今更だけどこの章は全ての情緒が不安定で変態です(?)
コーヒーの匂いを感じて起きるのが私、アウラちゃんの朝の始まりとなっている。
退院後、私を誘拐にきたアニちゃんとその足で生活必需品を買いに行って、夕方ごろに軍事基地内にある戦士用の住宅に案内された。
軍関係者専用以外の場所であれば、一応行ってもいいそうです。
どこまでOKなのか細かい所までは把握し損ねたので、後で確認する必要があるでしょう。恐らく出歩ける場所はかなり限られると思います。
トレーニングスペースは行けるので、使用許可が下りるならこの鈍った体を鍛えたいです。簡単に折れそうな美女ちゃんはそろそろ卒業して、筋力を取り戻したい。
大量の荷物を持ち、尚かつ車いすを押しても息が切れないアニちゃんは流石シックスパック。触ろうとしたらもの凄い形相で睨まれた。そんなに見つめられたら、恋の予感を感じちゃうだろ。
お兄さまの方は部屋の移動を行っていたようで、そのためアニに私のことを任せたらしい。今の部屋では二人住むには手狭だから、と。
戦士長で色々と忙しい中、愚妹に気を回してくださるジークお兄さまはこの世のメシアです。崇め讃えて祀らなければ。
ちなみに大量の書類やら本やらが詰まった段ボールを三、四個積んで歩いているライナーくんもいた。人手として駆り出されたらしい。
アニちゃん見た瞬間、あからさまに肩を揺らしていたんだが大丈夫だろうか。彼とも後でじっくりお話をしたい(ニッチョ)
そんなこともあり始まった、お兄さまとの新婚生活(?)。
私アウラ・イェーガーの修行の日々が始まったわけです。
一緒に住みたかったのは純粋に一分一秒でもお兄さまを感じたいためもありますが、他にも慣れる、という意味があります。
微笑まれただけで今の私は
ジーク・イェーガーを曇らせることが私の人生の指針ですのに、このままでは何も行動に起こせず脳内停止女になってしまいます。
それはいけません、あってはならない。
できるだけお兄さまが苦しんで幸せになるようにすることが、私の存在意義と言っても過言ではないのだから。
ベッドはまだのため、ここ数日の間は面白いように沈むロングソファーで寝ている私。
ベッドを譲ろうとするお兄さまのお申し出は丁重に断った。眠れるわけがないだろ、興奮して。
私の就寝場所は戦士たちの会議室に使うこともあるらしく、明らかに複数の椅子やテーブル、部屋の隅にはぎっしり詰まっている複数の本棚がある。本については、入らないものは棚の上に載せられ天井にまで達し、それでも置けないものは棚の横に山のように積み重なっている。
部屋に入って、細い通路のすぐ左にあるのがセパレートタイプのバスルームとトイレ(水洗式しゅごい)。その通路の少し先を行ったところがリビングで、奥がダイニング。右手に見えます魔の本地獄から視線を逸らして左を向くと、二つの扉があり、ベランダにつながる奥側の扉が兄の寝所。手前の扉が私の少しの私物が置いてある部屋だ。
今のところ、寝心地がいいソファーをこのままベッドにしてしまいたい。兄は早目に買いに行った方がいい、とおっしゃっておりましたが。
頭の中がまだポヤポヤしつつ、瞼の裏に感じる光に誘われるように瞳を開ければ、シャツの上に薄手のカーディガンを羽織ったお兄さまの後ろ姿が見えた。
あぁ………逆光になった背中がより神々しさを増して、私の貧相な語彙力では表現しきれない程の美しさなんじゃ…。
一見したら小型のジョウロにしか見えない鉄製のドリップポットなるもので、カップにコーヒーを注ぐお兄さま。
顔付近までかかった毛布の中で体をもぞもぞさせながら、私は朝の寒さと決別し、温もりとの脱却を試みる。
その身じろぐ音に気づいたお兄さまが、振り返った。
「おはよう、アウラ」
微笑んだお兄さまに、私はそのまま毛布の中に隠れた。
今心臓が「ウ゛ッ」となった気がしたんですが、生きてますかアウラちゃん?いや、死んだかもしれない。完全に心臓が止まった感覚がしたもの。
というかカップが二つあった事実に、私はもうエデン行き直行便の飛行船に乗っているわけであって。
「お前は本当に、朝が苦手だなぁ」
少し呆れが交じった声と共に近づく足音。
ちょっと嬉しそうな気配がするのは、子どもの頃朝から幼い体に負けて、食べながら眠るという偉業を何度も成し遂げた幼女ちゃんを、思い出しているからかもしれない。
妹=朝が弱いという図。
確かに朝は眠い。しかし調査兵団の時は壁外調査に行くため、夜もまだ深い時間帯に起きるのが普通だったので、克服している。
起きろ、と揺り起こそうとしたお兄さまの手が腹辺りに触れた瞬間。
「み゛ゃっ」という、可愛らしい奇声を発してしまった私。
もっと女の子として淑やかにしたらどうなん?というお兄さまの意向に沿うことができません。無理に決まってるでしょう、お兄さまが好きすぎて狂ってるんだから(半ギレ)
お兄さまの笑う声が聞こえて、コーヒーに砂糖を何個入れるのか聞いてきた。
朝=おねむの件といい、砂糖の件といい、完全に子ども扱いされている。どうやったら私のこの家族愛と兄弟愛と恋慕が混じった“
きっとその一線を越えれば、今のような穏やかな時間は過ごせない。それを心から恐れる「私」が存在する一方で、ジーク・イェーガーの全てを手に入れたい「私」は少しずつこの関係性までもぶち壊して、二人でドロドロに溶け合いたいと切に願っている。
壊れゆく関係の中でお兄さまはきっと、私にさまざまな感情を向けてくださる。
嬉しさや怒り、憎しみや哀しみ────全部全部、手に入れたい。
お父さま以上に、ジーク・イェーガーの精神の形が保てなくなるくらいグチャグチャに、一緒になりたい。
でも、少なくとも今はまだ、私の内に存在する歪んだ愛情と純粋な愛情の心の天秤は、釣り合っている。
この兄妹としての生活を、心から享受したいのだ。
その上で少しずつ、お兄さまの首を絞めて差し上げたい。
「いっぱいいれて、お兄さ…──あっ」
そう言った私に兄は少し間を置いて、「お兄さ?」と返してきた。
誰だよやらかしてしまったの。私だよ。…死にたい。
「ライナーに荷物運びを手伝わせた時に言ってたけど……へぇ、本当にねぇ………」
「………」
毛布の中からでも、その声色からお兄さまがニヤニヤしているのがわかる。後でライナーくんはきっちり懲らしめないといけませんね。アニちゃんに頼んでおこう。
恥ずかしさに悶え苦しんでいる私に、お兄さまは「兄さん」「お兄ちゃん」「お兄さま」と呼ぶ時の妹の心情パターンを推測し始めました。やめ…やめ……。
違うのです。お兄さまに苦しめられるのは十分ご褒美ですが、私がお兄さまを苦しめたいのです。
「お前は俺を少し美化した目で見てるかもしれないけど、俺は……普通のお兄ちゃんだよ」
お前と、エレン・イェーガーのね──と、続いたジークお兄さまの言葉。
遠ざかる足音に、私の脳裏では翡翠の色がゆらゆらと、揺れた。
元気だろうか、エレンくん。
たくさん苦しんでいるといいな。
◻︎◻︎◻︎
ここ毎日朝から夕方まで図書館に入り浸っている私。
周囲には当然マーレ人しかおらず、ただでさえ私の美しさに見惚れてしまうというのに、赤い腕章が嫌でも目立つ。なので人通りの少ない窓際の席に座っている。
机を占領するのは大量の本。お兄さまは気になるなら蔵書を読んでもいいと仰っておりましたが、恐れ多くて断った。あの奇跡的にバランスを保っている本の山に触れでもしたら、大災害が起こりそうだもの。お兄さまが許してくださるなら、絶対に掃除しなければならない。あの魔境を。
ちなみに今は歴史書を漁っている。最初の内は私でも読みやすい児童用の本から始めて、ここ二ヶ月程で多少時間はかかりますが小難しいものでも読めるようになった。
最近過去の歴史書や巨人関連の本を読んで興味深かった内容を挙げるとすれば、「アッカーマン家」について。
彼らは別名、「巨人科学副産物」と言われている。
アッカーマン家はエルディア帝国がその長い歴史の中で、ユミルの民を人体実験をした結果生まれた一族であり、実験の根本にあった目的は人間のまま巨人の力を引き出させるようにする──というものであった。
これについてはミカサやリヴァイ、ケニーの三人の力を踏まえて、実験は成功を収めていると言える。
ただし人のまま巨人の力を使える影響か、彼らは脊髄液を投与されても巨人化せず、また始祖の洗脳などが効かない。
そして私が感じていた『飼い主と犬』という関係性は、
元々王を守るために人為的に作られた彼らは、その名残かある人物を己の主人(宿主)として認識した途端、さまざまな条件が揃った時、秘められたアッカーマンの力を発揮する。
その条件とは、極限状態に追い込まれた中、主人の命令を聞くなどして発動されるらしい。
これについて絶対的に正しい…とは言えないだろう。
ミカサちゃんは当てはまりますが、ケニーの場合ウーリ・レイスと出会う前から、憲兵を大量に殺すという人間離れした技量を見せていた。兵士長の方はそもそも過去について、地下街出身の元ゴロツキということしか知らない。あと一時期ケニーに育てられていたことは知っていますが。
これまで謎であった「アッカーマン家」の正体について知れたのは、大きな収穫だった。
お兄さまにもこの話はして、リアクションを愉しんだ。
「獣の巨人」であるジーク・イェーガーは一度、リヴァイ・アッカーマンに陵じょ───失礼、噛みまみた。
一度兵士長にギッタギタのボッコボコにされたお兄さまは、その事を少なからずトラウマに思っている。今思い出すだけでも、腕を斬られて口元を血で汚していた愛らしいお兄さまの姿に、頭が脳みそを具にして沸騰しちゃう。
兵士長には本当に感謝していますし、ブチ◯殳したいです。
人類最強の男の正体が「アッカーマン」だと分かったお兄さまは、「なるほどなぁ…」と言いながら、顔を青ざめさせていた。
朝から気分を悪くするお兄さまの姿はそれはそれはもう、オカズいらずです。ゆえにその時の朝食は、砂糖たっぷりのゲロ甘コーヒーしか飲まなかった。もう少し甘さを控えめにして欲しい。でもお兄さまが挿れ……淹れてくださるんですから断れません。そのままアウラちゃんを糖分過剰摂取で殺してください。
この美女救えねぇな…という幻聴が聴こえつつ、昼に外でサンドイッチ休憩を挟み、夕方まで本を読み続けた。
そして借りれる最大数の本をバックパックに詰め、帰路に就く。
落ちた筋力を取り戻すためにも歩くのはやはり大切だ。両脇に挟んで松葉杖を突き歩き続けると、肩幅が広くなってしまいそうで怖いです。
車いすには車輪部分の外側に連結して繋がる部分を回して動かすことで、一人で移動できるタイプもあるそうなので、それを用意していただけるならそれを使ってもいいかもしれない。…いや待て、それでも結局腕を使うから上半身だけ鍛えられてしまうんじゃ……
それから軍事基地に着いて、施設の門で警備している兵士の方に頭を下げて──もちろん美女スマイルも忘れずに──入る。
内心、マーレ人だろうがエルディア人だろうが、私をどう思っていようと構わない。しかし政府のお膝元である以上、そして戦士長たる兄に迷惑が及ばないように従順で、
「ハァ……」
この程度で疲れてしまう軟弱者がここにいる。
軍事基地内は迷子になってしまうほどの広さがあり、戦士を目指す子どもたちが訓練に励む場所でもある。
そのためこうして夕方ごろ帰ってくると、訓練終わりの子どもや、自主的に居残って訓練を続けている子どもを見かける。物珍しさに見つめてくる幼児の瞳は丸々としていて愛らしい。パラディ島は女性の結婚年齢も早いから必然と、子どもができる年齢も早い。
自分の子どもでもあり得なくはない年齢だ。かく言う私はお兄さまに一生を捧げるから、結婚も出産もしないでしょう。
ジーク・イェーガーの残りの戦士としての任期期間はあと五年。ライナーやアニは六年だ。
私が本の虫になる理由は、始祖ユミルの呪縛とも言える“十三年”という寿命に、打開策がないか探している節もある。
そして同時に──というかメインとして調べているのが、「ユミル・フリッツ」について。
約1850年前にユミルは「大地の悪魔」と契約し、エルディア人(ユミルの民)の始祖となった。実際その悪魔とは、「光るムカデ」ヤロウだ。
この「大地の悪魔」の表記は歴史書、またはそれを題材にした小説などによって多少変わるものの、概ねユミルが出会った存在は「大地の悪魔」と解釈されている。
物によっては「有機生物の根源」であったり、「
ユミルが死後魂を九つに分けて生まれたのが────始祖、超大型、鎧、女型、顎、獣、車力、戦鎚、進撃。
うち始祖と進撃、超大型以外はマーレ側にある。
その中でもアニ・レオンハートからの情報を踏まえて、《戦鎚の巨人》はマーレ軍の所有下になく、タイバー家が保有している。継承者は戦士であるアニでさえ知らないらしい。
ちなみにこのタイバー家は「巨人大戦」において、マーレの英雄たるへーロスらと共に最初にカール・フリッツに反旗を翻した家系で、「救世主の末裔」とも呼ばれ、エルディア人ながら腕章はおろかマーレ人やその他諸国から英雄視されている。その逆に、エルディア人の一部ではタイバー家をよく思っていない人間がいる。
九つの巨人の継承者は十三年しか生きられない。その「十三年」という期間は、ユミルがムカデ野郎に接触されて死ぬまでの年月である。
どのようにして巨人の力が分けられたかは、現代の人間は知らないのだ。だからこそどの文献にも「魂を九つに分けた」という曖昧な書かれ方をしている。
ユミルの死体をフリッツ王が娘たちに食わせた──という事実を今の人間たちは知らなくて、ユミルが約二千年もの間、巨人を作り続けていることも知らない。
なぜ彼女が王の命令に従い続ける“奴隷”で居続けるのか、私にはわからないんだ。
ユミルのことを知ろうとするほど、あなたのことがわからなくなる。
またカール・フリッツは興味深い内容を残している。パラディ島に「楽園」を築いた王は、もしその平和が脅かされることがあれば、壁の礎となった巨人を目覚めさせ、「
「不戦の契り」を作って子孫を平和的思想かつ、楽園の中で集団自殺をヨシとするような王なら絶対に行わないだろう。ケニー伝いに聞いたウーリ・レイスが「つかの間の平和を…」と語っていたことからも、世界を危機に陥れることはまずしない。
でも、世界を
私はどうにもマーレに来て目が覚めた時から、このアブナイ思考を持ってしまったらしい。
……というか、まぁ、ちょっとした自暴自棄なのかもしれない。
色々とお話ししたいユミルはまだ寝ているのか、出てきてくれないし。けれど“
個人的にはユミルをフリッツ王の呪縛から解放したいし、前世の私について色々思うことはあるし、そんな私を如何ような感情を以てユミルが接しているのか、最早訳がわからないよ、だし。
そもそもユミルが見せた夢だったのだろうか、アレは。
彼女が
であるなら、単純に私が思い出してしまっただけなのかもしれない。
そしてまだ砂と光の柱の世界に行けないのは、ユミルが寝ているからなのか。それとも彼女が伏せたかった部分を私が思い出してしまったから、精神的に落ち込んでしまっているからなのか。
まぁ、彼女が暗い水の底に沈む前───私と共にいた内容を見せなかったことを考えたら、やはりその部分はユミルにとっての地雷原であるのだろう。
「……わかんないなぁ…」
ユミルの目的が。
「私」が生まれ変わっている理由も。
何か企んでいるお兄さまの計画についても。
────あぁ、
悩んでしまう事は多い。もっと純粋にお兄さまの曇らせを楽しめたらよいのに。
一先ずユミルちゃんからの接触を待って、お兄さまの企みについても話してくれることを待とう。
でももし何もアクションがなく、「十三年」の呪縛の解決方法が見つからないままジークお兄さまがこの世から消えてしまったその時は、私の存在意義は無くなる。
そしてお兄さまが感じられなくなった果ての私がどうなるのか、自分にも想像が付かない。
ただきっと狂って、死ぬでしょう。
その狂った私が何を仕出かすのか分かりませんが、恐らくは「お兄さまがいないこの世はいらない だってお兄さまがいないから」──という、傲慢も大概な回答を導き出す。いや、決定している。
“綺麗にする方法”はもう、見つけてしまったのだから。
そしてユミルちゃんが私を好いてくれているのなら、不可能ではないのだと思う。
(──────
お兄さまをグチャグチャにして死ぬんだ。
前の私の大切な人がユミルであっても。
今の「私」の一番は、ジークお兄さまだから。
それだけは絶対に、揺るぎない事実だ。
【ユミル劇場】〜スナック編〜
スナックルーガー。
闇の中紫のネオンを妖しく光らせるその店の中には、その店の常連客である一人の医者の男と、スナックルーガーのママがいた。二人の頭には輪っかのついた棒が頭に刺さっている。
双方死んだ目で酒を飲んでいる。
ママとは言いつつ、肩と背中が剥き出しになる黒のドレスを着ているのは長身痩躯の男だ。対し丸渕のメガネをかけた医者の男は、頭を抱えていた。
「なぜ俺がこんな、骨格をイヤという程強調しなければならない服を着ているかわかるか、イェーガー」
「聞いてくれ、クルーガーママ…」
「ーーーー次俺の姓の後にそのふざけた二文字の呼称をつけてみろ、殺す」
「………すまない。クルーガー、実はな」
医者の男にはどうやら現妻の他にもう一つ家庭がある(という設定にされている)。所謂フリンという奴で、それが両者にバレ締められることになったらしい。最終的に一夫多妻の形で解決したようだが。以来意気投合した妻たちは、夫を尻に敷いて精神的に追い込んでいる。特に、娘息子関係で話を持ち出されると、男はポッキリ折れてしまう。
「私は……私はダメな父親だ………」
「お前が父親失格なのは、元よりわかっているだろう」
「………うぅ…」
と言いつつ、的確なフォローをその後に行うママ。
のちにサイズの合わない三輪車に乗った、娘そっくりな金髪蒼目の少女が妻たちの元に現れ、より事態が混沌と化すのはまた別の話である。