ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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(例の使徒と戦うBGM)

KISIBEえがった……原作はもちろんアニメもドラマもいいとか神かよ、神だよ。例の映画は「一章」の次が来てないんですけども。
いつも通り(?)主人公がhentaiしてる回です。


第四伍話 理不尽な、痛み

 知らない天井だ。

 思わず至近距離にあった顔を殴ってしまったお茶目さんは私、アウラ・イェーガーちゃん。

 

 何で私、生きてるの。

 

 

「グハッ」

 

 

 おかしい。巨人化してもイケメン過ぎたジークお兄さまに殺されたはず。なのにどうして生きてるんだ、どうして。

 

「い゛っ……!!」

 

 その時右足に激痛が走り、呻きながら視線を向ける。右膝の少し上辺りから欠けていた。

 

 寒気がひどいですね。身体を少し起こしましたが頭痛がし、吐き気もする。身体の上にかけられていたのは、サイズの大きな調査兵団の上着。また上下には薄い毛布がある。立体機動は外され、この場にはなかった。側ではパチパチと、燃える薪音。

 

 

 頭の方はまだぼんやりとしている。お兄さまのお声を聞いてから記憶がほとんどないんですが、何があったのか。

 

 辛うじて思い出せるのは、ろくに回っていない思考の中、誰かが側にいた感覚。あの砂の感触はユミルたその世界。

 

 つまり私は規制御免、な様子を見られていたわけだ。それもそれで興奮する(末期)

 

 どれほど痴態を晒していたのかわからない。しかし相当あの世界で意識をトばしていたことはわかる。現実ではそれほど時間が経っていないでしょう。巨人に食われた右足の痛みから考えても。

 

 

「だい、丈夫か?」

 

 私の右ストレートパンチを受け壁に吹っ飛んだ相手が戻ってきた。この美女ちゃんに顔を近づけて、いったい何をしようとしていたのでしょうか。あなたを猥褻罪で訴えます。覚悟の準備をする暇も与えません。

 

「すまない……心配だったんだ」

 

 申し訳なさそうに謝るライナーくん。瞳を開けたらゴリラがいた。そりゃあ私でも理不尽に一発殴ってしまいます。いや、むしろ私じゃなかったら、変態扱いで彼の人生終わりだったのでは?

 

 

「なに、が」

 

「状況は説明する。無理に今は動かなくていい」

 

 ライナーくん曰く、今の現在地は隔離施設からしばらく西に行った城の跡地。近くには壁がある。

 

 私はミケ分隊長に獣の巨人に握られそうになったところを寸前で助けられ、そのままこの場所に運ばれたそうだ。分隊長はその後壁の調査に向かい、仲間と合流。四班に分かれた彼らも、無事近辺の住人たちに避難誘導を終えた。

 

 ちなみに穴については無かったらしい。

 

 時刻は夜であり、一晩をこの場所で過ごす。翌日には、伝達から事を知った調査兵団の増援が来るとのこと。

 

 ちなみに私は重傷者のため、皆がいる場所とは離れた場所で寝かされていたみたいだ。ミケ分隊長や他の武装した兵士は現在屋上で見張り。その他新兵らは塔の中で各々休息をとっている。

 

 

 何故ミケ・ザカリアス、私を助けたんだ。何故、何故、何故。

 

 

 ブレードで足の指から少しずつ、頭に向かって薄く切り刻んでやらなければ。でなければこんな仕打ち、到底受け入れられない。否、刻んでも足りない。

 

「私」の終わりが、また、遠い。空みたいに。

 

 

「ちょうど盗賊が最近ここを寝ぐらにしていたみたいでな。一晩過ごす分には十分な食料があったんだ」

 

「………」

 

「アウラ副分隊長、あんたは今失った分の血を補わなくちゃならん。顔色もほぼ死人だ。何か食えそうか?」

 

「………」

 

「…やっぱり、調子が悪いか?」

 

「…………った」

 

「えっ?」

 

 

 ────殺され、たかった。

 

 

 

 潰されて、そのままお兄さまの手の中で血と肉を身体から溢れさせながら、「私」で汚したかった。私が付着したお兄さま。本当は敵対してその上でお顔を拝んで死にたかったけれど、お兄さまに殺されるならそれだけで私は生きていてよかったと思える。もっとお兄さまに私を刻みたかった。私で穢れて欲しかった。私でお兄さまがグチャグチャになって欲しいのもっと。そして私をグチャグチャにして欲しい。

 

 だってそれって、とても「愛」でしょう?

 

 

 

「あんたが死んだら、エレンが悲しむぞ」

 

「…今のライナーくんはどっち?兵士なの?それとも──」

 

「兵士に決まってるだろ?逆にそれ以外に何があるっていうんだ」

 

「………そっか、ならいいよ」

 

 今私の前にいるのは「戦士」のライナーではない、ということ。これでは話せるものも話せない。

 

 ベルトルトくんはずっと、斯様な要介護者と共にいたというわけか。そりゃあ唯一お家事情を理解できる私に話を持ちかけてもおかしくない。それ込みで利用されたんですが。

 

 

 それにしても穴がないというならば、いったいどうやって巨人が現れたというのか。

 

 ビッグお兄さまが巨人を抱えて運んだ可能性もありますが、現実的ではない。多くの巨人を運ぶくらいなら、壁をどうにかして壊した方が手っ取り早いでしょう。

 

 いや、そもそも何故巨人を壁内に入れる必要があった?少なくとも混乱させるのが目的ではあるまい。

 

 仮に派遣した戦士が中々戻って来ないとして、痺れを切らしたマーレのお上が増援を寄越す。壁内を襲撃するならわざわざウォール・ローゼの南東の隅で現れるより、紛れ込んで中心地で事を起こした方が襲撃としては適切。

 

(っあ)

 

 脳裏によぎったのは、お兄さまが物色していたもの。それはマントや、立体機動装置。

 

 兵士の武器を観察していた点や、穴の空いていない壁内に現れた巨人を踏まえて。

 

 

(───敵情視察か)

 

 

 巨人を連れて来たのは、敵の戦力を窺うため。ゆえにお兄さまは武器なども観察していたのだ。

 

 急に壊滅的な被害をもたらす襲撃を行った場合、既に送り込まれている戦士たちの作戦の進行を阻害する可能性もある。

 

 ということは視察メインなら、お兄さまが早々に帰ってしまう。え、あっ…(死)………いえ、今日出会えたのですから、まだ流石にいらっしゃるでしょう。お兄さまが帰還する前に全力で殺されに行かないと。殺されなくとも死にます。

 

 

(というか、えっ)

 

 お兄さまのお声を聞いた時、「待て」とおっしゃっていたんですが。既にこの時点でお父さまや、ハンジ・ゾエに聞いたエレンと比較して、()()()点で大きな違いが存在する。

 

 女型も話すことはできなかった。わざわざアニちゃんはうなじから出て来て会話したくらいですし。

 

 知性巨人にも話せる個体がいるとして、お兄さまはどうしてあの時「待て」と言った?

 

 その直後頭がイかれてしまった記憶をどうにか手繰り寄せて、現状を把握し──ジークお兄さま本当格好よかったです目が、目がァァ!

 

 

 

 確か、獣の巨人が「待て」と言った後、ギョロ目巨人の動きが止まった。

 

 

 ────()()()()

 

 

 待て、待て。お兄さまの言葉に従ったとでもいうのか?まさか、そんなわけ……いや、奇行種以上に特異性を持つ巨人の存在は、物的証拠や目撃情報がある。

 

 約一年前メガネの変態がリヴァイ兵士長から預かった“興味深いもの”として、私と討論を交わしたもの。

 

 それが調査兵団兵士「イルゼ・ラングナーの日記」

 

 

 彼女は壁外調査の際馬を失い、立体機動装置が使えなくなった中、徒歩での帰還を目指した。

 

 そんな彼女が遭遇したのが()()()()()巨人である。

 

 6メートルのその個体は彼女を『ユミルサマ』と呼び、敬意を示した。この際ハンジは『ユミルサマ』とは誰なのか、あるいは何であるのか調べたが、「ユミル」にまつわる情報は得られなかった。

 

 当然のことだろう、既に記憶改ざんと共に抹消された単語であるのだから。私など一部の者しかその“意味”を理解することはない。

 

 何故その巨人が『ユミルサマ』と呼んだのかは、私にもわからない。本人かもしれない少女に聞くのも忘れていた。

 

 しかし巨人によって通常種と奇行種ができることからも、何かの要因が存在し、その巨人が言葉を発したのではないのか?と個人的には考えている。

 

 

 

 して、知性のない巨人が言葉を発した事例は存在する。

 ならばお兄さまの命令を聞いた巨人は、言葉を発した巨人のように特異な個体であったのか?

 

 否、違う。

 

 ()()()()()()ではなく、()()()()()に何か特別な理由が存在する。

 

 お兄さまは存在だけで特別ですが、特筆して挙げるならば何か。

 考えるまでもない、「フリッツ」──王家の血だ。

 

 特別な血が影響し、無知性巨人は獣の巨人の命令を聞いた。チート過ぎないでしょうか。

 

 言うことを聞くならば、壁を自力で登らせ侵入させることも可能でしょう。巨人化の最中にしか使えないのか、人間の状態でも使えるのかは不明ですが。恐ろしい力です、流石お兄さま。

 

 

 

「大丈夫か?ぼんやりして」

 

 思考に耽っていれば、ライナーくんが手を伸ばし私のおでこに付けた。身体は寒いですが心はグツグツと煮えたぎっています。お兄さまの愛でな。

 

「熱はないか。無理、するなよ」

 

「……うん」

 

 儚げ美女スマイルを浮かべると、ライナーくんの顔に影ができた。これは今度こそアウラちゃんに惚れてしまったみたいですね。まぁ重傷の私に盛ってこようものなら、何を、とは言いませんが本気で潰す。そも彼なら再生するので問題ない。

 

 躾ってのに一番効くのは痛みである。どこぞの160cmの男が呟いていた言葉です。

 

「………何か食えるものを持ってくる」

 

「私のことは構わずに、休んでていいよ?」

 

「いや、俺がやりたいからやるんだ。気にするな」

 

 そう言い、ライナーくんは部屋を出て行った。

 

 

「ハァ……」

 

 お兄さまはまだ壁内にいる可能性が高い以上、どうにか隙を見てこの場から抜け出したい。

 激しく動けばその分血が流れて本気で死にますが、殺されに行くので無問題。

 

 夜ならば隔離施設からそう離れていない場所で、休憩を取っているだろう。単身で壁外の移動はかなり無理があるので、恐らく他にも仲間の戦士はいる。

 

 

 お兄さまが送り込んだ巨人のせいで、「妹が足を食われちゃったんやで♡」プレイができるの控えめに言って最高ですね(ドロォ…)

 

 ただ、食われたのは完全に予想外だった。お兄さまのためなら、四肢も五感も内臓も肉も骨も私の全てを失っても、かまいませんが。

 

(抜け出すならまず杖になるものと、外の様子を窺うことか。立体機動装置も隙をみて奪いたい)

 

 幸い部屋──と言っても周囲が石造りで囲まれ、そこにくり抜かれた窓の部分から、月明かりが差している部屋──の隅にかつて使われたであろう鍬があった。高さは腰ほど。持ち手を握り、地面と接する鉄の平たい部分でうまくバランスを取りながら歩く。

 

 進みたびぶっ倒れそうになりますが、身体に鞭を打ちます。死ぬならお兄さまの前で死にましょうね。

 

 

 

「「………あっ」」

 

 

 

 木の扉を開けて出ようとしたら、この部屋に向かっていたらしい少女と出会してしまった。ユミルくんは今日もイケメンですね。

 

「さては脱走しようとしてたな、あんた」

 

「ふぇっ」

 

「ホォー…図星か」

 

「………」

 

「てっきり顔が真っ青だから幽霊かと思ったぜ。っま、そんなの私は微塵も信じてないけどな」

 

 豪快に笑いながら、ユミルくんに背を押され中に戻されてしまったアウラちゃん。仕方ないので、持っている鍬で頭を殴って殺しましょう。急がないとお兄さまが帰ってしまう。

 

 と、思いましたが鍬は彼女に奪われ、体勢を崩した私は前のめりに転ける。それをユミルくんが抱きしめて受け止めてくれ───何だこの胸は。

 

「うわっ、見かけ以上にあんた()ッそいな」

 

「………」

 

「そう怒んなって、飯も持って来てやったし、ちょっと話そうぜ」

 

「……わかりました」

 

 

 ユミルくんはこっそり食料を漁り部屋を出た時、ライナーくんとすれ違ったそうだ。

 

 そして彼の腫れた左頬と、ライナーくんが私が寝ている部屋の様子を見に行く、と言っていたことを関連づけ、彼に爆笑したのち代わりに食料を持って行くことを願い出たとのこと。

 

 今も思い出し笑いか、堪えきれず床を叩いている。

 

「どうせあんたが寝てるからって、手ェ出そうとしたんだろ?クリスタもアイツに狙われてるし、私が一肌脱がないとな」

 

 ()ったら死んじまうかな、とユミルくん。この子物騒なこと考えてませんかね?(おまいう)

 

 ユミルくんは私から一人分離れた場所に座り、缶詰を渡してくる。スプーンはないので手掴みで食べろと。ワイルド過ぎやしないですか?

 

 缶詰の表記を見ると、『ニシン』と書かれている。

 

「………」

 

「何だよ、食べられないのなら──」

 

「食べる。全部残さず汁一滴全て」

 

「…お、おう」

 

 壁外の文字で書かれている缶詰のパッケージ。そも、海水魚のニシンが海のない壁内に存在しているはずもなく。

 

 つまりこれは外の人間が持ち込んだもの、と推測できる。現在お兄さまが任務中であることを考えると、彼が持ち込んだものである可能性が高い。拠点にしていたのでしょう。この古城跡地の近辺には人もいなかったようですし。

 

 お、お兄さまの、お兄さまのニシン………。

 

 

「おい゛じぃ…」

 

「泣くほど美味いのかよ………な、なぁ?そんな美味いなら、ちこっと私にもくれないか?」

 

 だが断る。お兄さまのものは私のもの。ついでに「私」と私のものはお兄様のもの。

 

 汁一滴残らずお兄さまのニシン(もの)をゴックンしました。味がとても濃いですね。美味しゅうございました。

 

 舌で口元を舐めとれば、ユミルくんは少し目を細めて顔を赤らめる。「クリスタに(伏せ字)したらこんな感じになるのか…」と言っていますが、何を考えているんだこの女。というか聞こえているんだが。

 

 

 

 食べ終わったのち、ユミルくんが去ると思いましたが、部屋を出て行きません。

 

 それとなくクリスタちゃんを出し、ライナーくんも一緒にいるけど心配ではないのか?と、誘導する。しかし既にライナーくんには脅し済みらしい。この娘はクリスタ専用のセコムなのか。

 

()()()()──って、私言ったろ?」

 

「あら、そうだったね。じゃあ今日そちらであった内容でも教えて欲しいかな」

 

 ユミルくんは洞察力に優れている。ゆえに隔離施設にいた時も、なぜ自分やクリスタたちがこの場にいるのか。また、大規模壁外調査の真の意図を考えていたのだろう。

 

 

 どこまで把握しているかはわかりません。しかし私にフランクに接しながら、わずかに警戒心を覗かせている辺り、隔離施設にいた非武装の人間が、エルヴィンらに怪しまれているとは考えたはず。

 

 そして疑われる内容は、「敵」の内通者であるかどうかということを。

 

 私を怪しむ理由は、右翼索敵で唯一生き残った人間だから、で十分。

 

 イマイチ彼女の意図はわからない。が、クリスタ・レンズに親愛であるのか友愛であるのか──ともかく、特別な感情をユミルくんは抱いている。クリスタを守るため、動いている節は見受けられた。

 

 

「───とまぁ、私の班で起こったのはそんなもんだな。……あ、そういや」

 

「何?」

 

「…いや、コニーの故郷なんだけどよ、村が壊滅していたらしい。それも他の集落と比べて圧倒的な被害だ」

 

 班を村へ案内したコニー・スプリンガー曰く、家は巨人によって破壊された跡があり、村人は全員おらず。唯一その場にいた巨人は、コニー家をぶち壊し仰向けで寝転がっていた一体のみ。その個体は手足が異様に細く、移動もままならない状態であった。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「コニーもライナーも、()()()()()()って言ってたんだ。バカバカしい話だよな。しかもコニーはソイツが母ちゃんに似てる、って」

 

 コレは絶対後で、ハンジ・ゾエが鼻息荒くして向かうんですねわかります。私も連れて行かれるのだろうか。いや、その前にこの内容について数日間討論を申し出されるかもしれない早いとこお兄さまに殺されに行かないと私の明日がホワイトホールどころかブラックホール。

 

「なぁ……副分隊長さんよぉ。あんたもこの話、()()()()()()って思うよなぁ?」

 

 こちらを観察する視線。私がどこまでの情報を持っているのか、探ろうとしている。

 

 

 先まではジーク・イェーガーが巨人を操作し、壁内に侵入させたのだと思っていた。

 

 しかし不可解なコニー・スプリンガーの村や彼の母の状況を考え、外から材料を持ってきたのではなく、恐らく中の素材を使ったのだ。

 

 エルディア人であれば、巨人の脊髄液を投与すれば巨人になる。注射器を使ったのか、あるいは別の方法を使ったのかはわからない。だがコニーの故郷、ラガコ村の人間は間違いなく総じて巨人化させられたのだろう。

 

 

「興味深い話ね。これは一部の調査兵団の人間しか知らないけれど、喋る巨人というのは、一度確認されているの」

 

「ホォー…、それ私に話してもいいのか?」

 

「大丈夫でしょう。一人の兵士が壁外で喋る巨人と遭遇し、日記に命の終わる直前までその様子を記したの」

 

「その巨人はなんて喋ったんだ?」

 

「その巨人は兵士───イルゼ・ラングナーに『ユミルサマ』と言った」

 

「……え?」

 

「偶然ってあるものね、あなたの名前と一緒よ」

 

 大きく開かれたユミルくんの目。壁外を彷徨う巨人は元はエルディア人であり、さらに言えば「楽園送り」にされた者たちだ。その巨人になった人間ももしかしたら、ヒトの形を失う前に、神に縋ったのかもしれない。

 

 一人の少女に、救いを求めて。

 

 

「そのイルゼ……って、どんな奴、だったんだ?」

 

「イルゼ・ラングナー?わたしとは交流がなかったけれど、どんな窮地でも諦めず戦う女性であったそうよ。身長は小柄で、容姿は黒髪の……ちょうどあなたと同じそばかすがあったとも言っていた。彼女と仲の良かった兵士がね」

 

 

 実を言えば、彼女を殺した巨人についてはもう一つ謎がある。それはイルゼ・ラングナーの日記が発見されたすぐ近くで、話した巨人がいた点。

 

 日記が発見された当時、彼女の死後から一年経っていた。しかしその巨人は移動することはなく、ずっとその場にいたのだ。

 

 中にイルゼの死体がある、樹の側で。

 

 何故死体が樹の中にあったのか。その点についてハンジ・ゾエは、その巨人が埋葬した説を推した。同時に巨人が死体の側を離れなかったのも、守っていたからではないか──と。

 

 イルゼの容姿を考えても、始祖ユミルとは全く似ていない。考えどもやはりこの件は、疑問が多い話である。

 

 

 

「────ハ、ハハッ」

 

 

 

 静寂の中に響いた、笑い声。引き攣った笑顔を浮かべ、眉を寄せているユミルくん。

 

 狂ったように笑い始め、涙を流す彼女。どうしたのでしょうか、急に精神が振り切れてしまったようですが。狂った笑いの中にある心の悲痛が、コハクの色に瞳の中に現れていて、かわいいですね。

 

「ど、どうし、たの…?」

 

「ハハハ、ハハ、ハァ…………はは」

 

 彼女はボロボロと溢れる涙を服の裾で拭うが、次から次へと落ちる。

 

 何か彼女の心に触れる原因があったのか?例えばイルゼ・ラングナーが彼女の家族であった、とか。…いや、それはないだろう。彼女の名前を聞いた時点で表情に変化は見られなかった。

 

「………悪い、急に取り乱しちまって」

 

「…別に、大丈夫だけれど」

 

「ハハ…やっぱり“運命”って奴からはさ、逃れられないんだな。誰かの犠牲の上で成り立つ、人生、なんて……」

 

 普段のユミルくんと一転し、ひどく憔悴している。本当に急に可愛くなってしまってアウラちゃんをどうしたいんでしょうか。

 

「あれ、もう行っちゃうの?」

 

 立ち上がり、部屋を去ろうとするユミルくん。私が缶詰の文字を見た時の一瞬、視線が鋭くなった理由も知りたいんですが。

 

「そう言えば缶詰(コレ)、何の魚だったの?ユミルくん」

 

「…さぁな。私にはその缶詰の文字、読めなかったし」

 

「え?」

 

「ア?」

 

 目元が少し腫れた彼女が、こちらを鋭い眼光で睨めつけてくる。

 私一応あなたの上司なんですが。

 

 

「わたしは“魚”の話をしたのに、どうしてここで、“()()()()()”の話が出てくるのかしら?」

 

「────ッ!!」

 

「ふふ、まるで最初からあなたの関心が、話し合いよりもこの文字に対するわたしのリアクションだった──みたいじゃない」

 

「私は、別にッ」

 

「あらあら、否定する余裕もないのかしら?もしかして君はこの文字、読めるんじゃないの?」

 

 

 美女スマイルを浮かべれば、一歩、ユミルくんは後ろに下がる。

「ユミル」の名前と、壁外の文字。想像以上にこの人間は()()()()を有している。

 

 大きな裏があるように思えてならない。先ほど『ユミルサマ』の話を聞き、突然様子が変わったことを含めて。

 

 

 彼女の裏には──否、彼女の闇には、私が望む人の不幸がある。その闇を暴いた時、ユミルくんはどんな表情を浮かべてくれるのか。私に教えてください。さぁ、私をあなたで刻んでみせてちょうだい。

 

 四つん這いで彼女に這い寄り、下から震える身体を見つめた、その時。

 

 外の階段を駆け上がってくる音が聞こえた。ついで扉が開き、現れた女兵士が声を荒らげる。

 

 

「急いで屋上に向かってくれ!!」

 

 

 突然のことに驚きながら、汁一滴残らず舐めとった缶詰(ユミルくんは食い入るように見ていた)を懐に入れ、兵士に支えられながら階段を上がる。呆然としていたユミルくんも我に返り、兵士が支えていた逆の肩を持ち、私を上がらせてくれた。え、天使か?(チョロイン)

 

 

 上に着けば混乱している新兵たち。一瞬ベルトルトくんが私に気づいてビクッ、とした。失礼ですね。

 

 見れば、森から巨人の群れがこちらに向かって移動して来ている。

 

 日が暮れてからかなり時間が経っており、巨人の暗闇では行動しなくなる性質上、個体差はありますが、普通なら活動を停止しているはず。月明かりが出ていようがなかろうが、関係ない。

 

 奇行種、というわけではあるまい。それこそ誰かに()()()()()いなければ。

 

 女兵士とユミルくんの腕を払い左足でジャンプしながら、掴まる分にはこの上なく安定するナイスガイの肩を掴む。

 彼の隣にいたベルトットくんはまた肩を揺らした。ストレスでV字ハゲにさせましょうか。

 

 

「あ、アレ見ろ!!」

 

 

 コニーが叫び、一斉に少年が指差した方向へ視線を向ける。月明かりの中、地面につきそうな長い手を前後に揺らし、ゆっくり歩いているイケメン。

 

 この世で一番私が愛してやまない人です……♡

 

 

「獣の、巨人……」

 

 

 兵士の一人が、そう呟いた。

 

 あぁ、私を()して、ジークお兄さま。

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