ところでピークちゃんのお口の中に入ったガビ羨ましんだが…?
追記)一部修正箇所あったので直しました。
ウォール・ローゼが突破された可能性があるとの一報を受け、多くのローゼの人間がウォール・シーナの旧地下都市への避難を余儀なくされた。
しかし残された人類の食糧の備蓄はかつてのウォール・マリア陥落時同様限られており、それでも半数しか食わせることができない。
そのため備蓄がなくなる一週間後のタイミングで、安全宣言が当局より出された。
また、今回の巨人の発生源とされるラガコ村。
その村が調査された折、104期生コニー・スプリンガーの家に不自然な形で寝転がっていた巨人と、彼の家族の肖像画が比較され、その巨人がコニーの母親であることが判明した。そしてこの一件で、かつてからあった一つの説が、現実味を帯びた。
それは巨人が、
この事実を知った調査兵団の上層部に、激震が走ることになる。
まだ絶対とは言い切れないこの可能性。
だがこれまでの多くの巨人を狩ってきた人間にとっては、“人殺し”という罪の意識が重くのしかかった。
⚪︎⚪︎⚪︎
「僕が新リヴァイ班に…ですか?」
「えぇ、リヴァイ兵長が選んだのよ」
ライナーとベルトルトが人類の敵であることが判明してから一週間。
エレンの奪還作戦で負傷した多くの兵士が、まだ全快には至っていない状況。
回復しても今作戦での始末書やら、今後のウォール・マリア奪還に向けて、特に上は目がキマった状態で働いている。
アルミンもまたこれまで活躍してきたその頭脳が評価され、たびたび上の仕事を手伝っている。そうして資料を運んでいた時、ペトラが現れたのだ。彼女とオルオは女型捕獲の一件で負傷していたため、ストヘス区の作戦とエレン奪還の件には関わっていなかった。
「私は“旧”リヴァイ班の人間としてみんなのサポートに当たるから、よろしくね」
「………ペトラ、さん」
「そんな暗い顔しないでよ。メンバーが四人になっちゃったんだし、仕方…ないのよ。チームワークや信頼関係は、重要なものだから」
気丈に笑おうとするペトラ。
だが、目元の隈が腕のギプスと相まって、痛々しく感じさせる。
リヴァイ班で出た犠牲。エレン奪還に参加し、その“使命”を───エレンを守るため戦い続けた二名の兵士。彼らは鎧の巨人の腕から逃れた少年に近づく巨人を狩り続けた。
「グンタとエルドは、人類の一歩のために最後まであがいた」
「………」
「エレンにはこれまで以上に重い重圧がかかる。だからアルミンくんたちが側で、しっかり支えてあげて欲しいの」
「…僕に、できるんでしょうか」
エレン・イェーガーは今、精神的にかなり追い込まれている。ストヘス区急襲で亡くなった民間人(人がいなくなると不自然に思われるため、あらかじめ避難勧告は出されていなかった)や兵士。さらにエレン奪還時にも兵士が死に、仲間と思っていたライナーとベルトルトの裏切りにもあった。
そしてアニやベルトルトの発言からわかった事実。彼らはエレンを引き合いに出し、アウラ・イェーガーを利用した。
アウラの件は
無論可能性の一つには、「彼女が利用されているのではないか?」という考えもあった。だがアルミンはアウラを「初恋の相手」としつつ、実際に会話したことはない。今まで見たことがあるのは、他人と話している様子。謂わば、第一印象のままで止まっている。
自分と話した時、どのようなことを喋り、表情を見せてくれるのかわからない。
だからこそアルミンは自分でも思った以上に、簡単にアウラ・イェーガーを線引きすることができてしまった。
ベルトルトの動揺を狙い、「アニが拷問を受けている」と言った時もそうだ。
少なくとも少年には、冷えた部分がある。エルヴィンと同じ“非人間”になれる部分が。彼は冷酷になれる一面を無意識に、理性と感情の裏に隠して生きてきた。
周りにはいつも激情的なエレンや、少々怖いが仲間想いのミカサがいたから。
非人間な己の一面を、アルミンは否定していたのだ。
「本当は一番エレンの支えになるのは、お姉さんなんです。でも彼女は、今……」
「憲兵団に、捕まっている」
「……はい」
エレンを救出し戻ってきた時にはすでに、アウラ・イェーガーの身柄は憲兵に捕らえられていた。
元々調査兵団の一部では敵の協力者の可能性として出ていた。しかしアニ・レオンハートの発言により、彼女が敵と関係があったことがストヘス区にいた憲兵にも伝わってしまった。
彼女の身柄の処遇については、一旦隔離施設にいた彼女を確保してから、ということになった。
エルヴィンはこの時、ナイル・ドークにアウラ・イェーガーに関して、独断的な行動を憲兵が起こさないよう提案した。
遠回しな、情報を吐かせるため勝手に拷問すんなよ、という意味だ。
エレンの時以上に、「女型」という脅威が出てきてしまった以上、同じ壁内の人間同士でいがみ合っている場合ではない。優先すべきは人類の安全。
エルヴィンの意図を理解したナイルも、首肯した。
が、調査兵団団長の許可を待たずして、憲兵はアウラの身柄を捕らえた。
彼らには治安組織の一面があるゆえ、強制的に出られてしまえば、団長でもヘタに動くことはできない。否、エルヴィンが大怪我を負っていたからこそ、憲兵は動きやすいうちに動いた。
表上はアニ・レオンハートの発言が裏づけとなり、治療を踏まえ現状は隔離されている───ということになっている。
もちろん普通なら許可を取れば会うことは可能だ。例えば“見舞い”という形を取れば。
だが全面的に面会は禁止されている。
ペロ、こ、これは
誰よりも早くスミスは気づいた。
しかし中央政府が絡んでいるにしても、アニの発言からアウラ・イェーガー確保までの流れが早すぎる。
それこそ元々マークされていなければあり得まい。
考えられるのは一つ、エレン・イェーガーの巨人化の一件。約一ヶ月前、トロスト区攻防戦においてエレンは初めて巨人化した。
彼女が目をつけられたのはその時点である可能性が高い。
巨人化できるかもしれない人間として、候補に入っていたのか。
はたまた中央にとって、
エルヴィンの考えは後者だ。かつて中央政府の闇によって父親を殺されたからこそ、彼の胸中にはたしかな確信として存在する。同時にその考えが正しければ、アウラが仲間を──ひいては人類を騙していた、と思わざるを得ない。
イェーガー家の地下室に眠る“人類の秘密”を、彼女は持っている。
またその秘密があったからこそ、アニたちは彼女を利用したのではないのか、と。
事態は一刻の猶予を争う。
アウラ・イェーガーの情報が一切入ってこない以上、彼女が目を覚ましたのか、はたまた情報を吐かされているかもわからない。
ただその事実を知った場合、王政に本気でカチコミに行きかねない脳内進撃野郎が一名いる。ゆえに裏の事情を知っているのはエルヴィンやリヴァイ、ミケにハンジなどごくわずかの人間のみ。
というより、精神が完全にマッハ状態のエレンに「お姉ちゃんが拷問パーティーやで♡」と告げたら最後、本気で心が壊れかねない。
それほどまでに少年は今ボロボロだ。だからこその、精神セラピスト104期生ズであろうか。
この中にはエレンと同様に一名、セラピーを必要とする少女がいる。
「エレンも気づいていると思うんです。姉が拷問される可能性があるって…」
「重傷者にさすがに行わないわよ」
「じゃあ快方に向かったら?団長は憲兵団にかけ合っているんですか?」
「かけ合ってはいるみたいだけど、まだ許可が下りてないらしいの。まだ面会できる状況ではないから、って」
「………」
「大丈夫、ミケ分隊長やハンジ分隊長が色々動いているみたいだし、アルミンくんはエレンのことを気にかけてあげて」
「……はい」
「元気がないわね」
「…はいッ!」
握った拳を、左胸に当てるアルミン。目を閉じ、背筋をピンと伸ばした少年に、ペトラは小さく微笑んだ。かすかに滲む疲労をのぞかせて。
ここ最近の出来事で、皆それぞれ大きく心と身体を消耗させていた。
⚪︎⚪︎⚪︎
とある一室で、一人の女がベッドの上に横になっていた。長いこと荷馬車に揺られた彼女は現在、眠りについている。精神面はともかく欠損した肉体の疲労は、確実に出ていた。
一時は危険な状態だったが、ゴキブリのよう驚異的な生命力というべきか。医師も驚かせるほどの回復をみせ、エレン奪還から一週間ほどで元気に食事を食べられるまでに至った。ケガの経過観察や歩行訓練も含め、予想以上に早く退院できるだろう、と。
だが退院はできたとしても、その後待ち受けるのは幽閉生活である。
女の誤算が一つあったとすれば、すぐにGOU⭐︎MONされるかと思ったが、普通の部屋でゆっくり過ごせている点だ。さすがに頼んだ酒は病人ということで医者に没収されたが。
拘束も移動時にされていたが現在は受けていない。武装した中央の見張り(女)が四六時中一人は付いていることや、身体のケガもあり、拘束せずとも大丈夫だと判断されているのだろう。
彼女がトラウテ・カーフェンに「てっきり拷問されるのかと」と言った時は、トラウテは常識を語った。
目覚めたばかりの重傷者に行うわけがないでしょう、と。
しかしその言葉の意味合いには「今は」というニュアンスが含まれている。
回復した暁には、悲鳴が耳に心地よい拷⭐︎問。女はかつて父グリシャがマーレ治安当局に受けた内容を思い出した。
楽園送りの時、医者であった父の手に巻かれていた包帯。明らかにあるはずの指の部分が欠けていた。
相当痛かっただろうな、と鬼畜女は脳汁を垂らしそうな勢いで想いにふける。
存外彼女は調査兵団より、憲兵団の方が合っていたかもしれない。彼女の技量なら中央第一憲兵団にも入れただろう。そして壁内の秘密に近づく者を必殺仕事人。拷問時は脳内で嬉々として、悲鳴の雨を浴びていたに違いない。おまわりさん、コイツです。
そうして入院生活が続くある日。
入院する場所を移した疑問がいまだ払拭されない中、その日だけ彼女はベッドに身体を拘束された。
ついに(拷問が)来たか、と女本人は考えた。が、そんなことはなく。
間もなくして見張りの女兵士が退出させられ、彼女の一室に現れたのは一人の男。
貴族らしい男は一目で上質とわかるシルクハットとコートを身にまとっている。恰幅はよく、腹回りがふくよかだ。
帽子を外した男の後ろには扉に額を打ち付けんばかりの長身の男もおり、上品な男とうって変わり、触れただけでこちらが大ケガしそうな気性の荒さがうかがえた。
例えるなら「狂犬」。女がこれまで見た人間の中で、トップに入る力の底知れなさ。
そんな男を従える上品な男は、まず間違いなくただの貴族の男ではない。そも敵の内通者である彼女に会いにきているのだ。仲間の調査兵団の人間さえ面会が許されていないというのに。
否、それ以上に帽子を取った男の姿を、女は一度見たことがあった。
「初めまして、君がアウラ・イェーガーだね。私はロッド・レイスと言う」
かつて父、グリシャ・イェーガーが殺した「レイス家」の唯一の生き残り。
その男が今、彼女の目の前にいる。
ほんの少しでも表情の機微を読み取られてはならない。
アウラは最近ガバガバな顔を繕い、少し困惑を交えて「初めまして」と返す。
「貴族の方…ですよね?確かレイス家は、オルブド区の北に領土を持つお方では……そんな方が何故私に?」
入院する場所の疑問は解けた。身柄を捕獲するなら、憲兵の活動範囲である王都に近い場所がふさわしい。しかし彼女がいる場所は窓の景色の街の様子を見ても、王都かその近辺ではなかった。
であれば場所はどこか。それは彼女が場所を移した理由を含め、貴族の男を踏まえれば答えは出る。
場所を移した理由は、レイス卿と対面しやすい場所に移動させるため。恐らく場所はオルブド区だろう。
だがさらなる疑問が生じる。何故真の壁の王が、彼女に会いに来たのか。
神は言っている。どうせお父さま関連だろ?────と。
「ちなみに後ろの長身の方は、中央憲兵の方ですか?」
「彼は私の護衛だ。途中で退出させるかもしれないが、気にしなくていい」
「そう…ですか」
「私は君に話があって来たんだ」
「……敵と、内通していた件でしょうか?」
「それも知りたいところではあるが、用件は他にある」
ロッドは椅子を引き寄せ、女の隣に座る。拘束された美女と、体型がまさしく女性をわからせちゃう(意味深)貴族の男と、長身の狂犬護衛。意味深な構図になりそうでならない、不思議な絵ヅラ。
(この人間と私は、遠からず血が繋がっているのか…)
ロッドの髪が黒だからか、始祖の少女と同じ髪色を持つダイナやジークとはあまり似ていない。しかし青い瞳は、共通して似ていた。思わずその目だけえぐって舐め回したいくらいには、
不意にアウラの脳裏によぎったのは、ユミルに見せられた記憶。
そう言えばグリシャとフリーダの前にユミルがサプライズ登場した時、父は娘の名───つまり、「アウラ」の名を語っていた。
その場にいたロッドもまた、混乱状態であったとはいえ、しっかり聴こえていただろう。娘息子を殺した男が語った名前なのだ、調べていておかしくない。
あの一件が起こったのは今から五年前であり、調べれば早々に調査兵団の「アウラ・イェーガー」の存在に行き当たったはず。そして彼女を調べれば、必然的に「グリシャ・イェーガー」に行き着く。
しかしレイス卿が接触してきたのは、事件が起こってから五年後の今。相手の様子をうかがえど、やはりアウラを元から知っていた様子はない。
恐らく知ったのはアニ・レオンハートが彼女の関与を語った時か、エレンが巨人化したトロストの件の後の可能性が高い。
“敵”ではないエレン・イェーガーの力が、かつて家族を殺した男から受け継がれたものであることは、想像がついただろう。そして調べれば、それは一発でわかってしまう。
ゆえにエレンの兵法会議の一件は、少年の運命の分かれ道でもあった。
だが今はエレンが人間でありながら“
その話は交代で見張りになるトラウテから聞いた。情報収集のため、なるべく友好関係を築こうとアウラは動いている。完全に繕われたやさしき人間像で。
しかし中々向こうの心に入り込むことができない。時間をかけようやく手に入れたのが「王政ザワザワ」だ。さすが中央第一憲兵団の人間。
というかアウラがあまりにもずっと話しかけるため、トラウテは仕方なく少しだけ情報を出した、と言った方がよいか。無論アウラの情報収集の意図を理解した上で。
ただ「王政ザワザワ」だけでも、十分な情報だった。
通常の知性巨人の能力とは一線を画す力。必然的にそれが、失われた「始祖」の力であると考えられる。
となると、エレンは兵法会議の時以上に、狙われている可能性が高い。仮にエレンの受け渡し命令が出されるなら、エルヴィンは黙っていまい。アニを捕獲した時も命綱なしのギリギリな賭けで、調査兵団は首の皮一枚つながった。
無茶な作戦でありながらも、それ以上の成果を残す。団長の存在は上にとってもかなり邪魔だ。
最悪面倒なエルヴィンやその他兵士が動かないよう、調査兵団そのものが凍結させられる可能性もある。そうなってはエレンは簡単に王政にわたってしまう。
(王政……か)
ひとまず「アウラ」の存在が調べられなかったのは、理由がある。心当たりがあるのは一人の少女。
当時はちょうどサシャ・ブラウスとその仲間たちの記憶改ざんの一件があったので、彼女の知らない裏でユミルが動いたのだろうなと、アウラは結論づけた。
今もずっと始祖の少女の目的が何なのかはわからないままだが、エレンを助けたことにも必ず意味がある。始祖の疑いを少年にかけさせたのも、ロッド・レイスを生かしたことを踏まえ、何か理由があるのだ。
(君は何を成したいの……ユミル)
────わからない。
しかしアウラは少女の成したいことであれば、自身も手伝いたいと思う。それこそ自身を捨てゴマにしていい。
もちろん優先事項はジークだ。
ただ「この世で二番目に誰が好きか?」と問われれば、彼女は迷いなく「ユミル」と答える。
理由は必要ない。少女がアウラを好いてくれているのだ。それ以上の理由など必要なものか。
「君の父親は、有名な「イェーガー」医師であったそうだね」
ロッドの言葉に、彼女は小さく頷いた。
自身にはないその青い瞳に、強い嫉妬を覚えながら。
地上は血の海で、空はいつだって青い。
アウラは知っている。知っていた。その空が、掴めないほど遠くにあることも。