その小さな一つ一つ、……否、()()()()が同じ形をし、あまつさえ見覚えのある人間だと望遠鏡越しに気づいたハンジは、言葉を失う。

 

 

「アウ、ラ………なのか…?」

 

 

 それは決して、人間と呼べる代物ではない。

 

 それだけは全員、理解できた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。