私、アウラちゃん。
マーレ版にリニューアルされたばかりなの。
マーレに来てから一ヶ月強が経ち、ようやく退院できる運びとなった。松葉杖での移動はスムーズに行えている。なにせ両刀♂使いですので。
また入院していた最中、アニちゃんの紹介で同じ病院に入院する「フーバー」さんという女性とお会いした。その姓のとおり、彼女はベルトルトくんの母親だった。寝たきりの彼女は体が細く、容姿はあまり息子と似ていない。
ちなみに“名誉マーレ人”の称号は、一度なれば戦士が亡くなった後も無くなることはない。ベルトルトくんの安否が不明ながら、彼の母親が十分な医療を受けられているのは、斯様な理由がある。
ただし、何らかの理由で戦士の力が剥奪された場合は、称号は取り消しとなる。
つまり戦士になれても、命ある限りはその身をマーレに尽くさなければならないということです。
アニちゃんはよく彼女の元に通って、息子のことを色々と話しているようだ。
……というより、フーバー婦人の見舞いがメインで、私の方がオマケだと知った時は結構ショックを受けた。私たち、「曇ッ友(曇らせでつながる歪な輪)」だと思っていたのに。弄ばれてしまったのね、私の純情は。
また、祖父母も私がジークお兄さまと「デート♡」をした数日後にいらっしゃった。
記憶の祖父母と照らし合わせて、老けた、というのが第一印象。祖母は私を抱きしめて泣き、祖父は扉の前で固まった。
そして一言、「フェイ……?」────と。
祖父は息子とその嫁、そして孫娘が「楽園送り」になって以来、少しずつ精神を病んでいったらしい。
ここ数年は
私が子どもの頃、お父さまと同様に祖父は私をフェイ・イェーガーと重ねる節が多々あった。
だからって、成長した私を亡くなった娘と思い込むなんて………初っ端からお祖父さまったら、飛ばし過ぎじゃありませんこと?アウラちゃんはまだ、豪速球のご褒美を受け入れる準備すらできていなかったというのに。
終始私を「フェイ」と呼んでいらしたお祖父さまは、ほどよく狂っていてとても良かったです。
そんな夫にどう言葉を紡いでよいのかわからず、困惑の表情を露わにしていたお祖母さまもよかった。
次は私から会いに行きたいと思います。お兄さまを連れてな(暗黒微笑)
閑話休題。
頼めば色々と用意してくれる、とアニ・レオンハートから聞いていた私は、彼女に一つお願いした。
それはお兄さまと暮らしたい──というもの。
祖父母の曇り顔は堪能できたので十分です。そもそも祖父の様子からして、私が「フェイ」ではなく「アウラ」とわかったら、余計に事態がややこしくなる。ゆえに一緒に暮らすことを提案した祖母の話を断りました。
そんなこともあり行く宛のない私は、一人暮らしも考えた。
しかし慣れない地での、慣れない生活様式は自分の不自由な体も相まって、非常に不便なのです。
そのためお兄さまと暮らさなければならないんですね。むしろ十八年の溝を埋めるには、一分一秒お兄さまと運命共同体のように暮らさなければなりまません。
兄が吐いた空気は全てこの私が吸うんや(頑なな意志)
本当はジークお兄さまがいらっしゃった時に話を切り出すつもりでした。
しかし唐突の兄の訪問から、連続絶頂の果てに
気づいたら次の日の朝で、突然気絶した私を血相を変えて兄が病院まで運んできたのだ、と看護婦から聞いた時は昨日の自分を呪った。
でも仕方ないね。むしろよく本当に死ななかったと思いますもの。
内心「腹上死ってこういうことか…」と納得しながら、理性と感情の葛藤の狭間でこれまでの走馬灯を見ていた気さえする。
ジークお兄さまがひたすらに格好よく美しくて、【世界の真理=ジーク・イェーガー】という答えにまでたどり着いてしまった。過去に何回もこの答えには、
して、アニちゃんは私のお願いに最初あまりいい顔をしなかった。
理由については、私と暮らす戦士長への心配の他にもう一つ。
彼女曰く、戦士は軍専用の住居があり、お兄さまだけでなくアニもそこで暮らしている。まぁ彼女の場合は今の所ほとんど使っておらず、父の元で暮らしているようだ。ライナーくんやピークちゃんたちがどのように暮らしているかは知らない。
要するに、軍の敷地内にある場所に、ただの一般人が住めないということだ。
たとえ“名誉マーレ人”の恩恵を受けて、“一般人”の枠組みに入ることができるエルディア人でも。
無理ならば仕方ないと諦め、アニ宅にでも居候を考えていた──この件を話したら全力で彼女に断られた──矢先、なんとどんな風の吹き回しか、許可が下りたのである。
誰が許可を出したのか尋ねれば、戦士隊の隊長であるマーレ人の「テオ・マガト」という男だった。
私の立場というのは要約しても長くなる経歴ですが、上層部は私がアニを助けたことを知った上で「所詮はエルディア人」という認識を持っている。
つまり、侮られている。その部分については構わない。
実際私はユミルの力を借りて、アニを裏技もいいところな方法で連れ出したわけですから。
よって、パラディ島のスパイの可能性が完全には消えていない中、今こうして命がある。
仮にスパイであったとしても一人でできることは限られ、マーレからパラディ島へ帰還する術もない。
いや、そもそもスパイの線自体考えられていないかもしれない。
スパイの人間が果たして、壁内人類の脅威となる戦士を救うだろうか。
──否、救わない。
それほどまでに危機的状態であるのだ、壁内人類は。
スパイを送るようなマネをして、逆に情報を抜き取られでもすればパラディ島は終わる。
リスクを冒すことができず、仮に無理やりにでも冒した結果、生じたハイリスクを受けてもジ・エンド。
マーレの“敵”だと認識されるのが厄介だから、絶対に揺るぎない「お兄さま♡」という理由を用意したのも、疑惑の視線を減らす要因にするため。
逆に私の精神性が、却って「危険分子」として認識されている可能性もなくはないですが。
まぁ、お兄さまと一緒に暮らしていいのなら、それに甘んじよう。
一応言っておきますと、お兄さまの許可は下りています。
ただしノーテンキには過ごせない。軍事基地内はどこに盗聴器があるかわからないので、下手な発言は控えましょう。流石にずっと、監視の目があるわけではないと思いますけど。
例えば「ユミルちゃんが見えるんやで」やら、「始祖の力をわいは使えるで!」やら、「わいは王家の人間やでぇ!」やら────。
もし出すなら、私のお兄さまラブな発言・言動。そして、二人の新婚生活のイチャイチャ模様くらいにしておきます。さぞ聞いている方たちは、お兄さまと暮らしている私が羨ましくなってしまうでしょう。だって世界宝級の人間と暮らしているんですもの。
またアニから、マガト隊長に何か思惑がある可能性が高いと聞いている。
勘のいい彼女は候補生時代から、ジーク・イェーガーを見る時の教官の目が、たまに鋭くなることに気づいていた。ゆえに私がマーレ国に住めることになった裏に、何か関わっているかもしれないと。それも、お兄さま関連で。
私はともかく、ジーク・イェーガーをなぜ怪しんでいるのか理由がわからない。
何か、お兄さまにも計画があるのだろうか。もしあるのなら、協力したい。
でも私からは聞けない、おこがましいですもの。
もし話してくださるなら、その時まで待ちます。けれど私の行く“道”が、お兄さまの障害になってしまう可能性もある。だからなるべくなら疾く、教えていただきたいところです。
(……純粋に考えて、立場上面倒な
考えれば考えるほど、やはりアウラ・イェーガーを処分した方がマーレにとって都合がいいとしか思えないのは、私が捻くれているからだろうか。
実を言えば、テオ・マガトとは私が意識を取り戻して間もなくして会った。向こうが私の病室を訪れる形で。
マーレ人にしては稀有なエルディア人であろうと差別しない、個々人の能力を重んずる人間だった。
アニと事前に打ち合わせした内容を話したので、相互の情報のムラは出なかったでしょう。私の狂人エピソードが誠か否か、確認している時は終始眉間に皺を作っていた。
その後に私がマーレに戻った来歴や、パラディ島に関する内容は基本的に伏せろ、とのご命令をいただいた。少なくとも自分からは口外するなと。
上層部や戦士には私がアニを助けた──という内容が伝わっていて。
その下になってくると、マーレ国の威信のためにも、戦士を助けたのはあくまでアニ・レオンハート。彼女はその身を潜めて信頼できる協力者(私)を使いながら、戦士の窮地を救った──という内容が伝わっている。
無論戦士には、アニが助けられた事実を口外しないよう命令が出ている。
だがわざわざそんなことをせずとも、私という存在を秘匿して暮らさせればいいだろう……とも思ってしまうが、それが難しい問題が存在する。
それが父、グリシャ・イェーガーを始めとした“エルディア帝国復権派”の件である。
規模として大きなこの事件は十年以上経った今でも、世間に知られている。
だからこそ、彼らを密告したジーク・イェーガーはかなり有名なのだ。それこそ「驚異の子」という異名を賜るような。さすお兄。
これに関してはグリシャ・イェーガーの娘が戻ってきた時点で、隠し通せる問題ではなかった。
隠蔽しようにも盗聴器という存在を例として挙げてしまえばわかりますように、情報というのは外部へと漏れやすい時代となった。
なので後から私の存在がバレて世間が騒ぐなら、真実をマーレ政府の都合のいいように曲げつつ、きちんと
ただ政府も一々紙面に出して、『復権派のリーダーであった男の娘が帰ってきた』と言うわけはなく。
こういったものは「戦士(アニ)の協力者」──から始まって、少しずつその噂というのが広まっていくのです。そしてやがて私の存在が突き止められ、協力者=私、という図が出来上がる。
これが、政府が私を目の届くところに置いておいた方が楽だ、という思考に至る理由の一つになっているのだろう。
(………やっぱ何で私、殺されてないんだろ…)
思考のドツボにハマった私は、新婚生活スタートに向けて「曇ッ友」のアニたそに拉致されて、生活必需品を見繕いに向かった。
「何でお兄さまじゃないの……?」
「仕方ないだろ。私だって嫌だよ、アンタとニコイチ扱いにされてるの。でもジークに「アウラと仲いいだろ?頼むよアニちゃん」って言われたんだ、文句言わないで。むしろ文句を言いたいのは私」
「アニたそって結構喋るようになったよね」
「………」
こちらを無言で睨めつけたアニちゃんはすごく………可愛いです。
「私もお兄さまに「アウラ
「………」
「今「うざ」って、思ったでしょう」
「さっさと行くよ」
そう言い車いすを押してくれるアニちゃんは、もしかしたらものすごくツンデレなのかもしれません。
「………」
「痛ッ」
私の頭を無言で叩いた、ツンデ・レオンハート。
こうやって彼女と話をするのはとても有意義である。
日常にその身を浸して、取り留めもない会話をする。しかして彼女は戦士。そのうちに宿す暗い闇が、日常生活の中で時折覗く。
その一瞬。
その一瞬だ。
「……あのさ」
「ん?何かな、アニちゃん」
「ベルトルトは……生きてると、思うかい?」
「…ベルトルトくんか」
正直言ってベルトルト・フーバーの生存の可能性は薄いと見ている。結晶化の事例を考えたら、もしかしたら、の可能性も十分ある。ただ超大型はその巨体さに特化しているゆえか、硬質化自体が出来なかったはずだ。
そもそも脳ぢるがドバドバしそうな、あんなに素晴らしい
アニとしては、彼女と「道」を通じて精神をリンクさせた時のように、ベルトルトくんと精神がリンクするか知りたい所ではあるのだろう。仮にできる場合は、私だけでなくアニ自身もベルトルトに精神を繋げられるかどうか──なども。
しかし肝心の始祖の力の起動源であるユミルたそがスリープ状態の今、私ができる範囲以上のことはしてあげられない。
「道」の表現を抽象的にしつつそのことを話せば、「……わかった」と小さく返した。
「でも私は信じてるよ。アイツが────生きてるって」
「…そう。なら、信じましょう」
同時に、狂おしいほどのお兄さまへの気持ちを紛らわせている。
他人で発散させないと私、お兄さまを壊してしまいそうで、怖いわ。