ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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前話でガバっていたところのご指摘をいただき直しました。ありがとうございます。

あと、死役所アニメ!!ーーで見たら、シ村の声が子安だった。うっほほい(白目)


マグマグ永久凍土

 朝から妹が女の子とイチャイチャ(語弊)しているのを目撃したジーク・イェーガーが、開けた自室の扉を閉め、何も見なかったことにしようとしたハプニングを起こしてしまったのは私、アウラちゃん。

 

 珍しく魘されて起き、頭上にある棚の時計に目をやって、確認した時刻は6時まであともう少しという頃。

 

 お兄さまがそろそろ起きてくると思いつつ、「ほら起きろ」と言われたいがために、毎朝二度寝を決め込む私。

 めくれた毛布を直そうとした矢先、体が動かせないことに気づいた。

 

「え?」

 

 ちょうど仰向けの私の腹の部分にある頭。薄暗い部屋の中で、ボサボサな長い黒髪とツムジが見えた。

 

 そこでようやく自分の上に人間が乗っかっていることに気づいた私は仰天し、「ぎゃあっ!」と叫んでしまって、その可愛らしい声に飛び起きたお兄さまが、妹の様子を見に来てくださったわけです。その開けられた扉はゆっくりと閉められてしまったわけですが。

 

「………お邪魔しました」という声と共に。

 

 そして、お兄さまに誤解されることになった原因を作った人物はというと、私の上で安らかに寝ていた。

 

 その後、不眠症のある少女──ピークちゃんが、どうしても眠れない時にここのソファーを求めて、部屋にやってくるという内容をコーヒーを飲むお兄さまから聞いた。

 

 ちなみに最近気づきましたが、お兄さまの猫舌が治っていない。

 なので今後早起きしてアッツアツ♡のコーヒーを淹れ、お兄さまが叫ぶ様子を聞きたいと思います(ニッチャ)

 

 

 しかし冷静に考えると、部屋の鍵はきちんと閉めてあったはずだ。

 

 それに返ってきたお兄さまの答えが【A:ピッキング】

 

 ピーク・フィンガーの技量を素晴らしいと思う反面、女の子が勝手に部屋に入ってきているにも関わらず、冷静なお兄さまに危機感を覚えた。

 

 私は妹ですし、シャワー上がりにバスタオルを巻いた姿でも風邪を引く心配しかされない。髪を拭いていただくプレイは「おふぅ…(全身が溶ける様子)」ものですけれど。ドジっ子を装ってバスローブを落としかけても、転んでスカートが大胆不敵に捲れ上がっても全く効果がない。

 

 けれどピークちゃんは分からない。彼女は少し抜けている部分があるから、それがラブハプニングを引き起こすかもしれない。

 

 具体的に言うと彼女がドジをして転んで、それを助けた戦士長に過剰なボディタッチをして、ToLOVE(トラブ)るを起こしてしまう──みたいな。

 

 別にお兄さまが幸せになるなら、私は応援しますけど。………ピークちゃんが上に乗っかっている時に感じたけど、やはり胸なんだろうか。たわわじゃない女はいくら美人でもきっと意味がないし生きていたってしょうがないし死の。

 

「そんな落ち込むなよ。さっきのは冗談だからさ」

 

「………どうせ私は」

 

「一緒にベッド買いに行ってやるから」

 

「小さい……」

 

「アウラ?」

 

 計画の一つにあったお兄さまに揉んでもらう“チチ育成計画”を告げる勇気などなく──、心配する兄の声が右から左へと突き抜けて行った。

 こうなったらアニちゃんでもいいから頼んでみよう。

 

 当然断られましたが。

「(精神)病院を紹介してやろうか?」という風に。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 図書館が休みの日は、そのまま家に閉じこもっていることが多いアウラちゃん。

 

 ジークお兄さまがいないのを見計らってこっそり寝所に入り、ベッドでゴロゴロしている。そんな私にお兄さまは気づきながら咎めることはない。書類など、室内の物を勝手にイジったら怒られるでしょうけど。

 

 まぁ、ベッドぐらいなら……という認識なんでしょう。

 

 距離感の近すぎる妹に、兄は困りつつも許容している。お兄さまの私の認識は、“お兄ちゃんに甘えたいけどその仕方がわからない妹”────。

 私としては都合が良い。このまま少しずつお兄さまの心を浸食して、削っていきたいです。

 

 

 

 そして、現在地は外。

 

 今日もまた引きこもる私を見かね、お兄さまは戦士候補生の訓練でも見てきたらどうか、と仰り、付き添い役にライナーくんを提案した。

 

 流石に勝手に私が訓練場を出歩くのはまずいと思う。

 お兄さまもどこまで私が出歩いていいか覚えていなかったものの、戦士が側にいれば教官も許すだろう──とのことです。

 

 咎められた場合は、ライナーに責任転嫁すればいいよ、とお兄さまは少しイタズラっぽい笑みを浮かべて私を()き殺した後、部屋を出て行った。

 

 最近は《超大型巨人》をパラディ島に奪われたマーレ国の情報を聞きつけて、大陸続きに隣接している中東連合が動きを見せている。

 

 そのため政府の上層部はピリピリしている。お兄さまも戦士長として忙しく、帰ってこないことが増えた。

 

 戦争が始まったら、会える機会はもっと減るでしょう。中東連合の勢力の大きさを考えて、数年単位の戦争になる。お酒の入った兄が愚痴交じりに呟いていた、“対巨人用兵器”が発展を続ければ、巨人の力もいずれ絶対的な物ではなくなる。

 

 

 世界は戦争の歴史だ。

 

 約二千年間、他民族を犯してその数を増やしたエルディア帝国が仮に存在しなければ──エルディアが栄光を送る理由となった、ユミル・フリッツが「光るムカデ(ヤロウ)」と出会っていなければ──、世界は戦争がない、秩序の保たれた平和な世の中へと変わっていたのか。

 

 いや、どうせ別の理由が生じて、今度はエルディア人ではない者たちが別の人種を虐げる。

 

 その例がマーレ国だ。巨人の力をエルディア帝国から手に入れたマーレは、侵略戦争に勤しんでいる。

 

 人間は生きて苦しむことにこそ、意味がある。命というものは苦しみや絶望の中で最も美しく、そして()()()()輝く。

 

 けれど、ジークお兄さま以外に本当の価値を見出せない私は、()()()()()()()()()()を一気に壊したら、気持ちいいだろうとも考えてしまう。

 

 エレンくんやミカサちゃん、調査兵団の仲間。それにアニちゃんたちを。

 

 ────ドログチャに。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 松葉杖を突いて歩く私に、心配そうに話しかけてくるライナーくん。

 

 彼は最近ヒゲを生やし始めて、頬が少し痩けた。ここ数ヶ月は寝ても覚めても脳内ジーク・イェーガー祭りだった私もお兄さまに少し慣れてきて、抱きしめられてもそのまま()くことはなくなった。

 

 普段は「いってらっしゃい」と、「お帰り」の時に全力でハグをして兄の胸筋に顔を埋めている。

(別に変態では)ないです。

 

 ライナーくんもライナーくんで、精神的に疲労が溜まっているのでしょう。

 一周回って逞しくなったアニちゃんのように、今度はライナーくんが逞しくなっちゃう番ですね。そのためにも、一度さらに精神的に追い込んでやりましょう(鬼畜の変態)

 

 

 フェンス越しに小さく映るのは、銃を持ち駆けている子どもたち。

 

 ちょうど木陰の下の背もたれがないベンチに腰かけ、木に松葉杖を立てかける。ライナーくんは陽の当たる場所で腕を組み、真剣な様子で子どもたちを眺めていた。

 

「今、先頭を走っている子どもがいるだろ?俺の従妹なんだ」

 

「へぇー…アニちゃんから聞いたけど、ライナーくんは確か、候補生時代はあまり成績がよくなかったんだよね?」

 

「……あぁ、その点ガビは───あっ、従妹の名前が「ガビ・ブラウン」って言うんだが、アイツは優秀だよ」

 

 同じ血とは思えないほど、と話すライナーくんはどこか皮肉気だった。

 しかもその皮肉は従妹ではなく、彼自身に向けられている。自分で自分を罵るとは……マゾなんでしょう。

 

 “従妹”とは言ったものの、あまり二人の容姿は似ていない。ツバ広の軍帽から覗く少女の髪は濃い茶髪で、その名の通りブラウンの大きな瞳と少し太めのつり上がった眉が、強い意志を感じさせる。

 

 対しライナーくんは髪と瞳が黄金色で、特に眉が特徴的である。この調子で行くと、くたびれたおじさん臭が増す。

 

「ちゃんとご飯食べてる?」

 

「……食べてる」

 

「ライナーくんはまだ大きくなりそうだし、しっかり栄養摂らないと。あと睡眠もね、隈がある」

 

「………あぁ」

 

 ベンチの端に寄って隣を叩いて、座るよう促した。

 

 その間に子どもたちはゴールしたようで、一着が全員の中でも一段背が高い少年。二番目がガビ……と続いて、最後にかなり遅れて金髪の少年がゴールした。二着で悔しがっている少女や、最後に着いた少年の背を叩いている一着の少年など、お国のために命を捧げることになる少年少女であれ、そこには年相応の子どもたちの姿があった。

 

「最後に着いた子はなんて言うの?あの金髪の…」

 

「アイツは「ファルコ・グライス」、ガビと同い年の子どもだ。それで一着だった少年がファルコの兄の「コルト」だ」

 

「年齢差がありそうだけれど、訓練は同じなのね」

 

「今は、だな。正式に候補生になれば、訓練内容も変わってくる。ファルコは分からんが……コルトの方は現状の成績であれば間違いなく候補生入りするだろう」

 

「………継承期間と年齢で考えたら、あの子が獣を継承するのかな」

 

「多分な。まだ正式にはおろか、候補生選びももう少し時間が要る」

 

「お兄さまは五年……か」

 

「………」

 

 やはり物理的な寿命の“十三年”の解決策は難しいか。

 

 黙ったライナーくんを見れば、眉を下げてどう発言してよいか、困ったご様子。

 

 そう言えば、このナイスガイが兄に「お兄さま」の件をチクったことを思い出し、意趣返しに横腹を掴んだ。ライナーは驚いた表情で跳び上がり、ベンチの下に転がる。

 オレは上、貴様は下だ。

 

 

「──ッ!?な、なっ、なん…」

 

「そう言えば思い出したけれど、復権派に「グライス」姓が付くあの兄弟に似た男性がいたのだけれど…もしかして関係者かしら?」

 

「いや、きゅ、急に何を……」

 

「質問を質問で返さない。答えるのは君の方、そのあとに聞いてあげるから…ねっ?」

 

 人差し指でライナーくんの眉間をツンツンすると、さらに困った顔になる。アウラちゃんに眠るサドの精神がこのナイスガイを追い込んで、そしてグスグスに甘やかしてやりたいと言っている。

 

 鞭だけではダメなんですね、飴もなければ。精神をより深い深淵へ導くには。

 

「……グライス兄弟は確かに、叔父が復権派の幹部だった。アイツらは一族の潔白を証明するためにも、戦士を目指している」

 

「…やっぱりか」

 

「覚えているのか?「楽園送り」にされた中に、グライスの叔父がいたことを…」

 

「私もあまりに幼かったから、詳しくは覚えていない。…ただ、お母さまが巨人にされたところは、鮮明に覚えている」

 

 

 無論嘘だ。

 

「私」が曹長殿の言葉を受けて、人の不幸に───悲劇に、“()”を生み出したその日。

 私の人生が180度変わった日のことは全て、鮮烈に、鮮明に、頭に刻まれている。

 

 そんな中でお父さまを「役立たず」呼ばわりしただけに留まらず、復権派を密告したジーク・イェーガーに対しても怒りを露わにした男。曹長殿曰く、巨人にしたエルディア人を壁から遠ざける意図で人の姿のまま落とされた男は、地平線へと走って行き、その後を巨人たちが追いかけて行った。

 

 

 

「悪いことをした人間は、相応の罰を得なければならない。貴族であろうが、平民であろうが、罪を前にした“罰”というものは、悪行に比例して平等に下されるべきだ」

 

 

 お兄さまを愚弄したのだから、死んで当然だ。その部分に関しては、勝手にお兄さまを復権派の道具のように扱ったお父さまやお母さまにも思うところはある。流石に「殺してやる」までは行きませんけれど。

 

 しかし、両親でもない赤の他人がジーク・イェーガーを侮辱したのなら、話は別。あの男は相応の罰として、巨人に食い殺されたのだ。ただ、それだけの話である。

 

 ──この話をもしグライス兄弟にしたらと思うと、少しゾクゾクしてしまいますね。

 

「マーレ国で敷かれたルールを破ったのだから、そこには“罪”がきちんと生じて、「楽園送り」という“罰”が与えられた。グライスだけではなく、お父さまもお母さまも」

 

「……あなたは、違かったんだろ」

 

「私には兄を傷つけた“罪”があった」

 

「それは、「楽園送り」にされて成り立つ“罰”じゃないだろ…!」

 

「成り立つの。それほど私にとってお兄さまの存在は大きくて、どうしようもないのよ」

 

「………じゃあ」

 

「じゃあ?」

 

 ライナーくんは俯いて、頭を抱えてしまった。オイオイ……一体全体どうして、そんなに苦しんでいるっていうんだ?これじゃあまるで、私がライナーくんを苦しめているみたいじゃあないですか。

 

 アニちゃんやベルトルトくんと違ってライナーくんは精神的に自分を追い込みやすいことも相まって、苦痛に歪む表情がとても愛らしいです。

 よだれを垂らさないように気をつけましょう。ついでにお顔が歪まないように。

 

 

「俺の“罪”は、どうすればいいんだ。相応の“罰”があるなら、俺は……」

 

「ライナーくんはどうしたいの?まだ君の任期は6年あるし、お国のために命を捧げているのだから、最後まで戦い抜くことが、戦士であるあなたに求められる姿だと思うけれど」

 

「人をたくさん、殺したのにか…?」

 

「何を今更。それが“戦士”でしょう。それを言うなら私も巨人の正体がエルディア人であると知りながら、調査兵団に入って、お兄さまと会うために殺し続けた」

 

「それだけじゃ、ない。マルセルは俺のせいで死んで、作戦をベルトルトやアニに言って無理やり実行させた挙句、最終的にベルトルトを……失わせた」

 

「ベルトルトくんもアニちゃんと同様に監禁されていたら、まだ命はある。だからアニちゃんもその可能性を信じて、フーバー婦人の元へよく訪れて、励ましている」

 

「でも、俺は、マルコのことだって………俺は、俺は戦士で…兵士じゃ、な……ッ」

 

「……落ち着いて、大丈夫だから」

 

 今にも過呼吸になりそうな少年の背を撫でる。人格が分離していた点を考えるとこの子、塩梅を間違えたら精神が簡単に壊れるな。気をつけながら追い込んであげないと。

 

 

 何となく、お兄さまが私にライナーくんを同伴させた理由が分かった気がする。

 

 彼の精神面をフォローして欲しかったのだ。確かに戦士がこの調子では目に余る。

 

 精神病院に入院歴のある私から見て、今のライナーくんは生きること、命を奪うこと、戦うことに疲れている。

 このまま放っておけばいずれ()()になる道を選んでしまいかねない。そんな危うさがある。

 

 アニちゃんがよく彼を蹴っている、とお兄さまから聞きましたが、存外彼女はこの少年を心底嫌いながらも、励ましているのかもしれない。

 

 そう簡単に死ねると思うなよ──という意味合いも、含まれていると思いますが。

 

「冷たい言葉を言ってしまうと、あなたのその“罪”は私のものではない。私や他人に相談したところで、君の“罪”はなくならない。背負うしかないのよ。そんな覚悟もないのなら、君は戦士になるべきではなかった」

 

「……ッ」

 

「けど」

 

 ベンチから落ちた後、そのまま地面に腰を付けていた彼の元に近づいて、座り直す。

 そして太い膝に手を置き、伏し目がちに相手の顔は見ないまま、こちらの横顔が少し見える程度に視線を斜めに向ける。

 

 

「苦しいのは君だけじゃないんだよ、ライナー・ブラウン。アニ・レオンハートやベルトルト・フーバー、それにジーク・イェーガーも、その心中に暗い闇を抱えている。

 それもあなたたちにのし掛かるのは、「死にたい」という気持ちさえ許されない“罪”なんだ。

 だから腕を失おうが、足を失おうが、精神が壊れようが────その命が()()()()()に向かうまでは、進み続けなければならない」

 

「………」

 

「でも…それでもね」

 

 悲痛に歪んだ金色の瞳に目を合わせて、後頭部に手を回し撫でてやる。なるたけ優しいトーンに声を落とし、微笑みかけた。

 

「実際に“罪”を抱えている側からしたら、私の言葉なんて煩いものでしかない。どこにでも逃げ道は必要なんだ。だから辛い時やどうしようもない時は、酒でも女でもいい、気分を紛らわすといいよ。もちろん完全に逃げてはならないけれど。少なくとも、ライナーくん自身の大切なものがある以上は」

 

「……俺の、大切なもの…」

 

「アニやベルトルトくんにも、大切な存在がいるでしょう」

 

「………言われ、たんだ」

 

「言われた?」

 

「……エレンに、言われた」

 

 ボソボソと話すライナーには、在りし日のナイスガイの姿はない。

 

 彼曰く、エレン誘拐に失敗した時、『お前らができるだけ苦しんで死ぬように努力する』宣言をされたそうだ。

 エレンくんは瞳をかっ開き、笑っていたらしい。その表情がライナーくんは忘れられないと。

 

 お姉ちゃんがいない間に他人をここまで曇らせるなんて──流石私の弟。

 

「忘れられないんだ。俺を裁くのはきっと、アイツだって…」

 

「じゃあ裁かれることに希望を持って、生きてもいいんじゃない?その方が、君の心が楽になると言うなら」

 

「………」

 

「裁いてくれる人間がいるだけでもきっと、“罪”を持った人間には多少の救いになる。私もお兄さまがいなくちゃ早々に死んでた。…いえ、というか、よくまだ生きていると思う」

 

「………」

 

「それに君が死んだら、悲しむ子がいるじゃない。すぐ近くに」

 

 正面には遠くの方でテオ・マガトの前で整列し、話を聞いている子どもたちがいる。中央辺りで背筋をピンと伸ばし、教官の話を一字一句聞き漏らさないようにしている少女の姿は、可愛らしくさえあった。

 

「ガビ……」

 

「私もライナーくんがいなくなったら、悲しいよ。アニちゃんはどう思うか…ちょっと微妙だけど」

 

「………アウラ、さんも」

 

「うん?」

 

「……アウラさんも、悲しんでくれるのか?」

 

「そりゃあ、悲しくなるよ」

 

「そう、か…」

 

 また下を向いてしまったライナーくん。私の「曇曇ヨシヨシ」が効かなかったのだろうか。

 

 と、思ったら彼は立ち上がって、こちらを向く。私の両肩を掴むと、視線を彷徨わせながら餌を求める魚のように口を動かす。握力を考えて私に触れてほしいです。これでも加減しているのかもしれませんが。

 軋む肩に、アニの「ゴリラ」発言を身に染みて感じた。

 

「ゴ……ライナーくん?」

 

「お…俺は」

 

「う、うん」

 

「アウラ、さんのこと………」

 

 次の展開を予想していた折、ゴリライナーの後方で近付く影が見えた。痛みに若干呻いてみせている私の反応を見ると、眉間に寄っていた皺がさらに深くなる。そして握られた拳が、目の前の男の脳天にぶつかった。ゴッ、という勢いに火花さえ見えた気がする。

 

 

「何発情してんだ、クソドベ」

 

 

 オールバックの金髪と、左右のサイドを刈り上げにした独特なヘアスタイルの少年。ライナーと同期の彼は、戦士の男性陣と比べると一回り小さい。私とそこまで身長は変わらないでしょう。

 

 少年────ポルコ・ガリアードは、深緑のジャケットのポケットに両手を突っ込んで、地面に転がったライナーくんを睨め付ける。

 

 控えめにお礼を言うと、鼻を鳴らしてポルコくんは去って行った。

 単純に私を助けたというよりは、《鎧の巨人》の継承権を巡って火花をぶつけていた関係だったがゆえに仲が悪く、そこから転じて鼻についたライナーくんにストレスをぶつけたのでしょう。ヨロイの君ってば、なんて不幸で可哀想で、かわいいボーイなんだ。

 

「だ、大丈夫?」

 

「……あ、あぁ…」

 

 少しよろめきながらライナーは立ち上がった。

 

 先ほどの話は上手くうやむやになり、二人揃って()()()腕章を付けた、少年の後ろ姿を見つめる。

 視線を横に向ければ、ジッと、深緑の背中を黄金の瞳が捉えていた。そこに縋るような色が一瞬映る。

 

 そう簡単に救いを与えてはやれないよ、ライナー・ブラウン。私は甘くないのだから。殊に己の「生」の欲求が関係すれば。

 

「ねぇ、ライナーくん」

 

「…ん?何だ」

 

「あのね」

 

 

 

 ────彼にヨロイを()()()()()()なんて、思ってないよね?

 

 

 

 見つめていた黄金の瞳が丸くなる。私の読みは間違っていないようだ。

 まだ任期は六年ある。ここから先は戦争が待ち構え、そして“世界の秘密”を知ったパラディ島の人間も動き出すだろう。

 

 だからまだ死ぬには早い。最後まで最後まで、苦しみ抜いた先に命を散らす美しい様を、私にぜひ見せてほしい。それこそグリシャ・イェーガーやベルトルト・フーバーのような人生の中で最も輝く姿を、私に見せてくれ。そして……感極まらせてくれ。

 

 

 同時に、悲劇の舞台は複数残されている。

 

 長年候補生でありながら、巨人を継承していないポルコ・ガリアードや、アニ・レオンハート。お兄さまやエレンくんは当然のこととして、他にも巨人の継承者関連なら──ーそうですね。

 

 

 

 

 

 ユミル。

 

「フリッツ」ではない、ただのユミル。

 

 

 彼女が死んでいないことをアニちゃんから聞いた後、すぐに過去の歴史的事実を漁って、時間をかけてたどり着いた仮説。ユミルくんが「楽園送り」にされた元マーレに住んでいたエルディア人であることは、容易に想像がつく。

 

 そこから調べて、かつて──約六十年以上前に政府が行った大規模な弾圧にたどり着いた。

 

 それは、「始祖ユミル」を崇拝するエルディア人たちによって構成されていた組織であり、彼らはひとりの少女を「ユミル」として崇め讃えていた。

 

 ただの偶然かもしれない。

 しかし『イルゼ・ラングナーの日記』の件を話した後の彼女の取り乱しようといい、その後のまるで覚悟を決して巨人化した姿といい、この偶然を“ただの偶然”で済ませる事ができなくなっている。

 

 もし私の推測、「ユミル」として祀られた少女=「ユミルくん」なら、私は彼女のお話を聞かなければならない。

 

 その苦悩を、絶望を、悲劇を、私に浴びさせて欲しい………♡

 

 

 しかして、現在のユミルくんの様子を見たアニちゃんの記憶だと、彼女と話すことは叶わないでしょう。元々顎をポルコくんが継承する予定だったみたいですが。

 

 継承を行う儀式の間において、ポルコ・ガリアードが注射器を打つ直前に聞いた言葉。

 

 彼女は、微笑んで言った。

 

 

 

()()()()」──────と。

 

 

 

 その言葉を聞き、注射器を持ったポルコの手が止まった後、彼女の体は結晶に包まれた。

 

 ──そう、つまりユミルくんは今、アニと同じ状態にある。

 

 顎の能力は硬質化をも噛み砕く能力があるらしい。だが肝心の顎が眠り姫な以上、手出しができない。他にも方法はあるかもしれませんが、無理やり壊せばその中身の本体が壊れて死に、巨人の力が行方知れずとなる可能性もあるため、上層部も下手に手を出せない状態のまま、保管されているようだ。

 

 その結晶に接触できれば、ユミルくんとコンタクトが取れるかもしれない。

 果たして彼女の意思によって結晶化が起こったのか、それともユミルちゃんの仕業なのか。今のところは分からない。

 

 けれどこの一件で、一つの可能性に私は思い至る。

 

 それはこれからユミルくんの経過を見て考えていきますが、仮にもし可能であるのならば──60年以上も経って人間に戻った彼女の姿が、当時と変わっていなかったのならば──。

 

 

 ()()()()()()()()()()ことができるなら、お兄さまにも魔法を掛けることができるはずだ。

 

 そうすれば永久に、ジーク・イェーガーを我が物にできる。




・実現しなかったネタ

アウラ「おっぱい揉んで」
ライナ「え?」


・光る円環の物体
 一人だけ描写されていない人間がいるような……。
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