昼ドラがおいでましそうで怖い…。
ベンチに腰掛けて日光浴を楽しむようになった、はかなげ美女ちゃんはだぁれだ?
────そう、それは私、アウラ・イェーガーである。
戦争が始まって生まれる人間の悲劇にオラワックワクしている反面、まだ本格的な戦いが始まっていないものの家にいることが少なくなったジークお兄さまに、気狂いそうなほど寂しさを覚えている私。
最早お兄さまが帰ってきても兄の自室から出ず、逆に見せつけるように寂しい妹をアピールしている。
ただベッドの上でそのまま寝てしまった翌朝。代わりにソファーで寝ていたお兄さまを見た時は、寝顔を堪能した後に迷惑をかけたことに、本気で死のうとベランダから飛び降りようとして、異変を察知したお兄さまに止められた。お兄さまの曇り顔は、相も変わらず輝いていた。
そんな、寂しくて死ぬうさぎのような精神状態で送る我が日常。
本日は図書館に赴いて、夕方ごろに帰還した。門前の衛兵の方たちとは軽い会話程度なら交わすようになり、初めは距離を置いてこちらを眺めるだけだった戦士志望の子どもたちも、声をかけてくるようになった。
子どもは天真爛漫でよいですね。その分少年少女が見せる絶望というのは純度が高く、とても気持ちの良いものです。
過去にもし戻れるのなら、ドベ時代のお兄さまをヨシヨシペロペロしたいですね。
今心の中の金髪の女憲兵さんが「逮捕だよ、この変態ブラコン
「……ん?」
コツコツ音を立てて歩いていた折、隅を歩いているこちらと反対側の木陰の後ろから、視線を感じた。広い道にはポツポツと子どもが通っている。
目を凝らしたそこに居たのは、しゃがみ込んでいる少女と、その後ろで立って同じようにこちらを窺っている少年。以前ライナーくんと話したガビ・ブラウンと、グライス兄弟の上の方だ。
ガビちゃんは丸い瞳をさらに大きくして、こちらを観察している。
対し子どもたちの中でも頭一つ飛び抜けているグライス兄からは、熱視線を感じた。
これはもしかしなくとも、コルトくんの方は私の魅力に参ってしまっているな?
──仕方ないね、美女だもの。それも傾国の美女だもの。
年上からは甘やかされてばかりで、告白された回数は少ない。団長や兵士長、ミケ分隊長などは例外だ。全くこの美貌が効かなかった。
逆に年下からは無数にある。エレンくんで培われたお姉ちゃん属性が作用しているのでしょう。“年下キラー”とはこの私のことだ。
また一人、被害者を作ってしまった。コルトくんは親族に復権派を持った繋がりがあるので、関わりができたら叔父のことを持ち出して心を揺すってあげましょう(ゲス)
「あの、ちょっといいですか?」
と、こちらへ駆け寄ってきたガビちゃん。コルトくんは完全に恋する乙女状態で、尚も木の陰からこちらを見たまま。可愛いな。
ガビは片方が付いてきていないことに気付くと、走って戻り、腕を引っ張りながら連れてきた。
「えーっと…何かな?」
人畜無害の美女を装って微笑むと、ガビちゃんは口を一瞬への字にする。
それで、この子が勘が鋭いタイプだと悟った。
また、それこそ少女本人が気づかない程のわずかな恐怖が瞳の中に過ぎったのも、感じ取った。
あまりこの子の前では黒い考えを持たない方が良さそうだ。私としても曇らせがいのあるライナーと違って、この少女が曇らせにくいタイプであることはナイスガイの情報で分かっているから、関わる利点があまりない。
ただし、ライナーくんの感情を翻弄するために利用する可能性は大いにある。
「お願いしたいことがあるんです、ジーク戦士長の妹さんに」
ガビ曰く、ライナーくんを励ますために協力して欲しいそうだ。
ライナーを元気付けて欲しい──とのこと。子どもたちの方は、後で各々用意したプレゼントを渡すらしい。
精神的疲労が子どもたちにまで伝わっているって、大丈夫じゃないですね、ライナーくん。
初回のアウラセラピーでは追い込むことを前提とした“鞭”でしたので、ちょうどいい機会です。今度は“飴”の出番が来たというわけだ。
それで私にお願いしたのは、彼と共にいる姿を見たことがあるから──と。それも、至近距離だった二人を。
恐らくこの間、ライナーくんを「ゴリラ」と言おうとしてしまった時の出来事ですね。
ガビちゃんはついでに、ライナーのことをどう思っているのか尋ねてきた。ど直球かな?
思考に残っていた「ゴリラ」と言いそうになり止めて、「優しくて強い子かな」と、返す。
少女は難しそうな顔をしたのち、ついてきて欲しいと頼まれたので、OKした。
いつも私が座っているベンチでライナーくんと、彼を呼びに行ったグライス弟が待っているそうだ。
移動している間は私が本当にアニたちに協力したのか──や、壁内はどんな所だったのか(コレについては口外禁止の部分に該当するので話さなかった)。
また、一度「楽園送り」にされた私がマーレや壁内人類をどう思っているかなど、ガビに聞かれた。
アニの件は首肯する。マーレについては特に恨みはないとして、ライナーにも話した“罪”と“罰”の件を子どもでも分かりやすいように、且つあまり生々しくならないように噛み砕く。
壁内人類については心残りは多けれど、それ以上に大切な人がいるから今ここにいるんだ──と話す。
「大切な人って、ライナー?」
「……ライナーくんではないかな」
「ハッ…!」とした顔をしたけれど、それにひしひしとライナー大好きなオーラを感じ始めたけれど…ガビちゃん、私の全部はジーク・イェーガーに捧げられていて、ライナーくんに「生」を感じることはあっても、彼が私の生きる理由にはなり得ないんだよ。残念ながら。
それを言外には出さず、お兄さまが大切な人であることを話すと、少女は瞳を今日イチに開く。
私を見つめるその瞳の中はゆらゆら揺れて、めいっぱいの同情心を含ませる。アレ、この子結構………愛らしい。
「ガビちゃんはライナーくんのこと、大好きなんだね」
「……うん」
「きっと彼は、優しい
似た共通点を見つけて、それを利用するのが話しづらい相手には使える。
ガビちゃんのキーポイントはやはりライナーだ。それも年が大きく離れている彼女にとって、戦士である彼は憧れを抱く存在に違いない。従妹だけでなくグライス兄弟やその他の子どもたちにも、みんなの兄貴分は文字どおり「兄」のような存在と考えられる。
そしてベンチにたどり着くと、ライナーくんとグライス弟が座って雑談をしており、ガビに声をかけられてこちらに気づいたライナーくんが目を白黒させた。
どうやら私が来ることを知らされていなかったらしい。
ガビちゃんは「じゃあ私たちは行くね!」と言い残し、三人は駆けて行った。本当に去るわけではないだろう。陰でこっそりこちらを観察する気だ、絶対。
というか結局、何かもの言いたげだったグライス兄は話しかけて来なかった。既視感を感じたものの喉元まで出かかって、そのまま思い出せずに終わる。
最後に微かに「さ…なら、俺のは……い」という途切れ途切れになった声が、聞こえた気もしましたが。
さて、どうしたものか。ライナーくんは走り去っていく子どもたちに眉を寄せつつ、空いた場所に座ろうとする私を見ると、途端に困った表情を浮かべる。
「悪い、ガビたちが勝手に……」
「いや、いいよ。可愛い子たちじゃない、ライナーくんを励ましたいからって、私に協力を持ちかけたのよ」
「それが、アウラさんがここに来た理由になるのか?」
「うん、そうみたい」
座るこちらに過剰なまでに隅によって、場所を空けるライナー。ありがとう、と呟いて、ほぼ中央に座った。独特な形の眉が下がって「!?」と、モロに顔に出ている。私の嗜虐心をくすぐらないでくれ。
まぁ今回は“飴”のセラピーですので、これ以上虐めては元も子もない。早速“飴”タイムに参りましょう。
端に座り直した私は、膝を軽く叩く。こちらの意図がわからず首を傾げる少年を無視して、黙って膝を叩き続ける。
「どういうこと…ですか?」
「………」
「あの……??」
ちなみに本日の私の服装は、シャツの上に羽織った肌色のボタンのないカーディガンと、深い紅色のロングスカートです。
尚も膝を叩く私に、敬語になった彼はようやく状況を飲み込めたようだった。しかしそれを行動に移せない。場所は外で、周囲に
「それは、その……ダメかと、色々」
「………」
「女性の膝には流石に、しかもここで…」
「………」
「アウラさん…?」
私はただ膝を叩き続けるだけ。ライナーくんが決めることだ、美女の膝に頭をライドオンするか否かは。私に想いを寄せていることを知っている以上、最後にとる選択は自ずと分かっていますけれど。
ここで重要なのは、私の方は何も喋らず膝を叩いていることです。
別にライナーくんに対し「頭を乗せていいよ」と言っているわけではない。──そう、私は膝を本当に叩いているだけなのです(ニッコリ)
後で不都合が起こったら、全てまるっと彼のせいにしましょう。お兄さまも「ライナーのせいにしていいよ」と仰っておりましたのでね。
「……あの、いいんですか?本当に…」
「………」
「聞いてますよね…?」
彼は私の圧に諦めたのか、はたまた誘惑に負けたのか───そのどちらでもあるのか。
体を横にして、頭を私の膝の上に乗せる。長身の体を丸くしたものの、脛から先はベンチから飛びてていた。
「よいしょ」
その顔を無理やり上向きに直すと、ライナーくんは呻き声をあげて、慌てて姿勢を仰向けに直した。
下から覗き込む私の顔はやはり美人でしょう。瞳が丸くなって──ガビちゃんと不意に似ていると感じた──逞しい喉元が上下した。
頭を撫でて始まる、飴のタイム。
「ヨシヨシ」
「……」
「ガビちゃんたちが君のこと心配してたよ」
「……はい」
「あまり、子どもに心配をかけるんじゃないよ」
「………すみません」
「私に謝るんじゃない。ただし、遠くの木の後ろで隠れている三人にも謝るんじゃないよ。謝罪ではなく行動で、彼らの気持ちに応えなさい」
「は…………アイツらやっぱり!!」
「おっと、動くなよ」
頭を両手で掴むと、起きあがろうとした彼の首からグキッ、という音が聞こえましたが気のせいにします。
「というわけだからまぁ…中東との戦争は過酷になるでしょうけれど、必ず生きて帰ってくるんだよ」
「あぁ……。本当に俺って、ダメな、奴だ…」
「ヨシヨシ」
瞳を閉じたライナーくんは、憑き物が少し落ちた顔をした。戦績次第では鎧を剥奪される可能性があったため、それも精神的にキていたのではないかと思う。
一見してその感情は、「鎧をポルコ・ガリアードに渡したい」という自殺願望じみた感情と相容れないようにも思える。しかし人間は複雑に思考する生き物だ。死にたいと言いつつ生きたいと思うなんて、ザラにある。
「死」を目前にして恐怖を抱くのがそれこそ、「生」への渇望を求めるいい例ではないか。
私はそんな矛盾しながら、そして壊れながら、その上で自分で敷いたレールを突っ走る人間を好ましく思うよ。
そうして最後まで生き抜いて死んでいく人間は、途方もなく煌めく。命の灯火を爆発させて消えていくんだ。
これを「美しい」と言わずして、何と呼ぶ。
お兄さまを────ジーク・イェーガーを
そう思いながらヨシヨシを繰り返していたら、ライナーくんが小さく「……好きです」と言った。
それに、膝枕が好きなんやね?と、鈍感美女を装う私。
この少年はこれまで関わって来た様子からして、直球に行くのが苦手だ。それこそ、本当に好きな人を前にしては。
でも言外にはちゃんと行動で示しているのだから、本当に鈍くなければまず気づくだろう。兵士ナーくんは一度私を助けたり、エレンの囮にしつつ(おそらくマーレに私も連れて行こうとして)巨人化した状態で一切ケガをさせなかったし。
私でなければ惚れる人間は数多にいる。ただ、天使ヒストリアは渡さんがね?
絶対に──絶対にだ。
女神と人間は釣り合わないのです。それを言ったら、お兄さまに釣り合う人間なんてこの世に存在しないですけれど。
「………あなたが、好きです」
ヨシヨシをする私の手。彼は「恋愛の方で」と、続ける。
うんうん、ヨシヨ……………うん?
思った以上にというか、ヒストリアちゃんと私で優柔不断に悩む精神があったと思っていたのだけれど、戦士ナーくんったら結構本気で私のこと好きなのか?
もしかして、ヨシヨシしちゃいけなかったのか?視線が熱を帯びていない。
真っ直ぐに向けられた黄金の眼は、真剣そのもの。
「あぁ、うーんと?」
「好きです」
「うん……うん?」
「付き合って欲しい…です」
「う〜〜ん?」
私はひとまず止まっていたヨシヨシを再開して、膝の上の少年を見て、空を見て───、どうしたものかと頭を悩ます。
ハッキリ断ってしまった方がよい、と口に出そうとしたものの、寸前で口元を無骨な手で覆われる。
「考えてみて、くれませんか?」
「今返そうと思ったのだけれど」
「今は……ダメだ。答えがわかる」
「なら尚のこと、もだもだしたままで戦場に行っていいの?」
「それは……」
ほらやはり、白黒つけた方が精神衛生上いいでしょう。
「────俺が帰ってくる理由に、なる」
アウラ・イェーガーちゃん、日頃のツケが返ってきたイベントを起こしてしまったのでした。
取り敢えず、お兄さまに相談だ。