ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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愉悦使いアウスターと巨人の女

 私アウラ・イェーガー。自分の行いのせいで、弟の愛しい姿を見られなかったクソ野郎です。死のうかな。

 

 まぁ、いつまでも鬱になっていては仕方ない。

 

 

 兵法会議は無事終わり、一ヶ月後に大規模な壁外遠征が行われることになった。そこには新兵も入れられる。つまり弟やミカサちゃん、ライナーくんやベルトルトくんも参加します。

 

 一応新兵たちは班に割り振られる。ですが今回は特例として作戦決行時、新兵は訓練兵時代のコンビネーションを考慮して、別個の特殊な班編成が成されるそう。

 

 ただでさえ入って早々慣れない仲間と組み、お互い足を引っ張らないようにするためだとか。なるべく生存率を高めるためですね。

 

 その上で新兵を保護・誘導・指示する形で作戦時の班は決められる。必ずしも私が同伴になった新兵と、「オレ()おま同じ」になれる保証がないというわけだ。

 

 

 ちなみに残念ながら、アニちゃんは憲兵団に入ったそう(血涙)

 大方始祖の巨人を調べやすいからでしょう。頑張ってください。探しても始祖はもうレイス家にありませんが。

 

 また、他にも新兵には104期生のトップ十名のうち、八人が入った。異例の数字である。

 

 アルミンくんも弟曰く頭脳優秀なそうで、十位の中に入っていると思っていた。しかし知力以外が足を引っ張り、入れず。

 ミカサちゃんに関しては堂々の一位。彼女はすでに今の私より強いと思う。

 

 二位はライナーくんで、三位がベルトルトくん。五位は我が弟、エレンきゅん。よく頑張りました。

 

 今度会ったらお姉ちゃんがいっぱい抱きしめて…いえ、ミカサちゃんに悪いので頭なでなでにします。NTRはいけないからね。

 

 

 六位は面識なし。七位は私を絶頂させてくれたマルコ・ボットくん。君のことは忘れません…。

 

 八位も面識なしで、九位は…………知らない子ですね。何か「私に憧れて云々…」という情報が入っていますが、知らない子ですね。

 キース教官が毎度のこと、問題訓練兵として挙げていましたが知りません。最後に行くぞ。

 

 ラスト十位は以前駐屯地に行った時見かけましたが、私以上にかわゆいクリスタ・レンズちゃん。

 

 初めて見た時私うっかり、恋してしまったかと思った。金髪に青い瞳、どことなくお母さまと似た雰囲気を感じさせる彼女。「私」の本能が彼女に反応した。理由はうまく説明できませんが、とりあえず出会ったら抱きしめてお持ち帰りしたいくらいには、動悸がドキドキしている。

 

 何故でしょう、お兄さまと似ているからでしょうか?不思議な子です。

 

 

 また、付け加えて気になった人物が一名。調査兵団に入ったクリスタ・レンズと仲が良いらしい、「ユミル」という女性。

 

 ユミル、ユミル。

 

 マーレではエルディア人の別称で、「ユミルの民」という表現が存在する。ユミル・フリッツの子孫である我々を指しているのだ。一般的に知られている呼び方と言えよう。

 

 だがこれが壁内になると、話は大きく変わる。

 

 パラディ島は自分たちを“エルディア人”とも、“ユミルの民”とも呼ばない。「我々」や「人類」など、壁内全体の人間を表す時に使う。

 

 つまり「ユミル」を端的に表現するものが存在しない。

 

 そも私の認識で“世界”を示すならば、マーレやパラディ島を含めた丸い球体──地球全てを表す。

 だが壁内の人々の“世界”は壁に囲まれた内側。その外側は()()だ。

 

 

 以上を踏まえ、「ユミル」という人物のことが気にかかっている。キース教官も上げることがなかった名前。彼女に特筆した得意な分野はない。しかし意図的に、力を抑えていた節があることを教官は見抜いていた。

 

 私が思い浮かべる少女の名前を持っている以上、「ユミル」とは必ず接触したい。

 

 クリスタの側にいたそばかすの女性で合っているならば、容姿はユミルちゃんには似ていない。だったらむしろクリスタ・レンズの方が似ている。

 

 どうも此度の新兵たちには、謎が多そうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 第五班にも新兵が入って来ました。ちなみにエレンくんはリヴァイ兵長預かり。団長に聞けば、弟の所在地は旧調査兵団本部で、リヴァイ班の者たちと生活しているそうです。

 

 ではそろそろ、イかれた副分隊長がいる第五班新兵をご紹介しましょう。

 

 

 ベルトルト・フーバーくんに。

 

「第五班に所属になりました。よ、よろしくお願いします…」

 

 ユミルくんです。

 

「よろしく頼むぜ、これから」

 

 

 分隊長に紹介され、ベルくんがおどおどしながら自己紹介する一方。

 

 ユミルくんの方は勇ましいですね。よっぽどベルくんより漢気があります。ゆえに「ちゃん」ではなく「くん」なんですね。胸は彼女の方が大きいからって、異論は認めない。

 

 自己紹介の流れで、そのまま班の訓練が始まった。

 

 

 まさかベルトルトくんも、私の班になるとは思っていなかったでしょう。トロスト区の一件があったため、向こうは気まずいに違いない。私は表面上、普通に接している。ベルトルトくんは私とあまり接触したくないようですね。当然か。

 

 対しユミルくんは私を避ける彼を見てニヤニヤしながら、「なんだぁ?副分隊長に惚れちまったのかよ、ベルトルさん」と話しかけていた。

 

 アウラちゃんレーダーではベルくんの想い人は、恐らくアニちゃんだと言っている。彼女を見る時の目がなんていうんですかね、「好き」って言ってんだよな。

 

「ち、違うよユミル!僕には……あっ」

 

「ホォー…「()()()」……なんだよ?」

 

「何でもない…!!」

 

 ちょっとイチャイチャしないでもらえますかね?今訓練中なんですよ?私もベルトルトくんの様子に内心ニチャア…していますが、アウラちゃんは内と外を分けられる子。身体はきちんと訓練しています。

 

 指摘したら「すみませんね、副分隊長さん」とユミルくん。ベルくんも少し遅れて後に続いた。

 

 

 すれ違いざま一瞬、ユミルくんと目が合う。

 こちらを詮索するような、そんな色が窺えた。

 

 ベルトルトをからかっていた一面から見ても、彼女には享楽的な一面があるようだ。“今”を楽しんでいる。私と似通う部分があるのかもしれない。ただ私はその場その場の快楽ではなく、いずれ訪れる最高の「今」のために、鬱屈とした日々を積み上げている。

 

 彼女は私だけではなく、その他周囲の内面を探っている。まるで用心深い動物のようだ。

 どうかあまり私に近づかないで欲しいですね。

 

「私」という存在を理解しようとしても、理解できないでしょうから。

 

 

 

 

 

 そしてその日寮に帰った夜。

 寝ていた最中、部屋の扉が勢いよく開けられた。髪が乱れ隈の恐ろしいバケモノが、私を巻き添いにしてベッドの上に乗ってくる。こ、これが夜這い…?

 

 

「アウラ聞いてよアウラ!ようやく二体の巨人に付ける名前を考えたんだ!!ぜひ最初に君に聞いて欲しくて───ブハッ」

 

 

 問答無用で変態を蹴り出し寝た。こちとら今度の大規模壁外調査を予定した訓練で、忙しいんですよ毎日。

 

 しかし懲りずにまた部屋に入って来た彼女。

 

 相手に聞こえるようわざと盛大にため息を吐き、私は仕方なく「ソニー」と「ビーン」という素晴らしい名前を聞いた。

 命名式に来るよう招待されましたが、丁重にそれを断って、シャワーを浴びてから寝るよう言う。

 

「あなたはもうちょっと、女性であることを意識した方がいいですよ」

 

「え?リヴァイにもこの間同じこと言われたけど……あ、あとモブリットとエルヴィンとミケにもかな。あとは…」

 

「おやすみなさいハンジ」

 

 でないとあなたを物理的に、「おやすみ」にしないといけなくなる。

 

 

 

 しかし私はこの時、知らなかったのです。

 

 この後二体の巨人が、何者か────それも兵士によって殺されてしまうことを。

 

 

 

 犯人不明の中、調べられた立体機動装置。ですが犯人は見つからず。恐らく戦士の誰かであるとは想像がつきますがね。

 

 不穏な空気が調査兵団内に立ち込める中、私は地獄を見ることになる。その日はちょうど、二体の巨人が暗殺された日───突然の立体機動装置の調べが始まる前のことだった。

 

 私の元に訪れたのは、同じ副分隊長である第四班のモブリット・バーナー。

 

 そして彼ともう一人の兵士に引っ張られ私の前に連れて来られたのは、第四班分隊長。号泣である。以前エルヴィン団長の前で泣いた私より号泣である。純粋に引いた。この私を引かせる人材が、サシャ・ブラウス(お肉少女)以外にいるという事実が恐ろしい。

 

「あ、あの……アウラ副分隊長、分隊長のことをお願いできないでしょうか…」

 

 曰くどんなに手を尽くしても、愛しのソニーとビーンが死んだショックで、泣き止まないのだと。

 

 頭を悩ませていた折、モブリットたちは私と巨人バトルをした後のハンジが、普段以上に上機嫌だったことを思い出し、ヘルプを申し込んできたらしい。

 

 

「う〜〜うぅぅ…あんまりだ……HEEEEYYYY…あァァァんまりだァァァァ!!!私のォォォォォソニーとビーンがァァァァァ〜〜〜!!」

 

 お前のソニーとビーンじゃないだろ。

 

 

「ずっとこんな感じなんです、お願いします……これじゃあ次の仕事もできなくて…。第五班の分隊長には既にお願いして、副分隊長をお借りするよう許可を取ってあるので──」

 

「……え?」

 

 え、何を勝手に許可を取っているんですか、モブリット・バーナー?我輩の人権は?ついでにハンジ・ゾエを押し付けて、逃げ腰はやめてもらっていいですか?

 

「分隊長…ハンジ分隊長!アウラ副分隊長がじっくり話を聞いてくださるそうですよ!!」

 

「ふぇぇ…?」

 

「よかったですね!早く元の精神状態に戻ってください!!」

 

「あ、アウラァァ……」

 

 もしかしなくとも、第四班の中で私は彼女のお守りとして認識されているのだろうか。

 そりゃあこれまで散々彼女の巨人討論に付き合わされてご機嫌を取ってきたが、だからってこっちの方が「あんまりだァ」なんですが。

 

「…ハァ、わかりましたよ」

 

「……!あ、ありがとうございます!アウラ副分隊長…!!」

 

 それから私は三日間、楽しい楽しい巨人トークをハンジ・ゾエとしましたとさ。

 

 

(全くめでたしじゃ)ないです。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 大規模壁外調査まで刻々と時が迫ってきた。

 

 アウラは演習後、夕方が近づく気配を感じながら、愛馬を牧草地から厩舎へ連れ戻していた。馬については基本的に、個人に当てられた馬がいる。世話は兵団内で分担作業。だが中には自分で自身の馬を世話をする者もいる。アウラは後者だ。というより馬が彼女以外に懐いていないため、他が世話をできない。

 

 主人を振り落とす勢いで暴れる白馬は、相変わらず元気である。

 

 

「君には何が見える、ねぇ…」

 

 

 手綱を引きながら歩くアウラ。パカパカと足音が響く。

 

 脳裏によぎるのは、地獄の三日間。その途中立体機動装置の検査があったが、ほぼずっとハンジと語っていた。

 

 二日目の夜辺りから記憶がなく、三日目が過ぎた翌朝。とうとうハンジもバテ、仲良くおやすみコースに入ったのである。起きて本調子に戻った分隊長殿は、それはそれはツヤツヤしていた。

 

 モブリット含む四班から神様扱いされたが、アウラは本気で検査された己がブレードを、血で染め上げようかと思った次第。それでも天使スマイルを浮かべた彼女はよく耐えた。

 

 そして、四班に崇められながらその日の訓練に向かおうとした手前。妙に距離を置かれながら、現れたエルヴィンに意味深なワードを呟かれたのである。

 

 君には何が見える?────と。

 

 

「それは、分け目の話でしょうか」と、冗談抜きに彼女は思った。疲れていたのだ。

 

 だがそんなことを呟けば、キース・シャーディスの()を知る団長を傷つけてしまうに違いない。いや、そもそもエルヴィンの分け目は団長になる前から怪しかった。

 

 というか、わざわざ彼女とエルヴィンしかいない状況を狙って現れたのが、分け目の話をするためであろうか。

 

 アウラは脳内のお花畑で走り回る巨人を駆りながら、奥底の冷静な思考回路を引っ張り出す。

 

(あぁ、ソニーとビーンか)

 

 結局また巨人案件。死んだ目の彼女の事情を知っていたエルヴィンも、憐れんだ目を向けていた。

 

 彼女は団長の問いに対し、「巨人のうなじを狙う我々が、()()()()()()に気をつけないといけませんね」と、笑顔で返した。

 

 

 自分のうなじ、即ち“後ろに気をつけろ”。

 

 彼女たちの後ろにいるのは、同じ同胞たる調査兵団の仲間である。もっと言えば兵士、であろう。

 

 

 それだけで十分だったのか、エルヴィンは口角を上げた。

 敵は巨人二体を倒し、監視の目をかい潜って逃亡した。計画的なものである。また立体機動装置の調査を切り抜ける狡猾さを持つ。

 

 大規模な壁外調査。エルヴィンの「敵」を示唆する発言。アウラの中で点がつながっていく。結果を残さねばならないエレンならともかく、新兵まで壁外調査に出すことに疑問を感じていた。だが新兵をわざわざ出す理由があるとしたら?

 

 ウォールマリア陥落が起こったのが5年前。少なくとも“敵”はその時期から存在し始めたのだと推測できる。

 

 よってそれ以前から調査兵団にいる者の中に、“敵”はいないと考えられる。“敵”が調査兵団に潜り込むのはそれ以降に入団した人間。

 

 さらにこれに、トロスト区襲撃の際第104期生がいた現場で出現したことを踏まえ、巨人になれる人間が此度の新兵に紛れ込んでいる可能性が高い──と、判断できる。

 

 

 つまり大規模壁外調査は、鬼さんどちら(犯人探し)

 

 

 せっかく入った優秀な新兵たちが死ぬ可能性があるというのに、冷酷な判断を団長は取る。

 だがキースには足りなかった“非人間”になれるエルヴィン・スミスのその部分が、アウラは気に入っていた。

 

 何せその判断の中では、簡単に仲間や、住人を切り捨ててしまうことができるのだから。その中にアウラも、エルヴィンも入る。

 

 全ての犠牲は、人類への一歩。

 

「犯人を捕まえる作戦はもうできているのですか、エルヴィン団長」

 

「概ねは、だ。ウォールマリア陥落の際は「超大型」の出現の後、鎧の巨人がシガンシナ区の内門を破った。トロスト区の壁も一度は破られたが、しかし今回は内門が破られなかった。この差異には、大きな意味がある」

 

「……エレンくん」

 

「敵にも想定し得ない出現であったのは間違いない。そして次に起こるとすれば、エレンの奪取だ」

 

 そこを狙い、巨人を操作する人間を捕まえる。やはりエルヴィン・スミスという男は恐ろしい。いずれ彼女の本質さえ見抜かれてしまいそうだ。

 

 まぁ見抜かれたで、彼女はそれを利用し、新たな悦に浸るだろう。

 そういう女だ、アウラ・イェーガーは。

 

「それで、わたしは具体的に何をすればよいのでしょうか」

 

「特にはない。捕獲についてはハンジ主体で進めるからな。君には索敵を任せることになるだろう」

 

「そう…ですか。何か力になれることがあれば、いつでも仰ってください」

 

「了解した。人類のために、共に戦おう」

 

「……人類、ですか」

 

「何か不満があったかな?…いや、君の心情としては人類ではなく、弟に、という感情の方が強いか」

 

「えぇ…かわいい弟が、どこぞの馬の骨に拉致されるのは勘弁被りたいですから」

 

「かわいい……か?」

 

「かわいいですよ?」

 

 地下牢で団長と兵士長に向かい、鋭い眼光と共に笑っていたエレン。

 彼が二人に向けた言葉は「とにかく巨人をぶっ殺したい」

 かわいいではなく、その姿は正しく狂気。凶器、と言ってもよい。鞘もなく、刃物そのままの形で握ろうとすれば、当然その手は深く傷つく。

 だが、それはあくまでエルヴィンの意見だ。エレン・イェーガーと暮らしていた姉だからこそ、抱く感情。

 

「まぁ、()はまだ死ぬわけには行きませんので、弟を悲しませることはないですよ」

 

 エルヴィンの横を通ったアウラは不意に、彼に声をかける。

 

「団長、キレイですよ」

 

「ん?」

 

 彼女が指差した場所には青い空が広がっている。ゆったりと流れる白い雲。空は天国、地上は地獄。

 

 

「届かないんですよね、不思議」

 

 

 そう言い微笑んだ彼女は、いつも皆に向ける笑顔ではない。人を蜜柑に置き換えて、その皮を剥き、それを裏返しにして中身に着付けたような、そんな歪さがあった。


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