ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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前回誤字報告過去一にヤバかったです。いつもありがとうございます。
なかなか進み具合が遅くて自分でももだもだしてます…_(┐「ε:)_


遺伝ってのはそんなにアテにならない

 レイス領にて巨人化したロッド・レイス。その大きさは「超大型」を優に超える100メートル以上。あまりの巨体さから本体は自重に耐えきれず、うつ伏せの体勢で身体や顔を地面に擦りつけ移動した。

 

 奇行種の分類に入るこの巨人は南に移動し、オルブド区を襲った。最終的にロッド・レイスは調査兵団の活躍により、討伐された。

 

 使用されたのは無数の樽に入った爆薬。それらをアミで一纏めにしたものを、エレン・イェーガーがロッドの口にぶち込んだ。

 

 結果、ロッドのうなじに当たる部位が周囲に飛び散り、それを斬ることで討伐を可能にしたのである。

 

 ロッド・レイスにトドメを刺したのは、ヒストリア・レイス。彼女はクーデター後、エルヴィンから自身を女王に即位させたい旨を聞いた。元々壁内は王政国家、その体制が突如変わっては、民の間に混乱が生じる。

 

 ゆえに真の王家であるヒストリアに白羽の矢が立った。

 

 

 彼女はその話を呑んだ。その上で、ロッドを討伐する作戦に参加することを求めた。

 

 手柄を彼女のものとし、民衆の求心力を得るためである───と。

 エルヴィンはヒストリアの提案を認め、本当に彼女は自身の手で親との決別を果たす。

 

 それからしばらくして、壁の世界に新たな女王が誕生することになった。

 

 オルブド区を救った英雄。小柄な身体ながら、人々のために命をかけた女王。真の王家である父の暴走を止めた彼女は、戴冠式の場で多くの民衆から温かい拍手をもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 時は少し遡り、ロッド・レイスが討伐されたその夜。

 

 朝の混乱もようやく少しは収まってきた中、オルブド区のとある地下の一室に、ゴーグルが特徴的な女の姿と、いかにも仕事のできるキャリアウーマンといった容姿の女が向かっていた。

 

 ゴーグルの女性の後ろには、パッと見、モブ顔の男の姿もある。実際名前にも「モブ」がつく。

 

「へぇー、憲兵団が()()で使う部屋ねぇ…こういった場所がこのオルブド区以外にも、複数あると思うと頭が痛いよ」

 

「ハンジ分隊長、揉め事は起こさないようにしてくださいね」

 

「モブリット、君は私のことをなんだと思ってるんだい?」

 

「いえ、あなたがミケ分隊長の代わりに来ると言ったんです。覚悟を決めておいてもらわないと困ります」

 

「あぁもちろん、決めてるとも」

 

 そう言うハンジのゴーグルの奥は、なぜか窺い知れない。まるで週刊誌のお色気シーンを読んだ時、青少年の欲望のジャマをする謎の光やケムリのように、彼女の瞳の奥は隠されていた。

 

「こちらです」

 

 トラウテがカギを使い鉄の門を開ける。すると室内に響く、「ギギギ」という地面と鉄がこすれ合う不協和音。

 

「…ッ」

 

 入って香ったのはまず血の匂い。ハンジは顔をしかめ、中へ一歩入る。石で囲まれた四角い部屋は壁上につけられたランプの淡い光で照らされており、室内の中央には丸テーブルとイスが二つ。右側には棚があり、その上に尋問をに使うらしい器具が複数置いてあった。

 

 

 ──否、これは“尋問部屋”ではない、“拷問部屋”だ。

 

 左にはベットが一つあり、その上でシャツに深緑のロングスカートを身にまとった女が横たわっていた。

 

 両手、左足首には拘束具がつけられ、そこから伸びた鎖はベッドの三隅に繋がっている。

 

 女の両手は包帯が巻かれ、尋問した際殴られたであろう痕が複数あった。ハンジが気にかかったのは、髪の部分だ。肩につかない程度の長さに変わっている。

 

「彼女の拷……尋問をされた方は誰なんですか?」

 

「尋問を担当したのはアッカーマン隊長です。ロッド・レイスからの指示を受けて」

 

「ハハ…リヴァイが噛みついてたあの男か」

 

 ハンジはニック司祭の殺害事件を調べる上で、中央憲兵の人間を拷問した。リヴァイ曰く、情報を吐かない人間は、爪を全部剥がされても語らない。逆に吐く人間は一枚でも吐く。

 

 また拷問方法でも肉体以外に、精神的に揺さぶりをかける方法もある。きっと王政の一件がなければ、ハンジが知ることもなかった世界だ。

 

 

「アウラ・イェーガーの身柄は私たち調査兵団が預かりますが、よろしいのですね?」

 

「かまいません。今は中央政府が崩れ、憲兵団も中央第一憲兵団が身柄を拘束されている状況ですから。今のところはそちらで問題ないかと。捕まえる時は改めて手続きを行ってからになるでしょうし」

 

 トラウテが属する「対人制圧部隊」も、調査兵団側に回ったからこそ捕まってはいない。

 

 しかし新王女が即位し体制が大きく変化する中で、どうなるかわからない部分が多い。今どの兵団も手探りの状態だ。

 

「ひとまず殺されてなくてよかったよ、アウラ」

 

 

 ───いっぱい聞きたいことや、話したいことがあるんだ。

 

 と、続いたハンジの言葉。その七割は巨人についてだ。

 

 途端に丸くなっていたアウラの身体が震えた。眉間にシワを寄せ「うぅ…」と唸った彼女の夢には、お花畑で走り回るソニーとビーンと、ゴーグルをつけた変態の姿があったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 私はアウラ・イェーガー、美女です。

 

 レイス卿が巨人化してオルブド区を襲ったという、とんでもない事実を聞かされたその日の午後。

 

 私の身柄は憲兵団から調査兵団へと戻された。元々王政の命令で中央憲兵が動き、私の身柄が拘束されていた。きちんとした段取りを踏んでから身柄のやりとりが行われるそうです。

 

 

 ちなみに現在地は調査兵団本部。部屋の外には監視の人間が一名おり、手洗いなど出歩く際は声をかけて出る。

 

 窓はなぜか開かないように釘で固定されていました。まさか私がここから飛び降りるかもしれないなどという、愉快痛快な考えを持っていたんですかね?(前科アリ)

 

 当然のごとく武器類はなく、松葉づえが手離せない。立体機動は訓練次第で行える可能性もありますが、今のアウラちゃんは完全な戦力外。そも厄介ごとは山のように残っている。

 

 

「アウラ副分隊長」

 

 その時ノックが聞こえた。どうやら私にお客のようです。昨日はハンジ・ゾエが私の運搬を担当したそうですが、まさか彼女じゃないよな?帰ってくれ。

 

「兵士長がお見えです」

 

 帰ってくれ。…念じましたが無理でした。

 

 いつも隈どころか顔に影があるリヴァイ兵士長は、部屋に入ると隅にあったイスに腰かける。そして外の兵士に紅茶を持って来るよう頼んだ後、こちらを見た。

 

 

「テメェ、ケニーと組んでいやがったな」

 

 

 最初から爆弾発言だった。組んでるって何をですか?たしかにエレンが死なぬようケニーを懐柔しようとはしましたが。

 

「昨日色々と気になっていたことを、ヤツに問い詰めた」

 

 兵長たちがトロスト区で対人制圧部隊と交戦した際、死者が出なかったことにまず大きな違和感を感じたと言います。

 

 また殺されたとされていたディモ・リーブスが、対人制圧部隊によってその死を隠ぺいされていたことも明らかとなった。

 

 殺害(嘘)に関しては現場でリーブスを気絶させ、あらかじめ動物の血を入れておいた革袋を刺し、あたかもリーブスが殺され、その遺体が遺棄されたようにみせかけた。

 

 

「あの部隊はケニーの私兵だ。アイツの意志によって動く。つまりは俺たちを殺さねェよう仕向けたのも、ディモ・リーブスを死んだように見せかけたのも、ケニーの意向ってことになる」

 

「随分やさしい人間なんですね。私を尋問した時は怖かったというのに」

 

「バカ言え、あの野郎が進んで人の命を救うわけがねぇ。殺すならまだしも」

 

 ケニー・アッカーマンという男は、かつて「切り裂きケニー」という名で知られていたらしい。都市伝説レベルの話だ。

 かく言う私も兵長が出すまで、頭の片隅に埋もれていた知識。

 

 おそらくケニーおじちゃんから聞いた、“アッカーマン家の迫害の歴史”に多かれ少なかれ関わっているのだろう。

 

「アイツは自分の野望、王の力を奪うことが叶わないと知ったことで、ロッド・レイスを裏切ることを決めたと言っていた」

 

「狂犬ですね」

 

 そう私が呟いた時、再びノックの音がして、兵長の頼んだ紅茶が届く。兵士は律儀に私の分まで持ってきてくれたので受け取った。

 

 リヴァイはいつもの取手を摘まない、行儀のなっていない飲み方をする。

 

 

「ヒストリア・レイスが次期王になることは聞いたな」

 

「えぇ、英雄の女王様ですよね、民衆を救った」

 

「ケニー・アッカーマンは洞窟内でヒストリアにまるでその器を問うような、()()()()をした」

 

「それが、何ですか?」

 

「お前が唆したのかと、聞いている」

 

「私が?」

 

 冗談はやめてくださいよ兵士長。ご覧のとおりアウラちゃんは満身創痍の状態。そもそも尋問をした相手の言うことを、なぜ聞く必要があるのですか。

 

「ケニーは面白いものが見られるなら食いつく。トロスト区で奴と戦った時も、俺だけ本気で(タマ)を取りに来ていたからな」

 

「仮に私がうまくケニー・アッカーマンに取り入ったとして、利点はないでしょう」

 

「何言ってやがる、理由ならあるだろうが」

 

 

 ────弟、エレン・イェーガーを救うため。

 

 私が動いた理由。リヴァイ兵長は紅茶を飲みながら、瞳だけはこちらを見ていた。

 

 

 

「奴はテメェとの関係性を最後までしらばっくれていた」

 

 同時にケニーは「俺は()()なもんでね。知りたきゃテメェで考えろ」とも言っていたらしい。

 だから兵長は自分で考え、そして私の前にいる。

 

 今回エレン・イェーガーを救うことが、私の第一目標だった。

 

 

 彼を失うわけにはいかない。客観視して、この壁の世界を見たときに感じるもの。お父さまから「進撃」を託された少年。なぜその名が「進撃」なのかはわからないが、お父さまと同じように、エレンくんは()()()()()()()進み続けている。

 

 その先にあるものの正体はわからない。しかしエレンを導く存在はわかる。ユミル・フリッツだ。

 

 彼女がお父さまにレイス卿だけ逃がさせた意味が、今なら理解できる。今回の一件を引き起こすため、ロッド・レイスは生かされたのだろう。

 

 その中心にいたのはヒストリアと───エレン。

 

 ユミルにはエレンが必要なのだ。だから殺すわけにはいかない。

 無論私個人としても、かわゆい(難聴)弟を死なせるわけにはいかないんですね。

 

 

 またエルヴィン・スミスが、都合よく王政まで打倒してくれた。これから事はウォール・マリア奪還に向け、大きく動いていくだろう。

 

 幸いエレンくんは、次の作戦に必要な硬質化能力を手にしている。ロッド・レイスの巨人体がその重さによって地面に陥没し、地下洞窟を壊した時、エレンくんはヒストリアが父親のカバンの中から発見した『ヨロイ』の小瓶を摂取した。

 

 そして硬質化を身につけ洞窟の崩落を防ぐことにより、ヒストリアやミカサたちを救ったのである。

 

 レイス家はやはり、さまざまな物を隠し持っていたのでしょう。ロッド・レイスが異常なまでに大きくなったのも、何か理由があったのかもしれない。

 

 “王家の血筋”だから、で済ませるのは難しい。なにせお母さまは巨人化しましたが、普通の巨人でしたから。

 

 それらを調べるのはハンジ・ゾエの役目。当分彼女とは距離を置きましょう。絡まれて、睡眠不足で死にたくはないので。

 

「…ちょっと疲れたので、もう退室していただいていいですか?」

 

「何様のつもりだ、お前は一応捕まっている身だからな」

 

「兵長だってわかっているでしょう」

 

「ア?」

 

 ケニーとの関わりは別にバレてもいいです。そもそもロッド・レイスに自分の素性を話してしまった時から、隠し通せる問題ではなくなった。壁内の人類は“内側”ではなく、すでに“外側”に目を向け始めている。

 

 外から来た私の存在というのも、そう時間はかからず明るみに出る。グリシャ・イェーガーが始祖の力を奪ったことがわかれば、ズルズルと私も疑われるわけですし。

 

「地下室」で発狂した過去や、単騎で巨人シティになりかけていたウォール・マリア内を移動した負傷兵()。ついでに敵に協力した件。

 

 そんな女は王家の力を奪った男の娘で、巨人化できる無知な弟の姉。実に怪しい(ガリレ◯感)

 

 

 私がみなが知らぬ情報を、ずっと黙っていたのは事実。それこそロッド・レイスが語った以上のことを、有している。

 

 レイス卿は恐らく私が外の人間であることは語らなかったでしょう。でなければ昨日ゆっくり眠れるわけがない。朝から晩まで事情聴取待ったなしである。

 

 

 私はこれ以上話す気はない。私が話してユミルちゃんのジャマになるのは嫌です。

 

 それ以上に吐いた情報が利用されて、ジークお兄さまに厄介ごとを持ち込んだら嫌ですから。

 

 本当は“尋問した”という体を作ったとき、情報を吐けないよう舌を噛み切ろうとしたんですけどね。ケニーおじちゃんに止められました。王家の件を持ち出されたらそりゃあ、「失礼、噛みまみた」ができなくなる。というか墓場まで持ってくんじゃなかったのかよ。

 

 ちなみに尋問してもらったのは、ケニーと私の関係を薄めるためですね。

 

 べ、別にエレンきゅんが曇る姿が見たくて、強引に頼んだわけじゃないんだからねっ!(ニタァ…)

 

 

「ヒストリアが聞いていた、ロッドとお前が二人で話していた件についても気にかかるが……まぁ今はいい」

 

「そうですか。時にリヴァイ兵長」

 

「何だ」

 

「実はケニー・アッカーマンに押し倒されて、乱暴されました」

 

「アイツがこのゲテモノを食っただと…?」

 

「おい、誰がゲテモノだ」

 

 珍味種(ゲテモノ)はむしろハンジ・ゾエの方では?

 うっかり「このドチビ」とも言いそうになりましたが堪えました。まだ自分の命は惜しいです。

 

「冗談です。あの男はシャツを捲って、私のお腹を見て嘲笑っていただけです」

 

「その紙みてぇな腹筋か」

 

「………同じことを言うんですね、あなたたち」

 

 リヴァイがあからさまに不機嫌になった。さすが育ての親と言うべきか。驚くほど似ている。身長はともかく。

 

 

「奴は俺の母親の兄……らしい」

 

 

 兵士長は空になったカップをテーブルに置き、こちらに視線を向けることはない。

 つまりソレって────。

 

 

「兄妹、愛……!!?」

 

「どこからその考えに至った」

 

 何だ、違うのか。兄と妹の禁断の愛の中で生まれたのが、兵長というわけではなかった。……………ん?

 

「つまりあなたも、アッカーマン?」

 

「らしい」

 

「身ちょ」

 

 最後まで言い切ることはできませんでした。兵長から感じた圧が本気で、エモノを狩るオーラ。ケニーおじちゃんに調教された私の身体が震えた。

 

 リヴァイは現在武装しておらず普段着ですが、一瞬でも腰に手が動いた様子が見えましたからね。ブレードがあったら、いったいどうするつもりだったのでしょうか。

 

 

「……まぁいい。後でエルヴィンが来るだろうからな」

 

 

 そう言い残し、兵長はカップを持ち去って行った。

 

 最後に今日一番の地雷が残されていった、アウラちゃんの明日は果たしてあるのか。

 

 どうせ何も話す気はありませんがね。それこそ陵辱でも拷問を受けても。さすがに命が奪われることはないでしょう。憲兵団ならともかく、調査兵団だ。

 

 しかしそれでもクーデターを画策し、成功してしまった男への警戒心は、捨てることはできなかった。

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