あ゛ぁ〜〜〜⤴︎⤴︎
マーレ国は「始祖奪還計画」に失敗し、「超大型巨人」をパラディ島に奪われる結果となった。
戦力でみればマーレの戦士《知性巨人四体》&ジークの巨人と、調査兵&エレン《知性巨人一体》の戦い。
マーレの上層部はおろか、戦士たちでさえ負ける未来は想像がつかなかった。それほどまでに巨人の力とは強大なものなのだ。
しかし、戦士は敗北を喫した。
一時は四人全員倒され、最悪四つの力がパラディ島にわたり、「戦鎚の巨人」のみとなったマーレが他国に攻め込まれるどころか、壁内人類が世界情勢をひっくり返してしまう可能性さえあった。
彼女はライナーとベルトルトがエレンの誘拐に失敗し、一旦パラディ島を去った後。
それまで動かなかった理由はライナーたちがしくじり、アニが彼らの仲間であるとバレてしまったため。
だが「始祖奪還計画」の建前、収穫なしにマーレに帰還するわけにはいかない。そのためエレンが外に出るタイミングを待っていた、と。
もちろん敵であることが判明している以上、単独で、それも長期間身を潜めるのは難しい。
同時に憲兵団に身を置けなくなったことにより、調査兵団の動向も掴みにくくなった。
ゆえにアニやベルトルトたちが協力者においたのが、アウラ・イェーガー。
「始祖」と「進撃の巨人」と持つ少年の姉であり、戦士長たる男、ジーク・イェーガーの妹である。
かつて「楽園送り」にされた彼女はマーレ治安局にまぎれ込んでいた“フクロウ”によって助けられ、マーレより先に始祖奪還を目論むフクロウから託された進撃を継承した父、グリシャ・イェーガーと共に壁内へと渡った。
以後彼女は壁の中で暮らす。
胸中で巨人となった母親の幻影と、おぼろげな兄の姿を求めながら。
そしてある時、父親からすべての“真相”を告げられた彼女は、息子娘に復権派の思想を押しつけ、自分やジーク、祖父母を「楽園送り」にするような業をなした両親を憎んだ。
挙句、その父親は前妻を亡くしたにも関わらず、新しい妻と息子をもうけ、幸せそうに暮らしていたのだ。
斯様な人生を送っていたアウラ・イェーガーと、さまざまな過程を経るうちに彼女がジークの妹であると確信し、その心中を悟ったアニたちは彼女を「協力者」に仕立て上げた。
ライナーとベルトルトが尻尾を巻いてパラディ島を離脱した後も、アニは協力者であるアウラの手助けがあり、スムーズに隠れ情報も得ることができた──────。
────というのは、
実際アニの報告では、彼女はトロスト区にて身柄を拘束され、のちにユトピア区へと移され拷問を受けていた。
そこを救ったのがアウラ・イェーガーである。
女はベルトルトやアニと
だが協力していた彼女はライナーとベルトルトが逃亡し、アニが捕まった後で、協力者であることがバレてしまった。
アウラもまた憲兵に捕まったがしかし、アニは「弟を脅しに使い、アウラ・イェーガーを
アニが嘘を吐いた本当の理由は、待ち受ける“死”への些細な抵抗からきた発言であった。
だがまったくブラコン野郎に同情心を抱いていないかと聞かれれば、アニ本人もわからない。
アウラ・イェーガーが変態であることを知った今は、もう哀れみの心などなくなってしまった気もするが。
また、ベルトルトとライナーがアウラの存在を語らなかった理由については、妹が生きていたと知った場合ジークの精神が不安定になると考えたから──と、ライナーがのちに語った。アウラの情報をライナーに秘匿させたのはベルトルトで、調査兵団との戦いには戦士長の力が必須であると考えたために、黙っていたとも。
この隠していたことについては、その理由も踏まえてお咎めはなかった。
憲兵の私兵をこさえたアウラは、捕まっていたアニを秘密裏で解放し、さらにウォール・マリア奪還作戦で戦士と調査兵団がぶつかることを見越して、アニと共にシガンシナ区に向かった。
(ちなみに私兵については一部を証拠隠滅で殺し、消し損ねた部分に関してもマーレの不利になる情報は一切話していないため問題はない、とアニは続けた)
しかし果たして、一介の兵士がマーレ治安局と似たはたらきを持つ憲兵の人間を、仲間うちに引きずり込むことなどできるものなのか。
それに関してアニはアウラが長年その
おまけに演技力も高い。
ならばアウラ・イェーガーのその“綻び”とは何なのであろうか。
これは女の「目的」に直結するものであり、彼女が“牙”を隠し続けた理由や、アニたちが
────アウラ・イェーガーは「ジーク・イェーガー」に会うためだけに生きてきた、
事前にアウラから
「楽園送り」を選んだのは、幼心に自分が生きていると兄が傷つくことを分かっていたため。
調査兵団を目指したのは、純粋な戦闘力をつけていずれ来る「戦士」になったジークに殺されるため。
親の愛情を一身に受けられなかった原因の自分を、兄は恨んでいるから、と。
超大型が現れれば「戦士」が来たと、重傷の状態で錯乱気味にアニたちとファーストミートし。
「ジーク・イェーガー」に関しては、絶対に裏切らないと悟った彼らが協力関係を結べば、長年ともに戦った仲間であろうが見殺しにする上、必要あれば自分の足を折る。
「獣の巨人」の威力偵察で違和感を覚え、そこから新たな「戦士」が来た可能性を見出して兄と出会えば、殺されに行き。…いや、そもそも巨人化している状態でジークと見抜けるのが恐ろしい。
そして殺され損ねれば、発狂間近になる(右足を失った件は、アウラ本人に「この部分は言わないでね」と聞かされたので言えなかった)。
そしてウォール・マリア奪還作戦に向けた私兵の確保と、アニの救助。
ジークと再会を果たした後のアウラは、戦士たちがマーレに帰還した未だに、糸の切れた人形のように眠り続けている。
このことを最初に報告を受けたテオ・マガトも、思わず長い沈黙をせざるを得なかった。
「驚異の子」の妹は「ヤベェ子」だ。いや、ヤバいというものではない。“狂気”をそのまま、穴という穴から漏れ出させているような異常さだ。
少なくとも十数年いたパラディ島の仲間を裏切り、戦士たちを救い出したのだ。女の根底には絶対に揺るがない目的、あるいは信念が存在する。
そして戦士の中でも表情を滅多に崩さないアニが、生気のない表情を浮かべている。
後で本人に確認するにしても、本当にアウラ・イェーガーのすべてが、「ジーク」であるのだろう。
だがアニの報告をすべて鵜呑みにしたとして、残る事実は「
まさかその事実が本当だとしても、容易に認めることはできない。
ただパラディ島の人間を甘く見ていたのは、変えようのない事実である。
マガトはアニから聞いたアウラの異常者エピソードを一旦誰にも他言しないよう伏せさせ、後日上層部と「始祖奪還作戦」の当事者であるライナー・アニがマガトの後ろに控えた中で会議が行われた。
この時アウラ・イェーガーの狂人ぶりを知ったお上の精神は、もはや「悪魔の末裔」云々どころの話ではなかったに違いない。
そしてマガトの隣に座る戦士長の男は、無言でその内容を聞いた。
反射したレンズの奥に、己の感情を隠して。
そうした話し合いの結果、都合のいい“表上の理由”ができた。
“裏の理由”は総合すると、「兄を愛する妹」が再びジークと会うことを望んでアニを救い出し、結果戦士三人を救うことに繋がった───といったところか。
狂人エピソードの部分は、上層部とその場にいた数名の戦士の間で秘され、その代わりにオブラートに包んだ「兄を愛する妹」という体ができた。
「兄を愛する妹」が壁内を裏切っている時点でその異常性は隠し通せていないが、女の狂人ぶりを知るよりはよっぽど精神衛生が保たれる。
同時にアウラがアニを救ったという部分で、アウラ・イェーガーのまた別の目的が窺い知れる。
彼女がアニを救ったのは、自身の保身のためでもある。
戦士たる女を救い、マーレに「楽園送り」となった己の居場所を作る。
お上の判断次第で、いくらでもアウラ・イェーガーの処分は決まる。たとえ超大型を抜いた戦士四人を救った人物であってもだ。
──否、上層部も前例のない《バックトゥーザ・マーレ》に頭を悩ませざるを得ないといった方が正しい。
表上の理由ができたのも、この「楽園送り」にされた人間が戻ってきたという事実が存在しているがゆえ。それにただでさえ超大型を失ったことにより、戦況面が大きく動く可能性が出てきている。諸外国にマーレが超大型を失ったことが露見するのも時間の問題。さすれば戦争をふっかけられるのも秒読みだろう。
そして、最終的にマーレの不利益にならぬ情報──“表上の理由”と異なる内容や、パラディ島の情報、また「悪魔の民」たる島の人間たちを肯定的にとる発言など──を話さない代わりに、アウラ・イェーガーは市民権を得た。
この場合「楽園送り」になったことは隠せないため、表上の理由に沿った内容で、マーレに帰還したことになった。
ジークが戦士であるため、彼女も祖父母と同様に「名誉マーレ人」となる。
ただ裏では単純に斯様な特例を認めたわけではない。
大きな理由がもうひとつあるとすれば、それはまた別の
「我々は、「驚異の子」を繋ぐ手綱を得たと考えてよいでしょう」
ジーク・イェーガーが齢五つの頃から教官を務めているマガト。
二十年という歳月が流れているにもかかわらず、未だ彼は戦士長である男を「底知れぬガキ」と感じている。
他の上層部の連中は、ジークの“
厳しい言動ではあるが、悪魔の末裔であろうと偏見を持たぬマガトであるからこそ、戦士と信頼関係を築くことができる。
ただその例外としてその腹の内をずっと探ることができないのが、ジーク・イェーガーであった。
男が何か企んでいるとマガトは勘づきながらも、長年その尻尾を掴めずにいた。
しかし、都合のいい存在が現れる。
マガトはマーレに帰還し、眠る妹のそばに寄り添う男の姿を見て確信した。
その姿はまさしく、妹を心配する兄そのもの。
ただその兄の瞳に浮かぶ感情は、推しはかれぬほどグチャグチャに、煮詰まっていた。
◻︎◻︎◻︎
私、アウラちゃん。
マーレのお上の黒い事情で色々と約束事を決められつつ、この国の人間の一人として返り咲いた女である。お兄さまと同じ国に住んでいるってだけで、ヤバい薬を決めている気分になります。
そんな私はウォール・マリア奪還作戦の件から二週間後に目を覚まし、さらに面倒な取引を終えたのち、作戦から一ヶ月経った現在、軍事施設の病院から移され一般の病院に入院している。点滴やら何やら、医療技術も何もかもが違う。数える程度しかお外に出られなかった幼女ちゃん時代ですから、目新しいものが多い。
“名誉マーレ人”である今、収容区の外で暮らすことはできます。エルディア人であることに変わりはないので、多少の偏見の目からは逃れられないでしょうが。
うっかり路地裏に連れ込まれて、危ない目に遭わないようにしないといけません。ただでさえ戦闘能力が落ちていますし、私がマーレ人を殴ったら、今の身分でも立場はかなり不利でしょう。それほどマーレ人とエルディア人の垣根は深いですから。
ちなみに目が覚めて一番最初にお見舞いにきたアニちゃんからは、ある程度情報は伺っている。
と言っても、テレパシー会話です。
やり方としては、話したい相手とパスを繋ぐ感じですね。
例えるならアニがコンセントで、私が電源プラグ。こちらから相手に挿します♂
この方法は軍事施設の病院に入院していた時、情報が周囲にバレないよう編み出しました。ユミルちゃんがいつも私に行う方法をマネただけとも言えますけれど。
そしてその後、「盗聴器」という機械の存在をアニに教えてもらったので、余計にテレパシー会話が必需品となりました。記憶を覗くより疲労は少ないですが、それでも多少は疲れます。
感覚としては、脳内で喋るように言葉を思い浮かべます。
ただし、その時考えていることは双方気をつけないと垂れ流しになるため、話す際はテレパシーのオンオフはまめに行う。
このようなことが行えるのは、やはり同じ“血”が流れているからでしょうね。
恐らく別の人種には不可能だ。アッカーマン家の人間も難しいと思います。
女子三人───そのうち二名が死んだ目でキャッキャと遊んでいる時に、アニと大まかな相談はしていた。アウラちゃんの狂人エピソードを話したのもこの時です。
マーレ政府に「何で君戦士に協力したん?」と聞かれることは目に見えていたので、模範回答を用意しておいたわけですね。それも強烈なのを。
げへへ……一番知っていただきたい方にこのエピソードを聞いてもらえたので、楽しみです。アニちゃんの記憶からどんな表情を浮かべておられたのか拝見したいところではありますが、それは今度会うまでのお楽しみにしておきました。そのためワクワクし過ぎて夜も眠れず、毎日睡眠薬を投与されています。
お恥ずかしながら、ジークお兄さまと運命の再会を果たしたものの、あの時の私は完全に幼児退行していました。
感情がコントロールできていなかったのです。いつものことのような気もしますがね。
週に何回か来てくれるアニたそ(天使か?ついでに現在この国の文字に慣れるべく、本を差し入れてもらっている)に、週に一回ほど、病室に飾る花を持ってきてくれる
車力のピークちゃんも一度来て、お礼を言われた。アニの記憶で彼女のことは知っていたものの、初対面のフリをした。同じ松葉杖の仲間同士、仲良くなれるといいです。
あともう暫くは経過観察を行う。いつも接するマーレ人のナースや医者には、営業スマイルで多少エルディア人の偏見を取り払った。それでも一度病室を出ると、居心地が悪く感じる。
衣食住については、祖父母の元へ戻ってから決めます。私が願うなら手配はしてくれるとアニちゃんから聞いているので、その時はお願いしましょう。
ちなみに祖父母がまだ来ていないのは、「孫が生きていた」という衝撃にまだ回復できていないからですね。それに私が生きていた事実を知らされてから、そう時間が経っていないようでもあるので。その内に祖父母でニチャア…はできるでしょう。
「なんか、現実感がないな……」
やはりまだ、今の状況が体に馴染まない。
パラディ島と違う文字であったり、文化であったり、人間の様子や物の違いなど。
それに、心の方も。
“人間”している私の精神がまだ、エレンくんや仲間たちのことを引きずっている。睡眠はともかく、食事もさほど取れない。
無理やり口に食事を突っ込まれるアニの介護はこりごりだ。
対しライナーくんは毎度「………」と、私の腕を見つめてくる。病院服から覗く細さに目が行ってしまうんでしょう。
ただでさえアウラちゃんは美女なのに、儚ささえプラスされている。この悪魔的な魅力と天使属性(?)があるからこそ、マーレ人の看護婦や医者を懐柔できてしまったんですね。さすが私、罪深いエルディア人だ。
今日もアニが来ると言っていたので、午後の日の光を浴びながら本を読みます。開けていた窓から吹く風が少し強くなってきた。一旦本を枕の横に置いて、松葉杖に手を伸ばす。車椅子というハイテクな移動手段もありますが、筋力が落ちそうなので普段は松葉杖だ。
床にコツコツと音が響き、窓にたどり着く。見える風景は慣れ親しんだものではない。
車の音に、賑やかな街の声。空気はパラディ島の方が美味しい気がする。
「いつだって変わらないものは……一つだけだ」
壁に松葉杖を置き、空を眺めていればノックの音がした。いきなりテレパシーを使って、もしアニたそじゃなかったら大事件なので、入ってくるのを待つ。
彼女は最初こそ、入るよ、と言っていた。しかし最近はノックだけで何も言わずに入ってくる。というか私の扱いが雑になってきている。何でや?【A:お前の人間性】
「……?」
ノックが鳴ってから数十秒、まだアニちゃんは入ってこない。
私に焦らしプレイなんてご褒美にしかならないということを、いい加減学んだらどうなんでしょうか。それとも私から招き入れて欲しい気分なんでしょうか?ツンドラだな。
「どうぞ、アニちゃん」
また待つこと数十秒。スライド式の扉は開かない。
面倒なので足音を消して、素足を晒した片足で跳ねながら扉までたどり着く。そのまま扉の窪みに手をかけて、勢いよく開けた。
「ぐえっ!」
一瞬固まった脳内はすぐさま突進命令を下し、遠慮なくジャンプして。
めいっぱい花を持ったその人に抱きつき、呻き声を堪能した。
首元に腕を回し、足を少し後ろに浮かしてしがみ付く。戦士が普段着ている上着に顔を埋めると、ほのかにタバコの香りがした。深呼吸をすると脳内が痺れて、完全にヤク中の
躊躇いがちに背中に回された、大きな手の感触。
心臓は異常に早くなって、ビジョ美女になっていく。
「アウラちょっと、く、苦しい……」
幼少期とは異なる低いその声を改めて聞いて、(耳が)孕んでしまったアウラちゃんだった。
責任とって結婚しろ。