女の子の絡みが好きな人にもオヌヌメ。
ただしグロい。
朝から雨だった。空が見えない。私の瞳と同じ曇天の世界。
ぼんやりとした頭のまま、テーブルにあった食事に手をつける気力もなく、再びベッドに身体を戻した。
今はロッド・レイスの件から二週間経っている。いまだ我が身は調査兵団本部で軟禁状態。リヴァイが語っていたエルヴィンは誰よりも忙しい状況で、まだ訪れていない。
ヒストリア・レイスの戴冠式はもう終わったそうだ。その日は窓から見える街の景色が華やかに彩られていた。たなびく旗に楽しそうな人々の声。対し廊下の方は、朝から日が暮れるまでバタバタと大忙しだった。大きなイベントがあると、仕事も増える。
エレン・イェーガーに会いたい。血の温もりを感じたい。「私」の一部を感じたい。本当はジークお兄さまがいい。しかしお兄さまはいない。
歌詞も何もないとって付けた鼻歌を奏でながら、瞳を閉じる。棺に入る人間の体勢で、瞼のウラの暗闇を享受した。
ふと思い出したのは、少し前のこと。
地下にある冷たく、カビ臭い四角い部屋での一件。舌を噛み切ろうとして、ケニー・アッカーマンに止められた時。
私としては悪い話じゃなかった。舌を切れば発声せずに済み、情報を吐けなくなる。話せなくなるのは多少不便だが、ユミルちゃんと同じになれるのだと思うと嬉しい。
今おこなっても構わない。しかし後で「噛みまみた」したことがケニーにバレたら、王家である情報がバラされるので、行動に起こせない。
あの男は私をウーリ・レイスと重ねていた。実際髪を切ったら本当によく似ていたらしい。
ケニー曰く、アッカーマン家はかつて王家の武家だったそうだ。祖父から聞いた情報なのだという。
しかし彼らの一族と東洋の一族は王の思想に逆らった。結果迫害が生まれ、二つの一族はその数を大きく減らし今に至る。ただしアッカーマン家はケニーがウーリとズッ友になったことで、迫害が終わった。
何かしら彼の血筋には秘密があるのかもしれない。リヴァイやケニーに、ミカサ。言い換えると旅団一個分をほこる「人類最強」の男に、エリート中のエリートの中央憲兵の死体を積み上げた殺人鬼、そして恋する乙女──そのパワーは並の兵士百人分♡──なエレンの将来の嫁。
戦力がおかしい。人間を作るとき、神が配合成分を間違えたとしか思えない。
また不思議と共通しているのは、一人の人間に固執しているところだ。
ミカサはエレン・イェーガー、リヴァイはエルヴィン・スミス、ケニーはウーリ・レイス。
この構図を作ると、どうもアッカーマン家と固執の対象の人間を、犬と飼い主───というような構図で見てしまう。
詳しく言えば、“尽くす人間”が必要、とでもいうのか。
それは恋であったり、忠義であったり、友愛(あるいは信仰心)であったり。
現にケニー・アッカーマンはウーリ・レイスが死んだのち、友人と同じ景色を見ようと、「始祖」の力を奪おうと考えていた。その思考の根底はウーリの存在があり、そこに縛られていた。
しかしその計画も、頓挫する。
そのため彼は私にウーリ・レイスを見出そうとしたのだろう。同じ王家であり、容姿も似ている。後でウーリの肖像画があったら見せてもらいたいところだ。
ただ私を投影材料にしてもらっては困る。是が非でも私はお兄さまに再び会う。抱きしめてもらって声を聞いて殺されて──と、自分の中で相反する考えが湯水の如く出てきますが、とにかく会う。できればウコチャヌㇷ゚コㇿしたい。
だからこそケニーから、調査兵団側がヒストリアを新しい女王として即位させようと画策している情報を聞いた時、思いついた。
要は彼に気にいる人間を見出させればいい。ヒストリアはウーリの姪に当たるわけですから、問題ないと判断した。
『気に入らなければ、殺しても構いませんよ』
と、随分と人間性を疑われる発言をしたアウラちゃん。元々お前の人間性は終わっているだろう、という賞賛の声が聞こえます。
またケニーを自身から遠ざける以外に、いくつか目的があった。
一つはヒストリア・レイスの精神性を育てるため。
父親ロッドの言いなりなままの人間なら、助けて王にしたところで民衆はついて来ない。物事には“覚悟”が必要だ。
鬼畜ロードを突っ切るエルヴィンのように、自分や他を殺してでも進む覚悟のある者でなければならない。キース・シャーディスのように途中で折れてもらっては困る。
これについては私も同じ王家の血を持つ人間として、辛口コメになってしまったところはあった。
最終的に彼女は王女としての覚悟を持ったのですから、一件落着と言えましょう。ケニーも一応は認めたようですし。結果としてヒストリアが即位すると同時に、「対人制圧部隊」は王直属の護衛部隊になったそうですし、収まるところに収まった。
仮にヒストリアが王女になれず殺されていたなら、その時は私がケニーおじちゃんに首根っこを掴まれ、「フリッツ」の名とともに団長の前に突き出されていた。
そういう約束だった。私にもリスクがなければあの男は動かなかった。…いえ、
そして二つ目の理由は、調査兵団の求心力を高めるためですね。これはエレン奪還が成功していれば、必然と起きたことです。
私のよだれが垂れるのはここから。
求心力が高まるということは、民衆から声援を送られるだけではない。その他兵団から「調査兵団カッケェ……」ということで、編入希望者が出る可能性が高まるのです。
実践慣れしていない人間が壁外調査に出れば、より多くの悲劇が生まれることに他ならない。たまりませんよね。
調査兵団は常に人員不足。いったいどれほどの命知らずな方たちが編入したのか知りたいです。
盛大なガバは存在するんですけどね。私が壁外調査に行けないというガバが。
しかしここは調査兵団本部。いくらでも帰ってきた彼らの顔を拝むことができる。憲兵団に身柄が移動させられたら、見れないんですけど(血涙)
というか、弟の面会さえまだなんですけど。どうやら一般兵士は入室する許可が出ていないらしい。部屋に来たのはリヴァイ兵長やミケ分隊長に、我が第五班の分隊長。
何度かゴーグルをつけた女の人も来ましたが、全て寝たフリをしました。ケニーおじちゃんの殺気を浴びた時以上に身体が震えたのは、気のせいなはずです。彼女のせいでノックが鳴ったら、一度は寝たフリをする癖がついた。頼むから来ないでくれ。
「アウラ副分隊長」
そんなことを考えていたからでしょうか、ノックが鳴った。
兵士がお客さんの名前を告げるまでは発声しません。
「団長がお見えです」
▶︎ラスボスが きた!
◻︎◻︎◻︎
私アウラちゃん、興奮しているの。
エルヴィン・スミスが来た、と心臓が止まった束の間、団長が一声かけてから入ってきた。どこぞの兵士長やハンジは中の様子を確認せず入ってくるので、紳士ポイントが高い。仮に私が着替え中だったらどうするつもりなのか。別にハンジは構いませんが。
──いけません、興奮している話でしたね(違う)。
団長とお会いするのは、大規模壁外調査が行われて以来。本当に右上腕の途中から腕が欠けている。行き場をなくした袖が、スミスが動くたびに揺れる。
失われた部位に想いを馳せ、その間起きた苦痛に途方もないエクスタシーを感じてしまった私は変態でした。身体を起こした私に団長は隣に座っていいか尋ねます。頷くとイスを引っ張ってきて座った。本当に腕がない。触りたい。
「すまないね、突然訪ねてきて。リヴァイは冗談を言う元気があると言っていたが……かなり窶れたね」
団長は手をつけていない私の食事を見た。純粋に食欲がないだけなので心配しないでください。
「触れていいですか?」
「え?」
「右腕」
「……?別に、構わないが…」
しかし淑女が男性に──と、続けているのを無視して触った。
本当にない。すごい。負傷兵なんて散々見てきたし、それが原因で除隊してきた人間も見てきた。ただほとんどのケースは人体が欠ける、イコール「死」である。
ないのに生きている。欠けた肉体の分、“命”は残った部分の中に詰まっている。
生命の美しさじゃありませんか。削れば削るほど、人間の命が凝縮されていく。
「…あまり触られても困るのだが」
シャツの上から堪能していると、団長は戸惑いの声を上げた。何を、とは言いませんが、元気百倍になってしまったのでしょうか。まぁ私は美女ですからね、仕方ありません。
「いえ、以前泣かされた分の仕返しをしようと思いまして」
「………」
「冗談ですよ。仕返しの方は」
「なら何故触るんだい?」
「ドキドキするからですね」
「君の嗜好に寒気を覚えた私がいる」
右腕は引っ込んでしまった。私たち欠け友じゃないですか、仲良く触り合いっこしましょうよ。
「触れますか?」と聞いたら丁重に断られた。
「本題に入らせてもらうよ」
一連のアウラちゃんジョークの流れが遮られ、まっすぐな青い瞳が私を捉えた。あぁ、頭がシビれます。やはりキレイな瞳だ。
ヒストリアやレイス卿のもよかった。しかしこれほど純度の高いものはない。悲劇を多く見てきた者の目。染みついた血の色はしかし、青い意志の色にかき消されている。なんて罪深き瞳なのだろう。
近い、と言いエルヴィンは椅子ごと少し下がった。椅子の足の部分と床の擦れる音が耳につく。
エルヴィン・スミスが問うたのは、私がケニー・アッカーマンと組んでいたか否か。
聞けばようやくゴタゴタが収まり、私の状態も安定してきたので兵法会議が行われるとのこと。
会議ではなぜ敵に協力したのか、またどこまで敵の情報を持っているかについても聞かれる。父親や外の件についても聞かれるだろう。
父親の計画、およびレイス家殺害についてはロッド・レイスに教えられるまで知らなかった。“外”についても詳しくは知らない体で通す。
ただ過去に発狂して入院した云々は、幼い頃母親が巨人になる姿を思い出したことにします。この場合私が訓練兵になる前から、“巨人=人間”であるとわかっていたことになる。敵の共謀罪のほかに、隠匿罪も加えられるだろう。まぁそこは父親に、「王政に目をつけられる可能性があるため他言してはならない」と言われたことにする。
アウラちゃんが調査兵団に入ったのも、お父さまに教えられなかった“外”の真実を知りたかったからですね。
話を戻します。
仮に私がケニーに協力していたことを認めれば、陰で調査兵団の力になろうとしていたとして、温情判決が認められる可能性がある。私はアニやベルトルトの発言もあり、弟を使って脅されたことになっている。
またミケ分隊長らが、大規模壁外調査で見殺しにした仲間の罪の意識に苛まれる私が、死のうとしていた様子を見ていたと。
───それただお兄さまが行っちゃうから、
ミケは「獣」の巨人から私を助けた時、アウラちゃんがブレードを抜く姿も見たそうだ。……えっ?何ですかソレ、知らないんですけど。
私お兄さまに刃を向けていたんですか?絶頂タイムで意識がなかったのに、身体はしっかりお兄さまを曇らせようと動いていたというの?さすがは私ですね。最高すぎるタイミングでしたのに、どうしてミケ・ザカリアスは私を助けたのだ(殺意)
しかし罪は罪。どんなに善行を行おうが、人類を裏切ったことに変わりない。殺されなければいいです。次お兄さまに会うときまでに、命が残っていれば。
むしろボロ雑巾のように肉体を壊してくれれば、お兄さまがとても歪んでくださるのでお願いしたい。
して、否定した場合は間違いなくお縄だと。同時に兵法会議以降からは、私の身柄は憲兵団に移される。これは結果がどうであれ、ほぼ間違いなく確定事項だ。
今は一応“副分隊長”の身分ですが、捕まればただの「アウラ・イェーガー」
兵法会議がある前に、エレンくんに会いませんと。どれだけ傷ついているんですかねぇ…(ニチャア)
「
「認めない場合はどうされますか?」
「認めない場合は…私たちも、協力することが難しくなる。なるべくなら重い罪を科せられないようにしたい」
「なんだか、普段の団長らしくありませんね」
「何がだ?」
「いつものエルヴィン・スミスであれば「私としては」ではなく、「調査兵団としては」とおっしゃるでしょう」
前にエレンの兵法会議の前、この男と話した時もそうだ。
私が発狂したとき“地下室”にいたことをエレンから聞き、らしくもなく私に詰め寄った。
ギラギラと、輝く青き瞳。色とは反対にヤケドしそうな熱量を誇っている。今もまたその色が、うっすらとのぞいていた。
「認めれば、私は必然的にケニー・アッカーマンを動かせる“材料”を、持っていることに他ならなくなる。これにロッド・レイスと話していたことを踏まえれば、あたかも私が「
微笑んでみせるが、エルヴィンは表情を一切崩さない。ただかすかに瞳孔が小さくなった。まるで獲物をねらうケモノだ。
「…君と会うしばらく前に、ハンジやリヴァイたちと会議をしていてね。イェーガー医師の件などを話し合っていた時、君の話になった」
ハンジやミケ分隊長は私の擁護に賛成で、兵長は中立。ほかの分隊長の意見を踏まえると、賛成と反対は半々。中には右翼索敵で部下の兵士を失った者もいるので、当然の反応だ。むしろハンジとミケ分隊長は甘めすぎる。
特にハンジ・ゾエは利用するために友好的になったわけじゃない。むしろ地球の裏側まで離れてほしい(トラウマ)
「不意に思い出したんだ。キース元団長が、幼少期の君を知っていたことをね」
エルヴィンはそこで、幼い頃の私がキース・シャーディスと関わりがあったということはつまり、その父親、グリシャ・イェーガーとも関わりがあったのではないのか?──と思い至った。
エレンと関わりのあったハンネスも、グリシャと関わりがあった。
ゆえにエルヴィンの考えはほぼ確信に変わり、自身が忙しい代わりにハンジやリヴァイ、エレンたちがキースの元へ向かったそうだ。
お父さまと私が“外”にいたことを知っている人物が、壁内にはいた。キースおじさんはグリシャと友人であったことや、壁の外にいたお父さまと美幼女ちゃんを回収し、その事実をハンネスと共に隠蔽したことなどを語ったらしい。
現状の私に対しおじさんがどう思っているのか、ものすごく知りたい。
「グリシャ・イェーガーと君が“外”からきたのは事実であり、「鎧」や「超大型」のように壁外を巨人化して渡ってきたと考えられる」
ライナーやベルトルト、アニが壁内の人間を滅ぼそうとしていたのに対し、グリシャは壁内の人間に少なくとも敵対はしていなかった。ただしその娘はライナー側に加担している。
エルヴィン・スミスはトロスト区でのアニの発言が、
アニ・レオンハートは「かわいい弟のために、裏切らざるを得なかった、とか」────などと、嘲笑するようにエレンやミカサたちの前で語った。何故あの場所で言う必要があったのか、その真意を団長は測りあぐねている。
少なくとも彼女の発言で、弟はブチ切れた。相手から余裕を奪い、自分の優位に動かすためだったのなら、アニの言動にも納得がいく。
しかしこれが普通の人間ならまだしも、エレン・イェーガーは違う。
“スイッチ”が入ると、周囲の人間がゾッとするほどの
アニはその狂気を、巨大樹の森でエレンと戦った時体験した。エレン・イェーガーは追い込めば追い込むほど、獰猛に殺しにかかってくることを。
ゆえにストヘス区急襲でアニ・レオンハートは然るべくして、もっと慎重な行動を取るはずだった。否、逆に取らない方がおかしい。
「私にはまるで疑いの目を、君から逸らそうとしているようにしか見えないんだ。そもそもエレンを人質にして脅すような人間であるのなら、何故アニ・レオンハートは協力者の君を殺さなかった?
罠の位置を教えた時点で、アウラ・イェーガーの存在は「自分たちの正体を知る邪魔者」に変わる。だが君はいまこうして生きている。
右翼側索敵が、ほぼ壊滅した中で」
そうなると前提として「エレン・イェーガーを使い脅された」という話も、本当かどうか怪しいところだ、とエルヴィン。
そもそも本当に私が弟に命をかけるのなら、
仲間を殺した罪悪感に命を捨てるような、脆い精神であるのなら。
また人類を裏切るほどの覚悟があるのなら、必然的に調査兵団を目指した理由も、エレンを守る理由に直結するべきである──と。
団長はどこから仕入れてきたのか、私が訓練兵時代の通過儀礼の話も持ってきた。
アウラ・イェーガーはその際教官に、『私が私であるため』と語っている。
「君が『
『私が私であるため』に訓練兵団入りしたアウラ・イェーガーは、
自由を求め、
エルヴィンは以上を踏まえ、私という人間が私であるために、“外”を目指そうとする人間であると考えた。
「例えば君の母親が本当は生きていて、“外”の世界にいるがゆえに求めているのかもしれない。一つ確実なのはアウラ、君の内側は私たちが今まで見てきた善人ではないということだ」
「ははぁ…女が怖いとでも、言ってくれるんですか?」
「いや、女性が──ではなく、君が怖い。人類のためではなく、己の目的のために他を殺すことができる」
団長はウォール・マリアの件はともかく、女型の巨人との戦いで足を負傷したのは、味方を欺くためのものだろう、と見抜いてきた。
「折った足は無くなってたんですけどねぇ」
「ウォールマリア陥落の時、君は本当に単騎で移動したのか?」
「鎧や女型に運んでもらった可能性を考えているなら、ソレはないですよ。単騎で移動したのは本当だ」
「君が巨人化能力者かもしれない可能性は、捨てきれないところではあるが…」
「ならお好きに実験すればいい」
「……困ったな」
少し眉を下げて、本当に困った顔をするエルヴィン。
「そう言えばキース教官が話していたらしいが、君は幼い頃あの人の恋路を応援していたそうだね」
「……わたしが記憶の曖昧な話をされましても」
「「あの生き物は天使だった…」とキース教官は語っていたらしい」
「それが何でしょうか。今は仲間を裏切る悪魔のような人間だと?」
「いや、これについては純粋に見てみたかったと思っただけだ」
団長は幼女趣味だったということか。内心団長との間に深い線引きを作ったところで、「何か勘違いしていないか?」と言われる。アレですよね?「ロリコンじゃありません、フェミニストです」ということですよね。
スミスは無言で額に手をつけた。疲れてるんでしょうね、連日のブラック労働で。
「君はキース教官を助けたこともある。他にも君に助けられた兵士は少なくない」
一方でアウラ・イェーガーは、巨人を単独討伐できる技量を隠し、力をセーブしていた。
肯定的にとらえれば、自分の体力面を考慮し、また仲間とのチームワークを作るための方法と考えられる。ただ私は仲間を裏切って見殺しにできる人間性を持つ。ずいぶん冷めた向こうの物言いに軽く抗議した。
アウラちゃんが仲間を見殺しにした罪悪感で苦しんでいた、と教えてくれたのは、
「アウラ、君は訓練兵団に入る前に、死にたがっていた」
医療記録も残っているから、それは本当なのだろう──と。
“外”についての最後のカードに出そうと思っていたが、今切らざるを得ないようだ。
お母さまが巨人化する悪夢が本当だと知っちゃったからですにぇ〜(某テト神感)と、お話しする私。知った場所は地下室。何故いたかは「訓練兵団に入りたい」と言った私に、お父さまが真剣にお話し合いするため。
壁の上から注射器を打たれ蹴落とされた母。異形へと変わる母。
当然そのような事件は壁内にはない。つまり
それはどこか?少女の私は考えた。きっとそれは、“外”にあると。
「……人間が巨人化できる事実を知っていたわけか」
「何故教えなかった?───とは、言わないでくださいね。王政の目があると、父に止められていたので」
父親はそれ以上は何も教えなかったとする。これ以上語る気はない。
「
「えぇ、エルヴィン・スミス」
「本当に、困るね……」
普段表情を崩さない完全無欠な団長さまのお顔が歪むと、途方もなくアヘドキする。じっと見つめていたら、青い瞳が私を映した。団長はかすかに微笑む。
お兄さまに全てを捧げていなかったら、私はもしかしたらこの人間に恋をしていたかもしれない。
「なかなか、
瞬間私は反射的に、相手の首を掴んでいた。とてもいい笑顔で魅入ってしまう。私年上で、金髪で、青目の人に弱いんですよ。
いつも部屋の前にいる兵士の気配はない。この男が入る前に席を外させた。話す内容が、内容だからだろう。
「イヤだな、アウラちゃんは清純な性格なんですよ」
「清、純…か?と、いうか一人称が痛いぞ…」
「いつからご存じで?私の本性はお父さまも気づいておりませんでしたのに。エルヴィン・スミス、あなた本当に怖い人だ」
「私も……っ、わかったのは最近だ」
少なくとも私が敵に協力しなければ、本性には気づかなかったという。善人ヅラが嘘なことには気づいていたようですが。
彼はピースが揃ってようやく「私」という人間像の違和感に気づき、思考し直した。まるでパズルのように。埋めていってようやく、何が描かれているのかわかる。
このピースの中には、私が嬉々として向かおうとした、トロスト区戦での遺体の確認作業も含まれていた。たしかに善行のツラをかぶっている人間が何故そこに行こうとしたのか、疑問しかないよな。
団長の首を掴んでいた手を放し、咳き込む相手の顔を食い入るように見つめる。片腕であれ私とこの人間の体格差なら、向こうに軍配が上がるだろうに。抵抗しないなんてマゾなんだろうか。
「嗜虐趣味というべきか……難儀な性格だな」
「あはぁ…♡嗜虐趣味で済むなら、いいですね。私は被虐趣味でもあるので」
「………そうか」
「まぁそう簡単に、「私」をわかった気にならないでくださいね」
私の人間性の深いところまでは、わかるまい。というより理解できまい。
私は趣味の範疇ではなく、「悲劇」がなければ生きていけない。生きていることを、実感できない。人として重要な部分が
そもそも、だ。
「私でさえ「
団長は少し目を見開き、「なるほどな」と小さく呟く。
私でさえ理解しきれていない自分を、他人が正確に理解することはできない。例えるなら私は白紙。思うがままに羽ペンで、自分が求める人物像を描くことができる。それが役者上手の所以に違いない。
私が絶対に“外”について話す気はないことを察すると、団長は席を立った。帰り際の彼に、私は告げなくてはならない。
────あなたは“
それ即ち調査兵団のみならず、壁内人類にとっての大きな痛手。
エルヴィン・スミスは進まなくてはならない。殺した兵士の分の罪を背負って、彼自身が死ぬまで。
それは私が「生」を実感する云々の前の話で、彼が生きる上で逃げてはならない運命なのだ。グリシャ・イェーガーのように、自分が始めた物語は、自分で終わらせる。
それがこの、残酷なこの世界での生き方だ。
【書いてないけどある展開】(箇条書き)
ケニーがヒストリアにかつて彼女の母親を殺したことを明かす。
儀式の間でケニーと会った時は思い出していなかったけど、後々にそのことを思い出していたヒストリア。
「これで、許します」
ケニーの腹に一発殴る(1ダメージ)
同時にヒストリアの方から、「対人制圧部隊」を王直属の護衛部隊にすることを提案する。
女王の正気を疑ってるおじちゃん。
「おいおい、正気か姫サン?」
ヒストリアは大真面目に頷く。気に入らなければいつでも首を狙えばいいーーと。ただし身体はかすかに震えている。
それを見たケニーが、巨人体のロッドの討伐にヒストリア自ら志願し成し遂げてしまったことを踏まえ、彼女を再度“王女”として認める流れ。
多分部下の間ではロリコン疑惑が広まっている。
ケニー・アッカーマンはおよそ50代以上であると思われる(リヴァイを二十年くらい前に拾ったと仮定)ので、ヘタしたら女王様は孫の年齢。
部下「(ざわ……ざわ……)」