ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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このお話しを書いた後で、前に書いた部分でちょっとしたミスを見つけたので直しました。本文にはほぼ支障ないのであまり気にしないでください。
次回が終わったら新章行きます。


ここから入れる保険ってありますか?

 某日、ヒストリア・レイスの戴冠式からしばらく経ち、兵法会議が執り行われた。最高責任者は拷問大好きおぢさん、ダリス・ザックレー総統。会議の参加者は通常の兵士をのぞく、それぞれの兵団の上役たち。今回話の中心となるのがシークレットな内容であるため、市民の傍聴人は不在となった。

 

 ちなみにエレンはステイさせられており、傍聴席にはいない。

 

 

 議題の中心の内容は、『アウラ・イェーガーがなぜ敵に関与したのか』。

 また、『敵の情報をどこまで持っているのか』について。

 

 彼女の処遇うんぬんはオマケの話で、メインは少しでも敵勢力の情報収集である。実質彼女の弁護側の立ち回りをおこなう調査兵団も、“情報を聞き出す”という括りでは、味方でないようなものだ。つまり四面楚歌という現状。

 

 もちろんハンジなどのように、純粋にアウラの身の心配をしている人間もいる。

 

 元王政府が彼女を捕まえた際、アウラは尋問を受けても情報を吐かなかった。曰く、己は敵については何も知らないと。

 

 通常なら会議の後に尋問(暴力行使)の順だが逆だ。痛みがきかぬのなら話し合いに持ち込むしかない。“兵法会議”なぞとわざわざ形式ばった場を用意したのも、彼女にプレッシャーをかけるため。人の目に晒されれば、粗も出るとの考えだ。

 

 

 イスに腰かけたアウラは、敵への関与について認めた。理由は「協力しなければエレン・イェーガーの命はない」と脅されたため。結果彼女は大規模壁外調査の際、右翼索敵側で「女型」およびアニ・レオンハートと接触。巨大樹の森に罠が仕掛けられていることを話した。

 

 彼女を脅したのはベルトルト・フーバー。彼は次の大規模壁外調査でアニがねらわれている可能性にたどり着き、アウラに協力を求めた。ここで彼は彼女から「捕獲作戦」について聞き出し、罠の場所を団長から聞き出しアニに伝えるよう頼んだ。

 

 彼女を協力者に選んだのは、目標のエレンの姉であり利用するには最適だったことや、副分隊長としての地位。また、ベルトルトと同班であったことが選ばれた理由ではないか?───と、兵団側は推測を立てる。

 

 さらに女型が出現した「右」の位置から、あらかじめエレンの位置(ニセ)を、ベルトルトとライナーがアニにリークしていたことがわかる。これにアウラが右翼索敵であったことを踏まえ、利用するにはむしろ最適すぎた。

 

 しかし気がかりなのは、ベルトルトがアウラ・イェーガーに協力を求めた理由だ。女型が捕まる可能性に気づいたのなら、自分で作戦前に教えればいい。

 

 また「女型」の脅威を知る調査兵団や憲兵団側からしてみれば、たとえベルトルトが助力せずとも、アニがエレンを奪えた可能性は十分ある。

 

 これに対し前者は、伝える時間がなかったから。

 後者については、ベルトルト・フーバーがアニ・レオンハートに「惚れてまうやろ」していたことを、アウラが語った。ついで彼女は、妖しく微笑む。

 

 

「私も()()()()()のためなら他を殺せる。それは、自分であっても。だから利用された身の上であれど、ベルトルト・フーバーの気持ちも共感できる」

 

 

 大規模壁外調査や、ストヘス区の一件で仲間を亡くした兵士からすれば、アウラの発言は火に油を注ぐような内容だ。

 

 しかして彼女の白銅色の瞳は()()だった。まるでその色は人間の死体が浮かべる濁った瞳のようでもあり、背筋をゾゾゾと、震わす気味の悪さが存在する。彼女は愛する家族のためなら───即ちエレン・イェーガーのためなら、人の命を奪うことができてしまう。

 

 そして実際、アウラは仲間を見殺しにした。さらに彼女自身も命を捨てられるのも本当のことだろう。

 

 

 イジョウシャ(、、、、、、)だ。

 

 アウラ・イェーガーの善人の皮を知っている者は彼女の本質を知り、言葉を発することもできぬ。部屋の温度が何度か下がったような気さえする。彼女を罵倒する声もなく、場はシンと、静まり返った。

 

 

 

 その場の空気を壊すように一つ、ザックレーが咳をこぼすと、会議はまた動き出す。

 

 新たに生まれた疑問はアウラが生き残った点だ。元々彼女が生き残ったのは、落馬し足を折ったアウラを、女型が「殺さずとも死ぬ」と判断したからだ。

 

 だがこれについて、エルヴィンがストヘス区戦におけるアニ・レオンハートの違和感を述べる。

 

 

 それはアニの言動が、狂言じみていた点である。

 その説明を行いつつ、エルヴィンは女型が意図的にアウラを逃した可能性があることを語った。

 

 ベルトルト(仲間)が利用した女を同情したのではないか?──など、複数の意見が出る。

 

 だが果たして兵士たちを殺した人物が、一人の女に同情などするだろうか。するならば相応な理由があるのではなかろうか?

 

 

 エルヴィンはレイス家を襲い“王の力”を奪ったグリシャ・イェーガー。そして、元調査兵団団長キース・シャーディスがまだイチ兵士でしかなかった頃───約十八年前に、壁外でグリシャとその娘と出会ったことを明かした。過去の話であれどキースの隠匿罪や、グリシャが記憶を失っていたなどの内容が続くが、もっとも重要な部分。

 

 

 それは“外”に人間がいた点。まさしく壁内の人類を襲ったライナーやベルトルトたちと同じだ。

 

 外から来た彼らの相違点は、「超大型」が人類を襲ったのに対し、エレンの前継承者であるグリシャはレイス家を襲ったものの、少なくとも壁内人類に対し友好的であった点だ。

 

 一つ、幼い娘を抱えて父親が巨人のいる壁外を移動した部分に、はたして可能なのか疑問を持つ者もいた。

 

 だがウォール・マリア陥落時“叫び”を使って巨人を集めながら、仲間を抱え走ってきたと考えられる「女型」の存在もある。ゆえに可能なのだろう、と判断された。

 

 

 そもレイス家から力を奪ったのも、力を受け継ぐ王家の人間が戦わず、滅びゆく定めを受け入れていたがためだ。現在エレンが持つ力は謎が多い。壁内の秘密に関してもだ。

 

 だがその鍵となるのが、グリシャ・イェーガーが人類の秘密を残したとされる“地下室”の存在。

 

 

「アニ・レオンハートはアウラ・イェーガーが同じ“外”の人間……敵の表現を借りるなら「故郷」が同じ者であると知ったからこそ、強いシンパシーを感じ、そこからアウラ・イェーガーを助けるに値する感情が生まれたのではないでしょうか。無論、彼女の「エレンを引け目に出し脅された」という内容が真っ赤なウソで、今も敵と繋がっている可能性は十分にあります」

 

 

 単純に敵とは断定しないエルヴィンの物言いに、小言を漏らしたのはナイル・ドーク。

 調査兵団団長の意中の相手を嫁にしても、スミスの計画には踊らされっぱなしの男である。

 

 エレンを使い脅されたとはいえ、兵団を裏切ったのは事実。以前の中央政府であれば情報が得られれば即処刑ものであり、現体制に変わっても隠匿罪や共謀罪など、重罪であることに違いはない。

 

 エルヴィンはナイルを一瞬視界に入れ、ザックレーからその根拠を話すよう命じられた。

 

 彼は「獣」の巨人や無数の巨人と、ミケ班&104期生が遭遇した際のアウラの命を捨てる言動から、“罪”の意識に本人が苛まれていた可能性を告げる。

 

 また、過去にキース・シャーディスを命がけで助けたことや、シガンシナ区に「超大型」が現れたとき敵前逃亡の駐屯兵から立体機動装置を奪ってまで戦ったこと。

 さらにヒストリア・レイスを重傷ながら助け、巨人に食われかけたことについて語った。

 

 

 これらをすべて人類を騙す演技と考えるなら、アウラ・イェーガーは最早人間をやめている。それこそ心のない悪魔としか言いようがない。

 

 何より彼女は調査兵団として必要な“戦い抜く意志”を持っている。

 負傷の身ながら、単身でシガンシナ区で巨人に挑んだこと。そして「獣」の巨人を前にして、右足を失ってもブレードを抜いたその姿。

 

 

 アウラは人類を裏切った。だが同時に、「兵士」である。

 

 

 少なくとも彼女が()()であると、エルヴィンは言い切った。調査兵団の兵士はそれぞれ小さく頷く者や、下を向き複雑な表情を浮かべる者など、さまざまな反応をみせる。

 

 ただしシガンシナ区が襲われた際、ベルトルト・フーバーの内容が正しければ、彼女は彼とその知人(「鎧」が内門を破るため移動していたので、この“知人”はアニ・レオンハートであると推測できる)と遭遇している。

 

 この前に彼女はエレンやミカサを救うため行動し、頭を強く打っていた。この件を尋ねられたアウラ自身は、所々記憶がなく、遭遇したかどうかはハッキリと覚えていない旨を話した。彼女についてはウォール・マリアを単騎で移動したという些か信じられない内容も残っているが、これについてはウォール・ローゼ内でブッ倒れ、一時記憶喪失になっていた彼女を保護したサシャ・ブラウス含む住人たちの証言が存在する。

 

 この内容の真相はともあれ、ベルトルトたちがアウラに助けられたのならば、アニが彼女をかばうようなマネをしたことにも一つ理由ができそうであった。

 

 

 

「アウラ・イェーガーには「善」と「悪」、両方の一面が見受けられます。矛盾する両者が存在する所以は、彼女の内側───それも、過去に存在すると私は考えます」

 

 

 エルヴィンはそう続け、アウラの方を見た。彼女は曇った瞳でじぃと、エルヴィンの青い瞳を見つめている。

 

「彼女は訓練兵団に入団する前、精神病院に入院していました。死ぬ寸前まで精神を病んだ彼女は、発狂していたのです。それも、グリシャ・イェーガーが残したとされる人類の秘密が眠る「地下室」で。当時まだ幼かったエレン・イェーガーは、父親に地下室から連れ戻された姉が自死に及ぼうとした姿を目撃したそうです」

 

 この裏に存在する内容が、“外”につながる大きな手がかりになり得る。

 

 団長の言葉にアウラは顔を上にあげた。窓からは光が差し込み、外の景色を映している。

 

 

 最初に彼女に向く仲間の視線で、エルヴィンが彼女の本性を明かしていないことは察せた。でなければもっと刺すような視線が向かっただろう。仲間が傷つきそれに興奮を覚えるなど、異常者(ヘンタイ)だ。

 

 アウラの本当の異常性に勘づいた男はそれを伏せながら、「同じ兵士であり、仲間だ」と語った。

 

 キレイごとだ。歯の浮くような言葉だ。

 

 真っ黒な彼女を理解しながら、エルヴィンはその上で「信じる」と言う。

 

 お得意の賭けの戦法か、とアウラは考えて、考えて……思考を止める。

 

 エルヴィン・スミスはこの場にいる人間の中で、あるいは人類の中で、誰よりも“外”について知りたいと考えている。その熱は、海を見たいと考えているアルミンよりも深いだろう。でなければ、多くの仲間を犠牲にすることなどできない。否、「人類のため」という言葉さえ、団長の夢の前では詭弁になってしまうのではなかろうか。

 

 

 ──ともあれ、多くを犠牲にしてきた団長殿は、“外”の真実を知れば歩みが止まりかねない。

 

 アウラは自身とエルヴィンが似ていると感じているからこそ思う。

 彼女がジークならば、団長は“外”の真実。

 

 右腕を失い自分を犠牲にしている男に、彼女はもっと苦しみ抜いてほしいと考えている。そしてその上で地下室にたどり着き、最大の絶頂を感じるべきである───と。エルヴィンはけして、お前のような変態ではない。

 

 けれど。

 

 

(……けれど?)

 

 

 なぜかアウラの口は、開こうとしている。

 

 別に自身の本性を暴かれようが、彼女は一向に構わない。むしろそれを聞き、歪む聴衆や仲間たちの表情を拝もうという愉しみさえ存在した。

 

 だがエルヴィンは語らなかった。

 

 それがまるで彼女の()()()を、試しているように感じられた。

 

 以前、団長がアウラに面会した時わざわざ人を払ったのも、彼女が首を絞めたとき抵抗を見せなかったのもすべて、エルヴィンは身を呈することで「信頼」と「仲間」の意志を表していたのだ。

 

 そして実際、団長殿は()()()アウラを信じようとしている。その上で彼女の情報を引き出そうと、利用しようとしている。

 変態の女の背筋に走るのは、甘い痺れ。彼女は今たまらなく、興奮している。

 

 

 エルヴィン・スミスは、果たしてアウラ・イェーガーという人間が、人を苦しめる嗜虐趣味のペテン師な「悪魔」なのか。

 

 はたまた同じ人間なのか、見極めようとしている。

 

 

 

 その答えは両方だ。

 

 彼女は()()()悪魔であり、人間でもある。

 

 人間の悲劇がなければ生きられない悪魔はしかして、心があった。ちっぽけなその心の中に、時折彼女でさえ驚くほどの人間味が残されている。

 

 例えばハンネスの妻に送った酒。それを頼んだ後になり、アウラは自分の一連の行動を疑問に思った。

 

 そして、うっとうしかったヒゲ面の男の死に感情が揺らいだのだと、気づいた。

 

 ハンネスの死によって歪むエレンたちの表情を見られなかったことに対し流れた涙の中には、人の死を悼む心があったのだ。

 

 

 そんなたまに姿を表す自身の“人間味”を、アウラ・イェーガーは()()()()感じている。

 ゆっくりと彼女の口角が上がり、白銅色の瞳はドロリと溶けた。

 

 

 

「人は、残酷なのが好きなんだ。────でも空は青くてキレイで、下は地獄。みんなどうして空を見ないのか、不思議だった。

 

 届かないから見ないのでしょうか?いえ、見る余裕がないのです。目の前にある地獄の前で、世界の美しさなんて目に入らない。

 

 巨人になる人間たちも、私を挟んで話していた両親も、見ていなかった空。お母さまは注射器を打たれて、壁から落ちていった。

 私たちは生きているだけで罪深い人間なのだと。唯一巨人化できる「悪魔の民」であると。

 

 お母さまは笑っていた。どうして笑っていた?お父さまを愛していたから笑ったんです。そして私にも微笑んだ。()()()()()()()()()()()()愛されていた。やっぱり下は地獄だった。

 

 この悪夢が本当であると知った時の私の気持ちは、貴方たちにはわからないでしょう。ここは「楽園」で、外の地獄を知らない人間たちが安穏と生きている。それも束の間の幸福でしか、なかったですが。

 

 やっぱり下は地獄だ。

 

「生」きることには意味が必要なんです。でもこの壁の世界は窮屈で、生きづらい。“悪夢”が本当だと知った私が“外”を求めて何が悪いのか。自由の翼を求めて、何が悪いのでしょう?私はこの楽園の人間ではなくて、もっと別の世界の人間だった。元の世界を求めて、何が悪いのか。でも求めるには進むしかない。

 

 進んで、進んで、生きるしかない。やっぱり下は地獄で、私を導いてくれる空だけは、青い。青くて、美しい」

 

 

 

 ポツポツと語った女は微笑みを消し、窓を見つめながら続けて語る。

 

 

「命を燃やして生きるしか、我々に術はない」

 

 

 静まり返った室内。それを打ち消すように響く木槌(ガベル)の音。

 

 幼い彼女が知り得ない情報を誰から聞いたのかザックレーが尋ねれば、アウラは「グリシャ・イェーガー」と小さく呟く。同時にレイス家を父親が殺害した件を含め、父の計画には関与していなかったことも明かした。

 

 彼女は地下室で母親が巨人になる悪夢が真実だと知り、自分が外から来た人間であることや、父親が巨人になれることを知った。その力が、「悪魔の民」───「ユミルの民」を救うために、父と彼女を救った男から託され、継承したことなども。

 

 

「「ユミル」とは何だ?」

 

 エルヴィンの問いに、アウラは「壁内人類の共通の先祖」と語った。また、巨人の力を与えたとされる『悪魔』と出会った人間であることも。

 

 それ以上は、彼女は「詳しくは知らない」と返し、話すことはなかった。

 

 これについては彼女がいた「故郷」の場所や、「戦士」とは何なのか、という内容にあたる。レイス卿と密会した際に語った内容は、先ほどと同じであるとした。

 

 そうして最終的にアウラ・イェーガーは、憲兵団が正式に身柄を預かることに決まった。

 幽閉生活が待つ彼女は呟く。

 

 

「空は見えますか?」

 

 

 至近距離でその言葉を聞いてしまったナイル・ドークの喉からは、ヒュウ、とか細い息が漏れた。

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