別の趣味にうつつ抜かしたり、あ、頭が痛い、吐き気もだ……してたら投稿遅くなりました。ギルティ…。
女型のところウンウン唸りながらどうにか乗り越えたんで、後は地ならしするだけやね(違う)
厩舎に帰り、愛馬の世話を一通り終えたアウラ。
他に厩舎で作業していた兵士に挨拶してから、建物を出る。後はシャワーを浴び、食事を取って就寝と行きたい。
文化の違いか、洗身の習慣が壁内にはあまりない。体臭そのものをそこまで気にしていないのだ。ゆえに朝夜マメに入っている彼女は珍しい部類。一応石鹸に近しい洗浄剤は存在する。
無論彼女はヒィズル国にある風呂に入ったことはない。一度全身を湯に浸からす快感を味わってしまえば、アウラも即堕ち二コマするだろう。
「ん?」
厩舎から出て間もなく、というか数秒。彼女は馬と見つめあっている同班の人間を発見した。
その長身の身体を折り曲げ、膝を抱えながら猫背にして、馬の顔を見上げている少年。彼女が声をかければ、少年の肩が跳ねる。
「やぁ、ベルトルトくん」
「…アウラ副分隊長」
「そう畏まらずとも、アウラちゃんでいいよ?」
「……イェーガーさん」
フレンドリーに彼女が行くほど、お互いの心理的な距離が遠ざかっていく。
どうやら彼は五班の分隊長に彼女の居場所を聞き、律儀に数時間ここで待っていたようである。
告白か?
「そうね…じゃあ少し場所を変えましょうか。その間に心の準備をしておくね、わたし」
「……別に僕はあなたに告白するわけじゃないですよ?」
「違うの?」
「違いますよ……?」
まぁ冗談はさておき、とアウラは人のいない森に入り込み、手頃な切り株に座る。
ベルトルトもまた、木に寄りかかるように座った。
「それで、恋のお悩み相談みたいだけれど、お相手は誰かしら?」
「だから、そういう話を僕はしに来たんじゃ…」
「え、君はアニ・レオンハートが好きなんでしょう?」
「……へ、え、いや、────え!?」
「あぁ、やっぱり好きだったのね、アニちゃんのこと」
「………」
少年は顔を膝に埋め、深くため息を吐く。
「僕はあなたにエレンの…弟のことをどう思っているか、聞こうと思ってきたんだ」
兄、ジーク・イェーガーに執着を見せていたアウラ。
なれば異母兄弟だと聞く弟は、彼女にとってどのような存在なのか。
戦士たちの中で、エレンが「進撃」の可能性が高いと考えている現在。
だがそれはアウラ・イェーガーの話を信じれば成り立つ可能性。それが嘘であれば、たちまちエレンが「進撃」ではなく「始祖」の可能性が出てくる。
どの情報を信じるか、それを決めるのは戦士たち。仮に戦士長の妹であっても、彼女が兄のためなら何でも出来る──と言い張っても、100%の信頼には至らない。
「エレンくんのことは大好きよ」
「…僕らは僕らの“目的”のために、あなたの弟を捕まえなければならない」
「うん」
「……だから」
「だから?」
スッと、細まった白銅色の瞳。感情の読み取れぬ女ののっぺりとした表情が、ベルトルトには異質に見えた。
「良心の呵責に君は今、苛まれているとでもいうの?」
「………」
「わたしに同情はしないのでしょう?ならば
「その過程で弟を失っても、あなたは構わないのか」
「構わなくなんて、ない。エレンくんが巨人じゃなければ、巻き込まれなかったのだから」
全ては父グリシャから託された運命だ。
「ひどい父親だな…」
「お父さまを愚弄しないで。チョン切るわよ」
「ごめ───僕の
「斬るのは上手いから安心して」
「ハァ……………でも、やっぱりあなたたちの運命を揺るがしているのは、父親だよ」
「随分感情的になっているのね。ベルトルトくんは何か、父親に恨みでもあるの?」
「………」
「沈黙は肯定よ。詮索はしないけれどね。お父さまは何も悪くないわ」
「……悪いのはまた自分だって、言うのか?」
「えぇ、「私」が悪いわよ」
そうだ。本当に全て、アウラが悪い。
「進撃」の巨人の“進む”という不思議な在り方はともかく。
母親を、父親を、義理の母を、弟を、心の底から好いて、その上で苦しめる異常者。
トチ狂ったその本性を理解できるものなど、この世にいようか。ましてや彼女はそんな人の不幸が、悲劇がなければ生きていけぬ。
本人も己が死ぬべきだと理解していて尚、再び兄と
そうして彼女に愛されてしまった一番の被害者が、ジークだ。
だが彼女の心中を理解することのできぬベルトルトは、思い違いする。
女の言葉が
いや、アウラならば
「人間は複数を好きになってしまうもの。けれど器用に、その全てを同時に愛することは難しい。そんな時、人は必ず一番大事なものを選ぶ。わたしにとって一番は兄さんなの。エレンくんじゃない」
「……エレンが可哀想だ。姉のことを、誇らしげに語っていたのに」
「そのエレンくんを捕まえようとしている人間が、何を言っているのよ」
「………」
「巨人二体を殺したのも、君たちのいずれかの仕業なんでしょう?おかげでわたしはハンジ・ゾエの贄にされたんだから」
「…だから前に数日間姿を見かけなかったのか」
「えぇ、そうよ。それにしてもらしくないわ。いつも以上にジメジメしてて暗い…不安なのね」
「不安?」
「君がこうして避けていたわたしに近づいたのは、エレンくんのことをどう思っているのか、わたしに聞くためだったの?本当は別の意図がある、違う?」
「………」
「次の大規模壁外調査。そこに何か
エレンは現在、リヴァイ班と共に旧調査兵団本部で過ごしている。他の班とは隔離された状態にあるため、戦士も狙うことができない。否、そもその情報は、ごくわずかの人間にしか知らされていない。
するとチャンスがあるのはエレンが外へ出る時。例えば、壁外調査に出た時などに限られる。
ベルトルトやライナーが調査兵団に残ったのは、まず間違いなくエレンの監視。対しアニは憲兵団に入り、王政へ潜り込みやすい立ち位置となった。
大規模壁外調査が行われることを聞いた後、戦士たちはエレン捕獲を計画したのだろう。
「…少なくともエレンで、人間が巨人になることは明らかとなった。超大型や鎧の巨人が怪しまれるのも当然だろう」
「ついでに二体の巨人の殺害。人類の“敵”がいると考えられる」
「何かずっと引っかかってはいたんだ。人が足りないから新兵も駆り出されるんだと思っていたけれど、状況が状況だ」
「君の様子だと、気づいたのはつい最近みたいね」
「……だから、計画を中止にできない。大規模遠征はすぐなのに…」
「はぁ、なるほど」
どうやらエレン捕獲の実行犯は男二人ではなく、アニのようだ。確かに調査兵団の二人は動きにくいが、憲兵団の彼女なら何か理由をつけて休み、壁外調査中の調査兵団を襲うこともできよう。
そして裏にあるエルヴィン・スミスの計画に勘づいたベルトルトであるが、内地にいる彼女に伝える時間がない、ということで焦っている様子。
ほぼここずっと訓練漬けだ。休みを取る暇もない。
ベルトルトの真の意図。
それは次の壁外調査で密かに行われる計画の全貌を、アウラから聞き出すことにある。
「あなたは知っているのか、エルヴィン・スミスの意図を」
「恐らくは知性巨人の討伐、あるいは……」
「捕獲だ」
「アニちゃんが心配?わたしに話したのなら、このことをライナーくんも知っているのね?」
「……ライナーは、知らない」
「え?」
「…彼は今、
「………?」
「リスクがあるから、誰にも話せていないんだ」
「じゃあ第一相談相手がわたしなの…?」
「あぁ」
「君…しょ、正気……?」
「正気じゃないよ、とっくの昔から僕は」
アウラは戸惑った。ライナーの「戦士ではない」という意味は恐らく以前マルコ・ボットを殺しておきながら、なぜ死んでいるのか理解できていなかった様子を踏まえ、精神に異常を来しているのだろうと推測できる。
だからといって、何故彼女なのだ。
「アニなら成功できる
「……弟の誘拐に加担しろってこと?わたしに?冗談でしょ」
「冗談じゃない。それに万が一の時、手助けしてくれるだけでいい」
「その手助けの内容は状況に応じて変わるだろうし、難しいでしょう。それにリスクが大きすぎるわ。わたしがもし敵側だと認識されたら…」
「そうなったらエレンを連れて行くついでに、あなたも連れて行くよ」
「………言っていることが、前と全く違うわよ」
「僕一人で、どうにかできる問題じゃないんだ。仮にあなたがアニを──
「……って、言われても…そう簡単にいかないと思うけれど」
「いや、可能性はある。全ての元凶を父親にしてしまえばいい」
「楽園送り」になったのは当然のこと。
母親が死んだことを、それでアウラが精神を病んだことを、壁内で悪魔の民と共に生きることになったことを、兵士になったことを、“使命”がエレンに託されたことを、そして大好きな兄と別れることになったことを──────。
全ては“復権派”の父に、利用され続けていたのだと。
道具として、「知識」を与えられ、生きてきたアウラ・イェーガー。
そんな父を娘は恨んでいた。
だから彼女は戦士に手を貸し、壁内を裏切った。
「………でも、わたし」
「エレンも最初は抵抗するだろう。けれど君の父親の“罪”を告げ洗脳すれば、きっと僕らの味方になる」
「エレンくんはきっと無理よ」
「そうしたらあなたも説得すればいい。上手くいけば兄に会え、弟とも共に過ごすことができる」
「………」
「
強欲になれ。それが人間だ。
真っ直ぐにベルトルトは、白銅色の瞳を見つめ、囁いた。誑かした。
表情は繕っているが、彼の背中は汗でじっとりとしている。
恐らくエレンを連れ帰ったところで、間違いなく戦士候補生に食われるだろう。あの操縦不可駆逐野郎の姿を、訓練時代を三年間共に過ごしたベルトルトはよく理解している。無論姉ならば、彼よりもよっぽど弟のことを理解しているに違いない。
だが「もしかしたら」の可能性を、アウラはきっと捨てきれない。最低でも愛する兄に会える上、弟を生かすことができるのだから。断る理由がないはずだ。
アニが捕まる可能性を前に、ベルトルトは追い込まれている。
肝心のライナーがマルコの一件以来、精神が“兵士”と“戦士”の間で不安定になり、頼れるアテがない現状。
ベルトルトたちが戦士であることを知っており、彼らに「兄のためなら何でもする」と言ったアウラ。彼女には副分隊長という順位で見れば、団長、兵長≠分隊長に次いだ地位がある。長年積んだ実績と、その信頼も然り。
利用するしかないと、少年は思い至ったのだ。
「……わかった。協力する。ただし100%は絶対に無理だと思って」
「それはわかってるよ。少しでもアニの危険を減らせるなら…」
「本当に……好きなのね」
「………」
「別に戦士としての在り方以上に、アニちゃんを優先していることを、咎めているわけじゃないわ。わたしも兄さんのためなら命を捨てられるもの」
「恋」を前にした時、人の思考回路は焼き切れる。正常な判断を失う。時には恋の奴隷となり、その身を焦がし、燃やすのだ。
愚かしくて、馬鹿げた生き方。しかしその生き方から人間は逃れられない。人間である以上、あるいは人間としての形を失ったとしても。
「それと…やっぱりね、お父さまのせいにはできないわ」
「じゃあ、どうするんだい」
「お兄さまに会えれば私はそれでいいから、捕らえてエレンくんを脅す材料にしたらいいんじゃないかしら」
「…え」
「ベルトルトくん、君はわかってないのよ、「私」という人間を」
アウラ・イェーガーはお兄さまを愛している。
そして誰よりも
白銅色の瞳が、赤みがかった夕日を視界に入れる。血と、白濁が混ざり合ったような、歪な色が渦巻いた。
それを見た少年の喉が、ゴクリと、音を鳴らした。
⚪︎⚪︎⚪︎
辺りも暗くなってきた夕方。
ベルトルトと別れたアウラの前に現れたのは、そばかすの女性。ニヤニヤと、やらしい笑みを浮かべている。
「ベルトルさんと森の中へ入る姿を偶々見かけたんだが…ナニしてたんだよ、副分隊長さん」
「何っていうか…べ、ベルトルトくんに申し訳ないから、言いませんよっ!」
少し頬を膨らまし、そっぽを向くアウラ。ユミルの人間性を理解し、意図的に彼女が好きそうな、からかいがいのある人間を演じる。
「まぁ、後で何があったかはベルトルさんに聞くさ。「違う」とか言いながら、ちゃっかり手を付けようとしてんだもんなぁ」
「…オフの時はいいですけど、訓練の時はふざけないようにしてくださいね、ユミルくん」
「へいへい、わかってますよ。ところでさ」
「はい?」
立ち止まったユミルは、上がっていた口角を下げ、アウラの顔を見つめた。
「あんた、誰かに似てるとか言われねぇ?」
「似てるって……エレンくんに、ってこと?」
「弟は違ぇよ。つーかあんたとエレンじゃ髪の色しか似てないだろ」
「失礼な…じゃあユミルくんは、私が誰に似てると思うの?」
「えーっと……クリスタって知ってるか?」
「知っているわ。上位成績十位の子よね」
「そうそう、私ソイツと仲良いんだけどさ、あんたに似てるんだよ。それが気になってんだ」
髪の長さは、アウラの方がクリスタより長い。髪や、瞳の色も異なる。
だが髪の質感や瞳の作りなど、些細な部分で不意に、「似ている」とユミルは感じるようだ。
「うーん…わたしにはわからないわね。よく似た人間は世界に三人いるって言うし、わたしとクリスタちゃんもそれなんじゃないかしら」
「でもよぉ、あんた見て愛しのクリスタを思い浮かべちまう、私の気持ちもわかってくれよ」
「愛しのクリスタ?」
「別の班になっちまって、今にもアイツを抱きしめやりたいけどできない」
「愛しの……」
「ハァー、早く二人で式を挙げたいぜ」
「………仲がいいのね」
アウラは思考を放棄した。先ほどのベルトルトといい、次から次へと爆弾が降る。
「まぁわからねぇならいいや。クリスタも、あんたのことは知らない、って言ってたしよ」
「…そう。わたしもクリスタちゃんとは、話したことはないわね」
「あと最後にいいか?」
「うん?」
「何で私だけ「くん」なんだよ」
ユミル的にずっと不満に思っていたことらしい。いくら男前とは言っても、ユミルは女だ。
アウラを観察していれば、彼女が年下の新兵などには「くん」や「ちゃん」を使っていることが窺える。
男に使う「くん」をユミルに付ける。それが少々…いや、かなり腑に落ちない。
「それとあんた、何か隠してんだろ。弟が巨人になって、相当気が滅入っているようには見える。だが何かさ、
「……わたしは別に…」
「本当はエレンが巨人になった理由も、知ってんじゃねぇの?大方人類にはデカすぎる秘密だから、隠さざるを得ないとかさ」
「兵法会議でも話したけれど、わたしはエレン・イェーガーについて詳しい情報は知らない」
「鍵は父親が残した“地下室”だっけか?入ったことねぇのかよ」
「エレンくんが入らせてもらえなかった場所に、わたしが入れてもらえたと思うの?」
馬鹿馬鹿しい、とアウラは首を振る。
疲れたように眉間に手を当て、深く息を吐いた。
「これ以上話していても仕方ないでしょう」
「本当に何も知らねぇのか、あんた」
「隠す理由がないし、わたしは「兵士」よ。人類のために心臓を捧げている身。有益な情報を持っているなら話すわ」
「……そうか。なんか悪いな、いきなり話しかけちまって」
「気にしていないわ、ユミルくん。…そうだ、偶には一緒にご飯でも食べる?班内での友好も含めて」
「いや、いい。私は愛しのクリスタと食うからよ」
「そ、そう…」
「っていうか結局「くん」呼びかよ、私のこと」
呆れた顔でアウラを見つめるユミル。
彼女は肩を竦ませ、大股気味に先を歩いて行った。
「「ユミルちゃん」はね、私の中ではただ一人だけなの」
───そう、呟かれた言葉。
立ち止まったユミルの額から、ドッと、冷や汗が流れた。心臓が縮んだり緩んだり、ひっきりなしに動く。吐いた息は荒く、自分の異変を悟らせないよう、彼女はから笑いを零した。振り向くことはできない。
「あんたの知り合いに「ユミルちゃん」ってやつがいるのか」
「知り合いでは…ないかな」
「じゃあ友だちか?家族か?それとも恋人か?」
「よくは、わからないの」
「……そうかよ」
そのままユミルは気持ち悪さを堪えながら、自然に歩き、それでも内心逃げるようにその場を去った。