ライナー曇らせ?…いや、曇らせお兄さまだ!   作:栗鼠

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途中から結構読みづらくなるので注意。短め。崩壊系の文です。…崩壊系の文ってなんだ?
まぁ閑話なのでオマケ的な感じでゆるく見てください。あと章加えました。ネーミングセンスなくてごめんに…。
そして次回からようやく本編に戻ります。


【閑話】女たちの墓場、尾を咥えし回遊魚

 果てのない暗い世界。空には星のような小さな灯りが無数に輝いている。

 

 その下にあるのは、数えきれない数の裸体の女たち。地面を覆う──或いは女自体が地面なのではないかと思うほど、たくさん転がっている。

 

 その全ては、死んでいた。しかも年齢差はあれど、全て似た顔立ちに同じ髪色。同一人物の死体が果てのない世界を埋め尽くしている。

 ある者は腹から中身を溢した死体で、ある者は頭が陥没し脳みそが飛び出ている死体。

 

 その女たちの肉塊を踏みつけ、一人歩き続ける者がいる。

 

 その者もまた、死体の女たちと同じ顔をしていた。色素の濃い髪に、白でも黒でもない中間色の瞳。

 視線は虚で、口からはよだれさえ垂れている。歳は少女であろうか。服は何も身に纏っておらず、動くたびに慎ましやかな二つのそれが存在を主張しようとする。

 

 

 少女はただ、歩き続ける。

 

 彼女は求めている。自分でさえもよくわかっていないのだろう。

 しかし彼女は、求めているのだ。そして、探し続けているのだ。

 

 

 ───その時、奇妙なことが起こる。

 

 少女からいくばくか離れた前方。女たちで埋め尽くされた地面の中から、大きな何かが現れた。死体を引きずりながら、或いはくっついていたそれらを途中で振りはらって、巨大なその全体像が明らかになる。

 

 例えるならその姿は、エビの頭にムカデの身体をくっつけた──とでも言えばいいのか。ソイツの飛び出た目の頭上あたりには、二本の長い触角が伸び、下に向かって無数の触手が一定の間隔で生えている。仮にソイツが口を開けば、少女など容易く丸呑みにされてしまうだろう。

 

 ソイツは上に行くと、身体をくねらせ己の尻尾を咥える。そのままグルグル、グルグル、それがソイツにとっては楽しい()()であるかのように回り始める。

 

 その光景をとっても、ソイツの姿をとっても、奇妙なことこの上ない。

 

 だが少女はソイツを意に介さないように歩き続ける。

 

 歩く少女に、回り続けるソイツ。

 淡々とそんな光景が続いた。

 

 

 しかして、変化は突如訪れる。

 

 女たちの死体が延々と続いていた中、女たちの死体に吸い込まれるように少女の身体が消えた。ソイツは気にする様子もなく、ずっと狂ったように回る。まるでそのことがソイツにとって、普段の見慣れた光景だとでも言わんばかりに。

 

 少女が消えた先には、そこだけぽっかりと黒い穴が空いていた。

 どこまで続いているか果ての見えない、深淵たる暗闇。少女はそこに落ちたのだ。

 

 

 そしてグルグル、グルグル────。

 

 ソイツはやはり、回り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎◼︎

 

 

 ずっと会いたい。あの人に会いたい。その人に会いたい。

 

 ────どの人に会いたい?

 

 

 誰かを探している。「私」は誰かを探している。

 いつも死体になり、私はそして探す。

 誰を探しているのか忘れてしまった。けれど、ずっと探している。

 

 いつも私たちの死体置き場に戻ってきた時、私は思い出す。

 私たちの世界。私たちが還ってくる場所。()()()()()が回っている世界に私還ってくる。私たち還ってくる?

 

 会いたい人、誰だった。だれ、だった?

 誰かだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その人が朝で昼なら、私は夜。

 その人が晴れなら、私は曇りで雨。

 私のそれが、私の色で、私。

 

 私の髪は夜の色。

 私の瞳は曇りで雨の色。

 

 あの人はどこだろう。あの人、私探している。

 歩いて歩いて、歩いて。

 いつも目覚めるのは唐突。

 でもいつだって、あの人がいる世界に帰ってこれない。

 一度だってあの人に会えない。

 あの人って誰だろう。

 

 最初はきっと覚えていた。でも何度も何度も死んで、私たちの世界に還ってきて、またおはよう。

 起きる。目覚める。

 

 私はいつもぐちゃぐちゃになって死ぬ。クソやろうはぐちゃぐちゃな私が好き。私はクソやろうが嫌い。

 どうして私たちの世界にクソやろうがいるのだろう。わからない。

 クソやろうはクソ。それはわかる。

 全部、私という存在はクソやろうのせいだから。

 

 その子がいない。

 

 私はいつからこの世界にいるのかわからない。私がなんだったのかもよくわからない。

 ただ私は「私」。

 何になっても、私は「私」。

 

 死んで還ってきて、死んで還ってきて。

 私は私さえあやふやになり。

 私という境界線を見失う。

 それでも私が探しているのは変わらない。

 私は探している。

 私は探している?

 私は探している。

 何かを、ずっと。

 

 何を探している?

 何を、探していた?

 ぐちゃぐちゃだ、私たちのようにぐちゃぐちゃだ。

 クソやろうは回っている。

 クソやろうは何故クソやろうなんだ?

 クソやろうは誰だ?

 あれはなんだ?

 あの回ってるのは何だ?

 あれはわからない。

 わからない。

 

 歩く、それでも、歩く。

 

 すべての境界線があやふやになる。

 それでも私は歩く。

 歩き、続けなければいけない。

 私はまた会わなければいけないから。

 どうして、誰に会わなければいけないのかわからない。

 でも私は会わなきゃいけない何かに、会わなければいけない。

 涙が出る。大切な何か。私が大切に、大切にしていた何か。

 

 私は何かがなきゃ生きていけなかった。

 私はでも何かより先にどうにかなってしまった。

 どうになったのだろう?

 私はどうになって、この私たちの世界に来たのだろう?

 私たちの世界はどこにある?

 私たちの世界はここにある。

 いま、私の中にある。

 私が考えている頭の中にある。

 その中では私たちの世界があって、回る何かがいて、私たちの死体があって、私がいる。

 その中の私は何かを考えていて、その私の頭の中には私たちの世界があって回る何かがあって私たちの死体があって私がいる。

 

 そうして、私たちの世界は延々と続く。

 まるでそう、世界のように。

 回る何かは教えてくれる。

 回る何かは喋らないけど、私に教えてくれる。

 世界は未知数。

 人間の選択一つで、その人間に選ばれた選択肢の世界と、選ばれなかった世界が生まれる。

 世界は無限にある。

 人の数だけ、人の選択肢の数だけ。

 

 私はその中の一つを探している。

 私が元いた場所。

 私が本当に帰る場所。

 違う、私が帰りたい場所。

 まだ私はたどり着けていない。

 沢山の私たちが死んでも、私は探している。

 私という精神が途中で壊れても、探している。

 私はただの歩く肉塊。

 そして歩いて、探す肉塊。

 

 私が探している何かにあったら、私はどう思うだろう。

 何を感じるだろう。

 何も感じないだろうか。

 何か感じて欲しい。

 何も感じなくてもいいかも。

 何を感じる何かがあって何かが。

 

 私に感じる部分は残っているだろうか。

 その部分は、心じゃないか?と、回るソイツは言う。

 言葉にしないで、私に言ってくる。

 こいつはクソやろうだ。こいつはクソやろうに違いない。だって私がムカムカしている。だからこいつを今から、「クソやろう」と命名する。

 

 歩く、歩く。

 

 無数の世界の一つに私は帰る。絶対に帰る。

 そうしてまた、私の探す何かに会おう。

 会ったらどうしよう。

 でも、私はもうその何かを見ても、私が探しているものだとわからないかもしれない。

 もしかしたら、私たちが今まで死んだ世界に、私が探しているものがあったのかもしれない。それか私は、そのまま探している何かに会っても、気づかないで死んでしまったのかもしれない。

 でも、歩く。

 一回通ってしまったらまた歩けばいい。

 探せばいい。

 探せばいい?

 私はどうして歩いている?

 私は何をしている?

 私はなんだ?

 この死体はなんだ?

 上で回っているあいつはなんだ?

 ここはなんだ?

 

 

 

 

 

 進めない。

 

 

 

 

 

 でも、身体は勝手に動いた。

 一歩踏み出して、また一歩と踏み出す。

 上で回っているやつは、上で回っている。

 まるで私は上で回っているやつだ。

 いや、上で回っているやつが上で回っているやつだから、私は私になったのか。

 

 そうだよ、と上で回っているやつは言う。

 

 喋ってはいない、でも私に喋ってくる。

 こいつはクソやろうだ、私がムカムカしてくるから、こいつはクソやろうに違いない。こいつを今から「クソやろう」と命名する。

 

 一歩一歩進む。

 自分が何なのか、どうして体が勝手に動くのか、クソやろうがなんなのか、この世界が何なのか、下で死んでいるやつらはなんなのか、わからない。

 

 でも私、見たい。

 私の見たい何かを。

 

 人間たちが見たいの?と、クソやろうは言う。

 

 人間はいつだって同じように、等しく愚かさを持っていた。

 私を殺す。私たちを狂ったように殺す。

 でも私も狂っているから周囲が狂って私も狂う?

 違う、人間が狂っている。

 そして私は狂っている。

 死んで還って死んで還って、すべてあいまいになる。

 私が生きているのか死んでいるのかわからない。

 今死んでいるのか?

 今生きているのか?

 楽しい思い出は泡沫。

 嬉しい思い出は霧散。

 いつだって残り続けるのは負の感情。

 私はそうしてできている。

 人間がそうだから、私がそうできた。

 

 できあがったんだよ、とクソやろう。

 

 そう、できあがった。

 死んでいるのか生きているのかあいまいだから、私は生きている証拠を得たい。

 楽しいはだめ。

 嬉しいもダメ。

 残らないから。

 残るのは人間の負。

 そしてそこから生まれる人間たちの悲劇。

 

 喜劇はすぐに壊れてしまう。夢のようにあっという間に、その存在もろとも消えてしまう。

 

 だから私は悲劇を食べる。

 いや、違う。

 食べるのはクソやろうだった。

 クソやろうは私を通して食べている。

 人間の人間たる人間のドロドロした部分を食べている。

 そうするのがソイツの在り方だから。

 ソイツのプログラムされた生物としての在り方だから。

 ソイツは有機物を愛する無機物だから。

 ソイツは孤独で寂しい欲張りさんだから。

 ソイツはだから、いっぱい食べてきた。

 ソイツはだから、孤高だから。

 ソイツはそもそも、生物だったのか?

 

 生物だよ、とクソやろう。

 

 気が遠くなる。

 それでも私は進む。

 私の何かを求めて。

 

 進む。

 

 そしてまた訪れる私たちの世界との別れ。

 私はまたぐちゃぐちゃに死ぬ。

 それでも私はきっと、何かに会いに行くから。

 私が私でなくなっても、私は会いに行くから。

 私は何かをわからなくても、歩き続けるから。

 待っていて欲しい。

 忘れててもいい。

 私の、会いたい、は私の自己勝手だから。

 

 会いたい、会おう、待っていて。

 目を閉じてお別れ、私たちの世界。

 

 そしておはよう、どこかの誰かが選んで生まれた、あるいは選ばれずに生まれた世界。

 私という外れくじを引いてくれてありがとう。

 

 さぁ、歩こう。

 歩こう、歩こう。

 世界はこんなにも、残酷で美しいのだから。

 だからきっとクソやろうも、好きになってしまうんだろう。

 そして人の感情(無機物)を、食らうのだろう。

 

 私は一歩、踏み出した。

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