ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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アンインストール〜って歌が流れている今は鬱の気分。休日はただただ眠りたい…。


誤作動、作動中・・・

 ウォール・マリア奪還作戦に向けての準備期間。

 

 その間に肉弾戦を必要としない、巨人のうなじへ向けて巨大な丸太を落とす対巨人伐採兵器「地獄の処刑人」の開発がされた。また、ケニー・アッカーマンの手に渡っていたヒストリアから奪った注射器───それがエルヴィンに移され、効果について調査兵団の兵士に伝えられた。

 

 どんな重傷者でも()()()()()()()()、注射器を使って無知性巨人にさせ、生存の糸口をつかむことができる。

 これはウォール・マリアで待ち構えているであろうライナーやベルトルト、「獣」の巨人を見越しての説明だ。

 

 無知性巨人になった者は、知性巨人を食らうことにより人間に戻れる。

 

 これはエレンが王家の血筋を持つロッドとヒストリアと接触したことで見た、グリシャ・イェーガーの記憶により得た事実だ。

 

 注射器を打たれたエレンは知性巨人の父親を食らうことで、人間に戻った。

 

 

 注射器をエルヴィンから託されたのは、リヴァイ兵士長。

 この一本の使用権限は、人類最強に預けられることになった。

 

 彼は裏でエルヴィンを止めた。右腕の無くなった団長に戦闘能力はない。あるのは変わらず人類を先陣切って引っ張り続ける頭と精神と、仲間の犠牲を背負い続けた背中だけ。

 

 

()は、止まってはならない」

 

 

 それがエルヴィン・スミスが兵長に返した内容。

 

 同時に、たとえ人類を犠牲にしてでも“地下室”へ行きたいこと。自分の手で、人類の秘密を明らかにしたいことも語った。

 

 団長が動かずとも、リヴァイ班やハンジ班、ミケ班など、動ける戦力は大いに残っている。オマケに本作戦での活躍はまだ見込めないものの、クーデター後から一段と世間の目を集めるようになった調査兵団に編入してきた、新人も多数いる。

 

 

 まるでエルヴィンが底なし沼に片足を突っ込んでいる印象を受けたリヴァイは、まさか、と思った。

 

 以前の「兵法会議」以来、雰囲気が変わった者が複数いる。

 あの場に居合わせた者は全員、目を逸らすことの許されない一人の女の()()を見た。

 

 それは長らく、ひた隠しにされていた顔。裏返しになっていた赤い皮を戻してみると、元の女の肌が見える。それこそが善人ではないアウラ・イェーガーの本性であった。

 

 ライナーたちと同じ“故郷”に戻ろうとするアウラ。弟のためなら彼女は仲間であろうと殺せる。“非人間性”を持っている一方でしかし、彼女は“人間性”も持っている。

 

 そんな共存してはならない両面を持ち合わせている女の姿は、歪であった。

 

 

 身体も精神もボロボロになっているであろう彼女は、人が魅入ってしまう()()()があった。あるいはそれは「不完全の美学」なのかもしれない。

 

 美術に於ける作品のような、「完全」ではないからこそ人の心を惹きつける。

「完全」が謂わば人の憧れならば、「不完全」は人間が完全にできていないがゆえに、親近感を抱きやすいものなのだろう。

 

 

 アウラ・イェーガーの姿に心をつかまれてしまった者もまた、彼女の「不完全」さに同調したのだろう。そして彼女が掲示した「進むしかない」という言葉を、そのまま丸々呑み込んでしまった。

 

 エルヴィンもまた同じなのかとリヴァイが詰め寄れば、団長は青い瞳を大きくする。

 

 

()()()()()()()()()()は、きっと許されないだろうと思ったんだ」

 

 

 ───子供の姿をして、手を挙げる少年エルヴィンではなく。

 

 ───白馬にまたがり、天へと剣を掲げ仲間たちを進ませる調査兵団団長、エルヴィン・スミス。

 

 

 頼むよ、と団長に告げられたリヴァイの手にある注射器の入った箱。

 それがミシリと、音を立てて軋んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 思春期を飛び越して、秘めたる力に目覚めてしまった系美女は私、アウラちゃん。

 

 ただし力は「私tueeee!」ムーブをした代償に、もれなく精神崩壊がついてくるもので、しかも使える部分に縛りがある。

 

 

 暫くの間お兄さまに会いに行く方法を色々と考えましたが、やはり難しいです。

 

 まず幽閉されているアニちゃんの居場所はウォール・ローゼの北にあるユトピア区。壁内を移動するのは困難なため、ウォール・ローゼの外側を走るとして、シガンシナ区に着くまでに余裕で数日かかる。

 

 巨人化時間には限りがあるだろうし、そもそもアニと私が合流することが難しい。

 

 

 私の現在地は王都ミットラス。憲兵を操作することはできないので、脅して移動する他ない。そのあと殺すか、私のことを忘れさせる。だがしかし、それで検問を複数突破するとなると無理がある。

 

 それに私やアニがいなくなれば騒ぎになる。数日前から行動を起こしたとして、すぐさま調査兵団にも事情が伝わるだろう。そうなると奪還作戦そのものが行われなくなる可能性が高い。

 

 お兄さまに会うことはできても、調査兵団vs戦士の戦いが拝めなくなってしまう。

 

 ユミルちゃんのエレンくん始祖化(偽)を踏まえると、両者の戦いが起きなくなってしまうのは彼女の望むところではない。

 私もぜひ「兵士」だった時の仲間を殺すライナーやベルトルトの姿、そして無惨に散っていく兵士たちの姿を見たいのです。

 

 

 私単独でも移動は難しいでしょう。ひとえに私がアニ・レオンハートを連れて行くのは、彼女に売られた恩を返すためですね。

 

 無論、私が生きてしまいマーレに行った時のことを考えて、「私がアニちゃんを助けたんやで?」アピールをして、こちらの立場を少しでも優位に置けたらという打算的な考えもあります。ベルトルトくんには悪いですが、眠り姫に目覚めのキッス(意訳)をするのは俺だ。

 

 ちなみに私に恩を返す心があったのね、と驚いている皆さん。アウラちゃんにも恩を仇で返す以外の優しさはあります。

 

 ぜひともアニちゃんには現実から逃げないで、またこの世界で残酷に生きて苦しんで欲しいです。

 

 

 

 

 

 ──とまぁ、結局方法が見つからず悩んでいた私。

 

 夢の中でユミルちゃんに呼び出され、彼女の世界で砂のお城を一緒に作っていたとき、私はひとつ閃いた。

 

 エルディア人は始祖ユミルとカール・フリッツの子孫である。そして「ユミルの民」は揃って巨人になれる。その非人間性やかつてのエルディア帝国がおこなった民族浄化が積もりに積もり、現在の中指を立てて「タヒねやオラァァン」という諸外国のヘイトがエルディア人に向かっている。

 

 特にその矛先は壁内の人類へだ。

 

 

 我々ユミルの民はとどのつまり、“血”によって繋がっている。

 

 そのつながる先というのが、ユミルちゃんだ。即ちこの不思議な砂と光の柱の世界。

 私は当初からこの場所を、()()()()()()()()というような認識を抱いていた。漠然とした印象だったが、強ち間違ってはいなかったのだろう。

 

 例えるなら私は今、ユミル(母親)の腹の中に回帰している。羊水に浸かりながらお城を作っているのだ。…何とも奇妙な表現である。

 

 

「それでね、ユミルに聞きたいことがあるの」

 

『?』

 

 

 小首を傾げ、城の頂上部分を作るユミル。

 

 私は過去に二回、おそらくこの世界でユミルに身体を修復されて現実に戻ってきた。しかしてこの世界の「私」は、精神で存在している。無論、今砂に触れている感覚はある。それどころか五感がイキイキとしている。現実と違う点は、右足があるところでしょう。

 

 この世界で肉体のように感じているものは、精神から生じる感覚的なものなのだと思う。

 表現が難しいですが、例えば夢で、自分の身体を動かしているような体験をしたことはないでしょうか?それをよりリアルにした感覚が、この世界にいる「私」なのです。

 

 そう考えると、この世界で治された私の身体は、ユミルにプログラミングされた情報に過ぎないのかもしれない。

 

 実際に治されるのは巨人の肉体の中。巨人は再生能力がありますし、それを活用して彼女が刻んだ情報が、私の身体に適用されているのだろう。

 

 結構この考えが相応しい答えな気がする。

 

 

 それで、だ。

 

 血の繋がりや私の再生した肉体を踏まえて、ユミルちゃんに尋ねたい。

 

 

「人体をワープさせることって、できないかな?」

 

 

 ユミルちゃんは城の細かな装飾に移っていた手を止め、私の顔をじっと見つめる。かく言う私は、城の下のそり立つ岩肌を表現するべく尽力している。ちなみにアウラちゃんに芸術センスはなかったりします。ハンジ・ゾエの勉強会で巨人を描かされた時は、長い間の後に「何これ………バケモノ?」と言われました。

 

 ユミルたそは暫く私を見つめた末、砂のついた手をゆっくりと上げる。そして握られていた手の形が変化し、親指が立てられた。OKらしい。

 

 思いましたが彼女、かなり私に毒されてきていますか?エルディア人の始祖がアウラ色に染まる……背徳的で興奮しますね。

 

 

 

 しかし、問題点はあるようだ。

 

 アニちゃんも連れて行きたいことを話した上で、テレパシーの要領で伝わった内容を端的に表すと、以下の通りになる。

 

 まず私の精神ならばまだしも肉体の情報を伴う変化を起こすには、仲介役となる巨人の媒体が必要らしい。巨人化能力者はこれをスキップできるとのこと。より密接に、ユミルの世界と関わっているからだそうだ。

 また仲介役の巨人は、見張りの兵士を巨人にさせることになった。

 

 対し私はユミルから力を借りているだけの人間。要は、巨人の体内に入らないといけない。食われるのはちとキツイですがまぁ構いません。──えっ?巨人のお腹を開けて体内に入れるコースもあるんですか?ならそちらでお願いします。

 

 

 次にアニ・レオンハートの結晶化問題ですね。

 

 彼女は現在引きこもり状態。ユミルちゃんのイメージだと、壁の礎になっている大型巨人と非常に似た状態らしい。アニは追い込まれて結晶化した。謂わば“世界の拒絶”と表現してもいいのかもしれない。

 

 結晶をどうにかするには、彼女の心を動かすしかない。そしてその心は今なおぼんやりと、現実と夢の狭間を彷徨っている。これについては彼女をこちらの世界に引きずり込めばいいとのこと。説得は私が担当します。

 

 

 最後はこの方法を行った後、ユミルちゃんがかなり疲れてしまうことだった。

 

 当分私をこの世界に招くことができないほど、彼女は消耗してしまうらしい。

 それは嫌だ。でも、私はお兄さまに会いたい。会わなければならない。けど……。

 

 

 

「────え?」

 

 

 

 何で私、悩んでいるんだ?

 

 そんなのお兄さまが一番に決まっているだろ。なのに何で私は今悩んでいる?

 最終的に選ぶのはお兄さまだ。しかし()()()()()()()()()というのが、おかしい。私ってそんなにユミルのことが好きだったのか?

 

 

『   』

 

 

 ニパァッと、笑ったユミルちゃん。

 

 私の心臓はその位置がありありとわかるほど、強く脈打っている。いつも無表情な彼女が天真爛漫に笑うのはずるい、ずるいぞ。

 

 最初に出たのは深いため息で、頭を押さえる。自然と彼女につられて笑った自分が、自分ではないかのような気がした。

 

「私」は今ここにいて、ユミルの側にいる。

 私は誰なんだろう。自分の手から自分が離れて行く気がする。

 しかし、離れていった私の場所には、私がいて────?

 

 

『 ! 』

 

 

 聞こえるのはだれかの頬を両手で、パシパシと叩く小さな手の音。その手の主はユミル。そのだれかは、だれかは…………そうだ、私だった。アウラ、アウラ・イェーガーだった。

 

 ジーク・イェーガーの全てを愛している、アウラちゃん。

 

 

「ふふ」

 

 

 寂しいけれど、永久の別れというわけではない。ユミルちゃんとはまた会えます。もし死んだらこの世界にお邪魔しますし。

 

 生きた場合はそのまま生きるでしょう。

 本当にお兄さまと会ったら「私」がどうなってしまうかわからないから、選択肢は複数残しておいた方がいい。

 

 

 

 ひとまずスポーン地点はウォール・マリアの内側、シガンシナ区から少し離れた東の壁沿いにしてもらった。

 

 敢えて中央から離れた壁沿いであるのは、「遅刻遅刻ゥ〜☆(脳内再生:お肉少女)」と、パンを咥えて訓練場まで突っ走る訓練兵の如く、バッタリ調査兵団と出会さないようにするためです。外側は内側より純度の高い巨人シティなので却下だ。

 

 私とユミルの関係性や、一部「始祖」の力を使える情報は戦士側には控えたい。ただしこの世界で私と接触するアニは別である。それを見越しての()()()()だ。彼女の弱みは頭を覗いて見させてもらう。

 

 

 対し突然消えた私とアニに驚愕待ったなしの壁内についてですが、この件が終われば去ります。そのためのアニ・レオンハートという保険である。

 

 所詮マーレ側は私がどのようにしてアニを救出したかはわからない。これは壁内人類も然り。

 

 マーレには憲兵の私兵をこっそりと作って、逃げる算段を作っていた──で十分だろう。アニたそが結晶化していた事実を戦士たちは知らないので、ユトピア区で憲兵に拷問されていた(アルミン・アルレルトがベルトルトに言ったウソ情報である)と、話せばいい。

 そして裏でアニの脱出を手引きした私は、調査兵団が動いたのを見計らって彼女と逃亡した───。

 

 壁内とマーレ側で情報の差異ができるが、敵同士共有することは現時点ではまずない。将来はわからないが、その頃に私が生きているかもわからないし、面倒ごとになったら死にます。ジーク・イェーガーを感じることができればそれで、私が過ごした虚の十八年の想いは果たされる。

 

 でもその前に、十三年の寿命の呪いをどうにかしなければならないのか。

 

 

 ────案外まだ、死ねないのか。

 

 

 お兄さまを苦しめて、幸せにするまでは。

 

 生きることは難しいな。死ぬのは簡単なのに。

 

 

 これについてユミルちゃんに尋ねてみましたが、彼女はせっせと城を作っている。

 返答は望めなかったので、仕方なく私も城作りを進めた。

 

 結果私とユミル作の、全長数メートルに亘るビッグサイズの砂の城が出来上がることになる。

 

 私、何やってんだろ(賢者タイム)

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