ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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お願いマッスルしろ、ジーク・イェーガー(唐突)

ラッコ鍋食え、ライナー(狂気)

腹筋見たいです、アニちゃん(変態)


後ろを知らない少年少女

 戦争だ。

 

 先のパラディ島攻略の失敗によって《超大型巨人》を失い、また《顎の巨人》の結晶化を受けて、実質二体の巨人の力を無くしたマーレ国。中東連合はマーレは弱体化したと見做し、これを好機として宣戦布告を行ったことにより、戦争が始まった。

 

 前線で戦わされるのはマーレ兵ではなく、エルディア人である。そもそも現在は志願兵制はあるものの、マーレ人の徴兵制度はない。「悪魔の民」の兵士の一部は戦場にてバケモノへと姿を変え、敵の兵士を、民を貪り食らうのだ。

 

《獣の巨人》の叫びによって引き起こされる悪夢は、まさしく地獄絵図である。

 

 マーレ国が主な軍事戦力として巨人を使うため、より一層エルディア人が忌避され、生存権すら危ぶまれる状態へと陥っている。

 

 そのため、巨人の脅威というものはエルディア帝国が無くなったにも関わらず、根強く存在する。

 

 

 

 

 

 そんな状況で上層部がピリついている中、将来戦士を目指す少年少女は“名誉マーレ人”、あるいは別の目的をもって訓練に励んでいた。

 

 今日もまた基礎体力作りや座学や戦闘訓練など、頭の先から爪先まで溶けそうな疲労を抱え、帰路につく。

 必然と子どもたちのグループは分かれる。隅の一角では、五人の子どもたちが固まっていた。

 

 

「だらしない、ファルコったら。兄貴におぶってもらっちゃって」

 

「そう言ってやるなよ、ガビ。お前もこの間こっそりライナーさんに肩ぐる──」

 

「わっー!言わないでよ!!」

 

 従兄のライナーの件を持ち出され、顔を真っ赤にしているのはガビ・ブラウン。

 

 対し疲れバテてしまった弟、ファルコ・グライスを背負って歩いているのは、兄のコルト。

 

 ちょうど第二次性徴期のコルトの体は、ここ最近ぐんぐん伸びている。それと比べればファルコやガビ、そして三人の様子を後方で見ながら笑っている銀髪の少し冷たさを感じる少女、ゾフィアや、もっさりとした黒髪で楕円のフレームの眼鏡が特徴的な少年、ウドは一回り以上小さい。

 

 常は良きライバルでありながらも、彼らは仲良く過ごしている。

 

 五人揃って戦士候補生になれたらいいな(コルト談)──や、ファルコじゃ無理だね(ガビ談)──や、継承できるなら誰がどの巨人を手に入れるかなど、楽しげに話し合う子どもたち。

 

 一番年上であるコルトは中東との戦争のことや、その展開など悩ましく思うことはあれど、話をガビたちに合わせる。

 

 パラディ島の一件があったものの、子どもたちにはやはり巨人の圧倒的な力への信頼が存在する。

 

 そこにはもちろん、戦士たちへの大きな尊敬も含まれている。だからこそ戦争に入った中でも、幼い子どもたちには緊張感が足りないのだろう。

 

 

 現状まず候補生入りが確実とされているのはコルトであり、教官のお墨付きである。

 

 次点のガビに続いて、ゾフィアやウドも上位に入っている。唯一ファルコは下から数えた方が早い順位であった。それに一番悩んでいるのは、ファルコ本人である。

 

 巨人を継承するならば、鎧はまず間違いなく戦士候補生のポルコだ。

 彼はファルコたちとは訓練メニューが全く異なる。仮にコルトが同じメニューを行えば、半分も終えられずに今の弟と同じ目に遭うだろう。

 

 ポルコの継承が《獣の巨人》でないのは、単純にその人による得意・不得意が関係する。彼は頭よりも体を使うタイプだ。

 

 ライナーが“始祖奪還計画”の失敗の後、肩身が狭くなっているのはコルトだけでなくガビも感じている。

 

 

 もし此度の中東連合との戦果次第では、ライナーの鎧が剥奪される可能性も十分ある。──否、すでにされてもおかしくはなかったのかもしれない。

 

 宣戦布告の気配を感じながらポルコに継承させたとして、すぐに実戦に駆り出すのは危険だ。使い慣れていないという理由で死なれては困る。ただでさえ対巨人用兵器の開発は諸外国で進んでいるというのに、

 

 そのため不振が続いているライナーでも、ポルコよりは戦場慣れしているから──と、まだ継承は行われていないのだ。

 

 ライナーの鎧を継承する気満々だったガビとしては、ショックの大きいものだった。

 

 それでも闘志を燃やし、年上のポルコから必ずや鎧を勝ち取ってみせる!と意気込む姿は、ドベ時代の従兄と大きく異なる。

 

 

「でも、あの筋肉に勝てるかなぁ…」

 

 母親から写真で聞かされていた今のコルトと同年代くらいの従兄の姿は、五年ぶりに故郷に帰ってきた時は分厚い筋肉に包まれていた。

 

 その上腕二頭筋につかまり、「高いたかーい」をしてもらうのが、ガビの中で密かなブームであったりする。

 

 しかし、その上腕二頭筋に打ち勝つ筋肉の隆盛を誇っているのがポルコの肉体である。

 シャツから浮かび上がるその形は、筋肉の躍動を隠しきれていない。

 

 アニがよくライナーを「ゴリラ」と呼んでいるのを、ガビだけでなく他の子どもたちも見かけたことがある。しかしそれに対して、ピークがアニに「ポルコの方がすごいよ、筋肉」と言ったことがある程だ。

 その後アニは無情にも「ライナー(アイツ)は顔がゴリラだから」と返した。

 

 

 ──とまぁ、鎧の継承はすでに埋まったようなものであり、獣に関しても、統率能力や状況処理能力などが評価されているコルトが適任だろう……と、考えられている。

 

 そのためか、ガビは鎧を諦めてはいないものの《女型の巨人》にも目を付けており、アニと雰囲気が少し似ているゾフィアも、女型がいいな、と内心考えている。

 

 ただしその前に少年少女には、戦士候補生の選抜がある。

 

 近い未来ではなく遠い景色を見ようとしてしまうのは、幼さゆえの視点であろう。

 まだ戦士の「地獄」を経験する前の、血に塗れていない、無垢な彼ら。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇコルト、ちょっといい?」

 

「ん、何だ?」

 

 帰宅路、夕暮れの陽を浴びて赤く染まった子どもたちは収容区に着く。

 ゾフィアやウドと別れ、今いるのはガビとコルト、そして兄の背に揺られ眠ってしまったファルコ。

 

「あのね、お願いしたいことっていうか…協力してもらいたいことがあって」

 

「俺にか?」

 

「うん。その、ライナーのことでね」

 

 ガビは従兄の立場が危ういことを肌で感じており、同時に精神的にひどく落ち込んでいることにも気づいていた。

 ガビや家族の前では無理をして笑ってみせるが、少し痩けた頬と、うっすらとある目元の隈は隠せていない。

 

「あの島で五年も過ごして、ライナーはすごく辛かったんだと思う。詳しくは教えてもらえないけど、教えてもらわなくても分かるよ。奴等は……悪魔だから」

 

「ガビ……」

 

「だから私は絶対戦士になって、ライナーの分まで頑張る。あの悪魔どもを──私たちを苦しめる奴等を、皆殺しにするんだ」

 

「…お前のその部分はいいところでもあるけど、悪いところでもあるからな」

 

「なに、パラディ島の人間たちは悪魔じゃないっていうの?」

 

「そうじゃなくてだなぁ、なんて言えばいいのか……お前の「こうだ!」と決めたら限界を超えて突っ走るところが、危なっかしいって言いたいんだ」

 

「この私に短所なんてあるわけないじゃない!」

 

「あるんだなぁ、それが……現に今も」

 

 冷静にガビを見るコルトに、ムッキャァー!と、子猿のように怒るガビ。

 騒ぐ少女の声に眠っているファルコが唸ったところで、コルトは口元に人差し指をつけて荒ぶる少女に鎮まるよう求めた。

 

 

「フン、じゃあ手伝ってくれたら許してあげる」

 

「手厳しいなぁ…まぁいいよ。何を手伝って欲しいんだ?」

 

「それはね……ライナーを励ましたいの」

 

 ガビたちが戦争でさらに精神的にも肉体的にも疲れるであろうライナーのために、エールを送る。

 具体的な方法については、まだ考えていないようだ。

 

「まぁー美味しいごはんを作ったり、かわゆい私が励ましたり……。そのほかに何か思いつきそうなこととかない?」

 

「かわゆいガビねぇ…」

 

「何よその半目!よく見てよ、かわいいさしかないじゃん!!」

 

「うんうん、かわいいかわいい」

 

「ムキィー!」

 

「おっ、かわいい猿の声がするぞ?」

 

「本ッ当に怒るよ!!」

 

 そう言いつつ、コルトの腹に容赦ないパンチを繰り出すガビ。

 それを受けるコルトはガビに対し【かわいいフィルター】が常にかかって見えている弟のことを思い、苦笑いした。本当にかわいい少女は、暴力行使になど出ない。

 

 

 そうだ、本当のかわいいってヤツは────と、コルトが思ったその時。

 

 彼の脳裏に過ぎったのは、一人の女性の姿。

 

 

 

 時たま訓練場に隣接したベンチに腰かけて、読書をしている女性の後ろ姿。

 

 特殊な事情で一般人──と言っても“名誉マーレ人”であるが──ながら、軍事基地内の戦士用の住居に住んでいるという人。

 

 訓練中遠くに座るその姿を見つけてしまうと、そのあといくら意識しても、視線がそこへ吸い込まれてしまう。

 

 他の子どもがマガトに彼女について尋ねたこともあった。

 内容は「あの場にいていいのですか」であった気がするし、彼女の事情について把握し切れていないところから、「だれでしょうか」だった気もする。

 

 

 マガト自身は質問に対し、パラディ島の作戦において戦士たちに協力した人物である──と、端的に語った。

 

 また、禁止されている区域には入っていないため、あの場所で本を読んでいても別段問題はない──とも。

 

 ついで、不用意に外部へ情報を漏らさないように──とも告げていた辺り、コルトはかすかに政府の闇のようなものを感じ取った。詮索はしなかったが。

 

 

 その話はやがて子どもたちの間で点と点がつながり、彼女が戦士長と関連があることがわかった。

 妹であると判明するまでは、夫婦説が濃厚だった。兄妹と聞いても容姿がほとんど似ていないため、疑わしい声を上げる者もいた。

 

 女性の年齢は20代前半で、肩に少しつく程の焦げ茶色のストレートな髪。瞳は青みを帯びた明るい灰色だ。

 

 かく言うコルトは帰り際、出先から帰ってきた女性の姿を見かけた時なんかは、こっそりと見る。

 

 まだ年が一桁の子どもからしてみれば、大人の女性の良さというのは分かるまい。皆、最初こそ女性の珍しさに視線を向けていたが、その内慣れれば挨拶をするか、視界にも入れず通り過ぎるといったリアクションを取る。

 挨拶を受ければ女性はきちんと返す。それも、極上の微笑みで。

 

 コルト少年もまた声をかけようと思いつつ、一度もできた試しがない。毎度脳内「おっふ」で終わる。

 

 

 思春期も真っ盛りな彼の年齢からすると、大人の、それも眉目秀麗な女性というのはど直球に欲をくすぐる。

 

 だからこそ仲間が以前、女性がライナーと共にいて、さらに距離が近かったという話を聞き彼は思った。

 

 彼女と年の近いライナーが、羨ましいと。

 

 コルトと女性の年齢差は、約10歳はあるだろう。そこまで年齢に差があると、話しかけづらい。かと言って、彼よりもっと年が離れている少年少女は女性にやましい心などなく話しかけられる。

 

 戦争が本格化し始める中で、血に染まっていない子どもたちとまた違った方向で、コルト・グライスは懊悩した。

 無論自分の目的や、国の状況を分かりながらも。

 

 

 

「俺はこのままじゃダメだ……」

 

「ハ、何が?」

 

 思春期に心を乱される少年の心などつゆ知らず、アニ以上の鈍感ガールの気配を漂わせるガビは、コルトに胡乱な目を向ける。

 

「……ガビはさ、あの女性(ひと)のことどう思ってるんだ?」

 

「あの人って?」

 

「ほら、偶に外で本を読んでいる片足の……」

 

「あぁ、戦士長の妹さんでしょ?」

 

 戦士長の過去を踏まえれば必然と、女性がかつて「楽園送り」にされた人間だと分かる。それを抜きにしても「悪魔の末裔」の中で長く過ごしたのだ。同じ収容区のエルディア人の仲間であっても、パラディ島で過ごしたならば……ということを考えると、想像できるガビの反応は二つに分かれる。

 

 しかして少女は肯定とも、否定とも取れない微妙な顔をする。

 

 

「うーん…ライナーに聞いたことあったけど、すごくいい人なんだって。でも同時に、大切な人のためなら、切り捨てられる人でもあるって」

 

「……聞いてたのか」

 

「うん、だって戦士でもない一般人が始祖の奪還作戦に協力してたって知っちゃ、気にもなるよ。そこら辺はライナーも言えないことがあるから、結構ボカされてたな」

 

「そ、そうか」

 

「もし気になるなら、自分で話して確かめてみろ、って言ってた。まだ話してないけどね」

 

「意外だな。お前は気になったらすぐ特攻するタイプなのに」

 

「ん〜……なんかちょっと近寄りにくいっていうか、私一人で行く勇気がないの。自分でも、普段の私じゃあり得ない…って思うくらい」

 

「………じゃあ、行ってみるか?」

 

「え、マジ?」

 

「マジだ」

 

 コルトはまた、関係性はわからぬものの、ライナーと距離の近い彼女が声援を送れば力になるのではないか、と提案する。

 

「あと本当に付き合っているか探りたい。俺の今後のために」

 

「え、ライナーって付き合ってんの、あの人と!!?」

 

「ばっ、まだわからないって!まだ……そう、まだ」

 

「じゃあ私ライナーに聞いてみるよ、あの人のこと好きかどうか。戦争で本格的に駆り出される前に、私たちで元気づけなくちゃね!」

 

 二人の意向は決まった。ゾフィアとウド、ファルコも交ぜての計画であるが、コルトは女性と会う際はガビと自分二人だけで行こうと話す。弟ファルコの想いに気づかない鈍感少女はともかく、自身の思春期なハートを年下二人や弟に知られたらと思うと、顔から火が出そうになるためだ。

 

 

「………」

 

 

 そんな兄の背にいる途中から起きていた弟は、薄目を開けつつ居眠りを続けた。

 

 しかしガビがそんな少年の薄目に気づき、結局ファルコもまた連れて行かれることになるのである。

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