ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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オッス、オラ筆者!新章突入だぞ!ただ文字数は少ねめだ。
いやぁ〜ぼっちクリスメスは楽しかった!リア充には元気玉をぶつけてやったぞ!(暗黒)


【五章】“幸せ”ってあんにゃもんにゃ編
神にとっての悪魔さま


 一面の砂の世界と、天上に伸びる巨大な光の柱。

 

 その場所で一人の少女は、地面に仰向けの体勢で横たわる兵士服の女の側にしゃがみ、頰をつついていた。

 

 

 女の白銅色の瞳からは涙が溢れ、口元からは涎が垂れたまま。顔は完全にトロけていた。眉は限りなく八の字になり、ひっきりなしに漏れる艶めいた声。

 

 肉付きの薄い体躯は女自身の両手で抱きしめられており、胸元が微かに強調されている。足は閉じられ、時折その全身が小さく跳ねた。

 

 少女の目に、絶対に晒してはならない卑猥物。

 しかして少女に動じる様子はない。

 

 

 頰を突っつけども、色素の濃い髪を撫でてみれども、女の適切な処理(モザイク)が必要な姿は変わらない。というより女は、少女がいることさえ気づいていない。

 

 攻撃の手を変え、女がミカサにした脇腹攻撃や、幼き弟へしていたうなじを手で掴む方法。また、かつて少女自身が女に受けたπ(パイ)タッチも行ったが無反応。

 

『………』

 

 少しムゥ、と口を尖らせた少女。

 女に近づき額同士をくっつけて見えたのは、例えるなら延々と続く「♡」の文字(本文の15万字が余裕で埋まるレベル)。

 

 完全なるメス堕ちだ。少女は訝しんだ。

 

 

 女がここまでイっているのは、兄ジークと出会ってしまったためだ。

 

 本来なら、ミケ・ザカリアスが遭遇するはずだった獣の巨人。イレギュラーな女の存在は、彼女が現れた時点から、少女が知っている未来の趨勢と異なる動きを生み出す原因となっている。

 

 神の如き少女を以ってして、これからの物語がどう動くかはわからない。だが彼女自身がしがらみから()()()()()ため、そして女のため、最善を尽くしたいと願う。

 

 

 ただ、動くにしても少女には初恋相手への想いや、二千年間刻まれた“奴隷”としての在り方が存在する。

 

 そも少女が存在する「道」は、現実世界と時間の流れが異なる。キャラの戦闘力のインフレが凄まじい七つの玉を集める漫画の例を挙げるとするなら、“精神と時の部屋”だ。現実世界の一日が、その部屋では一年となる。無論少女の存在する世界は一年の方に該当する。

 

 悠久とも感じられる時間の中、その精神も人間から大きく逸脱した。女の存在を認識するまでは、少女にはごく僅かな人間性しか残っていなかった。

 

 

 だが女に触れ、少しずつ少女の心は色を取り戻し始めている。それこそここ数年重労働を強いられる主な原因の獣の巨人に対し、「ハ?」とキレかけるくらいには(ただし死んだ表情筋は、余程のことがないかぎり動かない)。

 

 今思えば、初代レイス王に半径数百キロに及ぶ壁を作らされたあの時は、数千回なぶり殺しても足りぬほど過酷な作業だった。

 

 

 初恋の想いは、女が現れてなお、少女を縛り続ける理由となっている。レイス王の所業も、獣の巨人の同時多発テロ的巨人の発注案件も、彼らが「王家」の血を引いている以上、奴隷の彼女は逆らうことができない。

 

 それが彼女の()()()()であるから。

 

『………』

 

 女もまたフリッツの血を引く人間だ。しかし、彼女と出会った歴代のフリッツ王やレイス家の人間たちとは違う。

 

 女は少女にとって特別な存在。

 

 少女を初めて、「あい」してくれた存在。

 

 

 だから少女は───ユミル・フリッツは、一人の「ユミル」として、女の幸福を願う。

 

 たとえそれで多くの人間が死のうと、彼女の心は一片の揺らぎも見せぬ。否、元よりそんな感情は、生きていた頃に失った。

 

 人の死も生も、彼女にとってはさしたる大きな違いはない。

 

 

 現在女は再起不能となり、暫くは絶頂の世界から帰ってこないだろう。

 

 本当なら、ジークの手に握りつぶされ死ぬはずだった。女の幸福は兄の元でしか存在し得ない。

 

 女に愛されるヒゲ面のおっさんに嫉妬を覚えるが、少女とて初恋の想いが未だ存在する。ゆえに女が誰かを愛することを、少女は肯定しているのだ。それが兄妹云々──という常識はない。

 

 

 また女の、人の悲劇を食らうことでしか「生」を実感できない精神構造も、少女は完全にわかってはいない。だからこそ()()()()()()、齷齪している。グリシャはその最たるとんだ被害者だ。

 

 まぁわからずとも、大好きな人間の全てを肯定する。まるで慈愛に満ちた神が如く。限定的すぎる愛の方向性だ。

 

 流石というべきか、女は愛するお兄さまに殺される間際、完全に堕ちた頭と関係なしに、()()()()()()()方法を取ろうとした。ブレードを握ったのが正しくその時。

 

 これぞジーク曇らせへの執念か。少女(ボブ)は理解しようにもできなかった。

 

 

 

 最悪少女が介入しようとも考えた。

 

 一つ留意する点があるとすれば、あの場にいた巨人たちが獣の支配下にあったこと。

 

 “王家”の血が絡む以上、少女はその巨人を操ることができない。そのため、「始祖」を利用せざるを得なくなる可能性があった。

 

 だが強硬手段に出る前に、ミケが到着。女を救い出した。

 これについてはユミルが操作したものではない。

 

 座標の力があれば、記憶操作や人間の脳内に呼びかけることも可能である。だが唐突にミケの脳内に「副分隊長が危ないで!」などと訴えかければ、それこそホラーだ。

 

 女に特別な力があると考えられれば収拾がつかなくなる。記憶改ざんの手もあるが、不自然にツギハギされた記憶は、のちにどのような歪みを生み出すかわからない。乱発はなるべく避けたい手段。

 

 

 そもそも少女が過剰に関与すること自体、世界にとってはかなり歪みの生じる行いである。

 

 オリチャーを発動したニキやネキたちに存在する、これからの展開への不安や後悔。それが少女にも付きまとう。

 

 さらに言えば、「道」の世界に縛られる彼女が現実へ手を加えることは、相当な疲労を要する。

 

 生命の根源と遭遇し、その“理”によって存在する少女。

 逸脱が過ぎれば、少女でさえ何が起こるか判断できない。

 

 しかしそれでも、多少の地雷は踏み抜いてでも、女のためにユミルは尽力する。

 

 

 捧げられた分を、捧げようと。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 獣の巨人から逃れるように、大きく西へ移動したミケ。アウラの方は助けられた直後気絶し、彼の背後にぐったりと寄りかかっている。

 

 巨人たちの姿が見えなくなったところで、ミケは周囲の安全を確認してから地面に降りた。

 

 そしてアウラが身につけていた太もものベルトを、限界まで締め止血を施す。

 だがそれだけでは心もとなく、ブレードの部分を外し柄が繋がったワイヤーでキツく縛った。

 

 

 早く病院に運びたいところであるが、ここは最前線。兵士として一人のために時間を割いている余裕はない。その上、ウォール・ローゼの壁が破壊されている可能性がある。

 

 近隣住民への避難指示は別れた四つの班が回っている。ゆえに先に調べるべきは壁。

 

 伝達人員がエルヴィンのいるストヘス区へ向かっているが、位置からして援軍が来るのは翌日になるだろう。それまでに壁の穴の場所を把握しておきたい。

 

「どう、すべきか…」

 

 再度馬にアウラを乗せたミケは、馬を走らせる。一先ずこのまま西へ行き壁に向かう。二人を乗せた馬の疲労がかなり溜まっているが、かといって彼女一人置いてはいけない。

 

 エルヴィンが非人間的になれる一方、ミケは情には篤い。一見すれば寡黙で、初対面の人間の匂いを嗅ぐ変人ではあるが。

 

 

 アウラ・イェーガーは現在敵の内通者として怪しまれている。彼女も「クロ」と匂わす発言をした。

 

 仲間を裏切る行為を為した理由はわからない。それこそ本人から聞かなければ。

 

 一方でケガがあり戦闘も満足にできないのにも関わらず、躊躇いもなく囮になったり、涙を流していた姿。

「死」へ向かおうとする行為を何故取るのか。

 

 

 それは単に、“罪悪感”に苛まれているからではないか。

 

 

 ミケと二手に分かれた時のアウラの顔は、どこまでも安らかだった。

 

 許してはならない。仲間を裏切った代償はきちんと払ってもらわなければ、死んだ者たちに示しがつかない。だがその清算は決して、彼女の死を以ってなされることではないのだ。

 

 

 だからこそミケは拭いきれぬ胸騒ぎを感じ、自身を追う巨人を狩った後、急いで彼女が向かった方角へ馬で急いだ。

 

 そこで見たのは身体が体毛で覆われた「獣」の巨人。

 そして、その巨人に肢体を掴まれようとするアウラ。

 

 

 その時ミケの視界に一番強く映ったのは獣ではない。ブレードを抜いた、女の───()()()姿()

 

 

 死にたいのであれば、そのまま抵抗しなければ望み通りになった。

 

 だが彼女は柄を握った。それ即ち、「兵士」としてあるべき姿に他ならない。

 

 ミケが獣の巨人を視界に入れた時、総毛立つ感覚がした。異質なその見た目もあったが、瞳の奥に()()を感じ取った。巨人にはあってはならない“知性”の片鱗である。

 

 もし彼がアウラの立場になっていれば、恐怖で固まってしまっただろう。

 

 

 それを踏まえ、最後まで戦い続ける。

 “進み続ける”調査兵団として最も必要な意志が、アウラ・イェーガーにはあった。

 ゆえにミケは迷っている。

 

 本当に彼女が裏切り者であるのか、と。

 また裏切ったのならば、その理由は何か。敵に利用されている可能性も十分あり得る、と。

 

 

 まぁ、考えても仕方ない。現状の最優先は穴が空いているであろう壁の箇所の確認。

 

 アウラの出血量から鑑みて、翌日調査兵団の援軍と合流し、病院へ連れて行って生きられるかどうかは半々だ。

 

 しかし一度ウォール・マリア陥落時、死地から帰ってきた女だ。そう簡単には死なない確信が、漠然とミケの内にあった。

 

 

 

 その後彼は古城の跡地を見つけ、彼女を塔の中に残し一人壁の調査を行った。

 

 不気味なことに隔離施設で遭遇してからというもの、巨人を見かけることはなかった。まるで壁の穴など気のせいである、とでもいうように。

 

 城跡地付近から一旦南方向へ向かい、壊れていると推測される範囲を壁に沿いながら北上する形で調べる。

 

 

 その途中ミケは近隣の住民を誘導し終え、壁を調査していた仲間と遭遇。

 

 時刻はこの時点で暗くなってきており、壁に穴が存在しないという結論に至ったのち、すぐさま彼が進んできた道を引き返し、同じように調べていた仲間と合流した。

 

 ナナバやゲルガーが深刻な面持ちの中、一行は暗くなってきたことも受け、その夜は城の跡地で一泊することになる。

 

 

 長い夜の、始まりであった。

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