そいで、この作品のヒロインお兄さまな気がするんだけどどうしよう(困惑)
ショタはまだ合法(?)だけど、ゴリゴリのヒゲ面なおっさんになってヒロインはキツいよ。お登勢とキャサリンのプリキュアな図並みにキツいよ。でもオジキにとってはお登勢ヒロインなんだもんなぁ……。
どうも、ジークお兄さまの吐いた空気を吸ってヘブン状態になるクソ幼女、私です。
はてさて…公開訓練で落ち込んだであろうお兄さまに、「戦士に、おれもなる!」作戦を決行した私でございますが、お兄さま私の計画通りに──いえ、計画以上の行動を起こしてくださいました。
戦士もといエルディア復権は、お兄さまに課せられた使命。子を産むための猶予期間がある私と違い、お兄さまは齢6歳にして心にのしかかる重圧に完全に追い込まれています。
また、両親から「愛」を得たいという気持ちもある。それらをひっくるめて、私はお兄さまのポジを奪おうとするNTRムーブを決行したわけであります。
外ヅラは、お兄さまの力になりたいかわいい幼女ちゃんです。本当清々しいほどのクソ野郎ですね、私。
そして効果は抜群だったようで、お兄さまに激昂される以上のダイレクトアタックを受けました。まだ頰がジンジンしている。お兄さまは既に外に出て行ってしまっており、開いたままのドアからは外の風が火照った私の身体を冷やします。
側から見れば突然兄が妹を叩いたのですから、両親が妹の方を心配するのは当たり前のことでしょう。
しかし蓋を開ければその兄は両親の大義によって追い込まれ、挙句こんな妹野郎のせいでさらに傷ついている。
「…ダイナ、私はジークを探してくる。アウラのことは頼んだよ」
「わかり、ました。……さ、お部屋に行きましょう、アウラ」
「…………うん」
両親が何か言っていますが、頭に入ってきません。お母さまに頰の治療を受けた後、押されるがまま、私は自室のベッドに入って寝かしつけられました。
流石にこんな状況では夕食も何もないので、瞼を閉じます。スープを数口食べただけでしたが、お腹が全く空きません。
「……おやすみ、アウラ」
お母さまがランプの火を消して、部屋を出ていく。すると室内には窓から差す月明かりが伸びて、ベッドの上の私の顔を照らした。
「かわい、かったぁ……」
私を叩いたジークお兄さま。自分の感情のままに手を出してしまった。今まで見たことがないほど怒りとも、憎しみとも取れる表情を妹に向けた。
その顔を見て、私死んだと思いましたもの。天国があるならきっとあのような感じでしょうね。フワフワと心が満たされる。
お兄さまから初めて明確に与えられた「怒」の感情。私にくださったの、その事実だけで死んでいい。
同時にどさくさに紛れて、堪能したお兄さまの身体(意訳)を思い出す。
やはり鍛えている人間は違う。胸板に触れたとき、胸筋が硬かった。お顔は柔らかそうなのに身体は硬いって、何ですかお兄さま。私を殺したいんですか?殺してくださいね。
それと汗の匂いもよかったです。一生嗅いでいたかったです。もちろんお風呂上がりのお兄さまが発する石鹸の香りも好きですよ?
「ハァ……」
お兄さまがかわいかった。
──そう。でもかわいかったのに、どうも私は未だ痛む頰に、余韻に浸るジャマをされている。
叩かれて、呆然とするしかなかった。
ジンジンする頰に触れる。冷やすようにタオルで包まれ置かれた氷嚢が、手を痺れさせる。
どうして私はこんなに辛いのでしょう。…わからない。嬉しいはずなのに、心が痛い。
考えるほど眠りから意識は遠ざかり、頭までも痛みを発してくる。次第に熱で視界がぼやけて、呼吸が荒くなった。これはあの高熱地獄に体験した感覚と似ている。マジですか、本気ですか神さま。あ、いや、ユミル様だった。
「ジークお兄さまジークお兄さまジークお兄さま……ジー、ク……」
意図せず勝手に言葉が漏れて、その上涙まで出てくる。
あぁ、と頭の中の私は思ったわけです。私はお兄さまを好きなわけですが、この感情はそこから来ていそうだと。
────
兄弟愛のレベルではなく、家族の枠組みにも当てはまらないこの感情。歪すぎる愛情を、私はなぜ実の兄に持ってしまったのか。せめてもの足掻きで「お兄さま」なんて、笑えてくる。そしてその上で、兄弟愛も家族愛も持っているのだから異常だ。
本当に、前世の私はどんなクソ野郎だったのだろう。実の兄にこんな、私、どうしたらいいの。
結局、私は曇りお兄さまのかわいらしさと叩かれたショックの狭間で、本気で泣きながら寝た。ギャン泣き演技とは違う。声を殺して馬鹿みたいに泣き続けた。
深夜になる前にお父さまが路地裏で膝を抱え、丸くなって寝ていた息子を見つけて帰ってきたらしいけれど、お兄さまは身体が冷えたせいで熱を出してしまったようだ。
かく言う私も熱を出し、というかユミル様から天罰が下ったのか、再び1ヶ月の地獄へご案内されることになった。その間の記憶は曖昧なので、省くとする。
ただずっと沈んだり浮いたりする意識の中で、お兄さまのことを考え続けながら、私は今後のことを考えていた。
『終わりよければ全て良し』────にしない、私らしいお兄さまへの愛の向け方を。
⚪︎⚪︎⚪︎
アウラを叩いて以降、ジークは妹を避けるようになった。
妹もまた彼を視界に入れても、黙ったまま。ただ物言いたげな様子は見てとれた。
謝罪に関しては兄妹揃って熱を出したことで、うやむやになっている。妹が再び死の淵をさまよう高熱を出したことで、両親も付きっきりになり、ジークに謝らせることは頭から抜けてしまったようだ。
一ヶ月だ、妹の高熱が続いたのは。
しかしジークは妹の部屋に入らず、ただ黙々と練習に勤しんだ。公開訓練の一件以来、訓練もさせてもらえず雑用ばかりの毎日。それでも雑用が終わった後は、より一層取り憑かれたように訓練をし続けた。
身体を心配した上司の制止も、耳に入れることなく。
追い込まれた精神を覆うように、増えていく身体のケガ。
心にできたキズはいくら身体の上から上乗せしても、消えそうにない。
そんな自分を追い込み続ける少年の唯一の救い。空いた時間にキャッチボールをするようになった二人の場のみ、少年は
彼のメシアはいつものように特徴的なメガネをつけ、ボールを投げる。
「あまり気負いすぎるなよ、ジーク」
「……別に、これくらい普通だよ」
「はは…まぁ今の時くらいは、純粋にキャッチボールを楽しみなさい」
「…うん」
ジークが投げたボールは、クサヴァーの横をすり抜け地面に転がる。いつもは正確なコントロールさえ、上手くできない。ギシッと、少年の歯が軋んだ。
「君は何をそんなに悩んでいるんだ?この間の公開訓練は、散々な結果だったと聞いたが」
「…そのせいで、最近はずっと雑用ばかりなんだ」
「なるほどな。でも、それだけじゃないだろう?」
「それだけじゃ…ないって?」
「君が悩んでいることだよ。私でよければ聞こう」
クサヴァーのボールが、ジークの持ったミットに勢いよく収まる。強い衝撃で少年の手はジンジンと痛んだ。まるでその痛みは妹を叩いてしまった時と同じ感覚で、途端に心臓がギュッと握られた気持ちになり、か細い息を漏らす。
下を向いた少年は、ポツポツと口を開く。
「……クサヴァーさん、僕には妹がいるんだ」
「おや、そうなのか。初めて聞いたな」
「それで……妹がこの間の公開訓練に来ていてね」
ジークは妹が自分と同じ“戦士”になりたいと言ったのだと、クサヴァーに話す。
そして自分が妹を叩いてしまったことも。
「どうしてジークは、妹を叩いてしまったんだ?」
「……戦士になることは、両親から託された僕の“使命”なんだ。それを、妹に奪われたくなかった」
「フム…君はじゃあ今身を粉にして──そんなキズだらけになって一人で訓練をしているのも、両親のためなのかい?」
「うん、僕は両親の誇りになりたいんだ。それで……それで…」
愛されたい、の言葉をうまく口にすることができない。
喉から出かかったそれを飲み込み、ジークは沈黙した。それにクサヴァーは、息をひとつ溢す。
「私が詮索すべきじゃないんだろうが、君は中々複雑な家庭環境にいるだろうってことは、わかったよ」
「………」
「話を戻すけれど、君はその妹に謝ったのかな?」
「……!」
「その驚いた様子じゃ、やっぱり謝ってはないんだね。兄妹ゲンカってのは難しいからなぁ…」
「…クサヴァーさん
すっかり乾いていたはずの涙が、青い瞳から落ちていく。妹を叩いた夜泣き尽くしたと思っていたが、まだ彼の心には感情の源泉が残っているらしい。
クサヴァーは座っていた姿勢から立ち上がり、ジークに近づく。そして徐に、少年の金髪に手を置いた。
「妹を叩いたことは悪いことだと思う。でも君は私に本心を語ってくれた。その上で、君を完全な悪役にすることなんてできないよ。だから泣くな、後から私の前で泣いたことを思い出して、恥ずかしくなっても知らないぞ?」
「……っ、な、泣いてなんかないよッ!!」
袖で溢れる涙を拭き、うわずった声で叫ぶジーク。必死に泣き止もうとすれども、頭を撫でる手つきにどうにも止まりそうになかった。
それから落ち着いた少年は、腫れぼったい瞳のままボールを投げる。今度こそ球はしっかり相手のミットに収まった。
「…あのさ、クサヴァーさんにもし息子と娘がいたら、やっぱり娘の方を大切にする?」
「突然だな。…まぁ、娘がいたら、そっちを可愛がりたくなってしまうかもな」
「………ふーん」
「そう、すねるなって。君も同じ立場だったら、娘の方を可愛く思ってしまうさ。こればかりはしょうがない、父親の
でもね、とクサヴァーは続ける。
「
「…そんなの、わからないじゃん。僕の両親は妹の方が大切だし」
「愛することに差はないよ。君は不器用そうだからな…どうせ親に甘えることも苦手なんだろう?」
「べ、別に…そんなこと……(ゴニョゴニョ)」
「露骨な反応だね。甘えづらいのだったら私に甘えてもいいんだよ、ジーク」
「えっ!?……い、いいの…?」
「……あぁ」
嬉しそうに笑うジークとは対照的に、クサヴァーはどこか憂いた表情であった。遠くを見るような視線に少年は首を傾げつつ、投げられたボールをキャッチし、思いきり投げた。
「うぐっ…今日イチの球だな。…おっと、そう言えばジーク」
「何、クサヴァーさん?」
「近頃会えなくて言い忘れていたが、誕生日おめでとう」
「…え、覚えてくれてたの?」
前にキャッチボールをしながら、なんとはなしに少年が言った日付。その日から幾ばくか経ってしまっているが、嬉しくないわけがない。まさか、覚えてもらっているとは思わなかったのだから。家では妹が高熱を出している時と重なってしまったので、きちんと祝えなかった彼の誕生日を。
「生憎プレゼントは用意できなかったんだがね、すまない」
「い、いいよ!祝ってもらえただけで僕すごく嬉しいから!!」
「はは、そうか」
「あ、じゃあ……その、このボールもらってもいい?プレゼントに」
「そんなものでいいのか?構わないが…」
「本当!?ありがとうクサヴァーさん!」
きっとこの時のジークは久し振りに心から笑えた。
間違いなく、幸せなひとときだった。