ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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また風邪引いた……この間インフルの接種やってきたばっかやぞ………死の(鬱)

即堕ち2コマ主人公の回。


幸福を喰らう

 森の中、聞こえるのは荒い吐息。「ハァハァ」と必死に酸素を取り込みながら、草を踏みつけ、落ちた枝を踏む音。懸命に走る正体は一人の少女。

 

 グレースケールで構成された世界を、少女は懸命に走り続ける。現実なのかも、夢なのかもわからない。

 

 何故自身が走ることになったのか、いつから走っているのかわからない。唯一わかるのは、後ろから何かが自分を追ってきているということ。それから逃げなければいけないということだけは、分かっていた。

 

 でなければ、自身の命が奪われてしまう。後ろを見れどもその正体は森の闇に隠れ窺い知ることはできない。

 

 

 少女はその時不意に、自分の右手が何かを握っていることに気づく。

 

 視線を向ければ、手が握られていた。少女と同じくらいの小さい、痩せた手。少女も同じように窶れており、繋いだ手の感覚は骨と骨がぶつかるように硬い。それでもこの手だけは離すまいと、少女は走り続ける。握った手から先はわからない。黒いモヤがかかり、顔や身体を正確に捉えることができなかった。

 

 

 少女は逃げた。逃げて、逃げ続けた。

 恐ろしい何かに身体を傷つけられても懸命に、生きようとする。

 

 

 だが先に力尽きた少女は、握っていた手の主の背を押し、逃げるよう言った。いや、言葉にはなっていなかった。それでも逃げて、生きて、と叫んだ。

 

 少女を残し、走り去っていく誰か。やはり姿形を正確に捉えることはできない。しかし森の隙間から照らされたきらめく髪の色と、少女をその中に閉じ込める空のような瞳は、しっかりと見えていた。グレースケールの世界に、その色だけは艶やかに生えている。

 

 その瞳と同じ青空を眺めながら、少女はゆっくり瞳を閉じる。

 身体から熱が失われていく感覚。流れ出た赤い血潮は少女から溶けて地面に染み込んでいく。その肢体の周りを数匹のハエが止まった。

 

 何かが近づいてくる。恐ろしい何か。少女に恐怖を与え、その命を奪わんとする何か。

 残酷な世界。けれど少女の上に広がる空は美しい。

 

 

 そうして肉体からこぼれ落ちた彼女の魂は、どこかへと沈んでいく。何も残らず、消えていく場所。真っ黒な世界だ。

 

 そんな最期でも、少女は自分と共に走っていた誰か──引っ張って連れていた誰かに、もう一度会いたいと願った。

 

 

 少女の全ては、その誰かであったから。

 

 少女はその誰かがいれば、それでよかったから。

 

 縦えそれで自分が不幸になろうとも、その誰かが幸せになれるなら、喜んでその身を捧げる少女。

 

 歪で、だがそれが少女の生き方だった。

 

 

 場面は変わり、暗い世界。そこからどこからともなく現れた巨大な何か。ムカデとも、エビのようにも見える異形。

 闇と同化しその輪郭は掴めない。その何かは上へ上へと昇り、そしてゆっくりと少女へ顔を近づけた。ぎょろりと飛び出た目。それが少女をとらえた瞬間、「ニィ」と笑った気がした。

 

 バケモノの口が開く。すると覗くのはバケモノの口の中。真っ黒だ。それも暗い世界と比較にならないほど、深淵の色。

 

 その深淵へと導くように、バケモノは少女を頭からすっぽり、その体内へと収めた。

 そしてバケモノはまた天上へ上がり、自身の尾を口で咥える。

 

 

 グルグルとソイツは、回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 私アウラちゃん。死んだの。えぇ、死んだの(二回目)。

 

 今はユミルたそがいる謎の世界にいます。例の如く全裸です。全裸美少女ちゃん。天使かな?

 

 

 明らかに戦士であろう子供二人を発見したまではよかったのだけれど、頭をぶつけたせいで意識が混濁していた私は、子供たちの言葉を完全に信じてしまった。バカなんですかね?死ねばいいの……あ、いや、死んでいたんだった。

 

 二人は「いるよ」と言ってくれましたが、そもそもお兄さまって誰ぞ?って話ですよね。というかお前誰だ、っていう話。

 

 せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。死んで冷静に物事を思い出しているからこそダメージが大きい。死ねばいいのに。死んでいるけど死ねばいいのに、私。

 

 

 まぁあの二人に「ジーク・イェーガー」の名前を出したとして、警戒しかされませんよね。お兄さまが私のことを他の戦士たちに言っていたのかはわかりませんが、攻め込みにきた場所の兵士らしき人間が仲間の名前を出したら、戸惑うに決まっている。

 

 いや、下手すれば壁内に繋がりを作っていたとして、お兄さまが要らぬ疑いを抱かれてしまうかもしれない。

 

 ……最後にお兄さまの名前を言ってしまったんですが、どうしよう。死のう。死ねない。何故死ねないの?死んでるからだよ。

 

 

 あぁ、あの二人がお兄さまに疑いを持つ前に、殺してしまえばよかったのだ。しかし死んでいる以上殺せない。そも巨人化能力を有する人間二人に、私が敵うはずもない。

 

 お兄さまに会いたかっただけなのに。そしてあわよくば殺してもらうか、くんずほぐれつしたかったのに。

 

 家族の崩壊を成し遂げて最高にハイだった気分が、一気に地獄だ。

 

 

 それにしても、あの巨人の餌コースひどくなかったですか?美少女ちゃんをあんな肉塊にしちゃうなんて。やたら巨人が近寄ってくるとは思っていましたが、私の魅力にメロメロだったのでしょうか。

 

 昔マーレにいた際、本で読んだ東洋に位置する「ヒィルズ国」に生の魚をそのままの形であったり、捌いて食べる“おどり食い”なるものがあるらしいですが、まさしく巨人のごちそうになっている時の私そのもの。

 

 アウラちゃんは美味しかったんですかね?お兄さまに食べられるなら、美味しい私の方がいいですからね。

 

 

 ダイナお母さまの胃に収まった時は、死んでいたのか生きていたのか曖昧ですが、リボーンさせていただいた。

 

 ですが、そう何度も生き返らせてもらえるとは思っていません。この世の理とか、そういった小難しい部分に魂が引っかかりそうで怖いのです。

 

 というか私が死んだままの方が、あの二人の戦士のことを踏まえると都合がいい。

 

 仮にお兄さまの名前を呟いた女を怪しく思ったとしても、普通は「ありえないか」で済ます。こちらの名前を知られていないので、なおよし。このまま生き返って再会し、その上名前まで知られてしまったらそれこそ危険だ。

 

 私の事情を話せば、少しは違ってくるのかもしれませんが。

 

 復権派だった両親とともに楽園送りにされた幼女ちゃん。当時4歳にもなっていなかったので、「よく覚えていない」で十分通るでしょう。ただ壁内へ来る方法は飛行船でも使わなければ、巨人化する一点だけ。

 

 私か、その近辺の人間が巨人化能力者だと疑われかねない。であれば最初から、父親が巨人化能力者だと伝えた方が話がこじれないか。

 

 父親が復権派だった点と、囚われた父と私を救った人物がいる=フクロウの存在。その男から力を手に入れ、父は私を連れていった。

 フクロウが逃したとしないのは、父と私を生かす理由が何故あったのか、という疑問が起こるため。

 

 グリシャ・イェーガーが力を継いだのだとすれば、私を連れてきた理由になる。またアウラちゃんは、ただの父親の被害者なんだ──と印象を植え付けられる。完全に身の潔白を証明するのは難しい。幼い頃の記憶がほぼないながら、詳細に父やフクロウのことを語れるのですから。

 

 むしろ完全に()()の方が、却って怪しい。過去について知った理由は、私が大人になった時に聞いた──など、いくらでも理由は繕える。

 

 

 それに向こうはマーレ(同郷)の人間。そして、お兄さまのような複雑な事情を持つ者たちからなるエルディア人の戦士。不遇な私に同情するとは言わない。けれど少しは感情移入をする。完全に感情を動かされないなど、それこそサイコパスですから。

 

 街を見ていた少年と少女の目を見てもわかる。多くの人間を殺すおいし───悲惨な結末を作り出し、それに並々ならない罪悪感を抱いていた。

 

 あの、表情。とても愛らしい自分を責める彼らの表情。

 

 マーレも酷なことをする。何が良いのか悪いのか、完全に物事の善悪を理解していない子供たちに殺戮をさせるのですから。私的にはありがたいんですけどね。無数の悲劇が生まれるので。

 

 そんな彼らの感情を揺さぶるのも、難しいでしょうが不可能ではない。むしろ演技派であり、多くの人間の不幸を作った経験がある私だからこそ、可能。

 

 

 

 

 

 まぁ、死んだのでもう何を考えても仕方ないんですが。ユミルたそも久しぶりにこの砂と光の柱の世界に私が来たというのに、出てきてくれないし。

 

 試しに名前を叫べば来ますかね?個人的にお兄さまの寿命を伸ばすことを優先して、巨人のおどり食いはちょっと痛かったと言いたい。殺すならもっと一気にやって欲しかった。ジワジワ食われるんですもの。

 

 

「────ユミッ」

 

 

 立ち上がって声に出そうとしたら、いつの間にかいました。それも、隣に座って。

 

「……久しぶり、ユミル」

 

 こちらを見上げるユミルたそ。じっと見つめられ、自分が素っ裸ということもあって少し、その、居た堪れなさを覚える。私は羞恥からほど遠い人間ですが、流石に見つめ続けられると恥ずかしくもなります。

 

 というかユミルたそ私の胸の方見てないですか?喧嘩売ってるんですか?

 

「……その、えっとね」

 

 一先ずお兄さまの寿命の件を話す。しかしテレパシー的な感じで伝わる返答はなし。相変わらずこちらをじっと見つめるのみ。

 仕方なしとおどり食いの件を出したら、それらしい回答は返ってきた。

 

 以前私が初めてのおつかいならぬ、初めての壁外調査に行く前、ユミルたそにお願いした件。

 

 

 ────私が巨人と戦い苦戦するところを、ネッチョリしながら見ていておくれ。

 

 

 ユミルたそは約束を守ってくれたわけです。それを自分で頼んでおきながら、私は文句を言おうとしていたわけです。

 

「……ごめんね」

 

 ユミルちゃんは無反応。その代わり膝を擦るように私に近づいて、押し倒してきた。私の身体は少しの力で、特に抵抗感も起こらず砂の上に倒れる。

 

 

「え?」

 

 

 ……え、押し倒した?

 

 何これ?えっ?アウラちゃん急展開に追いついて行けてないんですけど。願わくば初めてはお兄さまがよかったのだけれど。そもそも女の子同士でそういうことってできるの?教えて、お父さま!「どうやってあかちゃんはできるの?」と聞いて、口に含んでいた飲み物を吹き出したお父さま。あの時のお顔、最高でした。

 

「ま、まま、待って!私にはその、お兄さまが……ジークお兄さまがッ………」

 

 そのままユミルちゃんの顔が近づく。至近距離で見ると本当に私と似ている。

 想像できてしまう次の展開に、目を強くつむった。

 

 

 するとコツンと、額に感触。

 

 

 驚き目を開ければ、ユミルちゃんの額が私の額にくっ付いている。

 

 視界の映る金髪が私の顔にかかって、キラキラ輝く。すぐ近くにある瞳はキレイだ。今にも吸い込まれてしまいそう。蒼くて、空のようでも──宝石のようでもある。

 

 そしてその瞬間、火花のような、ぶつかった額から強い衝撃が起こった。それは直接脳に伝わり、脊髄を通って身体全体を痺れるような感覚に陥る。思わず衝撃に身体が跳ね、視界がチカチカした。

 

 何かが見える。何だ?

 

 

 結晶で覆われた不思議な洞窟。そこにいる白い装束をまとった人間たち。その反対にいるのはお父さま。

 

 まるで自分がそこにいるかのように俯瞰的に、洞窟の中に反響する声や、人々の息遣い、姿が鮮明に映し出される。

 

 白い装束、「レイス家」と呼ばれる人間たちの中央、美しい顔立ちの女性に話しかけるお父さま。

 

 壁の王──「始祖の巨人」を持つ人間が、その女性らしい。視点は唐突に変わり、座り込むお父さまへ向く。どうやら周囲の会話を聞くに、この視点はユミルちゃんのものらしい。

 

 どんどんメガネをかけた顔へ近づいて、額同士がくっつく。そして、みるみる内に変わっていくお父さまの表情。

 

 様子から、ユミルちゃんに巨人に食われる私の死体を見せられたらしい。時系列にこの状況は、私が食われてからしばらく経った後。お父さまや白装束の人間たちが、壁の崩壊から多少時間が過ぎたことを話に出していた。

 

 

 

 

 

「あはぁ♡」

 

 

 

 

 

 なんて、なんて表情をなさるのお父さま。そんなお顔をされたら私、おかしくなってしまう。元々おかしいのに。ジークお兄さまでしかおかしくなれませんのに、おかしくなる。

 

 漏れ出る自身の吐息。ひっきりなしに出る喘ぐような、艶めいた声。

 

 目頭が熱くなり、身体が震える。ビリビリと、その感覚に耐えきれず口元を抑えた。息がまともにできない。身も心も最高に気持ち良すぎてどうにかなりそう。

 

 

「ははっ、ふふ、は、はぁ……は、ふふふ」

 

 

 私が死んだことに絶望なさったお父さま。何を考えているかは分かりませんが、自傷する前に見えた表情は明らかに心が壊れていた。

 

 愛する娘を失ったお父さま。

 使命の中で、私という存在に依存していたグリシャ・イェーガー。

 

 あぁ、大好きです、大好きです大好きです、大好きです…♡♡

 

 

 私に微笑みかけたお父さまも、娘に好きな意中がいると見せかけた時静かに焦りを見せたお父さまも、危ないことをすれば冷静に怒ってくださったお父さまも、幾度となく見た涙を溢すお父さまも────全て、全て、全て、大好きでございます。

 

 

 映像は続き、お父さまはエレンくんを巨人にし、「進撃」の力を託した。

 

 痛みに呻くこともなく食われていく。骨の砕かれる音が、肉を咀嚼する音が聞こえる。上から眺めていたその視点で不意に、目が合った。お父さまは空な目で、手を伸ばす。声に出せないながら口元が私の名を形作っていました。

 

 この時、今彼の前にいる人物はユミルちゃんではなく、本当に私なのでしょう。

 

 

 気付けば私もまた手を伸ばし、大きな手を掴んでいた。

 

 それにお父さまは、幸せそうに一瞬微笑んで。

 

 次の瞬間「ブチッ」という音と共に、掴んだ手が落ちた。

 

 

 あぁ。

 

 ────あぁ。

 

 

 

 ユミルちゃんの顔が離れる。「家族」を壊した時以上の感情の絶頂。呆然と、溢れる唾液も気にすることができない。

 ふわふわと身体が漂う。この絶頂のまま身体も心もドロドロに溶けたのなら、どれほど幸せなのでしょう。

 

 

「お父さま、私もお父さまのことが大好きで、大好きで、大好きですよ」

 

 

 ボロボロと涙が溢れる。お父さまがもういないという現実が、私の()()()()()()()()()に触れてしまったらしい。

 

 悲しみと、絶頂と幸福の中で、口角が歪に上がっていく。

 

 

 ありがとうユミルちゃん、キャッチボールするお兄さまを見せてくれた時並みに感謝しています。こんな悪魔にご褒美をくださり過ぎではないでしょうか。もちろん対価として何を求めても構いません。ユミルちゃんの独断行動であっても、結果私が絶頂に至ったのですから、何をされても喜んで受け入れます。

 

 するとユミルちゃんは徐に私の手を引っ張り、座らせる。ついで寝転がると、私が曲げた膝の上に頭を乗せた。

 

「こ、これが代価でいいの?」

 

 彼女は反応せず瞳を閉じて、そのまま眠りの体勢に入った。このままではご褒美をくださったユミル大先生に申し訳が立たないので、なるべく睡眠の邪魔をしないようにしながら、頭を撫でた。

 

 そして私もまた瞳を閉じる。きっと今回も死ねないのでしょう。現実に戻った後のことはその時考えるとして、今は彼女と共に過ごすこの時を心に刻もう。

 

 

「…お父さま」

 

 

 私とエレンくん、そしてお兄さまを作ってくれてありがとう。

 どうかお母さまとカルラママの板挟みにあいながら、ゆっくりとお休みになってください。




【どうしよ】


砂と光の柱の世界。死んだはずのグリシャの前には今、前妻と後妻がいた。つまりダイナとカルラである。
先ほどまで精神が死んでいたはずであるのに、冷や汗が止まらない。

「気づけばここにいたんです、あなた。そうしたらこの方ーーカルラさんと出会ったんです」

「ダイナさん本当に綺麗よねぇ…アウラとすごく似てるわ」

「………」

しかも、長年の親友のように仲良くなっている。お互い息子や娘の話で盛り上がっていた。

この謎の世界は何だ、そも何故二人がいるのか?とグリシャが考える暇もなく、二人の奥方は一歩、座り込む旦那に近づく。それはそれはもう、清々しいほどの笑顔で。

「ところで、あなた」

「ちょっといいかしら、グリシャ」

「………はい」


前妻と後妻のスーパー問いただしタイムの幕開けだ。

ダイナは後妻について。
カルラはもう一人ジーク(息子)がいたことを黙っていたいた件について。


そしてクソ少女が見ればニヤニヤする状況を作り上げた一人の少女は、真顔でその様子をこっそり眺めていた。
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