とりあえず書く気力があるうちに、書こうと思います。沼移ったら多分書けなくなってしまう。
一時危篤状態となったアウラ・イェーガー。
目覚めることなくこのまま命を落としてしまうかに思われた彼女であったが、しばらくの昏睡状態ののち、再び目を覚ました。この時点で既に二週間以上水以外のものを摂取していなかった。細くなった身体は、さながらミイラである。
少女は発声も困難な中、慌てて訪れた医師にこう言った。
おな…か、すいた────と。
そこからは劇的な回復であった。最初は固形物を胃が受け付けなかったため流動食を食べ、身体に栄養が渡ってからはみるみるうちに元気を取り戻した。また跡が残ると思われた顔の傷も、綺麗に回復していった。
元の明るい少女の笑顔を目にした時、両親は涙ながらに娘を抱きしめた。特に少女が発狂する原因となった過去を掘り返してしまった──と感じていたグリシャは、ひどく憔悴していた。
ゆえに元に戻った娘を見た時、どれほど安堵したことだろう。そして自身の罪を、後悔しただろう。
結局自分は家族を犠牲にすることしかできない、そう自身を責め続ける父に、アウラは微笑みかける。
カルラはエレンの面倒のためおらず、父と娘の二人だけの病室。
父の手を握った少女の背後では窓から光が漏れ、逆光を作る。どこか神秘的な雰囲気を感じさせる、少女の暗いシルエット。
「パパ、ねぇパパ」
「……なんだい、アウラ」
「そんな暗い顔しないで。わたしね、ユミルちゃんに見せてもらったの。兄さんが「クサヴァーさん」って人とキャッチボールしてた。すごく、幸せそうだった」
「ユミル様が…ジークを?」
「うん。もう死にたかったけど、ユミルちゃんは兄さんのことを見せてくれた。兄さんね、戦士候補生になってたの。身長もすごく高くなってた」
「…そうか」
「それで、それでね。……えへへ、すごくパパと似てたよ。パパみたいにカッコよくて、ママみたいな髪の色と瞳でね」
本当に心から嬉しそうに、ジークについて語るアウラ。「パパ=カッコいい」の部分にグリシャは心臓を抑えかけたが、なんとか平静さを保つ。
「ユミルちゃんは、わたしに「生」きろって、示してくれた。だからわたし、生きるわ。そして進みたい」
そう語る娘の姿を、静かに見つめる父。
父親がクルーガーの意志を受け継ぎ、エルディアのため
それは何故か、グリシャは娘に問う。改めて心を決めたその意志を聞きたかったのだ。ユミルの寵愛により生かされた彼女。そこにあるのは純粋な娘の意思ではなく、ユミルの思惑が絡んでいる可能性もある。
「寵愛」────その一言で呑んでしまうほど、人間は簡単にできていない。同じフリッツ家であれど、ダイナは助けてもらえなかった。何か始祖に理由があるとしか思えない。考えれば考えるほど、底なしの思考回路に行きつき恐ろしさが増していく。
だからこそ己が目で、グリシャは見定めたかった。調査兵団の選択が、アウラ・イェーガー自身のものであるか否かを。
アウラは笑みを消し、真っ直ぐに父を見つめる。
「いずれ戦士は来る。私はまた、ジーク兄さんに会いたい」
「それが、アウラの望みか」
「うん。でも、それだけじゃないよ、パパ」
戦士が来れば、壁の楽園は滅亡へと向かうだろう。キースによって偶然発見されたアウラとグリシャ。二人が外の世界から壁の中へ入れたのは、幸運だったに過ぎない。
壁内の人類を追い込む点を踏まえ、円滑に壁内へ侵入するには、壁を破壊するのが手っ取り早い。そして混乱に乗じて巨人からヒトに戻れば、紛れることも容易となる。その上で多くの民が死ぬ。知性の巨人だけではない、無知性の巨人によって。
もしそんないざとなった時、一番戦えるのは駐屯兵団でも、憲兵団でもない。立体機動装置を扱い巨人と戦う機会の多い、調査兵団だ。
「わたしの世界は、とても窮屈。けれどわたしにはパパがいる。それにカルラママとエレンも」
見ないようにしていた。かつての家族の姿を追い求めて、狭い世界ばかりを見ていた。カルラやエレンに愛されていることを知っていても、どうしても受け入れることができなかった。
受け入れてしまえばアウラは、
突然広い世界に放り出されてしまえば怖かろう。それでも彼女は歩む。
そう、全ては────、
「大切な人を守りたいから、私は進みたい」
縦えそれで兄と戦うことになっても構わない。兄と出会い、そして戦い、その上で止めればいいだけの話だ。
「お前の言っていることは、途方もなく難しいことだ」
「うん。全部守りたいなんて、馬鹿げてる。でもわたしは失いたくない、これ以上」
「……少なくとも私はあと五年で死ぬ。それでもお前は、進むのか?」
「うん、進む。何か巨人の継承者の寿命の解決方法がないかも、ユミルちゃんに探ってみる」
「…わかった、アウラ」
グリシャは娘を抱きしめた。いつの間にか大きくなった少女もまた、父を抱きしめ返す。
あと数年もすれば、娘は前妻のダイナの身長を抜かしてしまうだろう。子の成長というのは早いものだ。
「ごめんな、お前をこんなにも、苦しめてしまって…」
「うぅん、パパの方がいっぱい苦しんでる。それを少しでも減らせるなら、わたしもパパと一緒に、苦しい思いをしてもいい」
「………ッ、う」
声を殺し静かに泣く父の背を、アウラはやさしく撫で続ける。
そんな、父の肩に顔を乗せる彼女の表情は、恍惚に染まっていた。
目を細め、父の無用な姿に脳内絶頂する彼女はどこまでも────、
──────クソ少女で、あった。
◻︎◻︎◻︎
私、アウラ・イェーガー!ピッチピッチ(死語)の12歳!
お父さまに調査兵団を目指す許可を得て、訓練兵団に入れることになりました。
ただしカルラママとハンネスおじさんには、駐屯兵団に入りたいというのが嘘だったことをバラされ、カルラママにはめちゃくちゃ怒られた。ハンネスおじさんにも危険だ、と怒られた。ついでに嘘をついたことにも。
お父さまとしては命をかけることに対しての覚悟を、より強く持って欲しかったのだろう。また命を簡単に失わないよう、私を大切に思う人がいるんだということを、改めて実感してもらいたかったのだ。
裏の理由は、大切な人(家族)を守るための力が欲しい──となったが、表の理由としてはキースおじさんに憧れたから、ということにした。
お父さまは私がカルラママたちに話した理由に、複雑そうな表情を浮かべていたけれど。しかし娘がキースおじさんに憧れているのは、強ち間違いではない。
だって人類のために戦い(巨人に食われる人間の顔や、それを見て絶望する仲間の顔を合法的に見れる)、その身を(「私」自身が
それに命からがら帰ってきても、何の成果も得られず民衆たちにやれ「税金の無駄遣い」だの、やれ「命を粗末にしている」だの、曇りイベント満載である。以前壁外調査から帰ってきたキース団長を見たが、うっかり飛びそうなくらいには顔が死んでいた。
そんな職業に就いているおじさんに、憧れないわけがないよなぁ?
ともあれ、私は叱られイベントを乗り越え──というかその前に、弱っていた身体を元に戻した上で、ウォールマリア南方の訓練兵団に第97期生として入団することに。
これから三年間は我が家に帰れない。名残惜しいですが仕方ありません。
私は極めて過酷な訓練の中で、脱走したり命を落とす者もいると聞く地獄の中。
若人たちがもがき苦しみながら走り続ける様を、よだれを垂らしながら見てくるので、安心してください。
見送りに関してはカルラママとエレンきゅん、ハンネスさんの奥さんだけだった。夫はあいにく駐屯勤務で来れず、父もまた診療の仕事で不在だった。お父さまはわざと来なかったのだろう。三年もかわいい娘に会えず、しかも死ぬ可能性も十分あるのですから。
「……おねーちゃん」
「エレンくん、わたし行ってくるね」
「……やだ」
エレンきゅんがわたしの服の裾を、グイグイ引っ張ってきます。今にも泣きそうな顔で、おねーちゃんの通行を阻止してくる。
エレンきゅんとしては姉がようやく病気が治って退院したと思ったら、またしばらくいなくなってしまうのだ。お姉ちゃんとしても三年もエレンきゅんに会えないのは悲しい。ので、いっぱい今のうちに私にその可愛らしいお顔を拝ませてください。オラ、泣くんだよ(鬼畜)
「すききらいしないから」
「エレンくん…」
「オレいいこでいるから…!!」
「…ごめんね」
「うぅ……ふぅぅ…」
あぁ、心がぴょんぴょんするんじゃ。
ジークお兄さまの可愛らしい泣き顔も最高で
しかしアウラお姉ちゃんはそろそろ行かないといけないので、弟を抱っこして立ち上がり、カルラママに渡します。
おや?カルラママも涙ぐんでますね。やめてください私、ぴょんぴょんし過ぎて死んでしまいます。
「絶対帰ってくるのよ、アウラ」
「うん、立派な兵士になってくるから。安心して、お母さん」
「おねーちゃ……」
エレンきゅんに手を振るクソ少女はクールに去るぜ……と思いましたがあまりにも大声で泣くので一旦戻り、約束をすることにした。男の子によく利く方法である。
「男の子が泣いてちゃ、恥ずかしいんだぞ」
そう言い、人差し指で弟の額をコツンと触る。号泣していたエレンきゅんはその瞬間泣くのをやめ、口をへの字に曲げた。鼻水と涙の跡を残しながら、それでもこれ以上泣くまいと必死に堪える。かわいい。
「わたしがいない間、お母さんのことを守ってあげてね、エレンくん」
それにエレンきゅんは小さく頷き、私が差し出した小指に小さな指を絡める。指きりげんまんだ。
「じゃあ行ってきます、エレンくん、お母さん、それにおばさん」
イェーガー家族の様子をやさしく見つめていたハンネスおじさんの奥さんにも別れを告げ、私は歩き出した。
そして始まる、三年間の訓練兵時代。
アウラちゃんの現段階の肉体スペック的には、当時ドベだったお兄さまと比べたら天と地ほどの才能がある。いや、流石にそれはお兄さまに失礼なので、「兎と亀」にしておきましょう。
私が兎で、お兄さまが亀。
これの言わんとしたいところは、最初は才能の差があったとしても、努力を続ける亀が兎を追い抜いてしまうということ。
ユミルちゃんが見せてくれた現在のお兄さまはそれはもう、物凄かった。語彙力が死んでしまい申し訳ないですが、とにかく物凄かったのです。まず伸びた身長に、童顔から精魂な顔つきに変化しかけの凛々しいお顔。
だのに、お顔は愛らしい上にカッコいいのです。──────カ ッ コ い い の で す!!(二回目)
体つきがそもそもお父さまと違いました。お父さまも三十路を過ぎ、
おっと、いけません。お兄さま語りで話が逸れてしまいました。
つまり努力を続けるお兄さまに、才能にかまけてサボっていては勝てないということ。今後の展望として、戦士候補生であるお兄さまが、壁内に侵攻してくるのもそう遠くない未来であると推測できる。
私がその時取るべき立ち位置は、巨人に食われて殺されるモブAでもいいでしょう。しかしそれではお兄さまに気付いてもらえず、また出会えることなく死んでしまう可能性が高い。
であれば、敵対関係にいるのが最も美味しいポジションになる。お兄さまと出会う確率も高まり、モブの巨人たちに殺される可能性も低くなる。ともかく戦士たちの侵略前提で、行動を考えていくべきなのだ。
お父さまに語った内容の大半が嘘になりますが、しかしお兄さまと出会いたいのは本当のことです。
エレンきゅんや、カルラママを守りたいのも本当。最高のタイミングで家族を壊す前に死なれては困りますからね。
目先の目標としては、戦う力をつけること。そして、一番最高なのはお兄さまと出会うことができた上、妹が「敵」として立ちはだかることである。その中でお兄さまに殺されてしまったら私、腹上死ものです。お兄さまに殺されて
妹を殺してしまったお兄さま、人生で最高のお顔が見れそうです。
ただし死ぬ前に解決しておきたいのは、巨人の継承者の寿命の問題ですね。ユミルちゃんに会おうと念じても出会えないので、何かきっかけが必要なのでしょう。
一回目と二回目に出会った時の状況を考えると、
流石にこれ以上死にかけると、お父さまの精神が壊す前に壊れるのでやめましたが。訓練兵団に入っていれば、死にかける機会も多いでしょう。その時を狙い、ユミルちゃんに何か必勝法がないか尋ねてみることにします。
───そして、私、アウラ・イェーガーの三年間の地獄になるであろう火蓋が切られることになった。
97期生一同が揃った手前、教官が名を名乗る。その後一人一人に名や出身区、志願動機を聞いていく。時折教官が意図的なのか、抜かしていく人間もいる。
思った通りというべきか、私と同年代の人間はごくわずかだ。ほとんどが歳上の人間である。それもそうか、訓練兵として参加できる最低ラインが12歳。戦争が起こっているならともかく壁の中は平和だ、わざわざ兵士を目指す人間の方が少ない。それもまだ子供が、訓練兵になるなど。剰え私は性別が女。同年代で性別が同じ子供はいなさそうだった。
(…来た)
ようやく私の順番だ…と思ったら、素通りされる。その一瞬教官と目が合った。
教官は私の瞳を凝視し、隣の訓練兵に向かっていた身体を戻し、私の前に立つ。
貴様は何者か、と尋ねられ、「シガンシナ区出身、アウラ・イェーガーです」と返す。
「貴様が訓練兵団に志願した理由はなんだ」
志願動機か。射抜くような教官の視線に、私の奥底を掬い上げられるような感覚がした。
少なくとも“教官”という立場にある人間だ。これまで数々の経験を積んできたのだろう。嘘をつけばバレる。かと言って浅い理由でもならない。一歩戻ってきたのにはやはり、意味があると考えなければならない。私の本質を見抜かれてはいないが、それでもこの教官には何か感じたのでしょう。私という、悪魔に。
一つ息を吐き、心臓に当てた右手を強く握りしめる。
私が訓練兵団に志願した理由は、調査兵団に入るため。そして人間たちの悲劇を間近で見て、「私」という存在が生きていることを実感するため。その上でさらに、いずれ来る壁内の人類の
以上を端的に表すなら、どう言うべきか。
一瞬のうちに考えて、言葉にする。教官の目をじっと見据えながら。
「────わたしが「私」として、
私の言った意味がわからぬようで、周囲の訓練兵が首を傾げる。しかしこの場で大切なのは、訓練兵としてこれから過ごす人間の
ゆえに意味が分からずともよい、その人間のうちにどのような過去があるのかなどは、わざわざこの場で掘り下げるべきことではない。
教官は私の言葉に無言のまま、隣の兵士へと移っていった。
内心少し疲れたが、しかしまだ始まったばかり。
私は「兵士」として頑張ります、お兄さま。
そしていずれ、