ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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いつもお気に入り評価、感想ありがとナス!モチベにつながってます。

つべのマンガ紹介から最近フランケン・ふらん読んだけど、フランちゃんかわいいな?毎度発想がエグくてすき。グロさはあるけど。

追記)後半ちょっち読みにくいです。ので軽めに流してください。。


どうして空は青いんじゃ?

 夕焼けと似た朝景色。冷たい空気を取り入れれば、肺がギュウと、拒絶する。

 

 ウドガルド城に現れた、獣の巨人と無知性巨人の群れ。一時全員の命が危ぶまれた戦いで、二人の尊い兵士の命を失ってしまったが、まだ他の人間たちは生きていた。

 

 

 雄叫びを上げ、塔をうまく使い巨人を狩っていくのは一体の巨人。

 

 サイズは女型や鎧と比べれば小柄なものの、その敏捷性はダントツ。カギ状の長い三本の爪で巨人のうなじを斬り裂いたと思えば、そのまま巨人の首を回り、遠心力で宙高く飛翔する。

 そして次の巨人へ飛びかかる──と、圧倒的な力を見せた。

 

 巨人化したユミルは『コロスッ、コロス!!』と声を荒らげ続けている。その暴れっぷりに呆気に取られる兵士らを他所に、若干一名のみ顔を青ざめさせ震え上がっていた。「何が」とは言わないが、ヒュンヒュンと、しっ放しである。

 

 

 

 だが状況が一転する。

 

 ユミルが時折爪を立てたり、巨人が倒れぶつかったせいか、塔自体が崩れかかっていたのだ。

 

 さながら斧で根元を削られた巨木のように、下から傾き始めた塔。

 

 屋上の人の数が多いこともあり、傾いた拍子に全員の身体が片方に寄ると、さらに負担がかかる。クリスタの悲鳴が聞こえ我に返ったユミルは、急いで屋上へ上がった。

 

 このままでは全員落下してしまう。落ちて助かったとしても、下にはまだ巨人が多数残っている。舌打ちをこぼしたユミルは、自身に掴まるよう叫んだ。

 

 

 そして塔が崩れるのに合わせ、大きく跳躍する。巨人たちは派手に倒壊した建物の下敷きになった。

 

 5メートル級のユミルの髪にしがみつく八人。最初クリスタやコニー、ベルトルトに肩を支えられる形で乗ったアウラ辺りまでは、さほど重くはなかった。しかしライナーが乗った辺りで急に足腰に力が入り、ナナバとゲルガーに最後のミケで、ミシリ、と足に嫌な音が走った。

 

 内心ライナーは置き去りにしたかったが、助けたユミル。後でケガをした逆の腕も同じように使い物にならなくさせようと、心に誓った。

 

 

「ユミル…!」

 

 

 クリスタがユミルに駆け寄ろうとする。だが背後の崩れた瓦礫の山から巨人が起き上がり始め、ユミルは後ろ髪を引かれる思いで駆ける。

 

 大切な人を、守るために。

 

 

『!』

 

 

 彼女が地面から跳び上がり、巨人のうなじを狙おうとした瞬間、瓦礫の中から突如腕が飛び出る。巨人の手が彼女の足を掴むと、ユミルは凄まじい力で地面に体を打ちつけた。

 

 崩れた瓦礫が巨人を下敷きにしたことによる、弊害。

 不意を突かれた形で、ユミルは捕まってしまった。

 

 次々と彼女に伸びる手の数々。足を、顔を、髪を、腕を、首を、腹を。

 

 四方八方から、その四肢を引きちぎらんばかりに力がかかる。彼女を食らい始めた巨人たちの姿を見たクリスタの喉から、ヒュ、と息が漏れ出た。

 

 

「ユミルッ!!!」

 

 仲間の制止を無視し走り出したクリスタは、手を伸ばす。

 

 ユミルの巨人体の足がプツプツと音を立て、筋肉の繊維や肉が食いちぎられる。右手がもがれ、腹に食い込んだ巨人の手が彼女の腹を裂き、内臓がこぼれる。髪が引っ張られ抜け落ち、眉間に食いつかれた拍子に目玉が溶けるように落ちた。

 

「やめ、やめてっ……」

 

 悲鳴さえ、巨人たちが食らう音によってかき消される。まだ残っていたユミルの手がクリスタに向かって伸ばされ、その手にも、巨人が噛み付く。

 

 

「い…や、いや、ユミル………ユミル!!」

 

 

 しかし、大きな瓦礫の横を通りすぎようとした瞬間、クリスタの視界に現れた巨人。瓦礫の裏にいたため、彼女の死角になっていた。大きな手が、彼女に伸ばされる。

 

 

 ゆっくりと進む世界。

 このまま死んでしまうのかと、クリスタが瞳を閉じた、その時。

 

 

 

 

 

「   」

 

 

 

 クリスタの背後から伸びた、細い手。

 

 その手が彼女を突き飛ばし、クリスタは地面に転がった。

 何事か、状況を判断しようと少女が視線を向け見えたのは、肢体を巨人に掴まれた女の───アウラ・イェーガーの姿。片足でどうやって走ったのか、と場違いな感想を抱く。

 

 

 アウラはクリスタが駆け出した直後、ベルトルトの急所を手加減なしで蹴り、その拘束から逃れた。再起不能となり地面に転がった少年を他所に、四足歩行──否、三足歩行で軋む身体を動かした彼女は、少女に近づいたところで立ち上がり、背を押した。

 

「え」

 

 状況が掴めぬクリスタの頭上で、巨人が大きく口を開ける。

 

 今まさに巨人に食われんとする女の白銅色の瞳は、まっすぐ彼女を捉えていた。

 優しげに、愛おしげに微笑むアウラ。

 

 その表情にゾクリと、彼女の背に震えが走った。

 

 嬉しさのようでも、恐怖のようでもある、得体の知れない感情。

 

「あ、や、めて」

 

 クリスタの視界に、糸を引く巨人の唾液が映る。

 彼女が自分を見つめていることに目を細めた女の瞳が一瞬、夜空の星々をかき集めて作られたような、不思議な色へと変わって。

 

 

 

「死ッ、ねェェェェ!!!」

 

 

 

 女を掴んでいた巨人のうなじが、切り裂かれた。アウラの窮地を救った人物は、ワイヤーが絡まり瓦礫の上を転がる。直後次々と自由の羽をまとった人間たちが、空を翔けた。

 

「バカッ!あんたは出なくていいんだよ!!」

 

 ハンジの批難の声がその人物───エレン・イェーガーに向く。

 残った巨人が駆逐されていく中、エレンはぶつかった頭を押さえながら姉の元へ駆けた。

 

「姉さん!!」

 

 クリスタが既にアウラの側におり、様子を見ている。少年が目を向ければまず目に入ったのは、欠けた右足。あるべきはずの部分に触れようとすれども、触るのは下の瓦礫の冷たい感触のみ。

 

「あの、ね、エレン……お姉さんの足は、巨人に食べられてしまったの」

 

「………」

 

「……エレン?」

 

 巨人を殺した時、鬼の表情を浮かべていたエレンの顔は、無表情に変わっている。瞳を閉じる姉の頭に手を差し入れ、「姉さん、姉さん」と、小さく呟いた。

 

 その問いかけに応えるように、微かにアウラの瞳が開く。

 

「…………ぅ、あ」

 

「姉さん」

 

「そ、ら」

 

「……姉さん」

 

「あお、くて」

 

 

 ────さわれた。

 

 

 その言葉を残し、ゆっくりと閉じた、アウラ・イェーガーの瞼。

 

 弟に微笑みかけた姉の姿を見たエレンの瞳からは涙がこぼれ出し、声を殺したくぐもった声が、辺りに響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………お姉さんの脈はあるから、まだ死んでないよ、エレン」

 

「ゔぇっ?」

 

 

 クリスタがそう言った瞬間、視界不良のエレンの顔が上がる。少年は咄嗟に姉の呼吸をみる。

 

 すると細々とだが、まだ息はあった。その事実を随分ゆっくり噛み砕いて認識した少年は、とうとう人目も憚らず、声をあげて泣き始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 結晶化したアニ・レオンハートの捕獲と、ウォール・ローゼ陥落(仮)及び、ウドガルド城襲撃が続いた濃い一日。

 

 ストヘス区戦では住民や兵士の多数の死傷者。ウドガルド城襲撃では死者二名、負傷者二名が出ることとなった。その負傷者二名───ユミルとアウラ副分隊長は、どちらも重傷である。

 

 

 ハンジ指揮の援軍はミケらと合流し、壁上へと移動した。

 

 ハンジはストヘス区戦でのことを話し、ミケは壁の穴がなかったこと。また、彼とアウラ・イェーガーが遭遇した知性巨人と思しき「獣」の巨人について話した。

 

 獣の巨人が“知性巨人”とみなされる理由は、岩の投球や、女型と同じ人間を()()()()()殺そうとしていたため。

 

 ウドガルド城において巨人がまるで()()()()()()彼らを襲ったことを踏まえ、ミケは獣の巨人が女型以上に巨人を操作できる可能性を言及する。

 

 

 

「へぇー…「獣」の巨人か。体毛に覆われていたんだよね?超大型や鎧、女型はそれぞれ得意な分野があり、役割分担をしているような印象があったけれど……実に興味深い。獣の巨人が兵士に敵対行動を取っていた以上、女型たちの仲間であることには間違いないだろう。ただ問題はユミルの方だ。彼女は兵士たちを守るために戦った。その行動を理由に、我々人類の仲間である、という判断材料にするには少し難しいけれど…。少なくともコニーやクリスタ曰く、彼女はエレンとは違い“力”の使い方を知っている節があった。つまり、巨人化できることを意図して隠していたわけだ。これだけで敵対意思があると王政に判断されかねない。厳しい現実だよ。まぁそれはともかく、今は壁内の穴についてさらに詳しく調べなければならない。私としてはとても気になるんだけどね、ユミルが巨人化した姿。今彼女は重傷だし見れないのが残念だ。私も……私もミケたちの現場にいたら見られたのに。しかも助けてもらったんだろ?ユミルの巨人体の髪に掴まって。いいなぁ…………。ねぇ、どんな感触だったの、ミケ?匂いとかは?そう言えば知性巨人って、普通の巨人とは違う匂いがするのかい?あと────」

 

「少し黙れ、ハンジ」

 

 巨人のことになると、話が長い&オタクのような早口になるゾエ。ミケに睨まれ我に返った彼女は一つ咳払いをし、小さく謝罪を口にする。

 

 

 それから間もなくして、駐屯兵団の先遣隊が到着。

 彼らが詳しく調べたところ、壁の穴は見つからなかった、という。

 

 100パーセントとは言い切れないが、これでローゼが陥落した疑いが消えた。しかし何故巨人が壁内に現れたのか、疑問が深まっていく。

 

 各々が仲間の傷を案じたり、現状の考察や、命が助かったことに安堵する中、バタバタと、揺れる旗。

 

 

 この時、ストヘス区戦に参加した人間たちの深層下では、別の大きな問題が目まぐるしく動いていた。

 

 アニを捕獲した後、彼女の情報を調べる際に発覚した事実。

 彼女と同じウォール・マリア南東の出身者、二名について。

 

 

 

 

 

「なぁエレン、ちょっといいか?」

 

 

 激しい風が吹き荒れる中、一人の「nice guy」が、エレンに話しかける。

 

 エレンは姉を救出した後、ずっとその側にいた。しかし先遣隊にいたハンネスが訪れ、アウラの様子を目にした時の表情を見るなり、堪えきれなくなり移動したのだ。

 

 エレンやミカサよりも、ずっと昔からハンネスはアウラ・イェーガーのことを知っていた。それこそ少女がまだ三つだった頃から。

 

 元々調査兵団に少女が入った時から、いずれ死ぬか、ケガをする可能性は大いにあると理解していた。

 

 だが実際「兵士」として戦えなくなるほどの重傷を前にし、大きなショックを受けた。

 その時ハンネスが呟いた声。その内容が、エレンの脳内にこびり付いている。

 

 

 ────すまねぇな、イェーガー先生。

 

 

 娘を守ってやることができなくて、と。

 

 

 その内容は、エレンが痛いほど感じていたことである。だからこそ少年は、ハンネスやアルミンたちがいた場所から逃げるように去った。

 姉を守れなかった、弱い自分を責めて。

 

 

 そして彼が一人になった時に、負傷した腕のせいで、上にあがることに苦戦しているライナーと出会した。

 

 登るのを助けたエレンは、ライナーとしばらく会話していた。直後上がってきたベルトルトが、ライナーの隣に立った。104期生でも頭ひとつ飛び抜けた男が暗い表情を浮かべているのが、やけに印象的だったのである。

 

 その際ハンジとミケがトロスト区で一時待機する判断を出し、皆が移動し始めた気配を察知したエレンも、移動しようとしてライナーに呼び止められたのだ。

 

 

「実は五年前、俺たちは壁を破壊したんだ」

 

 その一言に、「え?」と、頓狂な声を上げたベルトルト。彼が目を白黒させていることも気に留めず、ライナーは自分が「鎧」でベルトルトが「超大型」であることも語る。

 

「……何を、言っているんだ、ライナー?」

 

 ベルトルトが肩を掴んだ手を振り払い、ライナーは続ける。

 

 彼らの目的は壁内の人類を滅ぼすこと。

 だがエレンが共に来るなら、その必要がなくなったことも。

 

 

 

 この時「戦士」ライナーの思考には、焦りがあった。

 

 その最たる理由が「獣」の巨人、ジーク・イェーガーの存在である。

 

 四名の戦士が始祖の奪還を任されてから五年。突如戦士長が壁内に登場したことから、ライナーはマーレの上層部がいよいよ痺れを切らしたことを悟った。

 

 獣は女型や車力と違い、巨人化の持続力には欠けるため、同伴で車力も来ている可能性が高い。

 

 つまり現在のマーレの戦力は、「戦鎚」のみとなる。

 

 

 多少の危険性を伴ってでも戦士を追加で二名送っていることが、上層部が苛立っていることの裏付けとなる。これ以上時間がかかっては、ライナーやベルトルトの立場が危うくなる。

 

 幸い一度失ったマルセルの「顎」は見つかっており、これまで行方知れずだった「進撃」も発見。

 

 また「始祖」の発見までとは行かずとも、クリスタ・レンズが壁内の()()()()であることも知った(アニの情報収集の賜物)。

 

 おおむね「進撃」の継承者と考えられるエレンを連れて行けば、十分アドバンテージにはなる。クリスタはエレンとユミルより優先順位が低いので、逃亡する際捕まえられればいいくらいだ。

 

 何より現在、まだ戦士長とピークが壁内を出て、そう遠くない場所にいると考えられる。今動けば、十分合流することが可能だろう。

 

 

 問題はアニだ。彼女もできることなら連れて行きたかったが、そうすると故郷へ帰るチャンスを失うことになる。

 

 ただ「始祖」の奪還がメインな以上、またパラディ島へ訪れることになる。その時女型と合流すればいいだろう。

 

 

 ライナーは知らないのだ。結晶化した彼女がすでに捕まっていることを。

 

 その可能性を見出しているのはベルトルトのみ。ゆえに状況は理解しているが、消極的に動こうと考えていたベルトルトの考えを、ライナーは見事にぶち破った。

 

 だが皮肉にもこのライナーの行動が、彼らの明暗を分ける。

 このままハンジたちについて行けば、二人は地下で幽閉されていた。たとえアニの共犯であっても、そうでなくとも。

 

 

 

 

 

「ハァー…」

 

 

 ひと通りライナーの話を聞いたエレンは、深いため息を吐く。

 頼れるみんなの兄貴分、ライナー・ブラウン。と、彼のオマケで付いてくるベルトルト。

 

 信じられない、まさか人類の敵であるなど。

 

 否、()()()()()()のだ。

 

 

「ライナーお前、疲れてんだよ」

 

 エレンの言葉に大仰に頷くベルトルト。ウドガルド城での一件があり、その場にいた者たちはほとんど寝ていない。それはエレンたちも同様だが、立体機動装置という武器もなく一日中過ごしたライナーたちの方が、精神・肉体的ストレスが多いに違いない。

 

 

 だがエレンの願いも虚しく、ライナーの様子が豹変する。ポツポツと、呟く男。自分を「半端なクソ野郎」と表現するその内情を、エレンは理解することができなかった。

 

「…なぁ、ライナー」

 

 ゆっくりと少年の心臓が、血液が、頭が、全身が冷えていく。

 能面の顔を貼りつけたエレンは、ライナーに視線を向けた。

 

「お前さ、オレの姉さんが好きなんだよな」

 

「……それが、なんだ」

 

「なぁ、お前今どんな気持ちなんだよ?お前の好きな人間が大ケガ負って、どんな気持ちなんだ。教えてくれよ」

 

「………」

 

「答えたくありません、ってか。オレは今姉さんが死にかけてるこの気持ちを、自分にぶつけてる。いつも大切な人を守れない自分が、愚かしくて」

 

「……エレン」

 

「自分で自分を、殺してやりたい」

 

 けど、と続けたエレン。

 

 

 

「今一番ブッ殺してぇのは、テメェだ」

 

 

 

 翡翠の目が大きく見開かれ、ギラギラと輝く。

 

 直後その圧に押された戦士二人が身構えた瞬間、エレンの後方から立体機動で急接近したミカサ。一瞬でライナーとベルトルトの間合いに入った彼女は、二人に致命傷を与える。

 

 だが仕留め切るまでには至らず、ベルトルトに追撃を行おうとしたところを、ライナーにタックルされ失敗した。

 

 

 バチバチと、体が光り始めた二人。エレンは手のひらを噛み巨人化し、ライナーに殴りかかった。

 

 しかし鎧の身体は想像以上に固く、逆に腕を掴まれたエレンが押し込まれ、壁の上から外へ向かって落ちることに。そのまま鎧の巨人はタックルしながら走り出す。そのため兵士たちは左右へ緊急離脱した。

 

 鎧の巨人が壁の上を疾走してその手に捕まえたのは、アウラ・イェーガー。

 

 

(姉さん!!)

 

 

 直後壁に指をかけながら降りたったライナーは、エレンの前に立つ。

 握られたアウラに、強く歯噛みする弟。

 

 それは少年にとって、“()()()人質”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎◼︎

 

 

 

 

 

 その子の蒼い瞳は、天上に広がる空の色。

 その子の戯れる金の糸は、太陽の色。

 

 掴むことができませんでした。

 空はいつも上にあります。手の届かない場所に。

 伸ばせども触れないのです。何故だろう。

 

 

「私」の目の前を誰かが走っていました。

 いえ、私の視界にはその子しか映りませんでした。世界にはその子しかいませんでした。

 結われた金の髪。それがその子が走るたび、揺れました。その子は手を伸ばしています。私ではない誰かに、手を伸ばしています。

 

 私はここにいます。

 私はここにいました。

 

 

 

 私は見つけました。

 私は「私」がずっと探していたものを見つけました。

 私が探していたもので間違いないのです。きっと?

 

 その子は私です。私はその子です。

 私はその子でできています。その子は私でできています。

 

 

 その子が走り始めました。私は手を伸ばしました。一瞬だけ、その髪に触れました。

 

 私は「私」をその時、私になりました。

 

 私は走りました。私には右足がありませんでした。私は私を食べた獣になって走りました。

 

 

 その子を助けることができました。私は大きい人間に掴まれました。

 その子が私を見ていました。蒼い瞳には私しか映っていませんでした。嬉しいです。嬉しいです。

 

 私はその子でできています。その子の中へ()()たいです。

 

 

 しかし、違和感がありました。

 

 その子にあるはずのものがありませんでした。その子がいつも身につけていたもの。その子の、何か。

 その子の蒼い瞳の中には私が住んでいます。その子の瞳の中に住んでいる私にはありました。その子の何かが。私にありました。

 

 

 走っていたその子はその子ではありませんでした。

 私がその子でした。その子は私でした。嬉しいです。私は還れたのでしょうか。

 

 

 脳裏によぎったのはかつてのその子の姿。

 その子の手を引っ張って私は走りました、その子の背を押して。その子に生きて欲しかったのです。

 

 その子は最後に私を見て────、

 

 

 

 私を、見て?

 

 

 あ。ああ。

 

 

 

 

 

 その子の瞳の色を、見た記憶がありません。私が背を押した後、その子は走っていきました。

 走って、走っていきました。私を見ませんでした。最後まで、最後まで。

 

 だから私は空に手を伸ばしました。空はその子そのものだったからです。

 見て欲しかった。そうすれば「私」は安らかに眠れたでしょう。

 私は私をわからなくなることもなかったでしょう。

 憎くはありません。ただただ、私はその子を愛しています。その子の中へ還りたいです。その子の一部になりたいです。

 

 

 でも、どうして、その子は私を見てくれなかったのでしょうか。

 

 

 それは私が生まれた時から不良品だったからでしょうか。

 

 私はずっと、その子になりたかった。その子の中へ還りたかった。

 

 私はその子を探している。

 その子はどこにいるのでしょうか。

 

 分かることは、ただひとつ。

 

 

 

 空はいつも、青いです。

 

 

 

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