ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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かわいいおにゃのこ(?)が膨れたお腹をさすってる感動的な映画があってですね、『スケアリーストーリーズ』っていうんですけど。


少年少女のラプソディー

 巨人を次々と呑み込んでいく白い群衆。

 それは、接触した肉体の部分から巨人を取り込んでいく。

 

 白い異形は始祖に食らいつこうとするが、それに抵抗するエレンが無数の巨人を生成し、攻撃をしかける。

 しかしその攻撃をもろともせず、ついに白いバケモノは始祖にたどり着いた。

 

 

『■■■ ■■ ■■■■ ■■』

 

 

 大気を震わせ、大地を轟かし、白いバケモノの狂ったような笑い声が響く。

 

 音は飛行船に乗っていた者たちにも届き、耳から入った声が脳を溶かすように彼らの頭の中で反響した。数人が堪えきれず口を押さえる。

 

 白いバケモノは始祖の背骨をつかみ、口を近づける。

 長い白髪からのぞいた口内には、放射状に無数の鋭い歯が生えている。さらにその奥には、白とは対照的な暗闇が鎮座していた。

 

 

『──────!!』

 

 

 抵抗する始祖の声が響く。

 

 その瞬間、ミカサが外へ飛び出そうとした。とっさにアルミンは彼女の腕を掴む。

 

「ミカサ、ダメだ!」

 

「でも、エレンがッ!!」

 

「今行ったら巻き込まれる!!」

 

 しかし彼一人で、アッカーマン家の筋力に勝てるはずもなく。

 逆にミカサが腕を振り解いた衝撃で後ろに吹っ飛んだアルミンは、ぶつかった頭を押さえた。

 正気に戻った他の面々も二人に気づき、止めようと動く。

 

 

「……ごめん」

 

 

 ミカサは手を伸ばしたアルミンに背を向け、ハッチから飛び降りた。

 

 そしてアンカーを射出し、大型巨人を伝って、始祖を食らおうとする白いバケモノの口に雷槍をぶち込んだ。

 

「えっ」

 

 だが口の中に入ったはずのそれは、爆発した様子がない。

 いくら大きさがあったとしても、わずかでも異形にダメージを負わせられるはずだ。体内に入ったのなら、殊更。

 

 

「あ」

 

 

 宙を移動する中で、異形の手の一つがミカサの頭上に現れる。

 避けようにもそのサイズから、ガスを著しく消費させたところで間に合わない。

 

 次の瞬間訪れる、激しい衝撃を覚悟したミカサ。

 

 しかし、衝撃は起こらなかった。目を開いた彼女の目前に映ったのは、視界全てを覆う白。直後、意識が奪われる。

 

 そのまま吸い込まれるように、異形の中へミカサの姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 お────サ。

 

 

 風の音が聞こえる。

 

 髪が顔にかかる感触を感じながら、ミカサはマフラーに顔を埋めた。

 草木の匂いがなぜかひどく懐かしく感じられて、小さく鼻を啜る。

 

 

「おい、ミカサ」

 

「…え?」

 

 

 背を丸めるようにして座っていた彼女が顔を上げた時、正面に人がいた。

 

 周りにはかつてよく薪拾いに行ったシガンシナ区の景色が広がっているのだが、それすら驚きの人物を前にして、意識に入らない。

 

 その人物はいわゆるヤンキー座りで、ミカサの顔を覗き込んでいる。

 途端に彼女の顔がボボボ、と赤くなった。

 

 

「え、ええ、エレン…!?」

 

 

 エレン・イェーガー。今現在、「地ならし」を行っている人間──とまで考えたところで、ミカサは目を見開いた。

 

 そう言えば、自分はこの青年を止めようと動いていたのだと、思い出して。

 そして無意識に体が動き、仲間の制止を無視した挙句、白い異形におそらく食われて(?)しまったのだ。

 

 そこまで考えた時ミカサは、ツバを飲み込んだ。

 

 ここにエレンがいるということはつまり、彼も白いバケモノに食われてしまったのではないのか、と。

 

 

「エレン、は…」

 

「……食われたよ、お前と同じで」

 

「……っ!」

 

「そんな泣きそうな顔すんなよ、めんどくせぇな…」

 

 徐に、エレンはミカサの右隣に座った。

 青年は耳をかいて、左手を所在なくウロウロとさせ、そっと、ミカサの左肩に置く。

 

 そのまま抱き寄せられた少女は、いよいよ心臓が誤作動を起こし、バクバクと言い出し始めた。

 

 しかし、ここはもう流れに身を任せるしかない。腹を決め、瞳を強く瞑ったミカサはエレンの肩に頭を乗せた。

 

「……え?」

 

 そして、彼女の耳に、早鐘を打つ自分のものではない音が耳に入った。

 

 

「エ、エレン……?」

 

「………」

 

「………」

 

 

 まるで中学生のような、「ド」が10個ほどつくほどのピュアさを発揮させる両者。エレミカチャートを爆走する某実況者の金髪蒼目ネキ(ユミル)が見れば、机にあるパソコンやマウスをすべて吹き飛ばし、そのままひっくり返ってブリッジをかます勢いで悶えるだろう。

 

 そのまましばし二人は、無言になった。

 

 

 

 

 

 長いことそうして、先に口を開いたのはミカサだった。

 

 

「ねぇ、エレン」

 

「…何だ」

 

「エレンはどうして、「地ならし」を行ったの?多くの人間を殺す必要は、なかったはず」

 

「……お前たちを、守りたかったから」

 

「他に方法はなかった?きっと探せば道はあったと、私は思う」

 

「ねェよ。オレだって悩んだ。悩んで、悩んで、それでもお前やアルミンたちが幸せに生きるには────()()()()()()を手に入れるためには、多くの犠牲を生み出さずして、なし得なかった」

 

「………エレンはお姉さんが「始祖」だってこと、知ってた?」

 

 瞬間、翡翠の瞳が大きく開いた。ドロドロとした負の感情が、今にもそこから噴き出して来そうだ。

 

 エレンはアウラ・イェーガーの本性と、彼女が彼に何を行ったのかミカサに教えた。当然それを聞かされたミカサは呆然とする。

 

 

「けどあの女は生きてたッ!!オレが、殺したのに……」

 

「……エレン」

 

「殺しても、殺しても殺してもどうしようもなくて…でも、やっぱり……」

 

 弟に向けていた柔らかい姉の笑顔を、エレンは忘れることができなかった。

 憎しみの裏でその笑顔がこびりついて、取れない。気がどうにかなってしまいそうなほどに。

 

「…お姉さんは“白いナニカ”になっていた。アレが何なのか、エレンは知っている?」

 

「知らねぇよ。でも、もしかしたら…」

 

「もしかしたら?」

 

 エレン曰く、彼はユミルがジークではなくエレンを選んだ後、少女の記憶にほんの少しだけ触れたのだという。

 

 その中で青年は暗闇の中に浮かんでいた、光るムカデのようなものを見た。

 暗い水底に落ちていったユミルはそれと接触し、巨人の力を手に入れる。

 

 その光るムカデこそ、エルディア人がつながる元凶であり、「悪魔」なのだろうと彼は察した。

 

 そして光るムカデと白い異形が似た存在であることを、感じ取った。

 その類似性を言葉で表現するのは難しい。だが自分とは別の次元にあるのだと、理解したのだ。

 

 

「あの女はきっと、人間じゃなかったんだ。人間のフリをした、バケモノだった」

 

「そうかな?」

 

「……ミカサもジークと同じで、アウラ・イェーガーのことを肯定するのか?」

 

「…正直、お姉さんとはあまり関わりがなかったから、もし死んでもカルラさんの時みたいに、そこまで悲しくはならないと思う」

 

「………」

 

「でも、お姉さんがひどい人だったとしても、エレンと過ごしている時はすごく、幸せそうな顔をしていた。二人ともすごく楽しそうで、私は少し、居心地が悪かった」

 

「…わ、悪かった」

 

「謝ってほしいわけじゃない。でもお姉さんが家に療養していた時は、エレンは「姉さん、姉さん」って、ずっとお姉さんの事ばかり考えてた」

 

「…怒ってるのか?」

 

「怒ってない」

 

 そっぽを向いてしまったミカサ。

 エレンがその顔を見ようとするが、少女がその度に体を動かすせいで叶わない。

 

 

「どっ、どうしたら許してくれんだよ…」

 

「みんなの元に戻ってきてくれたら、許す」

 

「無理だろ、オレたち死んだんだから」

 

「死んだのならどうして今、私とエレンは会話しているの?」

 

「……?それは…何でだ?」

 

「あの白いバケモノがお姉さんの意思で動いてるかわからないけど、私とエレンの意識はまだある。だから、死んでないかもしれない」

 

「………それでもオレは戻らねェよ」

 

「何で……!!」

 

()()()()()。オレはもう後戻りできないところまで、進んじまったんだから」

 

 

 大勢の人間を「地ならし」で殺した。

 

 仲間を救う上でこの方法を選んだ時、エレンは死ぬ覚悟を持って行った。むしろ「地ならし」=エレン・イェーガーの死であると、決めていた。

 

 大罪人はどんな形でも裁かれなければならない──と、彼が考えた時。

 

 

 

「エレンは私たちに、止めて欲しかったの?」

 

 ミカサが、言う。

 

 

 

「だからアルミンやライナーに、巨人化できる余地を残した。《獣の巨人》を生成させてお姉さんを攻撃した時だって、そのあと白いバケモノと戦っていた時だって、飛行船には攻撃が当たらないようにしていた」

 

「………」

 

「エレン、答えて」

 

「……やだよ」

 

「こっ、答えないと……」

 

「…ッハ、どうするっていうんだ、オレに?」

 

 ミカサはエレンの正面に向きやり、瞳を閉じて翡翠の瞳に距離を詰め────ようとして、すぐに戻った。むしろ十歩ほど下がって、そのまま逃げ出す。

 

 煽るような視線を先ほどまで送っていた青年も、これには堪らず追いかけた。

 

 

「何で逃げんだよ!!」

 

「エレンだって難民キャンプにいた時、途中でやめた!」

 

「生殺しにすんなよッ…!」

 

「アルミンたちにだって見られてた!!!」

 

「えっ………ハァ!!!?」

 

 ひとしきり走った二人は、たどり着いた花畑に寝転ぶ。

 随分走らされたエレンは息も絶え絶えで、ミカサは呼吸一つ乱していないものの、顔が真っ赤である。

 

「さっきの話ってもしかして、リヴァイ兵長やハンジさんにも見られてたってことか…?」

 

「そう…らしい」

 

「………死にてぇー…」

 

 顔を両手で覆い意気消沈した青年の頭上には、ゲスミン型の雲が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「……お前たちが止めればさ」

 

「え?」

 

「だから、止めて欲しい云々の話だ。お前らがオレを止めれば、「英雄」になるって思ったんだ」

 

 

 それはヴィリー・タイバーの演説を聞いた中で、エレンの中に生まれた考えである。

 

 当時「地ならし」を行うことは決めていた。しかしその後のことまでは、まだどうすればよいか決め悩んでいた。

 しかしタイバー公の「英雄」を必要とする言葉で、彼は閃いた。

 

 世界の敵がエレンになるのなら、その彼を止めた人間は自ずと「英雄」になる。タイバー公はこの英雄の座に据える人間を、マガトにすべく目論んでいた。

 

 

 だがそれを利用して、アルミンたちを「英雄」に仕立て上げようとエレンは考えたのだ。

 無論自分が事を起こせば、親友のアルミンなら必ず止めると理解した上で。

 

 だからこそ、ミカサやアルミンに突き放すような行動を取った。

 

 その上で彼は、その衷心を語る。

 

 

「お前たちに長生きして欲しい。前に夕暮れの中でさ、列車に乗って……お前らと話しただろ?あの時は恥ずかしくて、言えなかったけど………」

 

「………」

 

「そんで、お前に一番幸せになって欲しい。オレがいない世界で──っていうのは、すげぇ嫌だけど。つーかオレ以外のヤツと幸せになるのが嫌だ。それでも……それでもやっぱり、ミカサ、幸せになってくれ」

 

「エレンがいなきゃ、イヤ」

 

 寝転がっていたミカサは、エレンの腕を握りしめる。

 

 エレン・イェーガーのいない世界など、彼女には考えられない。想像もしたくない。

 

 

 

「お前が好きだ」

 

 

 

 翡翠の瞳が近づいて、黒い瞳と交わる。

 

 距離が離れ、少しぼんやりとした目でミカサはエレンを見つめた。

 

 

「だから、幸せになれよ」

 

「………私も」

 

「あぁ」

 

「私も、エレンのことが好き……っ、大好き……!!」

 

「…オレもだ、ミカサ」

 

 

 ボロボロと涙をこぼし、ミカサはエレンのうなじに腕を回す。

 

 青年もまた微笑みながら泣いて、二人は微睡の中で、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 そして()()が目を覚ました時にはすでに、ミカサの姿はなかった。

 

 夕暮れに色づく世界を眺めながら、エレンは風に吹かれ、頭上に舞い上がる花を眺める。

 

 

「……オレ、何してたんだっけ」

 

 

 心地よい夢を見ていた気がするが、何も思い出せない。

 そろそろ家に帰らなければならないと、そばに置いてあった背負子を背負う。()()()()()()のは、姉だった。

 

「姉さん、オレなんか優しい夢を見てた気がすんだ。…よく、覚えてねェけど」

 

『   ?』

 

「赤いマフラーを巻いた女の子と、一緒にいた気がするんだ。でもまぁ…いいよ。帰るんだ、これから」

 

 段々と世界が、暗くなっていく。

 そう言えばと、エレンはなぜか()()()()姉に、首を傾げた。肌はおろか、服も真っ白だ。

 

 姉は少年に近づくと、小さな体を抱きしめる。

 

 

 ──────ごめんね。

 

 

 そう、アウラは言っていた。

 

「…何で、謝るんだ?今日の姉さんはヘンだな」

 

『   ?』

 

「ん?うん。ちょっと、眠くなってきた……なぁ」

 

『    』

 

「うん…………おやすみ、ねえさん」

 

 ゆっくりと、エレンの瞼が降りていく。すると少年の体は白い中へ、吸い込まれていった。

 

 

 

 白いその人間は膨らんだ腹をさすると、愛おしげに、笑ったのだった。

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