「起きろよもおおおおお、チュン!!」
「私はセフィロスだ」
わたし、は、アウラ・イェーガー。
一瞬のような、はたまた悠久のような夢を見ていた気がする。
目覚めたら眩ゆい光線に目をやられ、呻きながら身体を起こす。すると部屋にいたらしい女兵士に「大丈夫ですか?」と声をかけられ、その人は誰かを呼びに部屋を出た。
「………ん?」
さっきの女、憲兵の服を着ていなかったか?
いや、その前にここはどこだ?ウドガルド城が倒壊し、ユミルくんが助けてくれた後、クリスタ・レンズを助けたことまでは覚えている。あの時は身体が勝手に動いていた。自分の意思なのかもよくわからず、少女の背を押して。
それからの記憶はない。
ただ、嬉しかった。
「失礼します」
ノックをし中に入ってきたのは、髪を一括りにし、数本前髪が落ちているブロンド髪の女性。調査兵団ではなく憲兵団の人間がいる時点で、嫌な予感しかしませんね。
色々な資料片手に私が寝ているベッドの横に立った女の名は、「トラウテ・カーフェン」。中央第一憲兵団所属。
中央第一憲兵──またの名を中央憲兵は、王政直轄の憲兵団であり、通常の憲兵団とは指揮系統が異なる。裏で王政から頼まれた汚いお仕事をしている方々だ。
エリート中のエリートで、王政への忠誠心は異常。
一言でいうとヤバい連中です。もちろん全員が全員ではないでしょうけれど。
「調査兵団第五班所属副分隊長、アウラ・イェーガー。あなたは現在「女型」及び、「超大型」や「鎧」に協力した容疑で疑われている。──否、“協力した”とするウラは、アニ・レオンハートやベルトルト・フーバーからすでに取れている。否定する気はありますか?」
「…いえ」
やはりというか、私が隔離施設にいた時、ストヘス区でアニちゃんを捕まえる作戦が組まれていたらしい。
最終的にエレン・イェーガーが、彼女をあと一歩のところまで追い込んだ。
だが身体全体を覆う結晶化によって、アニはそのまま情報を吐くことなく、眠りについた。白雪姫かな?
その際彼女は巨人化する前、大笑いしながら私を利用した旨を話した。
弟、エレンを利用して。
表には出さないが困惑だ。大規模壁外調査からアニちゃんがベルトルトくんたちと会う時間はなかったでしょうし、その発言はおそらく彼女単独の行動。
何故私を庇うようなマネをした?確かに彼女なら、ベルトルトくんが私を利用したことを思いつく。
そも利用されたこと自体は本当だ。
しかし本当の理由はエレンを守る云々ではなく、ジーク・イェーガーに会うこと。
これについても彼女なら早々思いついたに違いない。考えられるとするなら、お国の事情を匂わさないために、「お兄さま」のところを「エレン」に変えたのか。
いや、そうすると一周回ってやはり、何故彼女が私を庇うようなマネをしたのかわからなくなる。
純粋に私を
(……ダメだ、わからないな。それこそ本人に聞かなければ)
アニ・レオンハートを保留にすると、次はベルトルトくんか。
ストヘス区で戦った面々の一部はウォール・ローゼ陥落の可能性があり、送られた伝達人員から事情を聞いて、ハンジ・ゾエがエレンやミカサたちを引き連れ増援を組んだ。そう言えばクリスタを助けた後薄っすらと、エレンくんの声が聞こえたような記憶がある。
ちなみに壁は破られていなかったそうだ。現在は確認された「獣」の巨人が、壁内に巨人が出現した現象と因果関係があったのではないか?───というのが、有力な説となっている。概ね正解です。
して、そのあと移動したハンジ&ミケ分隊長たち。
この時ライナーとベルトルトは、アニの仲間として疑われていたらしい。
というのもちょうどハンジらが増援に向かう前、彼女が頼んだアニの身辺調査が届いた。その際彼女と同郷の人間が
そのため増援がきた時点で、戦士二人は動かなくてはならない状況が出来上がっていたわけです。
行動に起こさなければ幽閉。それを悟らせぬよう、エレンくんたちは動いた。
しかし間が悪かったと言いますか、戦士長が来ていた以上、戦士二人もマーレのお上が痺れを切らしていることに気づいてしまったのでしょう。始祖の情報は掴めなかったですが、手土産になる巨人が二体もいる。
ゆえにライナーくんは行動に移した。ベルトルトくんの方はアニちゃんが気がかりだったと思います。ただ結局彼は逃げざるを得なかった。
結果、エレンVSライナーの巨人対決が勃発。
この時ライナーくんは私をゲットし、人質にしていた。エレンくんは最初手が出せなかったものの、攻撃に出た。お姉ちゃんの死覚悟で戦ったエレンくんの精神状態ステキだな?
私が死んでない以上、ライナーくんはかなり気をつけてこの身体を掴んでいたことも推測できますし、その行動の裏を読み取ると、私をマーレに連れて行こうとしたことも考えられる。
ライナーくん、キミは本当にナイスガイだ…この御恩は忘れません。もし次に彼と出会った時は、奉公の気持ちを込めて、精一杯
最後はベルトルトの助力で、危うくなった鎧の巨人は助けられ、エレンが連れ去られた。ついでにユミルくんも。
そして捕まったエレンくんは巨大樹の森で目を覚ましたあと、ベルトルトくんに「アニに罠を教えるため、姉を利用したのか?」と、尋ねた。エレンくんを脅しの材料に使って。
アニちゃんが言ったことだとは弟が告げていない中、ベルトルトくんは肯定した。彼が私を利用したのは本当ですので、弟の発言をそのまま解釈したと思われる。
それから夜が訪れるまで待っていた戦士たちの元に、ミケ分隊長と合流していた団長指揮の調査兵団が到着。
多くの死傷者を出しながら、どうにかエレンの奪取には成功した。作戦中エルヴィン・スミスは鎧の巨人の進行方向から巨人を引き連れ、衝突させた。104期生が鎧の後ろから追いつき、戦士二人の説得ないし裏切られたことの内心を吐露している間の所業です。
104期生が緊急離脱すると、鎧の巨人に巨人の群れが襲いかかり、捕まっていたエレンをどうにか取り戻すことができた。
さすが我らが団長。ライナーくんたちの意識を新兵たちに向けさせておいて、多少の犠牲を払ってでも、確実にエレン奪還を目指す。言い換えれば戦士二人と104期生の精神をえぐりながら、仲間たちを殺すのだ。
まさに命を、「生死」をかける美しき魂のやりとり。
脳汁が目から流れてきそうです。さらに団長はその作戦で右腕を失った。自ら命を賭すその様が本当に、圧巻です。
ただし、ユミルくんはクリスタに別れを告げ、去ってしまった。
クリスタ・レンズを守りたいのであれば、ユミルくんは残る選択肢を取ったはず。なぜ戦士と共にマーレに向かったのだろうか。今更戦士だった、というのはあり得ないし。相変わらず謎が多い少女だった。その内の闇を見たかったというのに。
ちなみに現在はエレン奪還から、数日経っている。
「エレンくんは巨人化していなかったそうですが、よく助かりましたね」
「調査兵団が死力を尽くし、守ったがゆえでしょう」
エレン・イェーガーは鎧の巨人から逃れたあと、巨人化できずにいた。目の前で、巨人に襲われる仲間たちの姿が見えているにも関わらず、だ。
ライナーとの戦闘でうなじを本体ごと食われた時、腕を根本から失っていたらしいので、それが原因で疲労が蓄積し、巨人化できなかったのではないかと思う。
「その際先遣隊として派遣されていた駐屯兵団のハンネスが同行しており、エレン・イェーガーを守るため死亡しています」
「え?」
おじさんが亡くなってしまったの…ですか?エレンくんの前で?
いえ、聞けばミカサちゃんも弟の隣にいたそうなので、正確には二人か。
二人の前で巨人に食われてしまったハンネスおじさん。どうして私もその場にいさせてくれなかったんですか?というか巨人に身体を掴まれ、重傷を負いながらエレンくんを守ろうと側にいたミカサちゃん、愛のラブストーリー過ぎませんか?
我が弟よ、早くミカサちゃんを「ミカサ・イェーガー」にしてやれ。
というか……何故?なぜ私が気絶している間に悲劇が起こり、そして終わってしまったん?
しかもおじさんが先遣隊で壁に来ていたようなので、絶対右足を無くして眠っていた私を見たじゃないですか。なんて言ってたんですか、どんな曇った表情を浮かべていたのですか……!
「泣いているところ申し訳ないけど、話を進めるわね」
「………はい」
エレンとミカサが巨人に襲われそうになった時、弟は生身で巨人に殴りかかろうとした。
そして、その直後。
「────他の巨人が、二人を食らおうとした巨人に襲いかかった?」
「えぇ、信じ難いことですが。その場にいた多くの人間が目の当たりにしています」
巨人たちはその一体を食い殺したのち、次の標的を鎧の巨人に。
その隙を突き、兵士たちは撤退することができた。
完全に、ユミルちゃんの仕業だ。むしろ彼女以外あり得ない。お父さまの時と同じように、私が気絶してから、その後の一連の流れを拝見することってできませんか?どうにか私の片足料金で…なんなら片腕か、片足をもう一本捧げるので。
……祈りましたが無反応でした。
やはり、自分で築き上げた他人の不幸でないとダメだ!という、ユミルたそのお導きなんですかね。偶然通りかかっただけで美味しい思いをするのは小賢しいでしょう、アウラちゃん──と。
ので(唐突)、これからは精進して皆さんの悲劇を作り出していこうと思います。
これからの行く末を想像すると、余裕があれば、の話になりますが。
「あなたが眠っていた間の大まかな内容は、以上です」
「ありがとうございます。…それで、わたしの処遇をお聞きしたいのですが」
「処遇、ですか。現在のあなた、アウラ・イェーガーの管理は、我々に任されております。少なくとも即処刑にはなりませんよ。
「中央憲兵の方々は、噂だと“黒いこと”をなさっているそうですから、怖いですね」
「…随分と、余裕がおありで」
「いえ、余裕などありませんよ。わたしはいつも、土俵際で生きていますから」
生と死の狭間に私自身も身を置いて、隣の人間をどう落とそうか考えている。
それから目隠しと、手を拘束された状態で担架で運ばれ、荷馬車のような場所に乗せられた。トラウテ以外に、数名の気配がする。殺伐とした雰囲気だ。
「ここからはしばらく移動します。小休憩は挟むので、その時に食事や手洗いは済ませてください。同行は女兵士が付きます」
拘束プレイなんて久しぶりだ。精神疾患で入院させられていた時と比べれば、まだかわいい。一応私が自死行為に走っていたのは知っているのだから、口枷などはしないのだろうか。舌をかみ切る可能性もあるでしょう。
聞けば、真っ黒いお仕事をやっている方特有のお返事が。
「舌をかみ切ってもそう簡単に死にませんよ、人間は」
「へぇー、そうなんですか」
「第一今のあなたに自傷する空気はありませんから」
「よく観察されてるんですね」
確かに今は死ぬ気はない。それよりも舌の話で一つ、思い出した。
ユミルちゃんにも、舌の一部がなかった。
トラウテ曰く、舌をかみ切っても出血死になることはごく稀で、死因の多くはかみ切った後の舌が奥へ引っ込むことで起きるそう。つまり窒息死。
なので口内へ指を突っ込み、舌を引っ張って呼吸の気道を作れば死ぬことはない。そのプレイ、ジークお兄さまにされたい。
これから私がされる「らめぇ♡」な行為も願わくばお兄さまにしていただくか、ノーカットで妹が絶叫する様を見ていてほしい。無理ですけれど(血涙)
◻︎◻︎◻︎
「ねぇトラウテさん、そう言えばひとつお願いしてもいいかしら」
「何ですか?」
「買って欲しいものがあるの。その分は私の給料から差し引いていいから」
頼めば、疑問の声色をのぞかせつつ彼女は承諾してくれた。
同じものが二つ。一つは指定の家に送ってもらい、もう一つは自分用に。
「わかりました。メッセージは要りますか?」
「気が利くんですね。じゃあ、ラベルの裏に代筆でお願いします」
────奥さんがいないからって、飲みすぎないでね。
いつも酒臭く、ザリザリとしたヒゲの感触が嫌いだった。
でもその温かさは、嫌いではなかった。
本人に言うことは、ついぞなかったですが。