またランキング入ってたみたいで感謝しかない。本当お目汚し覚悟で書いてたんですが、読んでくださる方がいらっしゃるだけで昇天できます……ありがと………(スナァア)
本編は少し先ですが、閑話もほぼ本編扱いと思っていただいて構わないです。ではドゾ。
青空の下、行われる青年と眼鏡をかけた男のキャッチボール。
容姿は似ておらずとも、他人がその光景を見れば、親子と思うに違いない。しかし実際に血の繋がりはなく、戦士候補生と戦士という関係だ。
それでも二者には、親子以上の絆があった。
「すっかりクサヴァーさんも歳を経ったね」
「あぁ、私の継承期間ももうすぐで終わる。君とこうしてキャッチボールができるのも数えるくらいだろうね」
「はは……寂しくなるなぁ」
青年──ジーク・イェーガーは、17歳になった。戦士を目指し始めてから早十数年。彼と同期の人間はもう一人もいない。途中から少しずつ子供が減っていき、最後に彼が“候補生”の座を勝ち取ったのだ。
当時皆の中で
────なにせ彼は、「驚異の子」なのだから。
復権派であった親を売りマーレに忠誠を示したその姿は、政府の人間からも一定の評価を受けている。しかしその中には、青年の底の知れなさに恐れを抱いている者もいた。
「ところでジーク、君は戦士になったらどうするつもりだい?」
「戦士になったらって?」
「名誉マーレ人の地位を得ることは聞いていたが、他にも何かやりたいことなんかはないのか、ってことだ」
名誉マーレ人になればさまざまな特権を得られる。クサヴァーならば、巨人学の研究者として己の研究を進めた。人によって目的は違えども、やはり名誉マーレ人の地位を利用して、何かをなしたい戦士は多かろう。候補生に至る人間は、こぞって自分の目標や信念がある。
逆にそれがなければ──例えば親が名誉マーレ人の地位を欲して送られた子供など──最後まで残ることはできまい。
「クサヴァーさんは研究の集大成として、六百年前のエルディアの王が、始祖の巨人の力を使ってユミルの民の体の設計図を書き換えた事実を発表するんだもんね」
「世界の人口激減の要因となった、疫病の効かない身体にしてしまったんだ。すごいってもんじゃないよ。これを聞いた時、君も驚いていたもんな」
「そりゃあ驚くさ。記憶改ざんを超える力が、始祖に秘められていたと知ったんだから」
「いやぁ…自分の研究を進められて本当によかったと思うよ。長くもない人生だったが、悔いはないかな」
クサヴァーの投げたボールが、青年のミットに収まる。十年前の勢いは衰え、ジークからすれば物足りなさを覚える球となった。
「それで、君はどうなんだ?戦士ともなれば女性だってよりどりみどりなんじゃないか?」
「うわぁ、オッサンくさいこと言わないでよ」
「中年で悪かったね」
「でも女かぁ…あんまり興味はないかな。俺結婚しないと思うし」
「え、しないのかい?」
「うん。…あ、付き合うとかとはまた話は別だよ?結婚、っていうか──
その言葉に、クサヴァーの表情が強ばる。
ジークは片手に持ったボールを眺めながら語った。
「仮に美人な人と結婚して、子供作って…家族ができたとして、幸せになるのは間違いないと思う。けどさ、巨人の継承者は力を得てから13年しか生きられない。俺が死んだら家族がどんな気持ちになるかって考えたら……やっぱり結婚はしたくないよ」
「ジーク……」
10年前、ジークは両親を売った。しかしそれは必要な犠牲だった。両親を売らなければ、彼も彼の祖父母も楽園送りで今頃巨人ライフだったろう。
そして同時に、青年は妹も失っている。
「家族を失った人間の気持ちを、俺は知っている。両親を売ったのは俺なんだから、何言ってるんだって話だけどね」
「それしか、方法がなかったんだ。仕方ないよ……君は悪くない」
「あぁ、それしか方法がなかった。必要な犠牲だった。けれど世界が違っていれば、失わずに済んだ犠牲だったと思わずにはいられないんだ」
「ジーク、君は…」
「クサヴァーさん、俺、やりたいことあるよ。…って言っても、クサヴァーさんの話を聞いてから現実味を帯びた考えになったんだけど。それまでは結構、漠然としてたんだ」
────この世界から、エルディア人を消す。
それが、青年の───ジーク・イェーガーの望み。
クサヴァー以外に打ち明けることのなかった、彼の本心である。
「まず始祖の巨人の力を使って、エルディア人が子供を産めないようにする。そうすればエルディア人の人口は減っていき、約100年後にはいなくなって、同時に巨人もいなくなる」
「…どうして、エルディア人を無くしたいんだ?」
「単純さ、
「それは、一理あるが…」
「クサヴァーさん、世界はずっと巨人の力によって虐げられてきたんだ。どれだけの人間が怯えて、苦しんで…そして死んできただろう。マーレの言っていることは正しいよ。エルディア人は悪魔だ、それだけのことを俺たちは世界にしてきた。縦え先祖の所業でも回り回ったツケは、今を生きる俺たちが払うべきなんだ」
それに壁の中で囲われ続ければ、グリシャ・イェーガーのような復権派が生まれる。さすれば第二・第三のジークのような子供が生まれてしまうだろう。
彼は一気にエルディア人を殺そうとしているわけではない。子を作れなくして、緩やかに人口を減らしていこうとしているのだ。
「
ジークは苦笑いしながら、右手を顔の左に近づけ耳を人差し指でかく。独特の彼の癖であった。
青年はボールをクサヴァーに投げた…が、コントロールがイマイチだったのか、相手の後方を抜け飛んでいく。「あっ」と漏らした声は随分とマヌケだった。
「君は威力は申し分ないが、割としょっちゅうコントロールを誤るよね…」
「はは…気をつけるよ」
ため息を吐きながら、転がったボールをクサヴァーは取る。しかし途中でボールに伸びた手が止まり、動かなくなった。
ジークは首を傾げ近づき、声をかける。
「クサヴァーさん?」
何か堪えるような、そんな表情を浮かべるクサヴァー。彼は覗き込んだ青年の顔に視線を移す。
「大丈夫か?さっきも咳きこんでたし、無理に俺とのキャッチボールに付き合わなくても…」
「いや、いいんだ。君とのこの時間は、私にとっても肩の荷が下りてちょうどいい」
クサヴァーは立ち上がり、ボールを直接青年のミットに入れる。そして、徐に口を開いた。
「君に、話したいことがあるんだ。私の……家族について」
それは男の、罪の告白であった。
トム・クサヴァーの罪────。
自身がマーレ人だと偽り、マーレの女性と結婚して子を作った。その後、クサヴァーが本当はエルディア人だと妻にバレた結果、息子を道連れにして妻が自害してしまったという、罪。
男は自分の罪から逃げるように、戦士となった。マーレのためにその身を捧げつつ、研究に没頭し生きてきた。その人生の中で出会った少年、ジーク・イェーガーは、ある意味彼の亡き息子を投影する存在だったのだろう。
そしていつの間にか、本当の息子のように思うようになった。
クサヴァーは語る。
妻と息子を殺したも同然な己が、君を息子のように思うのはそれこそ罪だ───と。
「私という存在は罪深い。生きていることさえ、本来なら許されるべきではない。しかし私は逃げた。己の罪から──自殺した妻と息子の亡骸から……!!」
「クサヴァーさん…」
「あぁ、許されないことだとは分かっているとも。それでも…それでも私は、君を「息子」と呼びたい。なんて私は愚かな人間なんだ……ッ」
「…いいよ、もういいよクサヴァーさん。俺だってあんたを本当の親のように思っているんだ。あんたの罪も、先祖たちの罪も俺が背負って、きっとエルディア人の穏やかな終わり………「安楽死」を成し遂げてみせるから」
「ジーク……」
「だから、泣くなよ。みっともないぜ?息子の前で────
「………ッ!!う、うぅ……!!」
泣き崩れたクサヴァーの背を、ジークはさすった。
この世は残酷だ。しかし元を辿ればかような残酷さを強いたのは、エルディア人ではなかろうか。
他者から奪い、自分たちのものとしてきた。そこから生まれる悲劇を無視し、侵略を続ける。
そして悲劇というものは繰り返す。奪われた側の人間が、今度は奪い返す。そこからまた悲劇が生まれ──といった風に、“負の連鎖”が生まれていく。
これを断ち切るためにも、ジークはエルディア人の安楽死を望む。
彼はこれ以上、人の悲劇を見るのはたくさんだった。
その上で青年はこれから数多の悲劇を作り出すだろう。巨人の力を持って人間を殺し、殺し、殺す。
だがそれは
「もうすぐに始祖の奪還計画が始まる。俺は成し遂げるよクサヴァーさん、自分の計画のために。もう誰かを失うことは、嫌だからね」
青年の脳裏によぎったのは、笑顔を浮かべる少女の姿。
10年経てどもはっきりと彼の中で鮮明に残っているその姿は、こう言うのだ。
『おにーたん!』──────と。