ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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実際には成績上位者が呼ばれた後の飲み会?でみんな進路希望(入団したい場所)について話し合ってたけど、クソ主人公ちゃんを光らせたかったので、あえて成績上位者呼ばれた後に進路希望言わせてます。


ハローワールド/グッバイエブリワン

 その日、ウォールマリア南方の訓練所にて、200名近い第97期生の訓練兵が卒業に漕ぎつけた。

 

 この中で憲兵団に希望することできるのは、成績優秀者上位10名のみである。その10名のほぼ全てが憲兵団入りを希望する中、一名のみ別の兵団を希望する者がいた。

 

 

 その名を、アウラ・イェーガー。成績9位を収めた少女である。

 

 

 肩にかかるほどの長さの色素の濃い髪と、僅かに青みを感じさせる白銅色の瞳。女性にしては高めの身長とスラリとした体躯は、一見すれば兵士とは思えぬ体型である。正しく「美少女」を体現するその姿に、多くの訓練兵(主に男)が救われてきた。

 

 誰にでもやさしく真面目で、男女平等に接する。時に女子陣からやっかみの視線を受けることもあったが、彼女は意に介さず進み続けてきた。彼女の果敢な姿に容姿はさておき、厳しい訓練の中で心が折れかけてきた幾人もの人間に、前へ進む原動力を与えてきた。

 

 筆記においては常に上位に食い込み、人望も悪くない。さらに瞬発性や機動力については、有無を言わさぬトップクラスを誇る。

 

 しかし唯一難点があるとすれば、他の成績上位者と比べて体力・筋力に劣るところか。人間の体型とは遺伝的なものもある。身長の割に体重があまりにも低かった彼女の母親──ダイナを例に挙げれば、それも仕方ないと言えよう。

 

 

 それらを踏まえての9位。妥当と言えば、妥当の成績である。むしろ周囲が歳上で男性が多い中、よく上位者に食い込めたものだ。

 これに少女の()()()を含めてしまえば、卒業どころか訓練兵の入団を拒否されるレベルの醜悪さなのだが。

 

 しかして、彼女の裏の部分に気づくものはいなかった。少女が時折覗かせる()()()()()()()()()に教官は気づいていた節があったが、それも彼女の過去が原因ゆえと、考えられていたのである。

 

 情報によれば、詳しい経緯は不明だが、アウラ・イェーガーは幼少期生みの母親を失ったとの話がある。情報元は少女の母親からだ。

 ちなみに後者の母親とは、父親の再婚相手を指す。これだけでもなかなか複雑な家庭事情だ。

 

 

 そのトラウマが原因となり一度、それも入団する数ヶ月前に精神を病み入院している。その状態でよく回復し、入団できたものだ。

 

 もし精神が回復しきっていなかったら、最初の「通過儀礼」の洗礼さえ耐えられなかったに違いない。だが最初から最後まで残ったということは、つまりそういうことだ。

 

 アウラ・イェーガーには訓練兵の三年をやり遂げる覚悟──そして、それに相応する目的があったのだ。

 

 

 成績上位10名が並ぶ中、彼らを三年間教えた教官の男は、心臓を捧げる9位の少女に視線を向ける。

 

 初め通過儀礼として訓練兵たちを恫喝していく際、男はアウラ・イェーガーもまた、時折いる()()()()()()()()()()()()と判断しかけた。

 

「通過儀礼」とはそもそもそれまでの自分を否定し、まっさらな状態にしてから兵士に適した人材に育て上げる──という、必要な過程とされる。それを必要としない者は総じて過去に壮絶な体験をした人間が多く、己の中でその体験に準じた信念や覚悟を抱いている。

 

 普通ならば通過儀礼を終えている者に対し、教官が声をかけることはない。

 しかし男は一度アウラ・イェーガーに「必要なし」と感じたのにも関わらず、立ち止まった。それは何故か。

 

 

 その、白銅色の瞳の中に沈む何か───末恐ろしいものを、感じたからだ。

 

 研ぎ澄まされた刃のようにも、血まみれになり錆びてしまった鈍刀のようにも見える、チグハグで、狂気的な何か。

 

 この時点では一人一人の訓練兵の過去を知らない状態であったため、教官は得体の知れないその正体を測りかねたのである。

 ゆえに男は少女に問うた。少女が訓練兵団として、ここにきた理由を。

 

 

 ────わたしが「私」として、()きるためであります!

 

 

 それが、少女の理由だった。

 

 ドロドロとした奥底に秘めた真意。それは少女の過去と照らし合わせることで、ようやく正体がわかってくる。

 

 母を失った過去。その強烈な体験は、一度思い出すと少女を精神的混乱に至らす。何が起こったのかは、聞くべきではないだろう。少女は一度発狂して入院し、それを乗り越えて訓練兵に志願した。掘り返すのは藪蛇というものである。

 

 アウラ・イェーガーは最終的に、自分として生きるために、三年間努力し続けた。

 

 それは単に、()()()()()()()()ためであろう。

 その上で必死に生きて駆け上がり続けたのだ──と、教官の男は瞳を閉じる。

 

 

 ともかく、これにて第97期生は卒業し、三つのうちの一つの兵団に入団する。

 

 1から8位までは憲兵団を志願した。9位の少女もまた、憲兵団に────、

 

 

 

「わたくしアウラ・イェーガーは、調査兵団への入団を希望いたします!!」

 

 

 

 周囲がざわついた。調査兵団は三つの兵団の中で群を抜けて死亡率が高い兵団である。

 

 現在団長を務めるのはキース・シャーディスであるが、これといった成果をあげられず、ここ数年では無駄に兵士が死んでいっている。年々調査兵団を希望する者が減っていることは、隠しようのない事実。入ったところで死ぬか、生き残っても民衆の冷ややかな視線を向けられる。

 

 そも人は壁に守られ、約百年も平和に過ごしてきた。わざわざ巨人の脅威に晒されながら、命をかける行為自体バカげている───と、あざ笑う民もいる。

 

 

 しかしアウラ・イェーガーは、真っ直ぐに前を向き、心臓を捧げている。

 

 三年間教官を務めた男は、小さく「あぁ」と呟いた。

 

 

 どんなに周囲に冷たい視線を向けられようと、一人の少女は自分が自分として生きるため────他人に流されて生きるのではない、自分の夢に向かって、突き進んでいる。

 

 勇ましく、それでいて美しい。そしてその姿の裏で流れるドロドロとした人間の狂気が、不思議と少女の魅力に感じられて仕方がなかった。

 今ここにいる多くの人間が、15歳の少女に魅せられている。

 

 

 その光景は、彼女に流れる()としての資質も起因していたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 私アウラちゃん、15歳。

 

 何度か死にかけながらも無事に訓練兵団を卒業しました。予想以上に体力がなくてヒィヒィ言っていましたが、それでも屍にならずに済んだ。もちろん吐く時は、皆の衆がいないところでキラキラさせていましたよ。美少女ちゃんのイメージを崩すわけにはいかなんでね。

 

 身長も三年でかなり伸び、地獄の訓練の中筋肉も多少ついた。見た目はお母さまの美人な顔立ちにより近づいたと言えましょう。それでもやはりユミルちゃんにそっくりですが。えっ?胸はどうなったのかって?

 

 ……実は私、一度試してみたいことがあるんです。兵士になって当然のようにブレードの使い方を覚えたんですが、対巨人を想定してでしか使っていなくてですね。えぇ、そうです。人間に使ったらどうなるか試してみたいんです。

 

「ブレードフェラ」────実にいい響きですよね?舌や歯や肉や脊髄をブレードでかき混ぜたらどうなるでしょうか。実にイイ表情をしそうですよね。された、人間は。

 

 

 

 閑話休題。

 

 結局何度か死にかけましたが、ユミルちゃんに会うことはできませんでした。生死の判断ラインが厳しいのか、それとも猫のように向こうが気まぐれなのか。まぁ、そこは私の力ではどうにもならないので、ひとまず置いておきます。

 

 

 して、問題はここからです。

 

 調査兵団に入ることができ、次回初めて同行することになる壁外調査。新兵が初の壁外遠征で生還できる確率は、5割程度と低い。力を付けたはいいものの、どこまで通用するのかはわからない。実際に巨人(本物)と闘ってみなければ。

 

 私は体力は平凡だが、瞬発力や機動力は高い。また体重も筋肉がつきにくい分軽めであるので、素早さもある。状況把握や処理にもそれなりの適応はある。仲間内との連携も培ってきたつもりだ。

 

 それでもやはり、これからどうなるかは運命次第だろう。

 

 

 そもそもお父さまの話が本当であれば──というか幼少期の私が目撃しているのですが、お父さまが巨人化して壁の世界へ向かっている時、巨人は襲って来ず静観していた。

 

 それも「始祖の寵愛」によるものだ、とお父さまは推測されていた。

 

 調査兵団になって壁外調査に出て、巨人が私を襲ってこない──なんてことはないですよね、ユミルちゃ…ユミル様?でないと、不審に思われたアウラちゃんが尋問・解剖(らめぇ♡)されてしまいます。

 

「寵愛」というのは自身を例に挙げれば、好きなあの子の笑顔だけでなく、泣く姿を見てこそ()()()()だと私は感じている。

 

 なのでユミルたそは、私が巨人と戦い苦戦するところをネッチョリしながら見ていておくれ。

 

 しかし一度はケガをして、お父さまやカルラママにエレンきゅん、それに団長のキースおじさんに心労的負荷をかけたい。腕の一本くらいは失ってもいいですが、そうすると戦えなくなってしまうので、骨を折るなどが望ましいですね。いずれタイミングよく巨人に捕まってケガをしましょう。

 

 

 

 

 

 そうした不安は色々ありましたが、卒業して間もなく私は一団員として壁外調査に赴きました。

 

 行く前に家族の元には一度顔を見せましたが、お父さまとは仕事の都合でまた会えませんでした。

 

 代わりに大きくなったエレンきゅんを抱っこして胸いっぱいに吸い(全力で抵抗された、思春期か?)、カルラママも嬉しそうに笑っていた。すぐに壁外調査に行くのを知ったら、カルラママは落ち込んでいましたけど。

 

 対しエレンきゅんは、カルラママ曰く、三年の間に私の姿を追って調査兵団に憧れを持つようになったらしい。ついでに「調査兵団を諦めるよう説得してほしい」とも頼まれた。

 

 随分ツンツンしてるけど、お姉ちゃんがいない時はデレデレするとかかわいいな?ついと自由の羽の刺繍がされたマントを見せれば、瞳を輝かせた。けど、すぐにそっぽを向いてしまったところもかわいいな?

 

 後でお姉ちゃんがケガしてくるから待ってろよ!

 

 

 

 そして、壁外を移動中。

 

 馬を走らせながら目に留まるのは、金髪の分け目が気になる男性。その人物とは、明らかにキース団長より有能そうなエルヴィン分隊長である。現時点ですでに、次期団長は彼に決定している。今は団長の右腕ポジションと言っていい。

 

 エルヴィン分隊長の班は、毎回死者が他の班と比べて圧倒的に少ない。幸い私は彼とは別の班だ。

 

 

 使()()()()()()()()というのはそれだけ、周囲の不幸が減ってしまう。私としては実に美味しくない。

 

 人が巨人に食われる様を見るのは初めてではないですが、やはり人類のために命を掲げていく者たちが、最期にどのような表情を浮かべて死ぬのか早く見たい。

 

 ちなみに初回で見たのは、曹長殿が復権派の人間を蹴落とし、生きたまま巨人のエサにさせていた時である。

 

 当時はお兄さまの悲劇でしか輝けなかった未熟クソ幼女ちゃんでしたので、惜しいことをしました。

 もっと早くに曹長殿の言葉を聞いていれば、私はお兄さま以外の人間の悲劇に、価値を見出せたというのに。

 

 

「えっと…よろしくなイェーガー新兵!若い上に、成績上位者9位の人間が入ってくれたのはとても心強いよ」

 

 私の班の分隊長の男が声をかけてきます。エルヴィン分隊長と比べたらよっぽどモブの印象しかない。

 しかし美少女アウラちゃんは「天使」ムーブで微笑みました。

 

「よっ、よろしくお願いします、分隊長!」

 

 年齢や性別はともかく、他の成績上位者が憲兵を選んだ中調査兵団を志願した私は、すでに調査兵団内でうわさになっているようだ。

 

 まだ新兵であるので、組まれた陣形の私の配置位置は一番安全なポジション。他にも調査兵団を志願した同期もいるが、大半は緊張で顔を強張らせている。そりゃあ死ぬかもしれないしな。

 

 

 一応キース団長に視線を送ってみるが、最初に新入りたちに向けた激励の言葉を賜っただけで、個人的に話はしていない。

 

 しかしハンネスおじさんなどから、私がキースおじさんに憧れ調査兵団に入った(嘘)情報は、既に得ているだろう。

 

 元友人であるお父さまの娘でもあるので、思うところしかないだろう。そうして団長が苦しむ分私がニッコリできるので、とても美味しい立ち位置です、本当。まぁ団長でいらっしゃる方ゆえ、私情と仕事はきっちり分けているでしょう。

 

 

「前方より巨人接近!数は──ー」

 

 

 早速巨人が来た。数は二体。一方は3m級で、もう一体は10m級だ。

 現在地は森に囲まれた場所。立体機動を使うには適している。

 

 団長の言葉と共に一斉に周囲が臨戦態勢に入る。

 

 あぁ、とてもドキドキしますわ私。何人、何十人の兵士が此度の壁外調査で死ぬでしょう。彼らの命は巨人に奪われ、最後は嘔吐物となってみんなと混ざり合った肉塊になる。

 

 どんな表情で、どんな声で、どんな気持ちで彼らは死んでいくでしょう。

 

 その最期を、人間の一生の中で()()()()()()その姿をぜひ、この私に見せてくださいませ。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「いやっ、私まだ、死にたくなッ───」

 

 

 ────ハァ、これが「生」なのです。

 

 私が今生きていることを、死にゆく者たちの悲劇を以って、感じさせていただきます。

 

 

 

 最初の二体を倒したと思えば、また新しい巨人が現れる。兵が一人一人と、頭を食われ、腕を噛みちぎられ死んでいく現状。

 私は班員と連携しながら巨人を狩ります。必然とブレードの鞘を握る手に力が入った。

 

 鼓膜を震わす悲鳴、絶叫、懇願。

 

 視覚に映る涙を流す男の兵士、身体の一部を食いちぎられ失禁した女の兵士。その他にも倒錯してしまう光景。

 

 こんなにも私に合う天職はありません。少なくとも壁の中で生産者の一人として生きていては、一生感じることのできない魂の躍動。

 

 思わず歪みそうになる顔を堪え、アンカーを巨人にかけ瞬時に近づき、うなじを削ぎ落とす。そのまま近くの太い枝へと移動し、不意に空を見上げた時。

 

 青い空が、広がっていた。

 そう言えば私の前世らしき記憶で見たのも、青い空だった。手を伸ばしても、届かない。私には掴めない空。

 

 それがとても美しく、視界の端に飛ぶ巨人の血、あるいは人間の血がこれまた私の心を満たす。

 

 

 まさに残酷で、美しい世界。

 

 そんな世界で私、アウラ・イェーガーは、生きている。

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