ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

19 / 116
三章。ギャグと曇りと鬱を混ぜた楽しい章になります(?)
サブタイが結構お気に入りの19話です、ドゾ。


【三章】ドロドロ編
前妻と後妻とそれから悪化(アッカー)マン


 私、アウラ・イェーガー、16歳。

 

 壁外調査から帰り、その他次回の壁外調査のミーティングやシミュレーションを模した訓練などを行い、久々に取れた休日。

 

 調査兵団は外への調査がメインの兵団とは言っても、その他やることは色々ある。兵団維持の資金繰りをしたり、兵器開発など割と多忙だ。特に鍛錬は訓練兵を卒業してからよりハードに行っている気がする。

 

 ちなみに基本の住居は寮だ。

 

 これは一つ怖い話ですが、寮に入っているといつの間にか、いたはずの人間が減っているんです。一人、二人、三人……。彼らはどこへ行ってしまったのでしょうか…。怖いですねぇ。

 

 

 

 ブラックジョークはさておき、久しぶりにお家に帰った私は玄関を開けて固まった。家族をビックリさせようと黙って来たんですが、まさか私がビックリさせられるとは思っていなかった。

 

「……誰」

 

 こちらを見て、小さく口を開いた黒髪の美少女。あまり見かけない顔立ちの子に、混乱が止まらない。

 カルラママは洗濯物へ行っているようでおらず、エレンきゅんの姿もない。

 

 女の子の手には包丁が握られており、もう片方の手はネコの手で野菜を固定している。

 いや、本当に誰だ。え、あ、まさか………!!

 

「…あれ、姉さん帰ってたの?お帰り」

 

「あわわわ」

 

「姉さん?……!この人が、エレンのお姉さん?」

 

「はわわわ」

 

「そうだよ、ミカサはまだ会ったことなかったっけ?」

 

「ない……はじ、初めまして…」

 

「あばばば」

 

「…さっきからうるせぇな姉さん!!」

 

 エレンきゅんはどうしていつもお姉ちゃんに優しくしてくれないんだ。最近出会ったらずっとツンツンしかしない。

 じゃなくて、この女の子は「ミカサ」というのか。ミカサちゃんは…エレンきゅんと同い年くらいだな。

 

 しかしまさか、そんな……。

 

「……おや、帰っていたのかいアウラ」

 

「!」

 

 ちょうど自室から現れたお父さま。会える機会が最近めっきり減っておりましたので、嬉しゅうございます。また少し老けたみたいだな。これも巨人化の影響なのだろうか。

 

「十三年」の寿命を考えても、お父さまに残された時間はあと少し。相変わらずユミルたそは出てきてくれないし────ですから、今はそうじゃなくて。

 

 

 

「隠し子とはどういうことですかッ!!!」

 

 

 

 カルラママにも、お父さまにも似ていないミカサちゃん。私やカルラママとはまた別の系統の美少女具合に、母親はきっと美しい人なのだとわかる。

 

 グリシャ・イェーガーとカルラ嬢をくっ付けた私が言うのもなんですが、いくらなんでも妻が生きていながら他の女性とその、あの……そういう行為をなさるのはどうかと思います。

 

 温厚なダイナお母さまだって、これを知ったらビンタからのホールド技(ジャーマン・スープレックス)をするに決まっている。

 

 

 しかしカルラママがいるはずなのに、ミカサちゃんも同居しているということは、他所で子を作っていたものの、母親が死んでしまったので預かった──ということでしょうか。何とカルラママは寛容なのだ。

 

 信じられません、信じられませんよ、お父さま。お兄さまや()、エレンきゅんという子供たちがいるというのに。

 

「隠し…………アウラ、お前は今とてつもない勘違いをしている」

 

「信じられない、近づかないでお父さん…」

 

「姉さん、ミカサは…その、色々あってうちにいるんだよ」

 

「………」

 

 ミカサちゃんは付けていたマフラーに顔を埋めるようにして、下を向いてしまった。いけない、恐らく母親を亡くしてしまった過去があるというのに、心の傷を抉るようなことを言ってしまった。それにしてもミサカちゃんの曇り顔かわいいな。

 

「少しこちらへ来なさい、アウラ」

 

 お父さまに連行という名の腕を引っ張られ、連れて行かれる私。

 

 後ろを見ましたがエレンきゅんがミカサちゃんの背をさすっていて、明らかに私が悪い状況が出来上がっている。仕方ありません、過去に起こってしまった──あるいは起こしてしまった結果の心ないし身体の傷というものは、とても重いのですから。

 

 お父さまが隠し子を作っていた事案のように。

 

 

 それからお父さまの自室に連れて行かれた私は、ミカサちゃんの事情について聞きました。

 

 曰く、最近彼女の両親が亡くなり、我が家で引き取ることになったそうです。事件については大まかに聞きましたが、山奥に住む東洋人の血を引くミカサちゃんとその母親を狙った人攫いであったらしい。

 

 お父さまがエレンくんを連れ診療に訪れた際、夫妻の死体を発見し事件が発覚。母親については抵抗したため犯人が殺してしまったようだ。

 

 その後お父さまが息子に麓に戻るよう言い、憲兵団を呼びにいっている間に、エレンくんは勝手に行動。そして犯人の男三人に捕まった後、ミカサちゃんと協力して三人を殺害。

 

 憲兵団がこの事件を処理したが、犯人側の人攫いを目的とした殺人──という極めて残忍な手口から、子供たちは正当防衛としてお咎めなしとなった。殺さなければそのままミカサちゃんは売られ、薄汚い野郎どもの所有物になっていたに違いない。

 

 エレンくんもミカサちゃんの救出に失敗していれば殺されていた。本当危なっかしい弟ですね。

 

 

「……エレンが悪人ではあれど人を殺めてしまったことについては、あまり驚かないのだな」

 

「驚くも何もお父さん、わたしは生きるか死ぬかの瀬戸際をよく知っているもの。エレンくんとミカサちゃんの行動はむしろ「()()()()()」と称賛したい。それにわたしの方がよっぽど人間を殺している」

 

 巨人の元となったエルディア人たち。名も知らぬ同胞を殺すことに罪悪感もクソもないですが、素材が人間である以上、私の行動は人殺しと言っていい。

 

 お父さまが人を救っているなら、私は人の命を奪っている。

 

「………」

 

 お父さまが無言で俯いた私の背をさすってくれる。触れられた場所からジワジワ熱が伝わってくる気がした。家族の温もりが気持ちよくて、脈が早くなる。

 

 曇ったアウラちゃんに曇るお父さま。これだからやめらんねぇぜ、かわいそうな美少女ちゃんムーブは。

 

 

 

 いや、にしてもミカサちゃんの件。もしかしなくとも私の早合点でした。

 

 誰だよお父さまの隠し子だとか言ったやつ。───私ですね、本当に申し訳ありませんでした。

 

 

「ミカサの傷は深い。今はあまり、過去に触れるようなことはしないであげて欲しい。あの子の心の傷を癒すためにも、我が家で引き取ることにしたんだ。エレンについても同様だ。正当防衛とはいえ、人を殺めてしまったあの子らの精神は、多かれ少なかれ不安定になっている」

 

「…ごめんなさい」

 

「いや、お前は知らなかったんだ、仕方ない。まさか隠し子と思われるとは思わなかったが…」

 

「……ごめんなさい」

 

 自分の失言に先とは違い本気で顔を覆う。すると不意に、頭を撫でられた。

 

 きっと同年代の少女であれば嫌がる行為でしょう。だが私には思春期というものがないので、避ける理由もない。やさしい手付き。

 

 もう少しで味わえなくなる。寂しいですね、お兄さまとの繋がりを感じられなくなる。エレンくんはカルラ嬢に似ているから、尚更。

 

「ダイナの身長も、超えてしまったな」

 

「………」

 

「本当に大きくなった」

 

「………」

 

 無言で立っていると、抱きしめられる。幼女ちゃんの時はお父さまが簡単に抱っこできるほど小さかったというのに、本当に身長が伸びた。

 

 顔立ちも前髪を分ければよりお母さまに似るでしょう。普段は目元にかかるほどの長さになったら、ブレードで一気に斬っていますが。

 

「……お父さん?」

 

「…すまない、もう少しだけ」

 

 

 震えているお父さま。どうされたのだろうか。まるで怖い夢を見て目が覚めた時のような、そんな震え方。

 

 そうして顔を上げたお父さまの瞳には、私が調査兵団を目指す時に話したよりも、鋭い色が存在している。これは───重い覚悟、であろうか。

 

「何かあったの?」

 

「…いや、何もないよ。久しぶりにお前と会えたものだから、ついね」

 

「そう…?」

 

 何か隠しているのはわかる。しかし決して娘の私でも話すまいとする意志を感じる。

 

 思い当たるのは始祖の巨人か。その所有者を知ったから震えている?いや、それにしては様子がおかしい。始祖の情報を得たのなら、もっと喜んでもいいはず。

 

「アウラ、ひとつだけいいかい?」

 

「何、お父さん」

 

 真っ直ぐに私を見つめる父。

 

「いずれこの幸せが崩れることになっても、お前は、お前の道を進みなさい」

 

「え、どういう……」

 

「いいね、たとえ私に何があってもだ」

 

「……お父、さ」

 

 涙を流すでもなく、開いた瞳孔でお父さまは言葉を紡いだ。

 幸せが崩れる?私自身の道?それにお父さまに何かがあったらって、もしかしなくとも、それは。

 

 

 

「…楽園(エルディア)の、終わり」

 

 

 

 ポツリと呟いた私の言葉を、お父さまは否定することも、肯定することもなかった。

 

 どうやって知ったのかはわからない。それでもお父さまは何かしらの方法で、戦士たちが来ることを知ったのだろう。

 

 巨人の力の詳しい能力については知らないから考察がしにくい。人が中に入って操作することや、自傷での発動。あとは回復能力が人間時にもあることくらいしか。

 

 

 お父さまの力について知っているのも、巨人の名前だけ。「進撃」する、巨人。

 

 だからお父さまは、進み続けている。

 

 

「教えては、くださらないのね」

 

「……これは、お前が歩むべき道ではないからだ」

 

「…わかったわ、お父さん」

 

 私から、父をもう一度だけ、強く抱きしめる。

 

 壁の崩壊。戦士たち。お父さまの行く末。私の道。楽園の終焉。

 

 

 時は一刻と迫っている。ジークお兄さまは、きっと来る。私は私の道を進む。それはお父さまがご想像にならないような、血と肉と、誰かの悲劇でできあがった道。

 私の道は穢らわしい。それでも私は生きて、そしてその果てに自分の一生の幸福を掴めることを願います。

 

 

 壊されて、壊す。

 崩壊は、もうすぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 17歳となったアウラ・イェーガーは、普段は調査兵団として働いている。だが仲間が壁外調査に出ているその日、彼女は同行していなかった。

 

 

 というのも、アウラは以前の壁外調査で巨人に捕まりかけたキース団長を救おうと動いた際、ケガをしたのだ。

 

 調査兵団に入ってからいくばくか経ち、「新兵」ではなくなった彼女。

 

 二年弱生き残り続けているその実力は、着実に伸びている。討伐数・討伐補佐数は二桁に及び、精鋭としての地位を確立しつつある。

 

 

 しかし、前回の壁外調査でキース団長を庇った彼女は、右足を10m級の巨人に掴まれ負傷。

 

 すぐに身体を回転させ、巨人の手を切り抜け出して急死に一生を得たものの、右足を骨折。全治数ヶ月のケガを負った。

 

 骨折した部位が負傷前の状態に戻るまでに、おおむね3か月~6か月がかかるとされた。

 

 

 将来有望な力を失うことは、調査兵団としても惜しい。通常ならば完治まで、兵団お抱えの医者による治療となる。だがアウラ・イェーガーの父親がかの有名な「イェーガー先生」ということもあり、彼女は特例で自宅での療養となった。この決定を行ったのはキース・シャーディスである。幼い頃から少女を知る男としては、複雑な心中であった。

 

 グリシャはたしかに医者ではあるが、訪問診療を多く行っているため家に不在なことが多い。

 

 その点をわかりつつ斯様な判断を下したのは、アウラ・イェーガーを失わせかけた団長なりの──そして、かつての友人に対する想いがあったのだろう。

 

 

 当の本人のアウラとしては、過去最高のタイミング──団長が巨人に殺されかけている状況を救った──でケガができ、ホクホク顔だったが。

 

 むしろ、いつケガするの?今でしょ!な場面。行動に起こさない方がおかしい。

 結果キースや調査兵団の仲間、彼女の家族に至るまで、多くの者が曇った。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこともあり、アウラは現在、足の完治まで家で休養を取っている。

 歩くことは松葉杖を使えば可能なので、弟や義妹と遊んだり、母の手伝いをすることが多い。

 

 最初短い期間だが、共に暮らすことになるミカサとの距離感に彼女も悩んでいた。だが、少女が弟に特別な感情を抱いていることを彼女の言動から見破り、それを逆手に接近することにした。

 

 

 ────ミカサちゃんって、エレンくんのこと好きでしょ?

 

 

 弟が家を飛び出して遊びに行き、その後を追おうとした少女にアウラが言った言葉。

 それにミカサは瞳を丸くして、顔を真っ赤にさせた。あたふたと、手を少し左右に動かす。

 

 クソ少女──いや、害悪女としては面白いおもちゃを発見したも同然。それから弟のことでミカサの心を揺さぶりながら、彼女は少女と接近することを可能にした。もちろん本当の妹のように思いながら少女と接したので、一応は家族的な距離も近くなった。

 

 ただしミカサへの距離は一定を保っている。少女の内側にある()()に目ざとく気付いていたからか。

 

 

 似ている、と言っていいのかもしれない。アウラ・イェーガーと、ミカサ・アッカーマンは。

 

 無論クソのようなアウラの人間性が、ミカサと似ている──というわけではない。

 

 

 一人の人間に執着している点が似ているのだ。アウラならばジーク。ミカサならエレン、といった風に。

 

 近寄り過ぎれば何をされるかわからない。だが必要とあらばその地雷を踏み抜いてでも、害悪女は進む。全ては、愛するお兄さまと美しい人間たちの悲劇のためだ。

 

 

 

 

 

「あれ、薪拾いに行くの?」

 

 午前中、家で本を読んでいたアウラは、しょいこを背負った弟と義妹に声をかける。

 

「なんだよ、来なくていいから姉さんは」

 

「エレン、お姉さんにそういうこと言わない」

 

「いいよいいよ、二人で行ってらっしゃい」

 

 休養の期間暇なのか、しょっちゅうエレンについてくる姉。しかし今日は「NO」ときた。

 

 

「…来ねぇの?」

 

 少しいじけたような声を出す弟に、アウラは笑いながら手を振る。

 

 そして家を出て行く二人。彼女は義妹が扉を閉める瞬間、サムズアップし見送った。その合図に気づいたミカサもまた少し目を見開き、赤べこのようにウンウン頷く。

 

 なんだかんだで、アウラはミカサの恋を応援している。その上で────いずれ幸せ家族を崩壊させようと画策中だ。その時こそ、楽園が終わる時。

 

 仮に家族が壊れエレンの心が崩れても、ミカサが助けるだろう。さすれば二人の世界はより強固なものとなる。

 

 

 ────私って、実にいいお姉ちゃん。

 

 

 鼻歌を歌わんばかりに、アウラは本のページを捲る。

 いずれ来る、()()()を楽しみに。

 

 楽園が地獄へと包まれてもきっとこの悪魔だけは、心から喜び笑うのだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。