ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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出しきったのでしばらく燃え尽きます…( ˘ω˘ )


ッア、ソーレ!昼ドラ日和

 アニに救出され、その腕の中で血を吐きながら、巨人を操作しリヴァイを襲わせたジーク。

 

 ピークが自身と同様に敵兵士に襲われた可能性が高くどうなっているのか、またアニがなぜ突然現れたのか考えたい。しかしバトンよろしく走る女型に掴まれたままのため、吐き気に負け思考が回らない。

 

「車力の巨人」がメリーゴーランドなら、女型は安全バーのないジェットコースターだ。

 

「吐く…」と、瞳を閉じうわ言のように呟いていた言葉がアニの耳に届き、彼の体は逆の手に持ちかえられ、女型の鎖骨部分に押しつけられるように固定された。

 

 

 数段マシになった揺れにジークが一息ついたと当時に、首元にヒヤリとした感触がした。

 

 それに驚き瞳を開ければ、冷たい感覚は首の後ろに回りうなじを通って、肩甲骨辺りに触れる。

 その冷たさが人間の手から伝わっているのだと少しの間をおいて理解し、自身を抱きしめる人物へと視線を下げた。

 

 肩につくかという長さのこげ茶色の髪と、敵の兵士が着ているものと同じ服。ただし刺繍のマークと、サイズがいささか合っていない。

 

 それらが目に入り、音で表すなら「ギュウギュウ」と、めいっぱいジークに抱きついている。

 

 何がなんだかわからぬまま抱きしめ返そうとした男の腕は、両方肘より先から再生中である。

 

 

『………』

 

 

「えっ」「……え?」───と状況を把握できていないジークを見兼ねて、人間二人を掴まえている女型の手に圧が加わる。

 

 アニからすれば、「もっと他に何か言うことがあるだろ」というおせっかい気味なメッセージ。

 

 それを、ぼんやりしてないで現状を把握しろ、という意味に受け取った戦士長たる男の頭は、ようやく動き出した。

 

 正面にある女型の口が時折もごもごと動くため、ピークは回収されていると考えていい。

 車力は獣より後方で岩を集めていた。ウォール・マリア側から女型が来たことを踏まえれば、ジークより先に助けられている。

 

 リヴァイに関しては、「獣の巨人」を狩るために、左側に並んでいた巨人を殺しながらやってきた。立体機動に使うブレードやガスは残り少ないと考えるのが妥当で、尽きればジークの巨人によって殺されるだろう。

 

 後はライナーとベルトルトのコンビが座標を持つエレンを奪取できていれば、作戦は成功。戦士側の勝利となる。

 

 

 しかして、ピークまで倒されるとは誤算だった。彼女は戦士の中でその頭脳を買われ、状況処理能力が必要とされる「車力の巨人」を継承したのである。そう簡単にヤられる(タマ)ではない。

 

 徹底的に敵を殺すつもりであったが、知性巨人の数で比較すると四対一という状況で、戦士側に「負けるはずがない」という油断があったのか。はたまた、想像以上に敵の戦力が強かったのか。

 

 答えはそのどちらも当てはまるだろう。

 

 

 また、アニの方もだ。

 

 調査兵団が来るのを待っている間、彼女を助けたいライナー&ベルトルトとエレンの奪取を優先するジークとで争いになり、巨人化で勝敗を決め、勝った方に従うという約束で戦った。

 

 整合性を踏まえて戦いはライナーとジーク間で行われ、結果「獣の巨人」が「鎧の巨人」に勝利した。

 

 その男同士の戦いがあったにも関わらず、ヌルッと女型が現れたことに「ちょっとソレってどうなの?」と思うところもあるが、生きて帰って来たのなら現状は良しとすべきだろう。

 

 今の最優先事項は「始祖の巨人」である。

 

 

 ジーク・イェーガーの異母兄弟が果たしてどんな人物なのか、彼の“安楽死計画”のため見極める必要がある。

 

 何よりグリシャ(あの男)に巨人の力を()()()()()()()であろう弟を救いたいという気持ちが、ジークの内に存在する。

 

 彼と妹を犠牲にしておきながら、さらにエレン(息子)をもうけて幸せにするならまだしも、二人と同じようにエレンを犠牲にしたグリシャ・イェーガー。

 

 彼の腹の中に燻る父への憎悪。それはライナーに「エレン・イェーガー」の存在を知らされてから、これ以上増えることがないと思っていた量を容易く超えた。

 

 

(というか、待てよ?)

 

 

 後ろを向き、シガンシナ区に近づいていることを窺ったジークは、再度最初に抱きそこねた疑問へと戻ってくる。

 今なお自身にしがみついている女は誰だ?

 

 いや、そもそもの話。

 

 

 

 ──────俺、何で()()()()()()()()したんだ?

 

 

 

 無意識に、動いていた腕を見つめるジーク。

 

 その部位は蒸気を発して回復中であり、まだ完治には時間がかかる。一先ず離れてもらうべく(上裸なため、ガッチリ抱きついている女の感触が直に伝わっている)、彼は右肘で背中を軽く叩いた。

 

 そこでまた彼は一つ、自分が女に嫌悪感を抱いていないことに疑問を持った。

 

 普通見ず知らずの人間が突然抱きついてくれば、多少は嫌悪感を抱くものだろう。

 であるというのに、ジークは()()()、抱きついた女を受け入れていた。

 

 おかしい、と脳内が再度混乱し始めた男から少し離れた女の顔。互いの熱で生ぬるくなった女の手は男の両肩に置かれた。

 

 

 目元までかかった長めの前髪。綺麗な顔は涙と鼻水で汚れており、声を必死に殺すようにして泣いている。

 歪んだその表情はかつて青年が少年であった時に慣れ親しんだもので、白とも黒ともつかない中間色の瞳を、ジークは愛おしく思っていた。

 

 その瞳はいつも彼を捉えると大きく見開かれ、兄だけを映し出す。

 

 さながら彼を“一人の少年”として見てくれたクサヴァーのように。

 

 当時両親が自分をろくに見てくれなかったと感じていた彼を───、ジーク・イェーガーを見て、必要としてくれた存在。

 

 

 

「アウ、ラ」

 

 

 

 それを聞いた女の瞳からボロボロと涙がこぼれる。どうにか言葉を発したいらしいが、「お゛に゛……っ」のところで何度もつっかえてしまい、最後まで続かない。

 

 だが何を言いたいのかは、わかった。

 

 同時に前に出会った女兵士と、真ん中分けの長身の男を殺し損ねた事実について思い出す。

 

 ───ジークは巨人を投げなかった。()()()()()()()()

 

 戦場では許されないことだ。たといそれが威力視察であっても。

 

 普段の彼ならば殺せただろう。仲間を巻き込むことになっても、必要とあれば切り捨てることができる。それが実行できるからこそ男は“戦士長”という立場を任されている。

 

 そんな彼が敵を殺せなかった事実。「アウラ」という言葉を聞いて思考が止まってしまったとしても、すぐに思考を切り替え殺せたはずだった。

 

 

 でも、できなかった。

 

 それが全てである。

 

 

 

 彼が無意識に女を抱きしめようとした事実。

 突然の抱擁に嫌悪感ひとつ湧かなかった事実。

 そして、あの時殺せなかった事実。

 

 

 ジーク・イェーガーは、無意識に()()()()()()()()()()、わかっていた。

 

 

 だからこそ、今出すべきではない“人間性”の部分が皮ごと剥かれるようにして、出血し始めている。骨も肉もえぐっているかもしれない。傷は心臓にまで届いて、彼の心音は狂い始めていた。ジワリジワリと体からは汗が吹き出し、頭と視界が熱くなる。本人も泣きたいのか笑いたいのか分からず、荒波に揉まれて混ざり合っていく感情に、理性の部分が追いつかない。

 

 謝りきれないことを為してしまったのは、女の右足を見ればわかる。

 

 それは……それはやはり、女兵士が食われた部位と同じである。

 それと同時にかつて叩いてしまったことを、自分よりも幼い少女が「楽園送り」を自ら選ぶ原因を作ったことを、謝りたい。

 

 謝罪の言葉ばかり浮かんでしまう自分自身が、卑怯な人間であると、ジークは毒づいた。

 

 

 膨れ上がった罪悪感は優に十年を超える。一の位で四捨五入すれば二十年だ。

 

 心の奥底の隠された部分では女兵士が生きているかもしれないと思いながら、「あの出血量では…」と、諦めていた。

 そうして諦めて隠して、これ以上自分に罪が生まれないように、意識の表層へと浮上しないよう沈めていた。

 

 だが女兵士は生きていて、今、ジークの前にいる。

 

 いるのだ。そう、いる。触れることができる。

 夢の中の亡霊ではなくて、幼い幼女の姿ではない。

 母親に似た美しい容貌で、グリシャ・イェーガーに似た髪の色で、そして妹にしかない白銅色の瞳を持っている。

 

 

 

「おに、……ちゃ」

 

「………」

 

 

 ジークは感情が吹き出しそうになるのを抑えて、唇を噛み締める。そのまま妹を────アウラを、強く抱きしめた。

 

 その瞬間女の瞳が見開かれ、「ぁ」と、小さい声が漏れた。

 白銅色の瞳からは水滴がとめどなく溢れ、男が呻くほど強く強く、抱きしめ返し、泣いた。

 

 

 

 子どものようにアウラ・イェーガーは、泣きじゃくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 何度も「私」は、アウラ・イェーガーは、「死」を望んできた。

 

 兄がいない世界は私にとっては無色の世界にしか映らず、たとえグリシャ・イェーガーでもエレン・イェーガーであっても、私の根本を本当の意味で揺るがすには至らない。

 

 ジーク・イェーガーが明日死ぬのなら、この世界が存在する意味は無い。

 そして私は彼が死ぬ前に死ぬ。もしそんな状況であるなら、彼に殺されて、彼の腕の中で死にたい。

 

 

 兄の体温は温かかった。人間の体温はこんなにも、温かいのだった。

 

 心の中ではどこか怖かったのだ。兄が私に何と言うか、もしかしたら拒絶されるかもしれないと。

 アニ・レオンハートの首に掴まりながらずっと、どうしようか考えていた。出会ったら抱きしめようか、それとも襲いかかって殺されようか。

 

 しかし、それ以上に怖かった。

 

 天下の変態が何を恐れているのかと思われるでしょうが、怖いものは怖い。薄っぺらくとも人間性があるのだから。

 絶対にあってはならない欠陥した“人間の負”を愉しむ他にも、私にはココロ()がある。

 

 

 私は腐っていても人間で、腐り切っても人間だった。

 

 

 

 

 

 内門の右側に進みウォール・マリアの壁に着くと、アニは両足を壁に突っ込んで片手を使い器用に登っていく。

 その間、お兄さまにより密着していた。血の匂いがよくした。

 

 そのまま上へ登り切った女型は壁をずり落ち、壁上で大体の位置を把握した戦士二人の元へ向かった。現在地から最も近い場所にいたのはライナー・ブラウン。ハンジ・ゾエと二人の104期生がライナーの側にいた。

 

 驚きを隠せない彼らは、女型が建物を巻き込んで放った蹴りから緊急退避した。

 アニはその隙に毛根と四肢がない目隠し状態の男をつかみ、一瞬ものすごく嫌そうな顔をして口の中に放り込んだ。

 

 女型を追おうとした坊主頭の少年を止めたハンジは、こちらを見ていた。女型の出現は当然予想外のものであったに違いない。

 

 

「なん、で」

 

 

 と、微かに聞こえたハンジの声。負傷したのか、包帯を巻いた左目がかわいい。

 

 彼女が巨人関係以外で悲痛に表情を歪めるのは、久しぶりに見たかもしれない。仲間の死を悼む心はあれども、それを滅多に表に出さない女性だった。

 

 私はこの状況でも心からヒトの“悲劇”に喜んでしまう人間で、私の笑顔を、彼女は呆然と見ていた。

 

 それに痛んだ私の心はどうやら彼女を、きちんと「友人」と思っていたようです。

 

 

 さようなら、ハンジ・ゾエ。我が友。

 

 

 

 

 

 次にして最後の、そして最大の悲劇の舞台となっていたのはベルトルト・フーバー。

 

 彼もまた、狩られてしまったようだ。気絶しているようで意識はない。目の前にはベルトルトの背後から首にブレード当てて、先程まで「近づいたらコイツを殺す!」と叫んでいた弟と、その隣で立ったまま柄を両手に握りしめている義妹がいる。その後方では焦げている人型の物体があった。超大型の爆風にでも巻き込まれたのだろう。

 

 二人は口を開けて固まったまま、見ていた。見ている?誰を?兄を?

 

 渡さない。弟であっても義妹であっても渡さない。殺させない。絶対に。

 

 

「ち、ちょ、ちょっと離してって!!」

 

 

 焦った声を上げる兄。二度と離すもんか。

 けれどアニが兄の要求を呑んだせいで離れていく。死にます。

 

 

「ねえさ………?」

 

 

 エレンくんの声が聞こえた。

 

 そうです、私はエレン・イェーガーの姉で、ジーク・イェーガーの妹です。そしてジーク・イェーガーはエレン・イェーガーの兄です。

 

 つまり今、ここに兄弟三人が揃っている。その事実にようやく気づいた私。

 あぁ、だから兄は私に離れるように言ったのか。弟と、話したいから。

 

 しかし兄が言葉を発する前に、大きな翡翠の瞳にありありと混乱を覗かせるエレンが叫ぶ。

 

「何でここにいるんだよ!!何で!!!」

 

「……?」

 

「何でアニと、一緒に……ソイツ誰だよ?何が、どうなってんだよ!!?」

 

「………?」

 

 アニと私が一緒にいるのは、私が彼女を抱き込んだからだ。

 

 エレンは私のように兄だと見抜けないのだろうか。こんなにも父親に似ているのに。──え、待ってお兄さまヒゲが生えてる?(今更)………余計に父に似ている。

 

 

 ゆっくりと動く脳。弟の質問に答えようとする私の口を、アニが指で押さえるようにして止める。

 大きすぎる指は余裕で私の顔全体を覆った。息ができない。

 

 私が息苦しさに悶えている間、兄弟の会話は進んでいる。「テメェ誰だ」と噛みつく弟を諭しながら、エレンがグリシャに似ていないことや、必ず助け出すと、語る兄。

 兄はどうやら、弟が父に洗脳されていると思っているらしい。まぁ、それも仕方のないことか。兄が戦士を目指していた頃を考えれば。

 

 そしてやっと手が離れて、アニがエレンたちと距離を詰めようと動こうとした矢先、内門のウォール・マリアの方へ彼女とお兄さまが視線を向けた。蒸気を全身から発するそこにいるのは…人間?

 

 

 ──いや、待て、兵士長だ。黄泉の国から兵士長が帰ってきた。

 

 兄は顔を蒼白させていた。絶対に私が守ります。死んでも守ります。

 

 

 人間四人を抱えている手前、また人類最強とそれに次ぐ力を持つ女、「アッカーマン」の脅威が二人もいる。

 

 撤退を余儀なくされた状況。

 それでもアニは外門の方へ後退しながらベルトルト・フーバーを見て────。

 

 

 

「ア、ニ…?」

 

 

 

 ベルトルトの目が開いた。彼女を、アニを見ている。それにアニもまた見つめていて、少年は微笑んだ。

 

 すごく、嬉しそうに。「よかった」と、呟く。

 

 少年が微笑んだ瞬間その周りにキラキラと、眩い火花に似た星が煌めいたのは錯覚だろうか。

 美しくて、鬱くしくて、狂おしく愛おしい。

 

 これは、消えゆく魂の美しさに私の心が影響を受けているのか?

 

 兎にも角にも、とても()()()()()

 

 

 

『──────ッ!!』

 

 

 直後アニは弾かれたようにベルトルトから視線を外して、走り出す。

 

 空中に大きな滴が一滴舞ったのが、見えた気がした。

 

 

 

 

 

 ジーク・イェーガーと出会ってから自分の感情に追いつけなくなってきた脳は、いよいよスリープ状態に入る。

 

 瞼が閉じた中聞こえたのは、弟の声。私の名前を呼んだ気がする。遠くでも聞こえるくらい大きな声。喉が潰れてはいないだろうか。弟にはユミルの導きがある。だから大丈夫だろう。大丈夫だ。

 

 もうエレンくんは、()がいなくても十分歩けるくらい、大きくなっていたから。

 

 最後に弟の、もはや感情が暴力的なまでに凝縮された絶叫を聞いたのは、よかった。やはりとても気持ちがいい。「私」が生きていることの証だ。

 

 

 さようならエレンくん。ミカサちゃん。結婚しろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、もうお腹いっぱいだ。

 このまま死んでいいと、心から思える。

 

 

 

「私」は死を望んでいる生き物で。

 

 それはまるで“()”に還るようだと、ずっと昔から思っていた。

 それほど私は死にたがりであるというだけなのかもしれないけれど。

 

 

 とにかく今は疲れたので、寝ます。

 

 おやすみなさい。





ーーー深淵の中、一匹の回遊魚は目を開けた。
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