ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

28 / 116
一万字超えちゃった回(白目)
当作のハンジさんは女性で固定してるので悪しからず。ビッグエレンとイチャイチャ♡していた時ミカサがガン飛ばしてたり、しずかばりの「エレンくんのえっち!」って言ってるし、兵長がやたら見つめているし………ねぇ?(しゅき)


私の側に近寄るなァ────ッ!!

 久々の壁外調査から帰還した美少女──いえ、美女はだぁれ?そう、私ことアウラ・イェーガーちゃんです。

 

 エルヴィン団長の下で動くのは何気に初。団長が考案した対壁外遠征用の陣形を頭に入れ込み、右翼側の班で時折「ドキドキッ!巨人(あの子)と壁外デート♡」をしながら馬を走らせた。

 

 今までは巨人と遭遇したら戦うか逃げるかの二択でしたが、団長が考案したやり方では戦う必要性が減り、放たれた煙弾の色で場所を把握し巨人を避けるように進んで行くので、死者や負傷者が大きく減ってしまいました。非常にショックです…。

 

 しかし完全に被害がないわけではなく、およそ三割程度の被害は受けた。その被害の多くは、煙弾で避けて対処することのできない奇行種によるもの。

 

 通常種ならまだしも奇行種は行動が予測できない以上、遭遇した場合は狩るしかない。

 

 思い返せば、美少女アウラちゃんを壁の後ろから狙って♂いた巨人も奇行種。ユミルちゃんが恣意、あるいは意図的に操った可能性もありますが。

 

 お父さまの絶望顔を拝むためだったら安すぎたものですね。思い出してきたらアヘってしまいそうです…♡

 

 

 と、人格が疑われそう(今更)な内容を思い浮かべながら、その日私は遭遇した奇行種一体を狩って帰ってきた。

 

 ウォールマリア陥落から一度目の壁外調査。高まった調査兵団の重要性に、いつも以上に増して視線が多いです。私は相変わらず容姿が目立つので、フードをかぶり馬の手綱を握って歩きます。

 

「あ、あの、エルヴィン団長…!う、うちの息子は……」

 

 毎度のことですが、我が子は何処へ?イベントが発生。

 

 キース団長は毎回顔が死んでいて、しかも成果が残せぬ自身への葛藤も見られうま味でしたが、エルヴィン団長は……若干死んでいますがそれでも瞳孔の光は残っていますね。真っ直ぐに前を見ている。精神強者かな?

 

 どうにか団長の曇った表情も見てみたいんですが、コレは強敵そうですね。他の分隊長クラスも動じていない。

 

 というかあのハンジ(変態)に至っては、奇行種と追いかけっこができたようで、絶頂している。暗い表情をしているのも親しい仲間を失った者や、巨人の恐怖にチビっている者だけで、ごく僅か。

 

 私自身も力を隠すことができなくなってしまったので地獄。倍以上に疲れる上、同じ班の死者はゼロ。ひどいよっ…こんなのあんまりだよ……!!(鬱)

 

 

 自分の「生」を感じることができず、お兄さまの代わりに、依存対象にしていたお父さまも亡くなってしまった日々。このままではクソ(アマ)ちゃんは気が狂れてしまいます。

 

「アウラ、今日君も奇行種と遭遇して、しかも単独討伐したんだって!その時の状況を詳しく教えてくれないかな?」

 

 本部に帰ってお仕事頑張った、と思ったその夜、ハンジ分隊長が来ました。……ケテ……タス…テ…。

 

「だ、誰からそれを…」

 

「エルヴィン団長がリヴァイと話しているのを聞いてね。君は私がヒラの兵士だった頃から巨人討論に付き合ってくれた仲だ!同志がいるのは実に喜ばしい。君も同じ四班だったらよかったのに、残念だなぁ…。またエルヴィンに掛け合ってみよう」

 

「はは…」

 

 付き合ったのは、表向きはいい子ムーブをしていたからですね。一度地獄を味わって以降は上手く躱していたんですが、逃げられない事情ができてしまった。

 

 そう、私はこの人と同室なのである。同 室 な の で あ る(大切なことなので二回ry)

 

 

 元々は彼女一人の部屋だったのですが、私が一年前戻ってきた際女性の部屋が空いていなかったので、ここに入れられた。分隊長や団長クラスになれば一人部屋をもらえるので羨ましい限り。

 

 部屋が同じになった理由は一つ、ほとんどハンジ・ゾエが部屋を使っていないからでしょう。

 

 一ヶ月に数度しか来ない上、大抵寝る以外に使うことはない。置いてあるのは多少の私物くらい。ならば彼女が普段どこにいるのか?答えは研究室。そこが実質彼女の部屋だ。

 

 だが同室な以上、どうしても時折『あ! やせいのハンジが とびだしてきた!』となる。そして彼女の精神状態次第で、巨人討論(バトル)が始まる。

 

 私は何度もやせいのハンジにバトルを申し込まれ、断りきれず負けてきた。今日もまた避けられそうにない。いい子ムーブ辞めていいですか?

 

「さぁ、語り合おう!今日は私が今度エルヴィンに提案するつもりの対巨人捕獲作戦についても、君の意見が聞きたくてね。それと────」

 

 

 たすけて。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 休みだ!お兄さまの元へ行こう!

 

 ───と思っても、いないんですね。代わりにエレンくんの元へ行きたいですが、開拓地に行ったところで労働者の勤務時間中は会うことができない。本部から開拓地まではそこまで遠くはないんですけどね。

 

 というかあまり行っていると、「コイツ仕事サボってんじゃないか?」とエレンくんたちの好感度が落ちてしまいます。だから会うのは偶になくらいがちょうどいいんですね。

 

 ゆえに近場の街で時間を潰すことにしました。

 

 装いは長袖の白シャツに青みがかった薄い緑色のロングスカート。その上にフード付きのサイズの大きめなコートを羽織って出かけます。実際休日のお出かけはほぼお兄さまを探して彷徨う旅なんですが、会えたことは一度もないですね。死のうかな。

 

 

 しかし…いやはや、口減らしがあってからいくらか経ちましたが、まだ街の雰囲気は暗いです。これは今日のメシが美味くなりますよ。

 

「…ん?」

 

 人が混雑している中、通りすがりの子供が果物を一つ落とした。拾いそれを渡そうと振り返れども、フードをかぶった子供はバスケットを提げたまま路地裏へ入っていく。

 

「………」

 

 赤いりんご。見た目は真っ赤だが、中身は白っぽい。甘くて美味しくて、偶にすっぱい。

 

 落ちた衝撃で表面が少し傷ついたそれを見つめ、私は子供を追うことにした。あちらはどんどん路地奥へ入っていく。時折隅でうずくまっている人間が、りんごに視線を向けてきますが無視。

 

 

「これ、落としたよ」

 

 路地の奥。人もすっかりいない。帽子をかぶった子供に声をかければ振り返る。冷えた青い瞳は、うっかりしたら舐めまわしたくなるくらいにはキレイだ。

 

 

「……ありがと」

 

 

 さてどう出てきますか、愛らしき美少女戦士さん。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「アニちゃんって言うんだ、よろしくね!わたしはアウラ・イェーガーって言うの」

 

 

 仲良く隣り合わせで、女と少女が座っている光景。

 

 

 できることなら、二度と会いたくなかった。

 

 アニ・レオンハートは隣で半分のりんごを齧る女───アウラ・イェーガーを見て思う。女の口元からは果汁が溢れ、顎を伝って下に落ちる。

 

 それを舐めとる仕草は同性であるアニが見ても色っぽく、大人の色気を感じさせる。これが男ども二人だったら、鼻の下を伸ばして見入っていたに違いない。特にゴリ……ライナーならば。

 

 

 彼女とベルトルトが遭遇した女と会う機会を窺っていたアニは、ここしばらく調査兵団近くの街にて、女が外に出るタイミングを探っていた。

 

 そうしてようやく訪れた好機。普段着で休みを取る女を追い、偶然を装い買っておいたりんごを落とし、女を路地裏まで誘き寄せた。ちなみにりんごを買った金は盗んだものである。

 

 果物についてはアニたちがいる開拓地の領主から頼まれ、買ったものとした。

 

 落ちたものは傷んでしまい渡すことができないからと、アウラに渡してある。りんごを少女から貰ったアウラはキョトンとし、半分に割って傷みが少ない部分を、アニの手に握らせた。

 

 

「………」

 

「やっぱり食べづらいかな?だったらわたしが新しいのを買ってくるね」

 

「いや、大丈夫。二、三個ぐらいなら食べてもバレない」

 

「じゃあ食べちゃいなよ、アニちゃん。今のうちに食べておかないと、大きくなれないからね」

 

 渋々、アニはりんごを口に運んだ。甘い果汁が口内に広がり、シャクシャクと音を立てる。いつも質素な物を食べているせいか、慣れない刺激に口の中がビリビリと痺れる。マーレでは普通に食べられた食事が、この壁内ではごちそうだ。

 

「おいしい…」

 

「でしょ?人のお金で食べる物って美味しいんだよ」

 

「……顔に見合わず腹黒いんだね、あんた」

 

「領主っていうのは、一つや二つ悪さをしてるんだ。だから少しくらいイイ思いさせてもらったっていいのよ」

 

 イジ悪く言うアウラ。その姿はとても、戦士たるアニたちがゾッとする狂気を纏わせていた人間とは思えない。子供っぽい一面を見せながら、ほわほわと、陽だまりのような笑顔を浮かべる。

 

 そのチグハグさがやはり気色悪いが、それでも優しい笑顔を、アニは嫌いになれそうになかった。

 

「そう言えばさ、以前はありがとね」

 

「以前って?」

 

「覚えてない?私ともう一人…ベルトルトって言うヤツと、二人であんたに助けてもらったんだけど」

 

「……あぁ!あ、あぁー………」

 

 

 女はやはり少女たちのことを覚えていた。アニの中で警戒レベルが一気に上がる。それを表に出さないよう努めた。

 

 一挙一動を見逃さないようこっそり観察するが、特に変化はない。もしアニたちを不審に思っているなら、絶対に顔に出るはずだ。

 

 超大型や鎧の巨人まで勘づいていなくとも、子供が二人壁の上。何か違和感を抱いてもおかしくない。だがフレンドリーにアニに話しかけているアウラの様子から見ても、本当にアニとベルトルトを、駐屯兵団の兵士によって助けられた人間としか思っていないようだ。

 

 戦士三人の中で、洞察力が最も高いアニに“普通”と感じさせる。これが演技なのだとしたら、少女は人間という生き物を信用できなくなりそうだ。

 

「何で顔を赤くしてるのさ」

 

「だって、えと……君に人違いしちゃったでしょ、わたし?それが、その…恥ずかしくて……」

 

 後半はほぼ消え入りそうな声で、顔を覆い話すアウラ。

 兄を「お兄さま」と呼んでいたのを知られてしまったところも、彼女的に羞恥を底上げする要因らしい。

 

「一先ずアニちゃんと…ベルトルトくんだっけ?二人が無事でよかったよ」

 

「あんたも生きてたんだね。てっきり死んだかと思ってた」

 

「はは…生きてたよ。わたしも死んじゃうかと思った」

 

 すぐにでも意識を失ってしまいそうになりながら、それでもアウラ・イェーガーは生き残った。

 

 アニたちと出会った後はほとんど記憶がないものの、所々馬に乗ってウォールマリア内を移動したことや、ウォールローゼの壁に到着した直後、気を失ったことを話す。

 

 

「あいたい、ってあんた言ってたけど、()()()()には会えたの?」

 

「えっ、わ、わたしそんなこと言ってた…?!というか、お兄さま呼びはやめて………」

 

「覚えてないのかい?」

 

「うん…実を言うとウォールローゼまでたどり着いて、その後近くに住む狩人に助けてもらったんだけど、ほとんど記憶を失ってたの」

 

「そうなんだ、よく思い出せたね」

 

「……女の子が、いてね。色々あって、その子がクマに襲われそうになったんだけど」

 

「クマに襲われそうになった…?」

 

「そう、クマ。それで、その子の姿が不意に見覚えのある男の子に見えたの。その時同時に身体が動いていて思い出したんだ。わたしには、弟がいたんだ──って。そして自分が、心臓を捧げた者であることも思い出した」

 

 

 

 ────でも結局、兄さんには会えなかったの。

 

 

「…そうか、野暮なこと聞いて悪かったよ」

 

「うぅん、いいの。気にしないで」

 

 楽しげに話していた女が一転、陰った表情をみせる。その匂いはアニたちが見た狂った女の雰囲気を微かに滲み出させていた。

 

 途端に背筋が寒くなり、アニは思わず曲げていた背筋をピンと伸ばす。口の中の味のなくなったりんごの残骸が、やけに気色悪い。

 

 それでも切り込まねばならない。女が何者であるかを暴く必要がある以上。

 

 

「あんたの兄って、確か「ジーク」って名前だったよね」

 

「…わたし、兄さんの名前も言ってたんだ」

 

「あぁ。私さ、血まみれになって必死に兄の姿を探していたあんたの姿が、忘れられなかったんだ。あの時のあんた、すごく怖かったっていうか…()()()()()()。縦え頭を打っていたとしても」

 

「……ごめんね」

 

「あんたが謝るのはおかしいだろ。…なぁ、何があったんだ?」

 

「………」

 

「あまりにも見ていられなかったから、私とベルトルトは「生きてる」って言っちまった。けどもしかしてあんたのお兄さんは、もう、死んでるんじゃ────」

 

 その時、アニの肩が勢いよく掴まれる。少女を捉えるのは大きく見開かれた白銅色の目。そこからアニが嫌悪してやまない狂気が、ドロドロと漏れ出てくる。

 

 アウラは唇を噛みしめ、今にも泣きそうだ。

 

「兄さんは死んでない!!兄さんは生きてる!!生きて…生きて……」

 

「ッ、痛いって」

 

「……ご、めん」

 

 ズルズルと、アウラの手がアニの肩から落ちる。握りしめられたその両手は真っ白くなり、身体と共に小刻みに震えていた。

 

 アニは女の次の言葉を待ったが、それ以上は黙り込んでしまった。これでは情報を聞き出せなくなってしまう。

 

 

 ゆえに少女は開拓地で出会い、最終的に首を吊った男の過去を自分の過去とすり替え語り出す。

 同情心を煽り、女の懐へ潜り込みやすくするため。

 

 ウォールマリア南東の山奥の村。その村から親に頼まれ野菜を売りに行った後、壁が破壊された。この話については、ベルトルトとライナーにも合わせるよう決めてある。

 

 その後離れ離れになっていたライナーと合流できたものの、故郷へ戻ることができぬまま、三人の子供たちは親と今生の別れと相成った。

 

「私は…父と二人暮らしだったんだ」

 

「………」

 

「あんた言ってただろ、私たちと会った時。同じ人間だからこそ、感情を共有することができるんだ──って。それに辛い時は「辛い」って、言っていいって」

 

「………」

 

「だからあんたの苦しみとか悲しみを、分かち合いたいんだよ」

 

 アウラはアニの瞳を見つめ、小さく口を開いた。

 

 

 今からするのは突拍子のない話であり、信じるか否かの判断はアニに任せる。ただ、一つだけ守って欲しいことがる。それは彼女がする話を、誰にも言わないで欲しい──ということ。すればアウラも、アニの命も危うくなる、と続けて。

 

 少女は首を縦に振った。

 

 

 

「…わたしが物心がついたばかりの頃、兄さんがいたの。もう今でこそ当時の記憶なんて、ほぼ思い出せないけれど。兄さんはママと似た髪と瞳の色で、わたしとはあまり似ていなかった。でも顔立ちはパパに似ていたわ」

 

 カッコよくて、やさしい兄。病弱だった妹に、いつも微笑みかけてくれた大好きな兄。

 外に出たことのなかった彼女にとって、「家族」は彼女の世界であった。

 

「ずっと家の中って、虐待とかじゃないよね?」

 

「いいえ、違うわ。パパとママはわたしをたくさん愛してくれたもの。ただそれが少し、()()過ぎただけ」

 

 

 両親の重い愛は、自分が病弱だったことも起因していたのだろうと、アウラ。

 

 そのせいで大好きな兄に、両親の愛情が向かうことは中々なかった。

 それから兄は親に諭され、「戦士」を目指すことになる。

 

 

 この瞬間アニの中で「ジークお兄さま」=「ジーク・イェーガー」であることが確定した。同時にアウラ・イェーガーが、壁外の住人、つまりマーレで暮らしていたエルディア人であるということも。

 

「でもある日家にたくさんの大人が来て、その中に兄さんもいた。やさしい両親は“悪い人”だった」

 

 アウラはその後両親と共に、「楽園送り」となった。

 

「その「楽園送り」ってのはよくわからないけど……あんた子供だったんだろ?兄が()()したんだったら、助かることもできたんじゃないのか?」

 

「できたよ。兵隊の人が言っていたもの、「君の身柄は安全だよ」って」

 

「なら…」

 

「でも、行くしかなかったんだ。行くしか方法が……いえ、行くべきだった。わたしという人間は」

 

 ジークが告発した際、その側にいたメガネの男が言っていた内容。

 毎日毎日戦士を目指して、ボロボロになるまで頑張っていた兄。しかし裏を返せば、兄は両親の大望のために利用されていただけだった。

 

「男の人は言っていた。両親は兄に愛を与えなかった、()()()()()()───って」

 

 

 そう、悪いのはジーク(兄さん)ではない。

 

 悪いのは、アウラ(「私」)だった。

 

 

 女のその言葉を聞いた瞬間、ゾワゾワとした感覚がアニを襲う。

 あぁ、これだ。恐らく少女が感じていた狂気の正体は。

 

 

「わたしがいたから兄さんに愛情が向かなかった。わたしが生きていたから兄さんが苦しんだ。わたしがうまれなければ兄さんは幸せに生きられた。だから、だから────」

 

「両親と一緒に、死のうと思ったんだね」

 

「……そう、結局死ねてないけど」

 

 アウラは「楽園送り」で母親が注射で巨人になり、それがトラウマになったこと。

 また直後気絶し起きれば、いつの間にか巨人になった父親に抱えられ、どこかへ向かい移動していたことも告げる。

 

「ってことは何だ、巨人の正体は人間ってことかい?そんなバカな話が……」

 

「だから、信じなくてもいいって言ったでしょ。わたし精神面に問題があって入院したこともあるし…ただの妄言でいいよ」

 

「いささか信じられないけど、これが創作だったらこれほど興味が湧く話もないだろ。続けてよ」

 

「……それで、パパは“復権派”という組織の人間だった。その組織の人間──「フクロウ」という人がパパを助けて、巨人の力を託したんだって」

 

 

「フクロウ」───それは、マーレの政府が復権派を探っていた当時、血眼になって探していた人物。

 

 楽園送りにされる場所に行けるのは、普通送られるエルディア人か、マーレ治安当局の者だけだ。

 

 一見フクロウは捕まった復権派の人間の中にいたように思えるが、一つ疑問が残る。

 今までずっと正体不明だったフクロウが、そう簡単に正体を現したと思えない点だ。

 

 捕まった復権派の中で、自身を「フクロウ」だと名乗った者はおらず、またフクロウの正体をゲロった者もいなかった。そも誰一人として、復権派のトップの正体を知らなかった。

 

 ここまで巧妙に隠れられるとなると、可能性は一択。フクロウがマーレ治安当局員として潜んでいた───という可能性。

 

 

 もしそうであれば、難なく「楽園送り」の現場へ侵入できる。

 

 力を何故アウラ・イェーガーの父に渡したのかは不明だが、フクロウにとって何かしら力を託す理由があったのだろう。

 

 そしてその力は恐らくマーレが所有する七つの巨人と始祖の巨人ではない、「進撃」の巨人の可能性が高い。今までその存在を確認できなかった力が、正体を現した。

 

(アギト)」を失った今、その代わりに「進撃」を手に入れることができれば、仮に始祖が奪還できなかったとしても、アニたちの首は繋がる。

 

 幸いアウラは巨人の継承方法を知らないときた。知っている可能性もあるが、それを疑い始めては全て疑わなければならなくなってしまう。だからこそ今は、一先ず聞いた事実を肯定する。

 

「じゃああんたのお父さんは、今も巨人になれるってことなんだ」

 

「……それは、わからない」

 

「え?」

 

「パパ……いなく、なっちゃったの」

 

 少なくともウォールマリアが陥落したその夜、トロスト区で馬車を飛ばす父イェーガーの姿を見た、という目撃情報があった。しかしそれ以降パッタリと音沙汰がない。

 

 

(仲間に力を継承させたのか…!!)

 

 

 復権派であるアウラの父の目的は、始祖の巨人をマーレよりも先に奪うことだろう。

 

 となると仲間を作っていそうだが、王政は壁内の人類が外へ興味を抱かぬようさまざまな対策を行っている。

 

 仮に王政の都合の悪いことを起こせば、すぐに憲兵団の裏の仕事で処罰される。憲兵の黒い噂は、王政を調べていたアニの耳にも入っていた。

 

 だからこそ仲間を作る行為は、危険と裏合わせとなる。そも一度組織がバレ「楽園送り」にされかけた男が、仲間を作るとも考えにくい。

 

 であれば継承させる人間はきっと限られる。口が硬く、復権派が掲げる思想に強く賛同する者。

 

 

 

 例えば今、アニの目の前にいる女はどうだろう。

 

 ウォールマリアで大怪我を負った直後、何らかの形で父から力を託されたのなら、死んだと思っていた女が生きていた理由に繋がるのではないか。巨人の力を継承し、ケガが一気に完治した。

 

 単純にアウラ・イェーガーが、強靭な生命力を持っているだけの可能性も捨てきれないが。

 

 そうなるとケガを負わさねばならない。巨人の力に慣れれば自動回復する傷を留めておくこともできるが、まだ継承して一年と少しであればいくら器用でも難しい。

 

 できたとしても全体的に多くのキズをつければ、どれか一つは再生する。意図的に回復を止めても、それは部分的な話。複数のケガを同時に、意識して治さないようにするのは至難の業である。

 

 

「あんたもその“復権派”の人間なのか?」

 

「わたしは違う、パパが…関わらせたくなかったから。外の情報もあまり詳しくは知らないの」

 

 アウラは精神を病み入院した後、父と語らうことがあったという。

 

 彼女の故郷がマーレという場所であることや、巨人化した父が向かった場所がパラディ島であるということ。

 ずっと彼女が知りたかった「楽園送り」の時に、何が起こったのかも聞いた。

 

 

「兄さんが戦士になっていれば、巨人の力を得ていずれパラディ島へ攻め込んでくるとも、パパは語っていた」

 

「攻め込んでくるって……もし、かして、ウォールマリア陥落の事件って…!!」

 

「静かに、それ以上詮索したら君がどうなるかわからないから」

 

 だが間違いなく、壁の崩壊は戦士の仕業で間違いないと、アウラは言う。

 

 ここまで知られているとなると、アニとしては味方でも敵でも殺したい。縦え今まで喋っていなくとも、いつ気づき話すかわからない。不確定要素は抹消するべきだ。アニたちが「使命」を果たすために。

 

「どうしたの、アニちゃん?顔色が少し悪いよ?」

 

「いや、衝撃の内容すぎて、頭がついて行けてないんだ」

 

「そうだよね…。本当に誰にも言っちゃダメだよ?お友だちにもね」

 

「……わかった。命は惜しいから、私も」

 

 アニは懐にある刃物に意識を向けながら、いつでも殺せるよう頭の中で算段を立てる。ここまで裏路地であれば悲鳴も聞こえない。

 

 彼女の体術で拘束し、急所に一刺し。それで終わりだ。あとは金目のものを奪い、強盗犯の所業に見せかければいい。憲兵もまさか子供がやったとは思うない。

 

「あんたの目的って何なんだ?兄に会うことなのだろうとは思うけど」

 

「…そうだね、ジーク兄さんに会う」

 

「その戦士が来てるなら、壁内に紛れ込んでる可能性もありそうだね」

 

「うーん、それは半々かな。いて欲しいとは思うけど…」

 

「仮に会えたらどうする気なんだ、あんた」

 

「兄さんに会えたら?会えたら、してもらうことは決まってるよ」

 

 アウラは微笑んだ。周囲を囲む路地裏の上から差した光が彼女に当たり、顔を半分だけ照らす。

 女の頭につけられたバンダナが、やけにその白さを際立たせた。

 

 儚げな女の表情に、アニの中で例えようのない感覚が胃から迫り上がってくる。その感情が混ざり合って気持ち悪さが増していくが、目を逸らすことができない。否、()()()()()

 

 

 

「殺してもらうんだ。きっとお兄さまは、「私」を憎んでいるから」

 

 

 

 アニは目の前の得体の知れぬ女のその表情に、しばし魅入ってしまった直後。金縛りが解けた瞬間殺すことも忘れ、勢いよく駆け出した。

 

 またゾワゾワと悪寒が駆け上がり、吐き気を抑えるように生唾を飲み込む。

 

 女がひたすらに死にたがっているのはわかった。死にたくて死にたくて、今にも死にたい。

 だが死ぬための相手がいないから死ねない。実に気色悪い。

 

 殺そうと思う裏で、頭の隅では「利用することもできるのではないか?」と、考え始めてもいた。

 

 同情を誘うつもりが、いつの間にかアウラに同情していたのはアニの方だったのである。それも仕方なかろう。

 

 親の都合でかき回された人生。そこから生まれた歪な人格は、死を希求してやまない哀れな存在となった。

 

 

「あんなの、利用できるわけがない…!!」

 

 

 恐ろしいのは誰かに心臓を捧げる者でも、確固たる目的をもって生きようとする者でもない。

 

 アニが一番恐怖に感じるのは、死にたいと考えている人間。彼らは何だってできる。「死にたい」というその他全てを退けるエゴをもって、誰かが傷つくことも厭わず、死へ向かって進む。

 

 ゆえに、怖い。そんな女を利用すれば被害はきっとアニたちにも訪れる。

 

 

 ならば殺してしまえばよかったのだ。だが殺すことができなかった。()()()()()()()()と思った。

 

 あの女を殺せば、アニはアウラ・イェーガーを殺したことになり、女と血で染まった繋がりができてしまう。

 

 あの人間は関わりを持つことさえ、全力で避けるべきだ。彼女と相対したアニの直感が、そう言った。その方が絶対に、円滑に戦士たちの使命が進められる。

 

 

 アニの直感はよく当たる。それを踏まえて敵対することはない、と二人に告げれば納得するだろう。元々ベルトルトはアニの発言にイエスマンであるし、ライナーはやたらアウラと出会っていないのにも関わらず、「大丈夫だろう」と言っていた。

 

 何を根拠に──と思うが、ライナーはアニたちが避けていたジーク戦士長の妹の話題を、唯一本人から聞いた人間である。何かライナーに思うところがあったのだろう。

 

 とにかくアニは一刻も早く、女の微笑みを脳内から消すべく駆け続けた。

 

 

 あの女は────アウラ・イェーガーは、得体の知れない存在どころではない。女の名前を知り、そして関わることすらタブーとすべき()()()だ。

 

 

 そんな女とまた関わってしまった事実に、アニはひたすら泣きたい。歯をガチガチ震わせたことなど久しぶりだ。

 

 今度女と接触せねばならない時は、ベルトルト……いや、ライナーに任せよう──と、強く心に誓った。




アニ→多分超直感持ち。

ヤヴァイ兵長→野生の研ぎ澄まされた感。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。