ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

67 / 116
今回はかなり視点変わり気味なので注意。

ユミル=フェイの声っていったい全体私どうしたらいいのーーー!?な80話だった。脳内マヒ確定回やった。


喉奥クチュクチュ

「無知」というものは残酷と優しさを内包していると、ジーク・イェーガーは思う。

 

 

 今彼の前に立ちはだかるのは、馬にまたがり特攻をかける兵士たち。その表情は迫り来る投石を前にして、悲痛に歪んでいた。これから彼らは無意味に死んでいく。

 

 そんな彼らに同情心はいらない。

 人を殺した末に精神を病む兵士は少なからずいるものの、戦士たる男が人を殺すなど日常茶飯だ。必要とあれば老若男女関係なく殺す。

 

 

 何事も楽しむべきだ───と、ジークは岩を手で砕き、それを振りかぶった。

 次の瞬間には兵士の悲鳴と、彼が放った投石の轟音が轟く。

 

 初代レイス王によって記憶を改ざんされ、壁内が「楽園」であると思い込んでいる人間たち。謂わばこれが「無知」たる人間の象徴である。

 

 歴史の過ちを知らないがゆえに、何度も同じ間違いを繰り返す。学ぶことで成長する人間の性質を、根底から潰されている。

 

 哀れだ。

 

 しかし同時に、エルディア人に向かう()()()()()を知らぬまま死ねることは、幸せなのかもしれない。「無知」の中に存在する優しさがこれだ。

 

 広い世界で待ち受けるのは、同じ種族の人間が「悪魔の民」としてマーレに管理されている現実。

 どこまで行っても人間は何かのしがらみに縛られている。本当の自由があるのかすら分からない。

 

 だが少なくともエルディア人が生きている限りは、世界は巨人の恐怖に怯え続ける。

 

 

(俺が終わらす。……この世界の苦しみを少しでも減らさなければならない)

 

 

 最初は陣形をわけて「獣の巨人」に近づいていた兵士も減り、ついにジークの視界を遮っていた煙弾が彼の横を通り過ぎるまでに近づいてきた。

 

 辺りには緑色の煙幕と投石によって生じた土煙、そして血の色が混じり、異様な空気に包まれる。

 

 数百メートルはおろか、数十メートル先が見えにくい。まだ残っている兵士がいる可能性を考え、ジークが前を見据えながら岩を取ろうとしたところで、その指先が地面に触れた。

 

(────え?)

 

 視線を向ければ岩がない。岩の収集についてはピーク・フィンガーの担当だった。何事かと、彼が後方を向いたその一瞬、視界に右側の巨人たちが目に入る。

 

 異変は左側から起こった。何かを巻き取るような音───何度かジークが耳にしたことのある音が聞こえた。

 

 それはライナーたちも使っていた立体機動装置のワイヤーが巻き取られる音だ。

 咄嗟に身体を戻し、左を向こうとした彼の鎖骨付近に、ワイヤーが突き刺さる。

 

 

 直後ジークの目に映ったのは、煙幕の中から空を切るようにして出現した人類最強の男(リヴァイ)の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「私はアウラ・イェーガー」

 

 

 そう、私はキメ顔で言った。

 

 ついでに巨人なチャンアニに「何やこいつ」という目で見られた。

 

 

 

 

 

 アニ・レオンハートと恋の逃避行を始めてから暫く経つ。

 

 (ユミルちゃんが忘れたのだと思いたい)全裸で現実に戻った私は、アニちゃんの服一式を身につけている。ゆったりとしたパーカーはともかく、その上に着たジャケットの肩幅が若干狭く、身長の違い(約20センチの差)で上と下は問答無用で七分袖になっていた。

 

 

 服については、上着だけではもしヨロイの彼が私を見てしまった場合、よこしまな感情を抱くから危険だ──と、アニに着せられた。

 自分は巨人化するので、下着になっても問題はないから、と。

 

 脱衣中に見た彼女の腹筋は見事に六つに割れていて、おさわりを所望したら断られた。

 

 あと彼女、普通にライナーくんのことを「ゴリラ」と言っていました。

 

 

 まだ夜の気配を残していた空も段々と明るくなり、朝特有の清浄な空気が肺を満たす。最初は東に沈む月の位置とシガンシナ区の位置を照らし合わせ、南下していた。

 

 ちなみに走る彼女の首元に私はしがみついているというか、押し付けられているというか………大きなお手手につかまれている。アニが走る中で、たまに手に圧力が加わるたびに胸が「キュン♡」とする。私の心はお兄さまだけのものなのにっ……!!

 

 いやはや、父さまが如何に幼女の私を気づかって走っていたのか思い知らされました。

 

 

 

 

 

 それからウォール・マリアの壁にぶつかり、それに沿うようにアニは走った。

 

 日も昇り始め、いよいよ巨人も活動的になり始めるか──と思いきや、巨人と遭遇しないまま私たちは行動している。

 

 ユミルが関係している可能性も考えたが、彼女は例えるなら、連日徹夜が続いた労働者の状態。

『( ˘ω˘ )』の顔を浮かべて眠っている……あるいは休んでいるはずだ。

 

 違和感はアニも感じているようで、時折私の方を見てくる。実験したことがないので巨人を操れるかはわかりませんが、少なくとも同時に多数の巨人を寄せ付けないようにすることは私には不可能だ。

 

 異常な空気というのは、どんどん強くなっている。

 

 

 

『「!」』

 

 

 その時私たちの視界に映ったのは、天を貫く稲妻。音は発している騒音にまぎれ聞こえませんでしたが、あの規模の巨人化は見たことがある。「超大型巨人」だ。シガンシナ区はもうすぐだ。

 

 そうして森を抜け、地平線がよく見えるようになった平地の先に、見えた。

 

 豆粒サイズの巨人の姿と、その奥の壁の中から上がる火の手。

 

 死に行く兵士たちの幻聴が聞こえていた中、一つの姿を捉えた瞬間、私の世界の全てがその一つ以外の色を残して消える。

 移りゆく景色が、恐ろしいほどにゆっくりと刻まれていく。

 

 あぁ──────あぁ、私の空。

 

 私の、すべての色。

 

 

 アウラ・イェーガーは今、この時のために生きてきたのだと、断言できる。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ジークの前に突如現れた小柄な男。その顔に付着している血を鑑みれば、左側にいた巨人たちがいなくなった原因だと推測できる。

 

 男は「獣の巨人」の振りかざした手を、アンカーを外し腕の周囲を目にも留まらぬ速さで切り刻みながら避け、後方へと通り過ぎた。

 

 まばたき一つ許されぬコンマの所業。理解の追いつかぬジークは「えぇ?」と、思わずマヌケな声を漏らした。

 

 

 そう言えば──とジークが思い出したのは、ライナーが以前()()()()()()()として挙げていた人物。

 

 その名は「リヴァイ」。壁内人類の中でも群を抜いて強い男は別名、「人類最強」とも呼ばれている。

 

 機械兵器ならともかく、特殊に発達した武器を使い、宙をかけ回るだけの人間がそこまで脅威たり得るのか。そんな疑問がマーレの上層部内で生じつつ、念には念を入れて、敵兵が立体機動を行えぬように作戦が立てられた。

 

 しかして敵は予想のナナメ上のことをやってのける。

 

 ちょうど良い立体物があるではないか───と、目を付けられたのはジークが巨人化させた人間たち。

 敵が逃げられぬよう、内門を囲む形で用意した巨人を逆手にとられた。

 

 

 人類最強の男は思考の追いつかないジークを待たず、次の攻撃へと移る。後方から獣の肩甲骨付近にアンカーを射出され、リヴァイの血に染まったブレードが獲物をねらう。

 

 咄嗟に獣が左手でうなじを守りつつ、右手を振るうべく後ろを向こうとした途中で、今度は目を切り裂かれた。

 

 奪われたジークの視界。しかし煮えたぎる怒りを燃やすリヴァイの攻撃は止まらない。そのまま前方へ向かった身体をガスの噴出によって獣の頭のまわりを一周し、後方へ再度出た兵長が人体最大の腱たる“アキレス腱”を斬ったことで、獣の身体が前方へと派手な音をたてて崩れた。

 

 

 ここまで十秒にも満たない間に起きた出来事。

 

 

 自由の羽を掲げる深緑のマントが風の抵抗により激しく揺れる。

 倒れた「獣の巨人」の頭上へ高く飛翔したリヴァイは獰猛な瞳を宿し、無用にうなじをさらす獣へとねらいを定めた。

 

 女型やエレンのように、「獣の巨人」が硬質化を身につけている可能性は十分にある。否、巨人の精密な操作(無知性の巨人と同時に獣が出現したため、何かしらこの発生原因と関わっている可能性がある)を踏まえ、硬質化できることをまず前提とすべきだろう。

 

 そうなれば相手が硬質化するよりも早く動き、うなじを狙う必要がある。

 

 それが唯一可能であるとエルヴィンが判断したからこそ、獣の討伐にリヴァイが選ばれた。

 

 

「どんなクソ面が出てくるかッ、楽しみだ!」

 

 

 毛に覆われた皮膚は一度では斬るに至らず、高速で振るわれる斬撃がうなじを削る。

 そしてついにリヴァイの元に、敵の大将たるジークの姿が晒された。

 

 無理くり巨人の中から引きずり出された男の両腕はちぎれ、中途半端に欠けてしまっていた。

 

 

 

「楽しかったか、俺の仲間を殺してよ……」

 

 

 ジークの口内に突き立てられるブレード。先まで使われていた鉛色の刃には血が付着している。その味に男がえづきそうになった矢先、ブレードが躊躇いなく、さらに奥へと進んだ。より濃くなった鉄臭さ。食道へと流れ出るそれに、溺れるかの如くジークは咽せる。

 

「げ、ホッ!!」

 

「巨人化した人間は直後、カラダに激しい損傷がある場合、その再生に労力を取られ巨人化することはできない。まぁ仮に生えてきても、俺が綺麗に刻んでやる」

 

「ぐ……が…ッ」

 

「アァ?何言ってるか分からねぇよ」

 

 それはお前が喉を刺しているからだ──と内心ジークは毒づいたが、薄いグレーの瞳は絶対零度の色を放っていた。

 

 ピークがどうなったか気になるところだが、岩の件から考えるに同様に狙われた可能性が高い。

 ブレードのせいで頭を動かすことができないため、ジークは瞳だけ動かす。それに釣られリヴァイも視線を移した。

 

 

 辺りは獣の巨人の体の蒸発と煙幕により、少し先でも視界が不明瞭となっている。

 

「四足歩行の奴は俺の仲間が狙った。全員仲良く捕まえてやるから安心しろ」

 

 リヴァイはジークの襟首を掴もうとしたが、上裸なため髪をわし掴む。

 今人類最強の脳裏に過るのは、エルヴィン・スミスの顔だった。

 生きていろ───と、願う気持ちで馬か、誰か生きている人間を探そうとした兵長の後ろで、何か音がした。

 

 蒸発音に紛れ、急接近してくる何か。ミケたちが殺られたのかと考えたが、「四足歩行の巨人」にしては足音が少ない。ジークの口内に刺さっていた刃を抜き、咳き込む音を聞きながら後方を睨めつけた。

 

 リヴァイがブレードを構えた瞬間に煙の中から現れたのは、手。そこから覗いたのは────、

 

 

()がっ………!?」

 

 

 結晶化したことにより、捕らえられていたはずのアニ・レオンハート。

 

 巨人化したその女が血を吐いている男を掴み、そのまま内門へと向かう。女型の口からは生白い女のものと思われる足が飛び出ており、途中で咥え直していた。ミケたちがどうなったのか回す思考はない。それよりも問題なのは女型と、ジークを持つ手とは反対の手に握られていた人物。

 

 一瞬リヴァイと目が合った女は、形容しがたい瞳で、無表情に彼を見ていた。

 

 それは地下街に住んでいたリヴァイが親しんできた殺意であったり、怒りであったり……絡まり合った感情が元の女の瞳の色とは異なった色の中で、凝縮されていた。

 

 気味が悪いのは負の感情だけではなく、その中に「正」の感情もあったことだ。

 総合して突き刺さったのは、ドス黒い殺気の塊だったが。

 

 

 

 

 

 リヴァイ・アッカーマンはわからない、何一つ。

 

 だが仲間の死により煮詰まっていた感情の中でさらに、劇薬を投下されたことだけは確かであった。

 

 その感情を例えることはできない。

 後に燃える劫火が鎮火した時にようやく、彼はそれがどんな感情であったか名前をつけることができるだろう。

 

 

 

「俺は、誓った!あいつに……エルヴィンに、誓ったんだ────ッ!!」

 

 

 

「獣の巨人」を殺す。

 

 喉が回復したジークが叫び、立っていた巨人が動き始めた中、リヴァイは鬼神の如き面持ちで歯を軋ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 対し、予想だにしなかった女型の助けが入ったピーク・フィンガーはというと、女型の口内で粘液まみれになりながら状況を整理していた。

 

 

 彼女は投球していた「獣の巨人」の後方で岩を運んでいた中、初手、煙幕にまぎれ現れたモヒカン頭の男と女が飛び出してきたところを、咄嗟に右手で払いのけようとした。

 

 男には当たったものの、女の方は車力につけたアンカーを途中で上手く外し、ピークの後方に回った。

 

 四足歩行の身体上、手でうなじを守るのは難しい。そのため急所を硬質化させながら、彼女はあえて敵に背を向け、煙へと視線を凝らした。

 

 無論、何の考えもなしに無防備な後ろをさらしたわけではない。二人の兵士が煙の中から飛び出てきたが、自身を狙うにしては戦力不足だと感じた手前、()()()を刺す人間が存在するとピークは考えたのだ。

 

 つまり最初の二人は陽動である。

 

 

 思惑は当たり、車力の前に飛び出てきたのは金髪の男だった。

 

 

 彼女が口を開けその身体を食い潰さんとした時、その男は怯むどころか逆にガスを噴出させ、()()()()()()()()()()()

 

 男はそのまま上下の顎と舌を巻き込みながら回転斬りをし、喉奥へとブレードを叩き込んだ。その一撃は本体のピークの腹に届くまでに至り、ついで女兵士が車力の口の横の筋肉を削いだことで空いた隙間から、金髪の男がヌルンと出た。

 

 そして本体に生じた激痛に硬質化が解けてしまった「車力の巨人」の背後を狙ったのは、口元を真っ赤に染めたモヒカンの男だった。

 

 その後彼女は口に布を咬まされ、金髪の男に体を押さえられ、巨人化できぬよう女兵士に両腕を付け根から斬り落とされた。

 残りの男の方は虫の息であり、荒い息と血を吐きながら彼女を睨めつけていた。

 

 

 そんなところを、ピークは煙幕に紛れて現れたアニに助けられたのだ。

 

 

 

(それにしても、()ったいぃ…)

 

 

 ピークは考える。

 ベルトルトが敵から聞いた情報が正しければ、アニは拷問を受けて捕まっていたはずである。

 

(そもそも、あの女性は誰…?)

 

 アニの口の中に投げ込まれる前に見えた、女型が握っていた一人の女。

 素性は不明だがアニが連れてきた以上、彼女の関係者であるのは間違いないのだろう。

 

 

(……腕を斬られるのはもう、こりごりだなぁ)

 

 彼女はうっすらと涙目で、ため息をついた。




・担当場所について

 ジークが右利きでピークちゃんは利き手側に岩を集めていた=エルヴィン側から見ると左にいるのでミケら(補助役はナナバとゲルガー)が左から、対しリヴァイが右からとなった。
 個人的なピークの印象は「さすピー」だが(手首切られるシーン見ながら)ちょいと抜けてる部分があると思う。かわいい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。