ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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割と円滑にできているらしいこの世界

 私アウラちゃん、今死にかけているの。

 

 かつて体験した二度の地獄よりは耐えられますが、虫の息も同然。なぜだ、私はただお父さまとカルラ嬢の距離を近づけさせつつ、キースおじさんの恋を応援しただけだというのに。

 

 

 

 始まりは、シガンシナ区で発生した流行病に遡る。

 

 お父さまは日夜運ばれてくる大量の患者に追われ、娘と一切会えず仕事の毎日。かく言う私は、ハンネスおじさんに預けられていた。しかし奥さんが流行病を患い、知り合いの夫妻へと預けられることになった。

 

 そして今後の計画にやらしい顔を浮かべていた私も、ユミル様からの天罰が当たったのか、流行病にかかった。

 

 

 お世話になった夫妻にうつる前に隔離されたので、一応二人は安全だった。

 ちなみに入院した場所は、お父さまがいる場所とは違います。死へと近づく私に、二人は慌ててお父さまに事情を話に行こうとしましたが、私はこれを拒んだ。

 

 

「わたしのめいわくは、パパにかかる。そうしたら、いまたすかるひとがたすからなくなる」────と。

 

 

 我ながら熱弁だった。この言葉に夫妻は堪えるような顔で頷いた。そして私にお父さまが現在治療法を探していることを伝え、絶対に死んではならないと、涙ながらに言われた。

 

 これがジークお兄さまだったら死んでも本望ですが、お父さま相手なのでまだまだ死ねない。

 

 

 それから日数が過ぎ、生きているのか死んでいるのかわからない状態で、高熱にうなされていた折。

 

 お父さまが見事薬を開発。のちにシガンシナ区の間で「イェーガー先生」の名が知れ渡る偉業を成し遂げた。

 

 まぁ、実際この壁の世界では「謎」であれど、マーレの知識ではすでに解明されている病気の可能性もあった。しかし些細な問題だ。お父さまが多くの人間を救ったのは、紛れもない事実なのだから。

 

 

 無事ハンネスさんの妻も回復し、まさかの病気にかかっていたカルラさんとその両親も快方に向かったと、夫妻から聞いた。間もなく私の入院する病院にも治療薬が届き、続々と人々が回復していった。

 

 私も死にかけながら、どうにか生き返ることができたのでした。退院するのは一番最後でしたが。それだけ症状が重く、危険な状態だったのです。最後の方は意識がずっとなかったもの。

 

 

 して、お父さまが娘も病気にかかっていた事実を知ったのは、治療薬を開発してから数日後のこと。

 

 しかし仕事の都合で病院から離れることができず、ひと段落してきた一週間後に、お父さまは嵐のようにやってきたのである。

 隣にはカルラ嬢がいた。ついでにハンネスおじさんも。

 

 当然のようにお父さまと距離の近いカルラ嬢に、私の「アウラーアンテナ」が、髪を一本をピンと立て反応した。

 

 

 ミッションコンプリートォ────ッ!!

 

 

 やはりユミル様は、必要のない試練などお与えにならないのですね。

 

 もう暫く時間をかけて進めていこうとした計画が、一気に進んだ。そりゃあ当然お父さまはカルラ嬢だけでなく、彼女の両親も救ったのだから、もうすでに想いを寄せていた彼女としては恋愛感情がカンストするだろう。

 お父さまもお父さまで、恐らく看病を続ける中惹かれていったか。

 

 これで幸せ家族は秒読み。あとは来るべき時に崩壊させるだけである。

 

「ゴホッ、ゲホッ……!!」

 

 そして、まだ薬の効果が効き始めたばかりの私は、身体に反して精神のテンションが高まり過ぎたせいで、過呼吸状態に陥りながら気絶した。

 

 ありがとうユミル様。でも私のこと、まだ殺さないでくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「イ、イェーガー先生、実は……」

 

 グリシャ・イェーガーは、ハンネスの知り合いである夫妻の男から娘の話を聞いた時、視界が暗くなる気がした。

 

 

 それは、娘が伝染病にかかっていた──という内容。

 

 アウラは父が自分のことを気にして仕事に支障を来してしまうのを恐れ、父に知らせないよう頼んだことも聞かされた。

 

 かつて兄ジークのために、「楽園送り」を自ら選んだ時もそうだ。

 

 

 あの子はいつだって、他人のために自分を犠牲にする。そしてその苦しみを隠し、笑う。

 

 彼は息子はおろか、娘にまで歪な生き方を強いてしまった。

 それは生涯彼が背負わなければいけない“罪”であり、それでも()()続けなければならないのだ。

 

 グリシャは現場が落ち着いてから引き継ぎをし、急いで娘がいる病院まで向かった。症状が比較的軽く回復していたカルラや、妻の容態が安定したハンネスも同行して。

 

 

 グリシャとカルラの仲は、元々娘をきっかけにお互いを意識するまでに至っていた。

 

 それでもグリシャは未だダイナを愛しており、他の女性を好きになることがあっても、付き合うことはないと決めていた。

 

 また「罪」を背負う己では、きっとその人を不幸にしてしまうに違いないから──と。

 

 しかしそんな彼を、カルラは真っ直ぐに見つめ笑いかけた。娘が病気と知り明らかにやつれつつある姿を励まし、声をかけ続けたのだ。

 

 芯が強いが健気だった、カルラという───女性は。

 

 落ち込む彼もまた、彼女を看病していた中惹かれ始めていた心でより深く、カルラの存在を感じ始めたのである。

 

 

 

 

 

 そして、娘が入院している場所へと訪れた三人。

 

 病院にはグリシャが作った薬がすでに使用されており、快方に向かっている者が多かった。

 

 その中でアウラは現在危篤に近い状態から持ち直し、少しずつ回復しているという。しかし未だ予断は許さぬ状態だと、その場の医者に告げられた。少女の父としては「イェーガー先生!」とその場のみなに感謝されるよりも、一刻も早く娘の声を聞きたかった。仮に二度と聞けなくなっていたとしたら、発狂していた。

 

 それほどグリシャにとって娘は───アウラ・イェーガーは、彼の中で大切で愛おしく、守りたい存在だった。ダイナが最期に残した子でもあり、失うわけにはいかない、彼の心をこの残酷な世界に留める唯一無二の存在。

 

 

「アウラ……!!」

 

 医者の許可を取り、娘の病室に訪れたグリシャ。

 

 アウラはひどくやつれていた。ここ暫く睡眠も食事もマトモに取れず限界に近かった彼よりも、よっぽど死にそうで。

 しかし毛布のかけられた胸元は、しっかりと上下に動いていた。

 

 生きている。娘は確かに、生きている────。

 

 

「パ、パ?」

 

 

 人の気配に気づいた少女が、瞼を開ける。灰色の瞳がウロウロと天井を彷徨い、父を視界に映した。ついでハンネスを一瞬映し、最後にカルラを映して、また父親に戻ってくる。

 

 少女はゆっくり瞬き、嬉しそうに笑った。幸せそうに、目尻に涙さえ浮かべて。

 その瞼が閉じれば、溜まっていた涙が落ち、髪を通ってシーツに落ちる。

 

「アウラ、すまない。私のために……」

 

「いいの、いいのパパ…くすり、パパがつくったんだよね?わたし…うれしい」

 

「……アウラ」

 

「カルラさんも、ハンネスおじさんのおくさんも、よくなったってきいた。パパ…かっこいいよ」

 

「……ッ、だが、私はお前のことを…」

 

 医者としては誉あるべきことを成した。元々伝染病自体マーレの収容区で医者をやっていたグリシャなら、必要な素材さえ揃えば、解決方法を編み出すことができる代物だった。

 

 ──だが、父親としてはどうだろう。娘が苦しんでいる時に側にいられなかった父親など、父親失格だ。そも息子と向き合いもせず自分たちの思想を押し付けていた時点で、彼は、グリシャ・イェーガーは────、

 

 

「パパは…わたしのさいこうの、おとうさんだよ」

 

 

 その言葉に、グリシャはゆっくり顔を上げる。娘の細い手は彼の手へ伸び、弱々しく握った。

 彼もまたその手を握り返し、堪えきれない涙を流しながら、笑う。

 

 そして刹那、アウラが激しく咳き込み始める。少女は握った手を離し、天井をおぼろげに見つめた。容態が一転したのだ。慌ててハンネスが医者を呼びに行き、グリシャは冷静さを努め処置を行う。しかし、その手は震えていた。

 

 少女の瞳はフラフラと動き、必死に少女の名を呼ぶカルラの元へとたどり着く。

 アウラはその時、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

「マ、マ……」

 

 

 

 

 

 これが、グリシャをカルラと結びつける最大にして、最後の一手となったのだろう。

 その後どうにかアウラは容態を持ち直し、数週間後にはすっかり元気になり退院した。

 

 そして、少女が退院した夜。グリシャは娘と夕食を食べながら、不意に食事の手を止めた。それに首を傾げる向かいの席の娘。余談だが彼女はハンネス宅で家事の手伝いをしているため、料理は卒なくできる。流石に退院したばかりなので、今晩の夕食を作ったのは父だが。

 

「パパ、どうしたの?おなかいたいの?」

 

「いや、そのだな……アウラに大切な話があるんだ」

 

「たいせつなはなし?」

 

 彼は意を決して、娘に自身がカルラに想いを寄せていることを告げる。

 

「パパが、カルラさんに…!?」

 

 アウラは始めこそ驚いた表情であったが、次第に頰を赤く染めていく。そしてモジモジと机の上で体を動かし、父をチラ見する。

 何か言い悩んでいる娘に、グリシャは質問があるのだろうと察した。話すよう娘に促すと、アウラは表情を明るくし、一気に捲し立てる。

 

 

「カルラさんのことどのくらいすき?」「いつからすき?」「わたしよりもすき?」────と、怒涛の質問。

 

 

 突如発生したクソ幼女面談に、父は気を動転しつつ答えた。「恋」のワードに反応すると、女の子という生き物はここまでがっつくものなのだろうか。グリシャが娘に視線を移すと、キラキラとした瞳が彼を捉えている。

 

 これもまた、娘の成長の証か。父は遠い目を浮かべた。

 

 

「話を戻すが、アウラは私がカルラ──カルラさんと、付き合っても大丈夫かい?」

 

「ママの…ことは?」

 

「………ッ、お前には話していなかったが、ダイナは、もう…」

 

 彼女はこの世にいない。人としても、巨人としても。その事実をまだ幼い娘に突きつけるのは、酷でしかない。しかしアウラには母親が必要だ。時折精神の安定しない様子を見せることからも、殊更に。彼がカルラとの付き合いに踏み切ろうと考えたのも、娘のそんな事情があったからだろう。アウラもカルラには、人一倍懐いている様子であったし。

 

 少女はスプーンを皿の上に置き、テーブルの木目を静かに眺める。そして、口を開いた。

 

「…ママはもう、いないんでしょ」

 

「……!知って、たのかい?」

 

「あんまりよくはおぼえてない。でもママとパパといっしょに、どこかにいったのはおぼえてる」

 

 

 アウラは兄に両親が摘発されるまでのことは、うっすらと覚えているようだ。それも3〜4歳頃の記憶ゆえ、ひどく曖昧なものだが。

 

 しかし両親が拘束され、その後自分で「二人と共に一緒に行く」──と言った点を含め、記憶が判然としなくなっている。

 

 彼女はどうやら「両親とどこかに遊びに行こうとした」という風に、記憶を改ざんしているのだ。まぁ、無理もあるまい。目の前で母親が巨人になる姿を目撃してしまっては。その上曹長の男によって、両親に生きたまま食われるという、残酷すぎる方法で殺されかけたのだから。気が狂わない方がおかしい。

 

 この点についてグリシャは、娘が記憶を書き換えたことに安堵している。でなければ苦しみを背負ったまま、少女は生き続けなければならなかっただろう。

 

 

「パパがたまにね、おにいちゃんやおじーちゃんたちがいるよりも、もっととおくをみてることがあったの」

 

 空に浮かぶ青空を、グリシャはダイナの瞳に重ねてぼんやりと眺めることがあった。もう手の届かない、亡き妻。少女はそんな父の姿を見て、母親がこの世にいないことを悟ったのだ。

 

「私が幸せになっていいのだろうか。お前やジーク、ダイナたちを不幸にした、私なんかが……」

 

「パパ、ちがうよ。それはちがう」

 

「何が、違うんだ?私はもう…罪を背負いすぎている……」

 

「しあわせのいみだよ」

 

 アウラは父親や母親、祖父母や兄を例に挙げて話す。

 少女は家族が大好きだ。一人一人大好きで、大切な存在。だからこそ、「いいんだよ」と言う。

 

「パパがママじゃないひとをすきになっても、いいんだよ。わたしがパパいがいにおにーちゃんやおじーちゃんたちをすきみたいに」

 

「……だが」

 

「あのねパパ、わたしカルラさんがおかあさんになるなら、うれしいよ?カルラさんママみたいに、すーっごく、やさしいんだもん!」

 

「………アウラ」

 

 やはり娘は、カルラにダイナの面影を重ねていた。容姿は似ていなくとも二人の共通点は、包み込むような優しさを持っているところだろう。

 

 それに、と続けるアウラ。

 

 

 

「パパは、しあわせになっていいんだよ」

 

 

 

 その言葉は、“()()”だった。

 

 グリシャ・イェーガーという男が積み上げてきた罪。その重さに自身を「幸福」から遠ざけようと、そしてその中で始祖の力を見つけようとしてきた彼に、娘はいつも微笑んで、幸せがある日向の方へ引っ張ってきた。

 

 今の彼がまだ正気でいられるのは、単に娘のおかげだ。でなければ、グリシャの心はとっくの昔に悲鳴を上げていたに違いない。

 

「…ありがとう、アウラ」

 

 もう何度も枯れ果てたと思った涙が、男の瞳から溢れる。眼鏡を取りシャツの袖で涙を拭う父を見、娘はやさしく微笑んだ。成長するにつれダイナの面影を残しつつ、愛らしい表情から、キレイな──大人の女性の美しさを匂わせるようになった笑み。

 

 少女はそんな表情を、父に向けた。

 

 

「わたしもありがとう、パパ」

 

 

 その微笑みの裏の何重にも隠された奥で悪魔(少女)が何を考えているか、グリシャは知らぬまま、時は流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 そして、グリシャ・イェーガーはカルラとしばらくの交際期間を経たのち、結婚した。

 

 式の際、呼ばれていた次期「調査兵団団長」に選ばれたキースもいたが、彼は途中で抜け出した。

 一番の友人である男が出て行く様子を見かけたグリシャもまた、式の合間を見計らい後を追いかけた。

 

 その先で待っていたのは、木に寄りかかるようにして、立ちすくんでいた後ろ姿のキース。グリシャが心配しながら近づいた時、手を───振り払われた。それは誰でもない、一番の友人によって。

 

 彼が目の当たりにしたのは、人間の“憎悪”。

 何故そんな目をキースが浮かべるのか分からず混乱し、グリシャは問いかける。

 

「どうし、たんだ…キース」

 

「貴様と話すことなどない」

 

「待ってくれ、いったいどうしたっていうんだ!」

 

 壁の外にいたグリシャと、その娘を救ってくれたのがキースであった。

 仮にあの時彼が二人を門の中に入れてくれなければ、ユミルの寵愛を受ける娘がいたとはいえ、グリシャは食われてしまった可能性が高い。彼もまたあの時巨人化の能力を使い続け、すでに残された力も少なかったのだ。

 

「貴様は()()なんだ。だが私も団長となり成果をあげ、自身の存在を示して見せれば…」

 

「キ、キース!」

 

「その時は、その時こそ私はカルラに想いを告げようと……」

 

「……!キース、君は、彼女のことを…」

 

「だがそれは叶わない。私ではない()()()()()に、貴様がなったのだ。ただ、それだけの話だろう」

 

「待ってくれ、私は君と友人で──」

 

「…そんなものッ!無理に、決まっているだろう──!!」

 

 

 カルラ(想い人)が愛した人間は、友人だった。キースとしてもグリシャを親しい友人として大切に思っていた。

 

 彼女が働くあの酒場は、キースにとって仕事の過酷さを一時でも忘れることができる安息の場所であった。そこでグリシャ(友人)と過ごし、そして「また調査兵団の勧誘かい?」と、想い人に茶々を入れられたあの頃。その懐かしくも穏やかであった日々は、戻ることはない。

 

 呆然とするグリシャに、険しい表情を浮かべるキース。

 

 

「幸せになればいい、俺の分まで。お前がな……()()()()()()()

 

 

 皮肉を交えた言葉を最後に、キースは振り向くことなく去って行った。

 

 グリシャはまさか、キースがカルラに想いを寄せていることなど知らなかった。しかし思い返せばあの堅物そうな男は、彼女のいる店によく通っていた。それはグリシャであったり、ハンネスであったり、部下であったり────。

 

 しかし、そんな、私は。

 

 頭の中に浮かぶ言葉は全て、彼にとって言い訳にしかならなかった。

 ただ俯くことしかできず、固まってしまう。

 

 そんな彼に声をかけたのは──、

 

 

「グリシャ?」

 

「パパ?」

 

 

 いなくなった新郎を不思議に思い、新婦と新郎の娘がやってきた。

 不思議そうにグリシャを見つめるカルラ。

 

「さっき、キースさんの後をあなたが追っていったってアウラに聞いたから、どうしたのかと思って。キースさんの様子も少しおかしかったから、気になってたのよ」

 

「…いや、何でもないよ。彼と少し話をしていただけさ」

 

「そうなの?…大丈夫?グリシャあなた、顔色がすごく悪いみたいだけど…」

 

「大丈夫だ。悪かったね、式場に戻ろう」

 

「…そう」

 

 まだ納得がいかない様子のカルラの手を引き、歩き出すグリシャ。空いていたもう片方の手はもちろん、娘の手を握っている。

 アウラは父親の表情を見つめながら、途端にぱぁっ、と花を咲かせた。二人は少女が突然浮かべた表情に首を傾げる。

 

 

「わかった!おとこの「()()()()()」だね!!」

 

 

 この後、娘にいらぬワードを教えたであろう酔っぱらいの男が、笑顔(意訳)の新郎新婦に締められることになるのはまた、別のお話である。

 

 クソ幼女はこの時、どんな気持ちであったのか。

 それはもう、この上なく幸せだったのだろう。人の人生で一番になれる日を、ぶち壊しにできたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまた時が経ち、幼女が「少女」に相応しい年齢になった頃。

 イェーガー家に、新たな家族が増えた。

 

 

 その名は────「エレン」

 

 

 微笑ましい家族の一ページを刻む中、カルラに生まれたばかりの赤子を渡された少女は、珍しく緊張した様子で受け取る。

 ずっしりと手にかかる重さ。それは紛うことなく()()()()である。

 

 アウラは赤子の母に似た大きな目を──そしてその翡翠の色を、飽きることなく見続ける。父親に、「そろそろ代わってくれないか?」と頼まれても頑なとして渡さず、一通り眺め続けたのち、母に返した。

 

 カルラは瞳を何度もぱちぱちしている娘に尋ねる。

 

「エレンはどうだった、アウラ?」

 

「…あかくて、おもい」

 

「ふふ、赤くて重い…ね。他には何かある?」

 

「…えっと、うんと、うーんと」

 

 少女は唸りながら病室を右往左往して、カルラの元に戻ってくる。

 そしていつになく真剣な表情で、口を開いた。

 

 

「たべちゃいたいくらい、かわいいの…」

 

 

 予想の斜めを越える娘の反応に、グリシャとカルラは思わず吹き出すのだった。




エレン「ーーーで、オレが生まれたってわけ」


思ったけど、壁内の医療知識は外の世界より劣っているのは確かだとして、どこまで知識があるのか気になってる。グリシャが薬を作ってたから、最低限の医療は整ってるとは思うけれど。
点滴とか麻酔の類はおそらくない…のか?内臓にメス入れるのはまぁ無理そう。
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