ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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前回の続き。ちょっと中途半端な部分からの始まりです。

あと寝ぼけて足の薬指折りました。前歴として、顔面ぶつけて鼻折れかけた過去もある。地獄か?まぁ夜中起きて布団の上でねんざしたことあるし、これがドジっ子キャラですね。


私たちのパラノイア[下]

 私アウラ・イェーガー。

 レイス卿が部屋を後にして、今長身痩躯のテンガロンハットおじさんといっしょにいるの。

 

 

「吐いてない情報もあるだろうから、後でじっくり吐かせろだとよ。怖ェ王サマだ」

 

「…全部声に出てますよ?」

 

 

 さっき小声で話していた内容をこの男暴露したぞ。しかもうまく卿が隠していた“王”の単語を出した。誰ですか、この狂犬を忠犬と思い込んだ人は。明らかに卿の「外へ行け」の意味を理解しながら、扉の前にいましたし。

 

「嬢ちゃんよ、俺の気配に気づいてただろ。わざとロッド(あの野郎)に伝えなかったな」

 

「護衛をしていると思っただけですよ、忠犬のように」

 

「だぁれがご主人サマにしっぽ振る犬ッコロだって?」

 

 これみよがしに銃がこめかみに当てられた。パワハラで訴えます。

 

 

「おじさまの目的が何かはわかりませんが、目がギラギラし過ぎですよ」

 

「おじさま言うな、俺はケニー・アッカーマン。肩書きとしては、中央第一憲兵団「対人制圧部隊」の隊長だ」

 

「───アッカーマン?」

 

「隊長の方じゃなくてそっちに食いつくのかよ」

 

「いえ、その、弟の暫定婚約者な少女も「アッカーマン」というので」

 

「……あぁ、確か分家のアッカーマンのガキが調査兵団に入ったって聞いたな。つーか暫定婚約者って何だ」

 

「両片想いなんですよ。…あ、ミカサちゃんが弟と結婚したら、間接的に親戚になりますねわたしたち」

 

 おしゃべりがすぎたのか、冷たい銃口が肌に食い込んできたので、談笑タイムは終わりです。

 

 銃がなくともこの男の雰囲気だと、恐らくミカサちゃんでも時間を要さず制圧されるだろう。それほどまでに獰猛な、凛々しいケモノの雰囲気を感じる。

 

 体感的に人間の赤ちゃんが、冬ごもりに失敗した2メートルを優に超える、飢えたオス熊♂に遭遇してしまった時のような圧だ。

 つまり生きた心地がしません。渇いた喉を潤すべく、無性に水が飲みたい。

 

 

 

「ハァー…嫌になっちまうねぇ」

 

 ケニーは銃をしまい、帽子を目深にかぶって壁に重心をかける。そのままズルズルと長身の身体が折り畳まれた。

 

「やっぱり何か悪だくみをされていたんですね」

 

「悪だくみじゃねぇ。俺にとっては真剣な夢だ。ロッドが敵と内通していた人間と会うと聞いて、怪しいと思っちゃいたが…俺がエレンを食っても、真の王になれないときた。こりゃあ傑作だな」

 

「それが、あなたの夢ですか」

 

「そうさ、このクソみてぇな世界をひっくり返してやろうと思っていたんだが、上手くいかねェ。オマケに世界は俺が思ってる以上にデカかった」

 

「……そもそも、あなたが巨人になれるかも怪しいですよ」

 

「あ?どういう意味だそりゃ」

 

「アッカーマン家が迫害を受けていたのは、ミカサちゃ…ミカサ・アッカーマンから聞いています。壁内の人類は記憶操作を受けましたが、一部例外もいる。それが少数一族。()()()()()()がない者たち。王政を構成する多くはその少数一族の人間である反面、何かしら理由があって迫害を受けている一族もいた。それと照らし合わせてアッカーマン家が迫害を受けていた事実を考えると、やはりあなたが巨人になれる可能性は薄い」

 

「………俺は昔「記憶をのぞけない」と言われたんだが」

 

「えっと…誰にですか?」

 

「フリーダの前に力を継承していた男。ロッドの弟だ」

 

「あぁ、卿がおっしゃっていた方ですか」

 

 名は「ウーリ・レイス」という人物だったらしい。ケニーはその人物の暗殺に失敗し、返り討ちにあったそうだ。一時は死を覚悟したものの、ウーリからアッカーマン家の迫害の歴史の詫びを受け、二人はズッ友になった。

 

 ケニー曰く、下賤にこうべを垂れたウーリの姿が衝撃的だった──と。

 少なくとも、ロッド()は下の者と上の者を線引きしている。

 

 ウーリの傘下に降り、その男亡き後もレイス家のしもべであるのは忠実だ。しかしかつて王政にねらわれ、憲兵を数えきれないほど殺した狂犬。いつ手を噛まれるか油断ならない。

 

「ロッドの野郎に付く理由もなくなったしなぁ…どうすっかねぇ」

 

「あの、アッカーマンさん、今外はどうなっているのでしょうか?……弟はまだ、拉致などはされてませんよね?」

 

「さてな。それより嬢ちゃんはこれから待ってる()()()()()の、心の準備でもしときな」

 

「………」

 

 睨んだものの、完全なる格下扱いで意にも介されない。せめてもの抵抗で水を要求した。怪訝な表情をされましたが、今の私は拘束を解けても歩けません。松葉杖は凶器になり得るので、使用を許されておらず。

 

 いつも手洗いに行く時に、女兵士に姫だっこプレイを要求される私の羞恥を誰か察してくれ。お兄さまに介護されたい。

 

 ケニーおじちゃんは「やれやれだぜ」といった様子で、離れた卓上にあった吸飲みを取ってくれた。だがしかし、持って来られたそれは、まるで好きなあの子にイタズラする男子のように頭上高く持ち上げられる。

 

「俺は今、衝撃的なことを知りすぎて頭が混乱していてよ」

 

「…はい?」

 

「まぁ軽い冗談だと思って聞け」

 

 

 ────お前、ウーリの隠し子とかじゃねぇよな?

 

 

 思わず「は?」と言ってしまった。正真正銘私はグリシャ・イェーガーとダイナ・フリッツの娘だ。これ以上うちの家庭事情をややこしくされたら困る。

 

「だから冗談だと思って聞け、って言っただろ。だが似てんだよ、本当に。ロッドの野郎はヒストリア似と言ったが、それよりもウーリに似ている。髪を切ったら特にな」

 

「……疲れているんですか?」

 

「そうかもな。どうかしちまってんだ」

 

 ケニーおじちゃんはこちらの拘束を解き、身体を起こした私の頭の上に吸飲みを置いた。どうしてイジワルするんですか?(静かな怒り)

 

 私はお母さま似だ。ダイナ・フリッツとウーリ・レイスが似ているならば、必然と私との類似点も多くなるだろう。ウーリという方の顔は存じ上げないんですけどね。

 

「髪を切ったら」の部分を取り上げると、ウーリが私より短髪であったことが察せる。レイス卿が弟より娘の方に似ていると感じたのは、私とクリスタ───ヒストリアちゃんの髪の長さがほぼ同じだからでしょう。

 

 

 

 

 

「ねぇアッカーマンさん、レイス家に付く義理がなくなったのなら、調査兵団側に寝返りませんか?」

 

「……ア?」

 

「無論対人制圧部隊ごと。王政がエレンの奪取を行うなら、必然と調査兵団側との対立が起こります。となると駐屯兵団はともかく、王政側の憲兵団と調査兵団の戦闘は免れなくなる。……いえ、エルヴィン・スミスのことだ。駐屯兵団を味方側に付けてしまうでしょう」

 

「ほう、で?」

 

 ニッコリと笑ったケニーおじちゃん。

 あぁ、身体が震える。頭の上の吸飲みから水の音がひっきりなしに聞こえた。ついでに心臓の音も。

 

 狂犬の目が細まり、突き刺さる殺気。心はまだしも身体が本能的に命の危機を察し、誤作動を起こし始めた。ケニーは吸飲みを取って、口をつける部分を私の首に食い込ませる。

 

 アウラちゃんでも頑張るのよ、弟の生存フラグを立てるために。

 そしてその後、拷問を受けた姉の悲惨な姿を見せて、傷つくエレンくんの姿が見たいです。

 

 

「“外”の世界を知ったなら、壁内に未来がないことはわかるはずだ。狂犬に見えるが、あなたは冷静な人間だ。己の野心が潰えた今も、動揺を上手く抑え込んでいる」

 

「だからって、みんなで仲良しこよししろってか?お断りだね。俺はつまらねェことは嫌いだ。今回の件で“個人的な楽しみ”もあるんでね。それにまだ俺が絶対に巨人化できないかどうか、わからねぇだろ」

 

「…対人制圧部隊を甘く見ているわけじゃない。ですが、私たちには規格外の団長様がいる。弟のことになったら怖いアッカーマンも。それに、人類最強の男がいますよ」

 

「ハハァ、あのチビが「人類最強」ね」

 

「?」

 

「イイこと教えてやろうか。幼少期のアイツを拾って処世術を教えてやったのが、この俺だ」

 

「……!?」

 

 なるほど。こんな狂犬に生き方レクチャーをされたから、私のような可愛い美女ちゃんでも平気で殴ろうとする兵士長が爆誕してしまったわけですね。

 

 160cmの男と戦ったことはないので、舐めプしているこの男と兵士長のどちらが強いかわからない。

 だが巨人相手に戦うリヴァイと対人相手に戦うケニーでは、軍配は後者に上がりそうだ。

 

「敵に協力した挙句、王政を裏切る教唆か。コイツァ今俺が処刑しなくちゃいけないかもな」

 

「仲良しこよしを我慢すれば、もっと強い敵が待っていると思いますけどね」

 

「俺は別に戦闘狂ってわけじゃない。人生を楽しむことが、血を見ることばかりじゃねェ」

 

「なら理想を失ったあなたは、何を目的に生きるのですか?その瞳の奥は、乾いてきているように思える」

 

「失ったのなら、新しく見つけるしかないだろ。俺も何度も失ってきたからな」

 

「前向きですね、すごく」

 

「ッハ、気に入らねなぁ、嬢ちゃん。お前は他人のことを探るばかりで、自分の内を見せようとしない。ロッドはともかく、俺の目が誤魔化せると思うなよ」

 

 吸飲みが皮膚を破り、透明な先を伝って、中の水に血が混じっていく。

 どうやらレイス卿と話していた内容に多少嘘が混じっているのを、気づいているらしい。それも、ケモノのような勘で。

 

「敵に協力したのも、弟のためじゃねェな」

 

「鋭いですね。兄に会わせてくれるからと、協力を持ちかけられました」

 

「家族を売った兄──」

 

「お兄さまをバカにするなッ!!!」

 

 

 喉に吸飲みがさらに深く刺さることも構わず、男に掴みかかろうとした。しかし呆気なく体重を乗せられ、片足で左手、片手で右腕を拘束された。ついでに首を掴まれる。取手から手が離れた吸飲みは、刺さったままベッドに転がり、赤い中身を溢した。このクソ野郎ッ、長身痩躯のクセに重────?!……し、しんじゃう。

 

「おーおー、お兄ちゃん大好きっ子か」

 

「……ッ!………!!」

 

「兵士のクセして紙みてぇな身体だな。ちゃんとメシ食ってんのか?」

 

「〜〜〜!!!」

 

 蹴っ飛ばされた布団からのぞいていた私の上半身。めくれたシャツをさらに捲られ、薄い腹筋を見られた。露骨なセクハラだった。

 

 お兄さまを貶したヤツは殺す。殺す。

 

 

「嬢ちゃんが人類を裏切ってまで、行動を起こすのは兄貴のためか」

 

「……あいたい、から。それが理由で何が悪い」

 

「仲間を、友人を、弟を捨ててまでか?何故そこまで執心する」

 

「好きだから。愛してるから。大好きだから」

 

「………」

 

 眉間を寄せ、深い皺を作ったケニー。

 ジーク教を本気で作りたいくらいにはイカれブラコン野郎であることは自負しているので、珍妙な生き物との遭遇に未知を感じているのかもしれない。

 

「理由はそれだけか?兄貴に会って、幸せになりたいのか?」

 

「………ころされ、たい。お兄さまの、すべてになりたい」

 

「……随分と気持ち悪い野郎だな」

 

「おまえにはわからない。「私」という生き物を、理解できない」

 

「わからねぇし、理解したくもねェよ」

 

「ころしてやる……おまえのくびを王政のクソどもにおくりつけてやる」

 

 

 最悪だ。お兄さまに殺され損ねてから全てが。いっそのこと、何も考えず拷問を受けるのを待てばよかった。

 

 私自身、自分が生きている理由がよくわからない。

 でも、でも生きてしまったから、浅ましくお兄さまに会うことを望んでしまう。

 

 お兄さまと話したい、笑いかけてもらいたい、悲しんでもらいたい、苦しんでもらいたい、愛してもらいたい、殺されたい、穢したい。

 

 

 

 

 

()()()()()な人間だな、嬢ちゃんは」

 

 

 ケニー・アッカーマンの瞳に、憐れみの色はなかった。どこか遠くを見つめている。遠いどこか。まるで、私の愛する空のように。

 

 溢れていた涙は引っ込んで、凍った水の中に脳みそでも沈めたように、頭の中が冷えていく。

 

 

「「私」は同情される人間ではない。この世界で「かわいそう」と表現していいのは、一人だけだ」

 

「お前の兄貴か?」

 

「違う。確かにお兄さまは、かわいそうだけど。かわいそうと思っていいのは私だけ」

 

「………」

 

 オェ、という顔をされた。本当絶対殺しますからね。せいぜい夜道には気をつけるんだな(フラグ)

 

 

 

「「かわいそう」な、一人の奴隷の少女」

 

 

 

 長い夢を見た。その夢のほとんどは記憶の底に残らなかったけれど、一人の少女が暗い水の底で『悪魔』と出会い、死ぬまでのお話。それだけはしっかり覚えている。

 

「愛」に翻弄された彼女の人生。

 

 私はそんな少女が、愛おしい。抱きしめて、誘拐したい。

 願わくば救ってあげたい。

 

 

 

 

 

 いつの間にか私の口角は上がっていた。首から男の手が離れ、身体にかかっていた重みもなくなる。

 ケニー・アッカーマンはなぜか、呆けたツラを晒していた。

 

「お前、目が」

 

「目?」

 

「……気づいて、ねぇのか?」

 

 指摘され窓に視線を向けたが、いつもの魚の濁ったようなお目々があるだけだ。

 ケニーは口を何度も開閉させ、何か言おうとするが、言葉が出てこない様子。

 

「………お前、フリーダを食ったのか?」

 

「フリーダ・レイスを食べたのはグリシャ・イェーガーなのでしょう?レイス卿が話していたじゃないですか」

 

「じゃあ何故、目が変わった?さっきの目は、()()()()()だったぞ」

 

「王である証?それは今ユミ──────あっ」

 

 ベッドの隅に逃げましたが、ケニーおじちゃんに手も足も出ないのは、先ほどの調教(意訳)で十分わからせられた。

 微かに口角を上げ、しかし額から汗を流す怖い顔が近づく。銃を下ろしてください、あなたの目の前にいる美女は無抵抗です。

 

 しらばっくれてもいいですか?…無理ですよね。

 

 話さないと、「死orデッド」の選択を迫るそうだ。どの道頭に風穴が開くじゃねぇか。

 

 

「王家の力は、始祖ユミル・フリッツに戻っている」

 

「本当か?確証は?そのユミル・フリッツってのは誰だ?仮に本当なら何故お前がそれを知っている」

 

「ユ、ユミルちゃんはレイス家の祖先に当たる人です。知っているのは、本人に教えてもらったとしか……」

 

「ア゛ァ?」

 

「うぅ、お、教えるって言ったって、生きている人じゃないし…!」

 

「………」

 

「…銃で頭をグリグリするの、やめてもらっていいですか?彼女は砂と光の柱の世界にいて、現実に姿を現すことはできるけど、普通は見えなくて……」

 

「………」

 

 ユミルちゃん、ユミルちゃん出てきてくれませんか?悪いおじさんに私今、乱暴されています。このままだと、私……。

 

 ───と、思ったら、隣で透けたユミルちゃんが寝ていた。いえ、正確には私の右隣で両手を組んで、仰向けで寝ている。目だけは開いてこちらを見ています。

 

 

「今私の隣で寝転がって、くつろいでいます」

 

「見えねぇよ」

 

「心の汚い人には見えないです」

 

「じゃあ嬢ちゃんも見えないはずだよなァ?」

 

「私の瞳をよく見てください。澄み渡っているじゃないですか」

 

「濁りきってるな」

 

 

 ハァ、と深く息を吐いて、ケニーは銃を下ろした。

 

 自身の瞳で見たことしか信じられないらしい。「始祖」は私ではなく、ユミルちゃんだというのに。ケニーおじちゃんがエレンくんの代わりに、私を誘拐する気になっているじゃないか。

 

 何故だいユミルちゃん?今微かに微笑んでいますが、それは愉悦の笑みですか?かわいいですね。

 

「よく考えてください、エレン・イェーガーには巨人を操った事実があるじゃないですか」

 

「嬢ちゃんが何かしら力を使ったんだろ。…いや待て、王の力はレイス家の人間しか使えないはずだ」

 

「だから、ユミルちゃんが使ったんですよ」

 

「………そのユミルってのの目的は何だ」

 

「ユミルちゃんの目的は──」

 

 横を見れば、視界に入ったのは鼻ちょうちん。安らかな表情で少女は眠っている。どうして君はそんなに…ゴーイングマイウェイなの…?

 

「…話したくないそうです」

 

「ダンマリってか」

 

「ダンマリです…」

 

 何故か、ドッと疲れた。瞳云々辺りから全身がダルい。まさか霊的なものじゃないでしょうに、ユミルちゃんは。

 

 

「……嬢ちゃんが望むのは、対人制圧部隊と調査兵団との結託か」

 

「…はい」

 

「お前の話を信じるなら、エレン・イェーガーが王の力を持ってねェってことだが、その場合父親の件はどうなる」

 

「グリシャ・イェーガーは……フリーダ・レイスを食べていません。殺したのです」

 

「それもユミルに教えてもらったってか」

 

「……はい」

 

 ケニーは、私と彼女の関係を問うた。

 何故私にユミル・フリッツが視えるのか。まるで私が()()()()()ではないか、と。

 

 もう自分の内心を暴きすぎた。それこそ情報の漏洩を恐れこの人間を殺さなければ、後々面倒ごとが舞い込みそうで。

 

 ユミルちゃんに一度視線を向けた。…薄目を開けてこちらを見ている。

 判断は私に任せる、ということだろうか。

 

 

「……誰にも、口外はしないでください」

 

「約束はできねェな」

 

「ケニー・アッカーマン。私はあなたを、()()します。

 

 

 

「アウラ・フリッツ」──────それが、私のもう一つの名です」

 

 

 

 楽園に渡らず、孤独に闘うことを選んだ「フリッツ家」の末裔。ダイナ・フリッツの娘が、私。

 

 別に信じなくていい。…いや、信じてもらえないだろう。目の前の女が王家の血を引くなど、あまりにも都合が良すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

「だから、似てんのか」

 

 

 長い間の後に、そう呟いたケニー。

 逸らしていた視線を戻せば、驚くほどまっすぐに私を見ていた。キレイで、哀しい瞳。

 

「…わかったよ、協力してやる。ただしこっちも中央憲兵の目があるんでな。仲間の被害は出したくねェ。そもそもすでに王政はエレンとヒストリアの奪取に動き出している。今動いても遅い状況だぞ」

 

 

 憲兵団の指揮系統は複雑であり、殊に第一憲兵団は議会───とりわけ、真の王家直属の秘密警察としての役割を果たす。

 

 そして第一憲兵の中でもエリートを集めたのが、「対人立体機動部隊(対人制圧部隊とも言う)」。

 ケニー・アッカーマンが議会メンバーとなり、中央第一憲兵に新設された部隊らしい。

 

 設立の名目上は、力を有する調査兵団が、反乱を起こした際対処する組織。

 

 しかして実際はケニーが自身の野望を果たすために作った部隊であり、仲間はこの世界をひっくり返す彼の意思に賛同した上で従っている。

 

 つまり、対人立体機動部隊はケニーの私兵。王政ではなく、隊長の意思によって動く。

 

 だが本来のケニー・アッカーマンの野望は実現不可能である。その点問題はないのか聞いたが、根底は変わらないだろう、とのこと。

 

 このまま王政と中央憲兵が動けば、調査兵団はエレンを死守するため、反逆とも取れる行動を取らざるを得なくなる。

 

 

「仮に調査兵団の団長が本当に駐屯兵団と組んだとして、起こるのはクーデターだろうな」

 

 この世界をひっくり返すという意味は、「王政を崩す」という内容にすり替えることができる。

 ケニーは面白そうじゃねェか、とニヒルに笑った。

 

 クーデターですか…あの団長なら本当にやらかしそうで恐ろしい……。

 

 そうなると、予想できるのは調査兵団(&駐屯兵団)の勢力と、王政&憲兵団勢力。

 

 これが動く場合、調査兵団、王政命令で動く中央憲兵(中央第一憲兵団)にナイルが指揮する他の憲兵、そしてケニーおじちゃんの部隊という………頭がこんがらがる組織展開がなされそうだ。

 

 懸念すべきはダリス・ザックレーの存在。全兵団のトップに立つ男が仮に王政についた場合、駐屯兵団がザックレーの意思を尊重する可能性がある。ピクシス司令の人物像をつかみ切れていないので、どうにもその動きが読みにくい。

 

 しかしこれまで暗部に関わってきたケニー・アッカーマンの予想として、クーデターの可能性が出てきた以上、私も色々と思考を動かさなければならないようだ。

 

 

「……では従うフリをしながら、機会をうかがってください。私はどうせ動けないでしょうから。エレンくんが助かればいいです」

 

「冷たいねぇ、お仲間が死ぬかもしれないってのに」

 

「アッカーマンさんは「協力する」と言った人の仲間を殺すような、血も涙もない人なんですね」

 

「………イイ性格してんな、嬢ちゃん」

 

 私の身柄については中央憲兵に「俺たちが拷問担当するぜ!」でごまかし、部下に秘密裏で匿ってもらうことになった。

 

 またそれと、とケニーは続けた。

 

 曰く、私に協力する代わりに、一つお願いしたいらしい。「夜のお誘いですか?」と言ったら殴られた。冗談で聞いたわけじゃないんですが。返答は「冗談じゃないなら尚更だ」と眼光鋭い一喝。ユミルちゃんがケニーおじちゃんの顔を無表情で見ている。

 

 

「血筋の秘密を墓場まで持っていく代わりに、髪を切って欲しい」

 

 

 ユミルちゃんが身体を起こした。彼女をステイさせる私の動きに、何も知らぬ男は不審な表情を浮かべるばかりである。要求が不可解………あぁ。

 

 

「そんなにウーリ・レイスと私は似ているのですか?」

 

「娘と聞いても驚かねェくらいにはな。多分ロッドも切った姿を見たら驚くぞ」

 

「……あなたが王家の力を求めたのは、その男の人が関係しているのですか?」

 

「まぁな、ないものねだりだ。上の景色がどんなもんか、知りたかったんだよ」

 

 

 どこまで切るのか聞いたら、肩上ぐらいまでだそうだ。本格的にお母さまカットじゃないか。流石に今は切りません。

 

「頼んだ俺が言っちゃなんだが、本当にいいのか?髪は女の命っていうだろ」

 

「髪なんてどうでもいいですよ。伸ばすのは周囲の評判がいいからってだけで」

 

「腹が黒いねぇ」

 

「兵士長と同じこと言わないでくださいますか?」

 

「げっ…」

 

 今日イチ渋い顔をしたケニーおじちゃん。口癖なのか「おいおいおい」ラッシュしてくる様がリヴァイと似ているが、身長含め表情豊かなところは似ていない。

 

「まぁアッカーマンさんが協力してくださる代金としては、安いでしょう」

 

「アッカーマンさんはやめろ、最初から思ってたが背中がむず痒くなる」

 

「ケニーおじちゃん」

 

「ア?」

 

「ケニーさん」

 

「………」

 

「け、ケニー」

 

 睨まれるだけで足腰抜けちゃいそうになるとか、本格的に自分の身体が調教されつつある。私の身体はお兄さまのものなのに…兵長にあることないこと話そうと思います。

 

 

 不意にユミルちゃんに視線を向けましたが、半分消えかかりながら、私に背を向けて膝を抱えている。

「切ってもアウラちゃの美貌は変わらんで?」と念じたら、こちらに視線を少しだけ向けて消えていった。

 

 どうやったら彼女が気を取り直してくれるか、後でしっかり考えましょう。




【アッカーマンの重さ】

・リヴァイ/160cm 65kg
・ミカサ/170cm (乙女体重)kg
・ケニー/190cm 120kg(質量が大きすぎひんか?)

強さは対巨人戦でなければ、ケニー≧リヴァイ>ミカサな個人的印象。
巨人戦だったらリヴァイに軍配上がりそう。
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