ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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あけおめ今年一発目です。
よろしくお願いしますッッッ!!!(サマウォ感)


失敗したら30分待たなきゃいけないリスキーな踊りより、ポタラさんを使った方が早いじゃないか…!(ただし副作用あり)

 これは、一人の少女のお話だ。

 

 孤児であった少女が、皆に崇められる“始祖ユミル”になったお話。

 

 

 道端で寒さに震えることも、飢えに苦しむことも、人々から冷ややかな視線を向けられることもない。

 衣食住が約束され、人々は彼女を“神”と崇め、地に額をすりつける。

 

 今まで誰にも必要とされなかった少女は、「ユミル」であれば、大切にされる。微かな優越感に浸り神としての人生を送っていたある日、訪れる終焉。

 

 政府に見つかった彼らは神も信者も、一人残らず楽園送りにされた。少女もまた、短い人生の幕を閉じたのである。

 最後まで、皆に必要とされる「ユミル」を演じ続けて。

 

 都合のいい神として祀り上げられ、彼女の人生は終幕した。他人に操作された運命に、翻弄される人生だった。

 

 

 

 しかしこのお話は、少女が「罪人」として裁かれ終わる話ではない。

 

 彼女の物語はまだ終わらなかった。

 

 長い時を巨人として過ごした彼女は、突然自由を手に入れる。夢のような、地獄の日々から抜け出した時、少女が見たのはどこまでも遠い空。暗闇の中に落とされた無数の火花たちは、自己主張をし合って、夜空を彩る。

 

 

 ───美しかった。

 

 こぼれ落ちる涙は、地面に吸い込まれる。

 

 

 この時自由を得た少女は、今度は誰かのためではない、自分のために人生を生きようと決意した。巨人化から戻れた、奇跡のような出来事に誓って。

 そして己が名前に、復讐することを誓い。

 

 少女は自身を「ユミル」と、呼んだ。

 

 

 それから少女は超大型巨人がウォール・マリアの壁を破壊した一件に紛れ壁内に侵入し、孤児として教会の世話になった。その際、壁の秘密を握る一族の妾の子の存在を知り、その妾の子が入る訓練兵団に入団した。

 

 自分を偽って生きる妾の子に、ユミルは彼女自身の過去を重ねていたのだろう。

 

 予想外だったのは、想像以上に少女───クリスタ・レンズが、彼女の内で大きすぎる存在になってしまったことか。

 

 それこそ己の命をかけて守ると、ユミルは本気で考えている。

 

 

 そしてエレンの巨人化や、調査兵団入りから長いようで、短い日々が過ぎる。

 

 ユミルは「ベルトルさん」と共に第五班所属となり、クリスタ似の副分隊長に興味を持つ。

 アウラ・イェーガー、エレンの七つ上の姉だ。

 

 女はクリスタのように皆にやさしく振る舞う反面、厳しい部分もあった。ベルトルトを揶揄うたびに、「訓練中よ」と、眉を寄せて怒られた。

 

 表面上は力も強く、尊敬できる副分隊長。

 

 だがユミルは彼女の裏に、何か形容しがたい──薄ら寒いものを感じていた。探ろうとすれども、のらりくらりと躱される。エレンの“地下室”の件もあり、「もしかしたら外の知識を持っているのではないか?」と、疑いを持ち続けていた。

 

 

 

 そんな折、ベルトルトと共に森へ向かう副分隊長を見かけたユミルは、待ち伏せして話す機会をうかがった。

 

 流石に後はつけなかった。勘というヤツか、尾ければすぐにバレると思ったからだ。

 

 して、暫くし森から戻ってきたアウラ・イェーガーに、雑談を踏まえながら女の裏を探った。しかし。

 

 

「ユミルちゃん」はね、私の中ではただ一人だけなの────。

 

 

 手痛いしっぺ返しを食らったのは、ユミルの方だった。

 

 女の口ぶりからして、彼女が挙げていたのは()()()“始祖ユミル”。

 

 同時に「()()()()()()()」と告げられた瞬間、視界がぐわんと、歪んだ気がした。

 

 

「ユミル」の存在全てを、否定された気がしたのだ。

 

 確かに彼女は本物ではない。偽物だ。それでも「ユミル」を否定されることは、彼女の人生や、運命にあらがおうともがいている彼女自身が、嘲笑われている心地しかせず。

 

 アウラ・イェーガーの存在がユミルにとって、恐ろしいものとなった。

 

 まさかユミルの過去を知っているはずはない。しかしエレンとは違い、外の知識を持っている確信だけは得られた。

 

 なるべくなら、関わりたくはない。だが現実とは非情なもので、ユミルはアウラと同じ班である。何なら上司だ。

 

 震える心を払拭するために、団長らに「アウラが外の知識を有している」と言う方法もあったかもしれない。ただその場合、なぜ斯様な可能性に至ったのか言及される。流石にエルヴィン・スミスと正面から話し合う度胸などなかった。元より彼女は巨人化できる力を持つ。変に相手に勘繰られれば、それこそユミルの秘密が露見しかねない。

 

 

 

 ゆえに必要最低限に関わった。ただし表面上は、いつもの「ユミル」を装って。

 

 ベルトルトを揶揄い、副分隊長に叱られる。そんな日々が過ぎた後は大規模壁外調査。そして無事生き延びたと思えば、新兵らへの待機命令だ。

 

 この時彼女の中で浮上した、アウラ・イェーガーが女型の内通者である説。

 

 右翼索敵で唯一生き残っていた女だ。女型が侵入したのが右翼側であることも考え、意図的に殺されなかったとしか思えない。

 

 クリスタを守るのが最優先事項の彼女にとって、不穏因子は脅威の対象である。

 

 

 知性巨人たちの狙いが、壁内人類の滅亡なのかはわからない。しかしどの道壁内の世界に夜明けはないと、彼女は感じていた。その上でクリスタを守るためには、ユミルはどの選択を取ったら良いのか。

 

 壁内が無理であるのなら、壁外に目を向けるしかない。クリスタを生かす最善手を掴むべく、彼女は動いた。ウドガルド城で、クリスタやベルトルトたちが寝入ったのを見て。

 

 口実は食べ物を持って行くことで作ろうとした。が、予想の斜め上を行った缶詰の存在。それにはマーレで使われている文字が表記されていた。

 

 何故この場にあったのか、そこまで思考を回す余裕はなく。

 しかし使()()()と、ユミルは考えた。

 

 

 途中野獣(ライナー)の腫れた頬に爆笑しながら、訪れた重傷の女が寝ている部屋。否、訪れようとした部屋。

 

 室内に入る前に脱走者を捕まえたユミル。いつも薄っぺらに感じる善人を演じている女は、驚くほど憔悴していた。ケガのせいもあっただろう。だがそれ以上に、精神が疲労している印象を受けた。

 

 その後は缶詰の文字を使い、カマをかけようとしたが上手く行かず、逆にユミルが足を掬われる結果に。

 

 

「イルゼ・ラングナー」の日記の件と、『ユミルサマ』と呟いた巨人の話が、彼女に衝撃を与えた。荒唐無稽な話であると、いつもの彼女なら突っぱねられた。だができない理由が彼女には存在する。

 

 まさか、まさかと、脳内の汁が顔の穴から溢れそうな感覚を感じながら、イルゼの特徴を聞く。

 それこそ巨人が話したのは、偽物ではなく、「本物」のことに違いない。

 

「ユミル」では、ない。

 

 

 ──────小柄な身長。黒髪。そばかす。

 

 

 ユミルは巨人化された当時、12歳だった。今でこそ長身の部類だが、数年前は小柄な部類に入った。流石にクリスタほどではないものの。

 

 黒髪も同じだ。そして何より巨人が話した『ユミルサマ』が「偽物」だと、感じてしまった原因が、そばかす。

 

 

 ユミルは偽物に過ぎない。しかしマーレ政府に見つかった時、ユミルは自分を神に仕立て上げた者たちへの憤りを覚えながら、縋る信者のため、「ユミル」で居続けた。それこそ自分の命をかけて、他の人間の無罪を乞うた。

 

 その姿に、多くの信者が心を打たれたのだ。結局は全員、仲良く楽園送りにされてしまったが。

 

 

 

「────ハ、ハハッ」

 

 

 

 信者が未だ地獄の中で彷徨っているというのに、彼女は、ユミルだけは解放され、「自由」に生きている。

 その事実が、そして途方もない罪悪感が、その時彼女を襲った。

 

 人はどうしようもない感情の波に襲われた時、笑うのかと、どこか冷静な部分の彼女が俯瞰的に考える。

 

 誰かの犠牲──ユミルであれば信者たち──の上で、彼女は息を吸い、心臓の音を感じながら、この世の美しい部分に目を向けることができる。

 

 狂おしい激情を宿したまま、兵士に声をかけられ上に向かったユミル。

 

 会話の中で、やはり“クロ”としか思えぬ女に肩を貸した時、向こうは目を見開かせていた。当然だろう、お互いがお互いの内情を探ろうとしていた者同士だ。相手が距離を空けると、アウラ・イェーガーは思っていたに違いない。

 

 

 

 その時ユミルはわかったのだ。自分は、やはり運命から逃れることなどできないと。

 

 逃れるということはつまり、臭いものに蓋をすることに他ならない。彼女の裏に存在する地獄に囚われたままの信者たちを、考えずに生きる。

 

 耐えきれなかった。

 同じように六十年近く無知性巨人であったからこそ、夢現に、何も感じることなく生きるあの地獄を、知っているからこそ。

 

 だから彼女は「ユミル」として、手を伸ばした。偽りの人生に戻り、善人の行動を取った。

 

 無論そのまま生き続けることなど、できるわけがない。

 

 

 

 その後、塔の中に侵入した巨人を倒し終えた新兵たちは、外の轟音を聞きつけ屋上へ向かうことになる。

 

 クリスタに手当てしてもらったライナーに本気で殺意を抱きつつ、皆の後を追うようにして、立ち止まった彼女。

 

 瞳を閉じ、息を深く吐いた。

 クリスタを己の命の最期まで、守ろうとは考えている。その上で彼女を守る時間が短くなってしまうことに、申し訳なさを抱いた。

 

「ははっ……バカだな、私」

 

 

「偽物」にもなれず、ただ一人の「ユミル」にもなれない。中途半端に生きて、死んでいく。

 

 きっとクリスタならばそんな彼女でも、受け入れただろう。だがそれすら、今のユミルには苦痛であった。

 偽物のユミルを、見せたくはない。中途半端な「ユミル」なら殊更。

 

「まぁ最後くらいはさ、私の花道飾ってくれよ、巨人共」

 

 ユミルの手の中にあるのは、コニーが持っていたナイフ。この場では使い道がない云々──と話していた時、ならば、と借りたのだ。

 

 階段の途中にある空いた窓に足をかけ、下を見る。そうすれば夜風が彼女の髪をさらい、パサパサと音を立てた。

 

 その命が尽きるまで、暴れ倒す。少しでもクリスタに向かう脅威を消すため、彼女を生かすために。

 

 

「────ごめんな、クリスタ」

 

 

 やはり最後くらい、お別れくらいは言った方がよかったかもしれない。

 苦笑しつつ手のひらをナイフで切った瞬間。

 

 ユミルの意識は、どこか遠くへと引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 砂と、光の柱の世界。

 そこでユミルは、目を覚ました。

 

 

「大丈夫か、あんた」

 

 

 身体を起こした彼女に声をかけたのは、隣にいた茶髪の少年。膝を抱え、顔を少し埋めている。

 

 少年の視線の先にユミルが目を向けると、一人の少女が佇んでいた。顔には影がかかり、口元は一直線に結ばれている。まるで表情を示さぬ人形のようだ。

 

「……ハ?」

 

 ストレートな金髪に、蒼い瞳。白いバンダナを付けた少女の姿は、クリスタにひどく似ている。だがそれ以上に第五班の副分隊長を子供にして、瞳と髪の色を変えたと言わんばかりに、少女はアウラ・イェーガーに酷似している。

 

「お、おい、なんの冗談だよ、副分隊長さんよぉ?せっかく私が有終の美を飾ろうって時に…」

 

『………』

 

「なんか喋れよ!!」

 

「落ち着け」

 

 立ち上がり少女へ詰め寄ろうとしたユミルの前に手を出し、制止させた少年。

 

 彼が名前を尋ねてきたので、彼女は一つ舌打ちをこぼし、「ユミルだ」と答える。少年は目を丸くし、「俺はマルセルだ」と返した。

 

「始祖ユミルと同じ名前なんだな、あんた」

 

「──ッ!?」

 

「たいそうな名前を付けられたもんだ」

 

「………お前、何者なんだよ」

 

「何者、か。………お国のために、()()()()()()()人間だよ」

 

「戦うはずだった?なんか上手く躱された気しかしねェんだが」

 

「“信用”はできない相手に、そうホイホイ情報は出せない」

 

「っけ、ガキのクセに頭がよろしいようで」

 

 煽りを交えたユミルの言葉に、少年は反応を示さない。何が何だかわからないが、お互いの共通点があるとすれば、「気づけばここにいた」──ということ。

 彼女はマルセルに、謎の少女を指差し、誰であるか尋ねる。

 

 

「あの少女の存在を知るには、まずこの世界について話さなきゃいけなくなる」

 

「…なんだ、「気づけばここにいた」なんてお前さんは言ったが、ここにいる理由は知ってんのか」

 

「知っているというか、教えられた、っていうか。……操作されているっていうか」

 

「ハ?」

 

「俺の意思はあるけれど、俺が望むようにこれから会話が進むわけじゃない。それはわかってくれ」

 

「つまり、お前はあの少女の操り人形ってことか?」

 

「違う。例えるなら複数この世界にゴールがあるとして、()()()()によって、一つずつ退路が塞がれて行く感じだ」

 

「………犬にケツ追っかけ回されて、柵の中に入る家畜みたいなもんか」

 

「その認識でいいよ。ただ一応言っておくと、あくまで俺の自由意志でもあるんだ、コレは。あの少女の話を呑んだのは俺だ」

 

「呑んだって、何を?」

 

「色々見せてもらったんだ。あまり詳しくは言えないけどさ」

 

「…そうかよ」

 

 

 マルセルは少女に従うことが、罪滅ぼしになるとも言う。

 理由はいくつもある、と続けて。

 

「俺の行動で、仲間を傷つけちまったんだ。だが弟のためだったんだ。……けどそれすらも、俺を苦しめる行為になっちまった」

 

「漠然としてるが、それがお前の「罪」ってわけか」

 

「…あぁ」

 

「その罪を私に語ってどうするんだ?まさか私に解決しろとでも?冗談よせよ」

 

「……俺はもう、何もできない。あんたが消えれば、俺は大きな本流の中の一つに還るから」

 

「な、に…言ってるか、わからないんだが」

 

「生きてここにいるなら、ここが()()()()()()理解できない。けど()んでここに還ってきたのなら、この場所を理解できる」

 

「お前………死んでるのか?」

 

「なぁ「ユミル」、俺とあんたがこうして今話すだけでも、大きな意味があるんだ」

 

 今は肉体が存在せず、精神を晒し合う者同士。会話し、お互いを知る──理解を深めていくだけでも、魂の距離は近づき、溶け合う。

 

「………」

 

「口を閉じたってムダだ。あんたが話さなくとも、俺は俺の話をする」

 

「………」

 

「耳を塞いだってムダだし、目を閉じたってムダだ。今動かしていると思う肉体だって、精神の情報から作られたものに過ぎない」

 

「……クソッ!私にどうしろっていうんだよ!!」

 

「意味は後から付いてくる。観念して話し合おうぜ」

 

「わかった……わかったよ!!じゃあ話してやるさ!────私はクリスタに×××(ピー)して、×××××(ピーーー)してやりたい!!」

 

 瞬間スッと、ユミルから離れたマルセル。少年の頭は、今目の前にいる女をケダモノとして認識した。だが心のカンバスレーションは始まっている。

 

「……俺はね」

 

 

 

 

 

 そうしてお互いが直接的な表現(自分はマーレ出身だ、など)を避け話し合う、奇妙な時間が終わりを迎える。情報は隠しておれど、お互いが同郷であることに気づくなど、隠しきれない部分はあった。

 

 ただ間違えれば、情報を利用されかねない。マルセルならライナーたちや弟を。ユミルもまた「生者」にしか見えない少年を怪しみ、直接的な情報は控えた。思わず「クリスタ」の名前は言ってしまったのだが。

 

 

「大体理解したぜ、マルセル・ガリアード、さてはお前クソブラコン野郎だな」

 

「俺もわかったよ、あんたのこと。クリスタ逃げろ」

 

 

 ユミルはマルセルが死した後だからこそ生じた、弟が“使命を果たす者”になれなかった苦しみを。

 

 マルセルはユミルが”多くの犠牲”を出して、一人だけ生き残ってしまった罪悪感を。

 また偽りの人生か、一人の「ユミル」として生きるのか、中途半端に生きざるを得ない苦悩を。

 

 

「死んだって救いはない」

 

「言ってくれるね、私よりガキのクセに」

 

「生きている間にしか、なし得ないものがある。死んだ後じゃ、何もできないんだ」

 

「………」

 

「あんたには、“力”があるんだろ?」

 

「は?力ってなんだよ」

 

「大切な人間を守れるだけの力だ」

 

 

 ────俺を食って、手に入れた。

 

 

 ヒュッと、ユミルの喉が鳴る。

 

 少年の瞳は、彼女を映していない。空を見つめ、遠くを眺めていた。

 どうにか声を出そうにも、彼女の力は掠れた声しか出ない。

 

「……俺はこの世界の()()()()()だ。意識だって存在しない、本当なら。だが例外として、あんたとはいつも繋がっている。“自由”を手に入れた時からの、これまでのことを」

 

「………」

 

「なぁ、俺はブラコン野郎なんだ」

 

「………」

 

「ポルコに───弟に、会いてぇよ……」

 

 その言葉の直後、マルセルの身体が崩れていく。溢れた涙は砂の上に落ち、シミを作った。

 

 

「………」

 

 呆然と、動けぬユミルの元に、少女がゆっくりと歩み寄る。

 アウラ・イェーガーと瓜二つの少女。

 

 ようやっと目の前の少女が何であるのか、ユミルは理解した。無表情な顔は、感情を全く表さない。まだ副分隊長の方がよっぽど人間的だ。否、彼女の目の前にいる存在は、()()ではないのだ。

 

 

 

「神なんか、嫌いだ」

 

 

 

 歯を軋ませ、少女を睨めつけるユミル。溢れ出る涙は彼女自身のものなのか、それとも彼女と繋がっているマルセルのものであるのか、彼女にはわからなかった。

 

 ただ無性に涙が出る。こんがらがった感情の渦の中、少女の顔が近づき、額同士が触れ合う。

 

 コツン、と音を立てた瞬間、ユミルの意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 永遠とも取れる時間。だが目を開ければ、先と変わらぬ光景が、目の前に広がっている。

 

 ユミルは深く息を吐き、零れ落ちる涙を拭った。

 誰かの犠牲の上で、生きている彼女。

 

 彼女はナイフをしまい、一歩、階段を踏みしめる。

 

 

「クソッタレ……」

 

 

 残酷な世界から逃げることを、ユミルはまだ許されていない。

 

 その事実だけは、ハッキリとしていた。

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