「もう……なんで誕生日の日なのに雪かきなんてしないといけないのかしら!」
寒さが厳しい早朝。
厚い防寒具に身を包んだ赤川千紗は、文句を言いつつもテキパキと積もった雪を屋根から落としていた。
その口ぶりからも分かるように、本日……2月12日は誕生日だった。
しかし、朝早く起きてみると窓から見えたのは一面の銀世界。
住んでいる土地柄、雪が降ったとなればやることは決まっていた。
「王子様に憧れる……なんて言ってても、今は除雪に集中しなきゃ」
来年から東京に住むことになるが、向こうではどのくらいの雪が降るのだろう。
日本海側……特に新潟は水気も多く重たい雪が降るので、よほど頑丈な作りの家でなければ、朝起きたらすぐさま雪かきをしなくてはならない。
黙々と作業していると、次第に雪を全て下ろし終えていたことに気づく。
防寒着の中身は汗と熱気が詰まっているのを自覚しながら、千紗は屋根に座り込んだ。
家の前の道路は、一本の筋を描くように除雪機が通った跡がある。
「誕生日おめでとう、私」
ふぅ……と吐き出した息は、微かに白くなっていた。
どうせならと屋根に薄く積もった雪の上から落書きをする。
しばらくすると屋根には【声優のタマゴ】という文字が並んでいた。
たとえ最初は芽が出ないとしても、卵から雛になって立派な鳥になって羽ばたきたい。
そんな気持ちから落書きをしてしまった。
階下から両親が自分の名前を呼んでいるのが聞こえる。
暖かい家の中に戻りながら、夢見る少女は未来を願う。
来年には、起きた瞬間から祝って貰えるような人と出会いたい、と。
それは叶うはずもない望みだと、千紗は当時考えていた。
それから数年後。
朝起きると、悠希たちが寝巻き姿のままで私の部屋の前で誕生日を祝ってくれた。
……もうちょっと準備できなかったのかしら?
去年はあまりにも豪勢な誕生会をされたからもう辞めてって言ったけれど……朝一番にハッピーバースデーと歌われたのは初めてだった。
それから用意してくれた朝食を食べて部屋に戻りながらスマホを眺める。
画面越しに見るキュイッターには、私の誕生日を祝うコメントが流れている。
イラストなんかまであって、嬉しさが込み上げてくるけど、♡だけ押すだけにとどめた。
きっと、夜には両親や親戚からも連絡が来る。
「声優としての生活……には慣れて来たわね」
まだ新人とつくかも知れないけれど。
そう呟きながらも早朝の空気を吸うために軽く身支度をして外に出る。
実家にいた頃が懐かしく感じる。
あの頃は雪かきを朝からして、少し不機嫌になってたんだっけ。
肌寒い空気を吸いながらも背伸びをして、再び寮に舞い戻る。
……ピロン!
ポケットの中に入れたスマホが音と共に振動した。
仕事をする上で大切だから、という理由だけで半ば強引に登録したLIME。
名前が書いてあったのを敢えて、いつもの呼び方に変更してある。
今では……別の使い方もたまにしている。
丁寧な文章で、誕生日を祝う内容が書いてあるのを見てしまい、私は仕事や、他の声優と一括りにしているのかも……なんて考えてしまう。
それでも、せっかく巡り会えた王子様を見逃すほど私も諦めてなかった。
『明日お休みなら……スキーにでも行きませんか?』
玄関先に座り込んで、真剣な表情を浮かべながらそう打ち込む。
今の私を悠希なんかが見たら……きっと笑うかも知れないわね。
一呼吸置いて送信すると、すぐさま既読が付いて了承してくれた。
「……マネージャー、明日楽しみにしてますからね」
千紗にとっては誕生日よりも……楽しみな日が出来たかも知れない。
今年もまた、大好きな人と最初にお手掛けが出来そうだった。
アニバーサリー用に本編から2年後を念頭に書いてみました_(:3 」∠)_
ひっそり楽しめたなら幸いです!
千紗×マネ最高!!!