(こんな言い方してるけど、まだ最終章には入ら)ないです。
これからも多方面の性癖と地雷に触れるアウラ・イェーガーちゃんを書いていきたいです(えっ?)
「エプロン」とは、衣服の汚れを防ぐために使われる前掛けである。
調理や食事、手工業など、さまざまな用途で用いられる。
戦場に駆り出され、帰還しても仕事で忙しい男は、その日は珍しく夜が更ける前に自宅に帰ることができた。疲れた体と頭でカギを開けた先にいたのは、純白のエプロンを身につけている女。
丈の長さは膝上で、所々フリルのついているソレは世が世なら、メイドエプロンと呼ばれるものだった。
その女は男の妹であり、今会うには非常に気不味い───否、意図的に避けようとしていたほどには男にとって地雷である。
そんな妹は「お兄さま、ご飯にする?お風呂にする?」と宣ってきた。
彼女に想いを寄せるライナー・ブラウンであればきっと、オルガナーとなり左手を前に伸ばして倒れ、例の名言を聞かせてくれたことだろう。
問題は、女の肌が青白くなっていることだ。口元はうっすらと紫に染まり、体温が著しく下がっている。
では、何故体温が下がっているのか。それは側から見れば一目瞭然だ。
妹がマーレに来てからその奇行を度々目撃してきた兄であるが、その中でも中々にパンチの効いた衝撃である。
その、エプロンの下。覗くのはシャツでも何でもない、地肌だ。
肌の上にエプロン。訂正すると裸の上にエプロン。くっ付けて「裸エプロン」。
馬鹿なのか?男は思った。
心配と同時に、呆れと怒りが沸々と沸いてくる。兄が帰ってくるまでキテレツな格好で待っていたことは想像に容易い。さらに言えば自分がいることを悟らせないため、カギをかけた上で暗闇の中で待っていたことも。
「それとも、わ た し♡──────と、お話し合い?」
男は先の一件からずっと悩んでいた感情がまるっと吹き飛んで、その時ばかりは体を気遣わない妹に怒った。女に自身の着ていた上着を無理やり羽織らせ、ソファーの上に正座させて。
シュン…として見せている女はしかし、内心ビジョビジョになっていた。変態だった。
◻︎◻︎◻︎
アウラちゃん。今コーヒーを飲んでいるの。
普通に会えば暗い雰囲気に包まれることはわかっていたので、それを打ち破るために
強硬策がソレでいいのかと疑問の声があるかもしれませんが、全裸にエプロンだけの姿でお兄さまの前に出る恥ずかしさを考えたら、これ以上なく私に相応しい方法でしょう。
むしろどうして今まで私は、裸エプロンという最上級のご奉仕スタイルを思いつかなかったのか。きっとこの衣装は革命をもたらすはずです。
結果として、私は怒られてしまった。眉間に皺を寄せて「お前ねぇ…」と一〇分ほどお怒りになられたお兄さまは私を殺す気でした。
そして私は昇天して、途中でソファーの上でぐんにゃりと倒れたことでお説教タイムは強制終了した。
一応掴みとしては十分だったでしょう。気まずさは少しは払拭されていましたから。
心底呆れてため息を吐きながら自室からブランケットを持ってきたお兄さまは、私の体を包んだ。
砂糖を入れ忘れたのか、本日のコーヒーはかなり苦い。対し兄の方はいつも通り「熱ァ」と怯んでから飲み始める。
豆知識ですが、猫舌の人は
お兄さまも舌の先で飲まなければ、毎度熱さに不意打ちを食らわずに済む。しかし毛頭私に教える気はありません。当然だろ、苦しむ姿が見たいんだから。
「……で、話し合いに来たんだよな」
テーブルを挟んで私の対面のソファーに座ったお兄さまは、白い陶磁器に入った黒い水面を見つめながら口を開く。
少し、痩せた気もする。「お筋肉(=お兄さまの筋肉)」も減少してしまったのだろうか。お筋肉が、ソンナ…。
「話すって、何をだ」
「……前、のことを」
「前のこと?具体的にきちんと言え」
「………その」
兄は一切、私を見ない。湯気で曇ったメガネのせいで、その青い瞳がどんな色を孕んでいるかもわからない。今の現状を作り出したのは他でもない、私の責任で。
自分の軽率な行動が私自身を苦しめている。こんなはずじゃ、なかったんだけどな。
腹の中で疼くこの「死にたい」は確実に、逃げから来ている。本当に嫌になってしまう。
「私アウラ・イェーガーは、実の兄に……キスを、してしまいました」
「そうだな」
「そのことについて、話をしに来たの」
「話ができると思っているのか」
「……私は、したい」
「無かったことにするんだったら、もっと早く来ていただろうな。でもお前はずっと逃げていた。俺も逃げていた。なのに何で急に来たんだよ」
「このままじゃいけないと思ったから、だから…」
「どうして来たんだ、今頃」
「……ごめんな、さ」
「………」
「ごめんな……さい」
私がどう周囲に頼んでもやはり、兄に隠しきれないのはわかっていた。
一方的に被害を受けて、一方的に避けられて、そんな妹に会いに行く方がおかしい。妹の方から謝りに来るならまだしも。
ここまで冷えたお兄さまの雰囲気は初めてだ。戦場に行く前で、ピリピリしている時と似ている。
結局とことん精神がえぐれた兄を前にして、私は謝ることしかできない。家族間以上の接触をしてしまったことに対して、そして、逃げたことに対して。
でも自分の感情にだけは嘘を吐きたくないから、そこは話さなきゃいけない。
拒絶されてもいいから、話さないと私は後悔してしまうから。
もう二度と、悔いのある終わり方だけはしたくない。
「………ァ」
しかし上手く、言葉にできない。舌はあるはずなのにどうして発声できないのだろうか。
もしかしたら無くなってしまったのかと指で摘んでみても、そこには触った感触がリンクして伝わる私の舌が存在する。少し奥に指を入れすぎたせいで嘔吐き、目尻に涙が溜まった。
「……ッ」
あれ?
「………ィ゛」
あれ。
「…ぅ………」
────あれ?
視界が歪んで、正常に機能しなくなる。涙は溢れないけど、頭が熱い。だのに体は寒い。
空気を吸おうとして、肺から溢れてくるのは自分の息だけ。喉元を思わず手で押さえて、苦しさに背を丸めた。その拍子に落ちたカップが割れて、床に広がる黒い液体が視界の隅に映る。
喘ぐ自分の声が、やけに冷静に耳に入った。どうしたというのだろう。
瞬間、腕に痛みが走った。手だ。お兄さまの手だ。
おかしな状態の妹を前にして、曇りが取れたレンズの奥では見開かれた瞳が見える。そのまま背をさすられて、自分の膝におでこをつけるように丸まった。
そうして暫くして、正常にできるようになった呼吸。暴れていた心音も緩やかになり、でも頭だけは中にマグマが入っているんじゃないかというほど煮えている。
そのままソファーの上に横にさせられて、胎児のように毛布に包まりながら、溢れたコーヒーや割れたカップの後始末をしている兄の姿をぼんやりと見つめた。
室内を照らす灯りが眩しくて、ついと目が細まる。
(あぁ…そっか)
そこでようやく自分が過呼吸を起こしたのだと気づいた。
発狂したことはあれど、過呼吸は初経験だ。精神的に相当参っていたのか。アウラちゃんたら自己管理が疎かなんだから。
声は出るのかと思い、「あ゛…あー」から始めて、「ゴリラ、あー、ゴリラ」と発声できた。喋った妹に、布巾を持ったままお兄さまは何故か驚愕の表情を浮かべる。突然話した私に驚いたのでしょう。
このままお兄さまの上着と、お兄さまの毛布に包まれて永眠したい。
すべて夢ならよかった。前世も今世も何も無い。「私」という自我がない。ユミルの一部で、思考する必要のない存在でありたい。
どうしようもなく思考することが辛い。その本心は、生きることが辛い。
「大丈夫か?」
大きな手が伸びてきて、視界に影が差したと同時に頭を撫でられた。兄の手だ。兄の体温だ。
「……好き」
うわ言のように呟いた言葉に、横で屈んでいるお兄さまの目元が歪む。返事はないけれど。
兄として愛していて、家族として愛していて、同じ血を持つ人間だから愛していて、異性としても愛している。全部を混ぜた結果私の愛は「狂愛」となって、今お兄さまを苦しめて、私の首も絞めている。
──要約すればそんな内容を、ポツポツと話した。
お兄さまは何も言わない。ただ頭に触れている手は離れずに、優しく撫でてくれている。
静かに聞いてくれている。
「どれも持ってる。どの「愛」も持ってる。好きなの」
「………」
「おかしいの、わかってる。でも本当の感情。好き。お兄さまが好き」
「家族愛と恋は、成り立たない」
「私は成り立つからおかしいの、お兄さま」
全部の「愛」を持ってはダメなのだろうか。ならば私はどうやって存在すればよいのか。
愛情がなければ私がお兄さまを曇らせることもなくなる。愛しているからこそ傷つけたい。曇らせたい。狂わせたい。
「………どうしてあんなことしたんだ」
「一番じゃないから」
「……は?」
「ジークお兄さまの一番が私じゃなくて、トム・クサヴァーだったから。そしたら自分の中の何かが切れて、気づいたらちゅーしてた」
「それで、したのか…?」
「私はお兄さまの一番になりたい。一番じゃなきゃ嫌だ」
「────まて、待て待て、ソレはどこから来る感情なんだ?性的感情ではないだろ」
「うん?……そう言われればそうかもしれないけど、でも好きなのは本当だし、恋愛感情もある」
お兄さまは頭を抱えてしまった。ブツブツと「いやでもやっぱり…」と、考え込む。
そうやって心と葛藤している兄の姿を凝視していたら、顔が上がった。漏れたため息はうわずっている。口元は若干震えていた。目元は額に手を当てているので、レンズの光の反射と相まってよく見えない。
しかし確実にこれは……これは…………!!(トゥンク)
いえ、昂っちゃダメよアウラちゃん。流石にこの場でトキメいては、最上級のクソ野郎の烙印を自分で押すことになってしまう。
「……俺はお前のことを妹として想っているし、正直、裏切られた気分だった」
でも、とお兄さまは続ける。
「愛」というのは変質する。普通家族は幼少期から共に育っているため、性的感情は抱かない。
逆に言えば、家族でも幼い頃に離れて暮らせば性的興味を抱く場合がある──というような仮説的な心理現象がある。
それが私に当てはまるなら、妹の歪んだ愛情を生み出したのは自分に他ならないと、お兄さまは思った。
同時に調べた矢先で、図書館にある蔵書の裏のブックポケットに妹の名を見つけた。…え?
ブワワっと、自分の顔が赤くなる。羞恥だ。羞恥の雨だ。
ということは、ピーク・フィンガーはお兄さまの名前があることも知った上で話していたのだろうか。お兄さまが本を借りていたら、の話だけど。もし本当なら冗談だと言ってくれよ、ドベちゃん。
「お前逃げた時泣いてただろ、傷ついた顔で。傷ついたのは俺の方なのに。兄妹仲良く揃ってバカ正直に悩んで、逃げてたってわけだ」
「……お兄、さま」
「気づいてたよ。お前がさ、家族愛や信仰心めいた感情とは別の感情を持ってるのを」
「───ッ」
「これでも戦士長なんだ。家族のことで、気が狂れそうになっているけど」
「黙ってたの?」
「言えるわけがないだろ。言って何になる?兄妹の関係が崩れるのが望みなのか?…違うだろ。お前も俺が気づいているのを薄々わかった上で、接してたんじゃないのか」
「そうだとしたら…どうするの?私が死んでいた方がよかった?」
「……冗談でもそういうこと、言うな。お兄ちゃん本気で泣きそうなんだから」
「でも、妹が生きていたからお兄さまは苦しいんじゃない」
「そうだよ。苦しいよ。けどお前が死ぬ方が嫌だよ」
大切な妹だから。
ジーク・イェーガーと血の繋がった兄弟の一人だから。
私だけでなく、エレンも愛していると言うお兄さま。
共に住んだこともない上に怒り心頭なエレンとのファーストミートだったにも関わらず、盲目的な愛情だった。私は比較対象にならないけれど、お兄さまの家族観というのも、かつてと比べて大きく歪んでいる。
両親と妹を「楽園送り」にした過去を、ずっと足枷として引きずり続けている。
これは言ってしまえば“依存”。
家族というものへの依存。
だからこそ私の感情を知りながら、拒むことが出来なかった。妹の接触に性的な意図があればそりゃあ気持ち悪くなるでしょう。でも拒まない。拒めない。
だって私が妹だから。
悪魔の女が、ジークお兄さまの妹だから。
「アウラ、お前は勘違いしてるよ。俺の一番は家族で………お前だよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。何をどう勘違いしたのかわからないが、クサヴァーさんは確かに俺によくしてくれたし、今でも大切な恩人だ。父親のようにも思っている。その上で俺が
「……じゃあ、何で飾ってないの」
「何をだ?」
「私の………絵、とか」
「覚えてるのか」
「…いや、やっぱりいい」
あんな絵(結構頑張ったのに、ゴミのような画力のせいで人間の形すらろくに描けなかった)、むしろ飾られていた方が私の精神値が下がる。無い方がいいんだ。無い、方が。
「紙は日光に当てると変色するだろ」
「えっ」
「……あぁ、なるほど。あの時俺の部屋のボールでも思い出したのか」
何なら証拠の絵を持ってこようとする兄を止めた。あのハンジ・ゾエに引かれた画力など見たくない。せっかくのこの美貌が、描いた絵のせいでマイナス点をいただく程のある意味芸術的な絵を。
「…お兄さま、私は実の兄にクソデカな感情しか抱けません。それでも側に居たいです。あと五年しかないのなら尚更」
「女の子が“クソ”とか言うんじゃない」
「私もう成人してるんですけど……?とにかく、離れたくない。もう十分過ぎるほど離れた」
「………難しいよ」
「
「最低のレベルがクソ高い」
「お兄さまが“クソ”なんて使わないでください」
「俺は別にいいだろ」
「最高セッ「言わせねぇよ」………ムゥ」
仕方ありません。押してダメなら引いてみる。
交渉事は最初に無理難題を掲示して、後から本命をぶち込むものです。
「ちゅーだけでいいから」
「ダメ」
「ピーク・フィンガーとはしたのに?」
「………やっぱり、ピークちゃんの入れ知恵か」
「か、家族だってちゅーぐらいするじゃないですか!」
「お前の言うキスの範囲がまず間違ってるからな」
「え?」
「……え?もしかしてお前の普通の範囲が
「アレって?ちゅーはちゅーじゃないですか」
「待て、認識の相違だ。是正しなければならない問題が起きた」
まるで160cmの男のように手を前に出して、オイオイオイ…な雰囲気を出すお兄さま。いったいどうなされたのでしょうか。キスはキスです。キスはキス。大切なことなので二回言いますし、訂正することなんて何一つございません。
「お前がしたの、ベロチューだから」
「……?」
「小首を傾げて「言っている意味がわからない…」って顔してもダメだよ。というか俺が許さねぇよ。ピークちゃんにはボカさざるを得なかったけどさ」
「私が初ちゅーだったことも言った方がいいですか?」
「…………それは、知りたくなかった情報だな…」
タガが外れている時のアウラちゃんは自分でも驚くほど馬鹿力です。人間のリミッターが外れた状態になるのでしょう。
そんな私がお兄さまを───そう、もうお分かりですね。変態美女の逮捕案件です。
幸いアニ・レオンハートはすでに憲兵ではありません。ピークちゃんが図書館で会った時に私に引いている様子はなかったので、お兄さまがちゅーの詳細について語っていないだろうことも想像が付いていた。
まぁだからこそ、関係修復が無理だと思う要因になっていたのですが。
「じゃ、じゃあ頬でいいから…」
「………」
「ほんの先っちょだけでいいから…」
「暗にハードルを上げただろ」
「…っち、バレやがりましたか」
こっそり仕込んだ
お兄さまは俯きがちに暫し黙って、への字にしていた口を開いた。
小さく、わかった、と話す。
「ただし次過剰な接触をしたら、俺は本当にお前と……どう接していいかわからなくなるからな」
「おかしくならなければ大丈夫です」
「地雷を踏んだ例が
「き、気をつけましゅ」
「………ハァ」
遅くまで仕事をして帰ってくる時より疲れた顔のお兄さまは、私を抱きしめてあやすように背を叩く。私の心音と精神が異常値を来していますが、我慢した。
先ほどの今でどうして過剰なスキンシップをなさるの死ぬ。
「十八年ぶりに妹に会って、少なくともあの時のアウラはちゃんと“妹”だったよ。泣いて、泣き疲れちまったお前がな」
「……うん」
「兄妹のボーダーラインを守ろうともしていた。だから……ごめん」
「お兄さま?」
鼻を啜る音がする。お顔、お顔が見たいのにガッツリ抱かれているせいで金髪とうなじしか見えない。
お兄さまの泣き顔が見れない………うわあああぁぁぁぁぁ(シ◯ジの絶叫感)
「受け止めるしかできない、
でもお声だけで十分絶頂できるくらい、お兄さまは曇っておられました………♡