電池が切れた時計の針は
私、アウラちゃん、結婚適齢期の22歳。
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!私は壁外調査に向かっていた。
しかしトロスト区方面から突如、5年前シガンシナ区で確認された謎の落雷が発生。超大型巨人が現れた前兆である。異常を察知し、早急にトロスト区へ出戻ることとなった。
トロスト区には現在第104期の訓練兵がいる。エレンくんやミカサちゃんたちがいるわけだ。そしてもちろん戦士三人も。
「鎧」が恐らくライナーくんなので、「超大型」はベルくんかアニちゃん。アニちゃんは小柄なので、超大型のイメージはあまり似つかわしくない。
例えばライナーくんならキース教官の話によれば、屈強な身体を生かしたパワーが凄まじい。正しく強固な身体を活かして内門を破壊した「鎧」の巨人に相応しいと言える。
そう考えると、戦士は彼らの得意とする分野を活かした力を継承していると考えるのが無難。
アニちゃんは対人戦において、ミカサちゃんと同率首位の人間。また教官からも彼女は何でも卒なくこなす、バランスがいい人間だと言われていた。
ゆえに破壊神のような超大型を継承させるには、少し合わない気がする。
となると残すはベルくん。彼の身長的にも「超大型」は相応しいのではないでしょうか。ぜひ機会があれば壁を破壊し、壁内の人類が多く死ぬ原因となった彼に、当時どんな気持ちだったのか知りたいですね。
マーレはエルディア人の子供に、ユミルの民=「悪魔の民」とする洗脳的な教育を行う。
きっと最初こそ彼らは“正義”を理由に、パラディ島の人間を殺すことにそこまで大きな罪悪感は抱いていなかったでしょう。それよりも課せられた“使命”の重圧感が大きかったに違いない。
しかし5年近く壁内に紛れて住み、生きてきた彼ら。
果たして今でも正義を盾に進むことができるのでしょうか。何せ104期生である彼らには、三年間苦楽を共にした仲間がいるのだ。少なからず情は移っている。しかしそんなお仲間がいながら「超大型」巨人が出現したということは、仲間が死ぬのも厭わない覚悟がある。
実に美しい。仲間が巨人に殺される様を見ながら、自分たちは“使命”のために心を殺して始祖の奪還を目指す。
もっともっと多くの骸を作るといい。
さすれば彼らの「罪」は大きくなり、いずれその罪と向き合う機会ができた時、彼らの心は壊れる。存分に苦しんでください。
そして犠牲を増やすほど、憎しみが生まれ争いが起こる。
正しく「負」の連鎖。
戦士の行いは、私にとってご飯を与えてくれる親鳥。私はピィピィと鳴く雛だ。
して、エルヴィン団長指揮の下。調査兵団はトロスト区へ急いで出戻ることに。
着き次第、駐屯兵団に加勢。しかし壁の穴の部分には巨人が複数体いるため、そこからの侵入は不可能とされた。
となれば、大きく迂回し、東のカラネス区から入らねばならない。だが一分一秒も時間が惜しい状況。
馬を飛ばしトロスト区の壁に到着すると、馬を残して精鋭メンバーが先陣をきった。
当たり前のように
そして私もそのメンバーに選ばれた。やったぜヒーハー!これで混乱する壁内の住民や、駐屯兵団の皆様が見られますね。
訓練兵もいきなり実戦に駆り出され、かなりの人間が犠牲になっていることでしょう。
調査兵団でも通常なら新兵はいきなり壁外調査に出ず、シミュレーションや演習を通して、いざ本番に駆り出されますから。
104期生No. 1のミカサちゃんはまず間違いなく心配ない。弟は少し気になりますが、お父さまから継承している「進撃」があるので最悪大丈夫でしょう。
ただ戦士がいるので、エレンくんが巨人化した場合かなり面倒なことに。
向こうはエレンが「進撃」か「始祖」のどちらかだと思う。
まぁ私が父親の力をアニちゃんに話していた以上、継承者の候補に私やエレンくんが入っているはず。以前から怪しまれていたのは間違いない。
エレンくんがマーレへお持ち帰りされてしまった場合その力が、別の人間へ継承される。
ただここで一つ問題なのは、フクロウ→お父さま→エレンくんへと継承した力について。マーレからパラディ島へ移った力が、ずっと壁内に存在していた「始祖」であるとは考えにくい。
「進撃」か「始祖」のどちらかとは言いましたが、実際戦士たちはエレンが力を使えば、ほぼ間違いなく「進撃」であると考える可能性が高い。
となると、「始祖」は何処?という話になる。「進撃」が土産になるでしょうが、戦士の目的は「始祖」の奪還。
エレンの力が判明しても、すぐに弟をさらって帰ることはないはずだ。始祖に繋がるヒントを得るまでは、粘ってくれ。
最悪、弟が連れて行かれる時は私も行きます。というか絶対に行きます。
しかし願わくば戦士たちを手こずらせ、マーレ政府を焦れさせたい。
さすれば援軍の戦士が来る可能性がある。既に5年経っているので、そろそろ上層部も「アイツら何やってんだ?」となっていることでしょう。
壁内には電気もないですし、外部と連絡する手段もない。ただ向こうは待つしかないのです。戦士たちの帰還を。
そして援軍が来れば、ずっと探しても見つからなかったお兄さまが来る可能性がある。
結果、戦う
そして着いた現場。
駐屯兵団の「超大型が出現。人間が巨人になった───」という端的な話だけ聞いて、巨人狩りに行きました。
しかし、何かやたら隅に巨人が多い。死体から湧いてるうじ虫かな?
その上でアンカーを壁にかけ、巨人を誘き寄せているのは、駐屯の人間たち。
壁の方に向かっているのは岩を持った巨人ですね。
────ん?
んん?エレンくんが巨人化してるな?遠くからでもわかります。お父さまと似た尖った耳と、愛らしい印象はまさしく我が弟。
人間が巨人化した…って、
ただビッグエレンくん、毛深くはありません。少し残念です。
鍛え上げられた美しいシックスパックが、大岩を持ち上げる動きと連動してイキイキと躍動しています。舐め回したいですね。
……えっ?お前
こんなことで根を上げてたら、私がお兄さまにあった後、『したい・されたいことリスト♡』の内容を知ったら発狂しますよ。
それにしてもビッグエレンくん、顔もイケメンだ。
アウラちゃんの恋が──始まりません。お兄さまとしかアウラちゃんのラブストーリーは始まらないんだよ。
一先ず兵長とミケ分隊長たちとは違う方角に行き、時折弟に視線を奪われながら巨人を駆逐していく。
どうやらビッグエレンくんが持っている岩で、壁の穴を塞ごうとしているみたいですね。
コーナーに湧く
しかしそれで完全とは行かないので、エレン巨人の周囲を兵士が飛び回り、巨人を駆逐して道を作っている。
私も弟の方が気になりますが、向こうは人類最強が向かったので大丈夫です。
それよりも気になるのは戦士たちの居場所。
特に壁を壊したと思われる、超大型くんの様子を窺いたい。どんなお顔をしているのか、ぜひ私に拝ませておくれ(ネッチョォ…)
「あっ」
高い建物に乗り周囲を見渡しましたらいました。ちょうど三人揃っていますね。
いや、もう一人いるので四人か。
この状況下で気づかれないだろうとはいえ、相談する場所は気をつけた方がいいですよ。
状況的に後ろ姿が見えるライナーくんが見覚えのない男の子を羽交締めにして、正面にいるアニちゃんに何かを言っている。
ベルくんはライナーくんの隣で突っ立ったままだ。盛大な賢者タイムでしょうか。
私はガスを高速で噴出し、四人の元へ向かった。
⚪︎⚪︎⚪︎
「何…してるの?」
ライナーがアニに、マルコの立体機動装置を外すよう叫んでいた中。
ライナーの背後から現れたのは、調査兵団のマントをなびかせる女。
屋根の急斜面に足を滑らせないよう大股気味に開きながら、白銅色の瞳を四人に向けている。
彼らの現状を説明すると、ライナーとベルトルトが巨人化したエレンや壁についてどうするか話し合っていた中、マルコが来た。
単なる雑談話を聞かれたのなら、まだいい。
しかしマルコは二人がイコールで、「巨人になれる」というワードを耳にしてしまった。
エレンが巨人化したということはつまり、人が巨人になれるということ。
また5年前、突如現れ消えた超大型巨人を踏まえ、マルコは二人がエレンと同じ巨人化能力者───壁を破壊した人物たちであると行き着いてしまった。
その優秀な頭脳は、アルミンにさえ引けを取るまい。だが優秀すぎたのが仇となった。
正体を知られた以上殺すしかない。そんな折アニが訪れたのである。
マルコは助けを求めたが、アニもまたライナー側。無慈悲な現状が展開されるのみ。
そしてライナーはアニが同期を助けたことを指摘し、“戦士”としての覚悟を証明するよう、マルコの立体機動装置を外せ、と彼女に言った。
正しくその時である、女が現れたのは。
「……!た、たす、助けてくれ…!!」
マルコは恐怖に震えながらも、必死に叫ぶ。
ライナーが口を塞ごうとした手を、顔を振り乱すことで避け、ライナーやベルトルトが壁を破壊した犯人である可能性も告げる。
「……ッ、う」
アニはライナーの背後にいる女性から距離を置くように、数歩下がった。その身体はひどく震えている。
対しベルトルトは沈黙。ライナーは瞳を丸くした後、鋭い表情に変わった。
「遠くから「戦士」って聞こえたけれど…」
「…ベルトルト、この女を抑えろ。アニは早くマルコの立体機動装置を奪え!!」
「で、でもライナー…」
「知られた以上殺すしかない。だからッ──」
ライナーの言葉が途中で止まる。女が一歩彼らの元へ近づいたからだ。
それも、ここに来る前にいくつもの巨人を狩った、少し刃こぼれしたブレードをしまって。
握ったままならわかる。しかし、その刃を収めた意図が読めない。
「えっと…以前にもアニちゃんとベルトルトくんには会ったよね、覚えてるかな?」
「……アウラ・イェーガー。あの
「そうそう!前に会った時アニちゃん急に逃げちゃって、ビックリしたんだから」
「…私は二度と会いたくなかったよ、あんたに」
少し困った表情を浮かべながら近づくアウラ。異様な状況だというのに、そのことに対し全く反応を見せていない。
彼女の表情はあくまでアニに対し向けられているもの。マルコの状況に対してではない。
「それ以上近づくな!」
大声を上げたのはライナー。マルコの首を腕で締めながら、アウラを睨め付ける。
「君が…ライナー・ブラウンだね。キース教官からみんなの頼もしい兄貴分で、成績も二番目にいいって聞いてるよ。それで、そばかすの君は…確かマルコ・ボットかな?洞察力と判断力に長けている子だっけ」
「あなたは……!前にキース教官に会いに来てた…!!」
「そうです、わたしがエレンくんのお姉ちゃんです」
「エレンのお姉ちゃん……!?」
エレンの姉だったことは初耳らしい。マルコが驚愕の表情を見せる。いったいどこの誰ミンが、変にアウラのことを勘ぐらないよう、多方面の男たちに釘を刺していたのだろうか。
だが彼はキツくなった首の締めつけに、うめき声を上げる。
「アウラ・イェーガー、一つ聞きたいことがある」
「何かな?」
ライナーはアウラが、エレンが巨人化の力を持っていたことを知っていたのか尋ねた。
それに彼女は首を横に振る。
駐屯兵団に先ほど聞いて、初めて知ったと。
また、援軍として巨人を狩っている際、四人の異様な光景を目にして急いでここへ来たことも告げた。
「…お前は、ジーク・イェーガーを知っているな」
「………?!?何言ってんだい、ライナー!!」
「黙ってろアニ、俺はお前やベルトルトと違って、実際にアウラ・イェーガーと話したことはない。だから俺の目で見定める必要がある」
知っているか?の問いに、アウラは表情を消して頷く。
ライナーは自分たちがマーレから来た戦士であること。
そして、彼女の兄ジークが彼らのリーダ───「戦士長」であることも口にする。
「アニからお前の目的は聞いた。戦士長に殺されたいんだってな」
「…えぇ、そうよ」
「生憎だが、戦士長は俺たちと共に壁内の侵攻には来ていない。それともう一つ」
「何かしら?」
「少なくとも戦士長は、妹のことを恨んでいない。むしろ今でも大切な妹として想っているだろうぜ。実際に俺は「アウラ・イェーガー」の名前を兄本人から聞いて、その時の戦士長の表情を見た。だから、わかる」
「………「
「あぁ」
「ジークお兄さまが?」
「…あぁ」
呆然と口を開けたまま、固まったアウラ。それから動かなくなった女に、戦士たちはそれぞれ怪訝な表情を向ける。
直後女は、花が綻ぶばかりの笑顔を見せた。
目は水分を多く含ませ潤み、眉は八の字に、そして口元も堪えるように歪む。
アウラの変化を見て、ヒュウ、とか細い息を漏らしたのはアニ。震えながら彼女はベルトルトの後ろに隠れた。
「ジークお兄さまが私を、私を
アウラは口を抑え下を向き、屋根の上にへなへなと座り込んだ。
男たちには彼女が泣いているように見えただろう。
だがアニには別に見えた。底の見えない狂気の「愛」が感じられ、ただひたすらに気味が悪い。
「わ、悪かった。泣かせるつもりじゃなかったんだ…」
ライナーは戸惑いの声を上げた。彼はアウラの兄に抱く想いを利用し、味方側に引き抜けるかを考えた。
最初は殺すべきだと思った。しかしジークがかつて話した妹への想い。
そして、目の前の女が敢えて彼らの前で武器をしまった──つまりライナーたちに敵対しない、という意図を読み、考え直したのだ。
対話する必要があると。
気になる女性であるが、それは「戦士」として不必要な感情。ゆえにその点は割り切っていた。
アウラもまたライナーの意図を読み取ったようで、涙を袖で拭いながら立ち上がり、視線を向ける。
「アウラ・イェーガー、お前は壁内の人類を裏切る覚悟があるか?」
「………」
「お前次第で、俺たちはジーク戦士長に会わせてやることもできる」
「……する」
「え?」
「なんでも、何でもする。お兄さまに会えるなら」
たとえ
そう言い微笑んだアウラに、アニだけでなく全員の思考が停止した。
美しい女を我がモノにできたらどれだけ素晴らしいだろう、と。
そんな情欲に塗れた考えは、微塵も浮かんでこない。
ただ
ライナーの元へ来たアウラはマルコの立体機動装置を外し始めた。
正気に戻ったマルコが抵抗するが、ライナーの拘束はびくともしない。
「私がやるッ!!!」
アニがその時叫んだ。アウラを押し退け外れかかっていた立体機動装置を外し、それを持ったままヨロヨロと後方へニ、三歩下がる。
やるしかない。やるしかなかった。
異常な女がマルコの立体機動装置を外せば、
これ以上異常な女との関わりができるなど、御免だった。
「……壊れてるんだ」
ポツリと呟いたのは、ずっと喋らなかったベルトルト。アウラを見て、次にアニに視線を向ける。
そしてもう一度、「壊れてるんだ」と呟く。
アニは理解した。ベルトルトはずっと、アニと近しい感覚を女から感じていたのだと。
アニは「イかれている」と感じているなら、ベルトルトは「壊れている」と感じていた。一見似ているが、しかしこの差は大きい。
アニはアウラの人間性の“狂気”たる部分を言い、ベルトルトは“精神”の部分について語っているのだ。
「アニ、下がろう。巨人が近づいてきてる。…それとライナー、アニの言うとおり彼女とは関係を持つべきではないと思う」
「それは…残念ね」
「精神の壊れた人間なんて、僕らは戦場の敵兵でも仲間でも、たくさん見てきた。でもあなたは僕が見た中で、一番壊れていると思う。
「君たちのことは、このことを含めて言わないよ?」
「あぁ、言わないだろう。あなたの戦士長への想いは本当のようだから。彼の仲間である僕らに害をなすことはしない。するんだったら、とっくの昔に密告しているはずだしね」
「…そっか。ならせめてお兄さまに会ったら、私が生きていたことを伝えて」
「わかった。…ライナーも行こう」
「……だが、戦士長と…」
「彼女を故郷に連れて帰るって言うのかい?一度「楽園送り」にされた人間を?現実的な考えでないことくらいわかっているだろう、ライナー」
「だとしても、少しの時間でも会わせてやれるだろ」
「………僅かな時間の幸福を代償に、彼女に死ねって言うのか、君は」
「違ッ、俺は…!」
「アニも情に流されて仲間を助けた。でもそれはライナー、君もきっと同じだよ。頼むからもう行こう、これ以上固まっていると怪しまれる」
「……すまん、ベルトルト…」
アウラは瞳を大きくし、大人しかったベルトルトの一変した姿を見る。
やはりベルトルト・フーバーが間違いなく、「超大型」巨人だ。
そして継承した理由も、何となく察せた。
多くの人間を殺す立場である人間だからこそ、誰よりも冷静に、残酷になれる。言ってしまえば精神が図太く、そう簡単には揺るがない。
でなければ壁を壊しトロスト区の悲劇を作り出したばかりで、ここまで平静さを保てるわけがない。
彼女としては実に面白くないが。せっかくお兄さまと急接近できるチャンスを、逃したも同然。
ただし壁内にいないことや戦士どころか「戦士長」になっていたこと。そして一番のビッグサプライズ、兄がアウラのことをずっとその内の中で想い、飼い殺してくれていた事実。
その絶頂に、思わず素が出てしまい、そのまま泣きの演技でどうにか誤魔化した。
脳内ではずっと気持ち悪い笑い声が響きっぱなし。誰もいなければ、ビックリユートピアが裸足で逃げ出すレベルの狂乱美女ぶりを見せただろう。もちろんR規制である。
「まって…」
去っていく三人と一人に、かなり後方から声がかかる。マルコの声だ。
彼の前方にはライナーたちと、その少し後方で振り返ったアウラが見えている。
「まってよ…」
巨人の足音が近づき、屋根を揺らす。
「
ライナー、アニ、ベルトルト。
一人一人の名をマルコは呟く。
何度も「まって」と声がかかる。
それに振り向くまいと堪えていた三人だったが、不意にマルコの声が止まり、ライナーが耐えきれず振り向いた。
続いてベルトルト、最後にしばらく時間が経って、アニが振り向く。
まさしくちょうど今、巨人に捕まれ食われんとするマルコ。
彼は口を開けたまま何も瞳に映すことがない。死にたくないと泣きも、叫びも。
そのまま彼は、顔の右半分を巨人に噛みちぎられた。
悲鳴も上げないまま、その身体は巨人に貪られ、顔の位置が動き瞳の先がライナーたちに向く。
血を噴きながらマルコ・ボットは、最期に呟いた。
「あ、ぐま゛めっ」
────悪魔。
それはパラディ島の人間を「悪魔の末裔」と称する戦士たちにとって、この上ない皮肉である。
エルディア人はマーレ人に迫害されてきた。戦士となり名誉マーレ人となった三人もかつて幾度となく蔑まれ、汚い言葉や暴力を浴びせられてきた。
だが戦士となり生きる中で、彼らはどこか、自分たちとパラディ島の人間たちが違うと思っていた。
彼らの一族は少なくとも逃げず、マーレの下で管理されることになった。
対しパラディ島のエルディア人は逃げたのだ。フリッツ王の甘言に従い、壁を築いて。
その中には迫害を受ける中で、平穏に暮らす同じ人種への妬みや羨望が少なくとも絡んでいるのだろう。
単純にエルディア人を「悪」とするマーレの教育を受けてきた影響もあるが、複雑な心情がさらにその上に絡み合っている。
だがどうだ、マルコは「悪魔」と言った。憎悪も何もないただひたすら、心の底から戦士たちに向けて呟かれた言葉。
アニの瞳からは涙が溢れ出し、ベルトルトも血が出るほど唇を強く噛む。
そしてライナーの脳内には、「悪魔」の言葉が沈澱していき、その分溢れ出た
「何でマルコが、食われてるんだ……?」
背後で狂い始めた三人の兵士の言葉や息遣いを感じながら、一人の女は、口角をさらに歪に上げる。
マルコ・ボットが最期に向けた言葉はライナーたちではない。
去っていく仲間の足元を見、泣きながら話し合いを求め、「まって」とライナーたちに呟き続けた彼。
そんな彼が巨人に掴まれ身体が動いた時に見たのは、マルコの心からの叫びに絶頂する、