実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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今回はオリ主の頭脳の一端が発揮される回となっております


終わりを告げた日常Ⅳ

 勉強会崩壊の後、俺はすぐに帰る気にはなれず、寮を通り過ぎて、その先にある散歩道を歩いていた。

 やはり夕焼け空は綺麗だし、見惚れる。

 だが、こんな話を聞いたことがある。

 普段都会で生活している人が、田舎の満天の星空を見ると、「気持ち悪い」という感情を抱くことがあるらしい。

 都会には高層ビルが乱立していて、空を見上げる機会などそうそうない。

 たとえ見上げたとしても、「光害」によって、田舎のようにきれいな星を空に見ることはできないのだ。

 見る側の人となりや立場、環境によって、同じものを見ていても、抱く感情はこれほどまでに変わってくる、という典型例だ。

 俺が住んでいたのも田舎ではなかったが、俺にはまだそう言ったものを綺麗だと思う感性は残っているらしい。

 空を見上げながら歩くなんて、俺にしては珍しいこともあるものだ。

 この散歩道の人通りはない。

 ほとんどないではなく、ない。ゼロだ。俺と同じ方向に行く人も、すれ違う人も一人もいない。

 放課後に賑わうのは、カフェやショッピングモール。寮の奥側に行く人なんて誰もいない。そのうえ中間テストが近づいている今、ほとんどの人は教室や図書館、もしくはそれ以外の静かな場所でテスト勉強にいそしんでいるだろう。

 寮を過ぎて直進すると、小さなバスケットコートがあるということは、いったいどれほどの人に知られているだろうか。

 恐らく上級生は知っている。だが新入生は知らないだろうな。配られた地図や、端末に入っている学内マップには「バスケットコート」とは書かれてなかったし。

 完全な気まぐれ。俺はそこを折り返し地点にすることにした。

 一歩一歩踏み出すごとに、バスケットコートに近づく。

 予想通り、プレーしている人はいないようだ。

 プレーしてる人は。

 

「……?」

 

 バスケットコートの脇にあるベンチ。そこに一人の女子生徒が座っているのを見つけた。

 長めの髪を後ろで2つにまとめている。

 その顔と背格好には、覚えがあった。

 

「え……」

 

 向こうも、俺が突っ立っているのに気がついたようだ。

 そして目が合う。

 

「あ、あ、……」

 

 見られたくないシーンだったのか、その女子生徒は焦った様子でカバンを持って全力でダッシュ。

 

「あ、おい……」

 

グアアアアアアアン

 

 

 

 

 

 1

 

「っぅぅ……」

 

「……大丈夫か?」

 

「あうう……は、はい……」

 

 その女子生徒、同じクラスの佐倉愛理は、猪突猛進で頭から電柱に突っ込んだ。

 さぞかし痛かっただろう。ぶつかる瞬間、見てるこっちも無意識に目をつぶってしまったくらいだ。しばらくの間こぶができるかもしれない。

 佐倉はどうやら、この場所で自撮りをしているところだったようだ。

 恐らく、ここなら誰も通らないと踏んでのことだったんだろう。たとえ通ったとしても、ここの通りは一本道。すぐに気づいて隠れられると考えていたのかもしれない。

そんなところにいきなり俺が来たら、まあ驚くし、焦るわな。ごめんね影薄くて。

 

「あ、あの……」

 

「……ん?」

 

「その……こ、このことは誰にも言わないでくれますか……?」

 

「……電柱とケンカしたって?」

 

「そ、そっちじゃなくてっ。あ、そっちもだけど……そ、その、自分で自分を撮ってたこと、です……」

 

 丁寧にですます調で話す佐倉のセリフを受け、少し考えてみる。

 ……そもそも言う人いないなあ。

 

「別に言うつもりはないけど……」

 

 そう言うと、佐倉は少しほっとしたような表情になった。

 俺が佐倉について知っていることは少ない。

だがこれは俺がコミュ障だから、という以前に、佐倉自体もあまり人と関わるタイプではないから、というのも大きい。

特筆すべき点といえば、俺と同じく昼食に弁当を持ってきていること。

 それから、確か水泳の授業のときだったか。佐倉は胸がでかいだの何だのと言われて、一時期男子から注目を浴びていたこともあった。

 ただし、話題が沸騰したのは一瞬だけ。その後は雰囲気の地味さからか、徐々に男子の視界からフェードアウトしていった、という流れのはずだが……

 今隣に座っている佐倉からは、普段の地味さが微塵も感じられない。いや、地味どころか、クラストップレベルと言っていい容姿を持っている。はっきり言ってめっちゃ可愛い。

 何で……と考えていると、普段の佐倉と今とで、決定的な違いがあることに気づいた。

 

「……佐倉、いつもは眼鏡かけてなかったか?」

 

「え!? あ、そ、そうなの! カメラの前ではかけないことにしてるんです!」

 

 慌てふためいた様子で、メガネをかける佐倉。

 その様子を見て、さらなる疑問が頭によぎる。

 カメラの前ではかけないということは、その方が可愛く映ると自分でもわかっているということだ。

 じゃあ何でわざわざ地味にしてるんだ……?

 それにこの眼鏡……

いや、詮索はよそう。

 何か事情があるんだろう。

 

「あ、あの……変、ですか? 自分を撮るのが趣味なんて……」

 

 恐る恐る、といった感じで聞いてくる。

 やはり、俺に見られたことを相当気にしているらしい。

 まあ当然か。隠していた自分の秘密を他人に知られたら、強く気にするのは自然な流れだ。

 

「……さあ。他の人がどんな趣味持ってるかなんて知らないから、比較して言うことはできないが……でも、ちゃんとした趣味があるってのはいいことだと思うぞ」

 

「……ほ、本当、ですか?」

 

「ああ。別に他人に迷惑かかってるわけでもないんだろうし……」

 

 他人に迷惑がかかるようなことは自重すべきだが、そうでないなら、個人の趣味嗜好は最大限尊重されるべきだ。

 法的な言葉を借りるなら、「公共の福祉」に反しない限り、個人の趣味嗜好を馬鹿にしたり、邪魔する権利は誰にもない。

 まあ、たまにびっくりするような趣味持ってるやつはいるんだろうが……佐倉の場合はその限りではないだろう。佐倉とは方向性が違うと思うが、世の中の高校生なんてパシャパシャ自撮りしまくってるしな。

 

「……ありがとうございます」

 

「……別に感謝されるようなことは何もしてないぞ」

 

「その、こんなところ誰かに見られたのなんて初めてで……もし見つかったらどんな反応されるんだろうって、怖かったから……」

 

 俺は素直に感想を述べただけだが、対応の仕方としては、どうやら正解のくじを引いたらしい。

 そうこうしているうちに、段々と日が傾いてきた。

 

「……じゃあ、俺はもう帰るから。じゃあな」

 

「あ、私も戻ります……」

 

 そう言って立ち上がった佐倉は、猫背で、地味な雰囲気を持った、あるいは「意図的に醸し出した」いつもの佐倉だった。

 寮のエレベーターで別れるまで、会話は一切生まれない。別れる際も、俺が少しだけ手を上げ、佐倉もそっぽを向きながら控えめに手を振り返す、というものだった。

 まあ、仕方ない。コミュ障だもの。多分お互いに。

 

 

 

 

 

 2

 

 その夜、勉強の息抜きに、夜風にあたりに外に出た。

 5月中旬とはいえ、夜も更けてくると少し肌寒い。

 

「……これからどうするんだろうな、堀北は」

 

 寮のロビーを出て外を歩きながら、夕方の勉強会のことを思い出す。

 残酷なことを言うようだが、今この瞬間、短期的な視点で見れば、須藤たちにこの学校にいてもらう必要はない。

 堀北の言っていた通り、現時点であいつらはクラスのマイナス要因だ。

 だがそれは、いま求められているのが学力だから、というだけの話だ。

 今後、身体能力が求められる場面があれば、須藤はかなり重要なキーになるはずだ。

 池、山内にも同様のことがいえる。

 人には得手不得手がある。確かにあの3人は勉強を不得意としているが、その部分だけを見て人を無能と断ずるのは、あまりにも愚かだろう。

 

「っ!?」

 

 俺の考え事は、目の前に飛び込んできた光景によって一瞬で途切れさせられた。

 そこにいたのは、男女の組み合わせ。

 1年Dクラスの堀北鈴音、そして生徒会長の堀北学だった。

 瞬時に体が反応し、二人に悟られないように物陰に隠れた。

 二人のやり取りの様子をうかがう。

 

「兄さんに追いつくために、ここまで来ました……必ず、必ずAクラスに上がって見せます!」

 

 こいつ今、兄さんって……やっぱりこの二人は兄妹関係だったか。いや、察しはついていたが……

 

「追いつく、か……。お前はまだそんなことを言っているのか」

 

「私は本気です! Aクラスに上がって……兄さんに認めてもらえるように」

 

 兄に認めてもらうため?

 堀北がAクラスを目指す理由も、自分がDクラスにいる現状を受け入れられないのも、全部はこの兄に認めてもらうためだった、ってことか。

 俺がAクラスに上がる目的を聞いたとき、言葉に詰まったのはそのせいか。

 妹の必死な訴えに対し……兄は冷たい視線を送るだけだった。

 

「俺と離れてから2年間……まるで変っていないようだな。失望した。お前には上に行く力も、その資格もない。それを知れ」

 

 危険だ。

 しかし、この場で堀北のためにできることはない。あの動きは明らかに武道の有段者のそれだ。俺が出て行っても何もできない。

 このまま堀北が投げ飛ばされる……と、そう思った次の瞬間だ。

 

「おい、あんた今本気で投げとばそうとしてただろ。下コンクリだぞ」

 

「兄妹だからと言って、やっていいこととダメなことがあるんじゃないか。その手を離せ」

 

 その生徒会長の手を取ったのは、真反対の建物の影から出てきた綾小路だった。

 

「手を離せ、というのはお互い様だ。そちらが離せ」

 

「やめて、綾小路くん……」

 

 堀北の、怯えた猫のような震えた声が耳に入る。

 こいつ、こんな声も出すのか……

 と、そんな風にのんきに考えていた時。

 堀北会長のとんでもない速さの裏拳が綾小路に迫った。それを綾小路は腕で守る。その直後、急所を狙った蹴りが、またしても凄まじい勢いでとんでくるが、それを手ではたき落とす。今度は綾小路の服の襟を掴んで地面に叩きつけようとするが、綾小路はそれも手ではねのけた。

 そうして、お互いに距離を取る。

 

「……」

 

 とんでもないな……

 生徒会長の攻撃は、1発でもまともに食らえば確実に意識が飛ぶだろう、と分かるほどに重く、しかも速い。

 そして、それを完全に防ぎきった綾小路。あれは全部の動きを見切っていないとできない動きだった。

 常人には今何が起こったのか、それすらもわからないだろう。それほどに速く、キレのある動きだった。

 2人とも武道に精通しているんだろう。

 ポケットに物を入れながら、3人の様子を息を殺して観察する。

 

「良い動きだな。なんの経験者だ?」

 

「まあ、ピアノと書道なら何年か前に」

 

「ふっ、なかなかユニークな男だ。そういえば、入試の点数を全科目50点にそろえた生徒がいる、と聞いたな。確か名前は、綾小路清隆、といったか」

 

「すごい偶然もあるもんですね」

 

 ……なんで個人の入試の点数を生徒会長が知ってるんだ、なんて疑問はどうでもいい。

 入試を50点にそろえた? 綾小路が?

 ある意味じゃ全科目満点取るより難しいぞそれ……正解する問題は正しく正解し、間違える問題は正しく間違える。とてつもない学力と集中力を要する。

 それに確かこいつ、小テストの点数も50点だったはずじゃ……

 

「鈴音、お前にもこんな友だちがいたとはな」

 

「彼は、友だちではありません。ただの知り合いです……」

 

「相変わらず、孤高と孤独をはき違えているようだな。だからお前は、いつまでたっても上に行くことができない」

 

 そう言い残して、二人の前を立ち去る生徒会長。

 そのまま、あろうことかこちらに向かってきた。

 いや、よく考えれば当たり前のことだ。3年生の寮は俺がいる方向にある。寮に戻るなら当然この道を通る。

 今逃げても見つかるのは必至だ。

 ……ここは正面から受けよう。

 

「……貴様、いつからそこにいた」

 

 曲がり角で俺を発見した堀北生徒会長は、驚いた表情で開口一番そう言った。

 相対してみると、高校生とは思えない貫録を感じる。

 

「……」

 

 俺はその質問にすぐには答えず、代わりにポケットの中から端末を取り出した。

 操作し、画面を生徒会長の側に向ける。

 

『お前には上に行く力も、資格もない。それを知れ』

『おい、あんた今本気で投げ飛ばそうとしてただろ。下コンクリだぞ』

 

 再生される映像、そして音声。

 瞬間、会長の腕が俺の端末に迫る。

 俺はすぐに端末を後ろへ放り投げた。

 そしてダッシュで取りに向かう。

 当然、堀北会長も走る。

 しかし、途中で急に減速した。

 

「……どうしました。俺を追わないんですか」

 

「……」

 

 追えない理由は分かっている。

 俺が端末を投げた場所は、先ほどの現場と違って監視カメラの網の中だ。

 不審者対策でも何でもなく、俺たち生徒を監視する目的で設置されているであろう、膨大な量の監視カメラ。

 証拠映像が残ってしまう環境下では、先ほどのように手荒な真似をすることはできない。

 それを理解したうえで、会長に問いかける。

 

「それで……俺がいつからいたか、疑問は解消されましたか」

 

「……まさか、見られていたとはな。これは俺の失点だった。それで、どんな取引が望みだ」

 

「取引、と言うと?」

 

「その映像を使って俺を嵌めるためなら、お前はすぐに走り去るべきだった。その後ろ姿を俺に一瞬見られたとしても、だ。だがそうしないのは、それを使って俺と取引をしたいからだろう」

 

 一瞬で看破された。

 

「もったいぶるのは時間の無駄だ」

 

「はい、分かってます」

 

 これは恐らく会長の戦略の一つ。

 時間的圧力をかけて、俺の判断力をできる限り鈍らせようとしている。

 だが今さら考えずとも、俺の要求はもう決まっている。

 

「始めに言っておきますが、取引に応じていただければ、俺はこの映像を決して外部に出すことはない、ということは絶対に約束します」

 

「なるほど。取引に応じれば、その映像が俺とお前以外の目に入ることは絶対にない、と約束するんだな」

 

「……」

 

 これは……ダメだな。

 この人の方が1枚も2枚も上手だ。

 俺はあえて「外部」と言った。ここで言う外部とは、堀北会長と綾小路、堀北とのひと悶着を知らない者、と定義できる。

 つまり、俺がこの映像を2人のどちらかに送ったところで、それは外部に漏らしたことにはならないという解釈が可能だ。そしてその2人からこの映像が漏れたとしても、それは取引の対象外、ということになる。

 さらに、「取引に応じれば」という文言を入れることで、取引成立前のことに関しては無関係、という要素も用意していた。

 それを、取引内容の再確認に見せかけて「俺とお前以外の目に入ることは絶対にない」と表現を変えることで、そういった俺の逃げ道を完全に潰してきた。

 俺は、素直に認めざるを得ない。

 

「……ええ。そうです」

 

 俺はまだこの人には勝てない。

 加えてこの人は生徒会長。学校のことを知り尽くしている。

 この取引以外に余計なちょっかいを出せば、こちらが足をすくわれる可能性がある。

 恐らく会長はこのやり取りを録音しているだろう。俺が端末を投げ、会長から目を切った一瞬の間に。

 下手を打ったら一気にこちらが不利になる。

 あの映像を気づかれずに撮るという、不意打ちの先制攻撃で取ったリードを奪われることは避けなければならない。

 ここは安全な橋を渡るべきだ。

 

「ほしいのは2つ。まず1つ目は情報です。今後、プライベートポイントが大きく増える機会はあるのか。あるとしたら、それはどんなものか。教えてくれますか」

 

「……ほう。クラスポイントではなく、か」

 

「そうです」

 

 俺はクラスポイントにはそれほど興味はない。もちろん、増えるに越したことはないのだが。

 ただもし、プライベートポイントが大量に入る機会があるとしたら……

 

「そういった機会は存在する。詳しく言うことはできないが……今後、学力や身体能力以外の面が大きく問われる試験が、お前たちに課されるだろう。名前は『特別試験』という」

 

「特別試験……」

 

 定期的に行われる学力試験とは全く別物か。

 

「特別試験では、プライベートポイントもそうだが、クラス間対決の色が強く、クラスポイントの大きな変動もある。むしろ多くの者はそちらの方に注目するだろう」

 

 Aクラスに上がることを切望する生徒は特にそうだろうな。

 各種ポイントが大きく増減する特別試験。覚えておこう。

 

「もう一つはなんだ」

 

「プライベートポイントです」

 

「予想はできていた。いくらだ」

 

「堀北会長が、いまこの瞬間に所持しているポイントの10パーセント、でどうでしょう」

 

「……なるほど」

 

 割合で提示することによって、定数提示の場合と違って分かることが一つある。

 堀北会長が現状ポイントをいくら所持しているのか、ということだ。

 まあ普通に聞けばいい話ではあるんだが、関係ない質問だ、とか言われてはぐらかされるのもアレだしな。

 

「いいだろう。小数点以下は切り捨てで構わないな」

 

「それでいいです」

 

 放り出されたまま放置されていた端末を拾って戻り、送金を受けた。

 入ってきたポイントは、約31万ポイント。

 この人は約310万ものポイントを所有していたことになる。

 クラスポイントが0になり、ポイント不足にあえいでいる俺たちにとっては、とても考えられない量のポイントだ。

 

「取引成立ですね。映像消します。見ててください」

 

「分かった」

 

 取引内容に映像の消去までは含まれていないが、この形をとった方が変な禍根を残さずに済むだろう。

 

「確認した」

 

「どうも」

 

 用を終えた端末をポケットにしまう。

 このまま帰ってもいいのだが……せっかくの機会だ。

 

「あの……これは取引とは全く関係ない、個人的な質問なんですが」

 

「なんだ」

 

「この学校の入学基準は、いったい何なんですか」

 

 聞くと、会長は驚いた表情になる。

 

「この学校のクラス分けが、単に学力や身体能力、コミュニケーション能力などを基準としているわけじゃないことはなんとなくわかります。ただ、クラス分け以前の入学そのものに必要な試験は、学力試験と面接試験。この2つをクリアしないと、入学は叶わない。と思ってたんですが……それだとちょっとおかしい点がありまして」

 

 それが須藤の存在だ。

 学力は壊滅的。面接でも、普段の様子を見ていると最低に近い評価を受けているはず。

 それに、話を聞く限り綾小路もだ。

 全科目50点。須藤のように「壊滅的」とまでは言えないが、この学校の倍率を考えれば、そんな点数で合格を果たせるなんて普通は考えられない。

 にも関わらず、須藤も綾小路もこの学校にいる。

 これは一体どういうことなのか。

 

「それは俺にも分からない」

 

「……そうですか。綾小路の入試の点数を知ってるなら、そのあたりも知ってるんじゃないかと思ったんですが」

 

「ああいった情報は、こちらの耳に届く方が稀だ」

 

 まあ、それもそうか……

 

「だがお前の考えている通り、この学校の入学条件は、学力、面接の2つ以外にもある、というのは恐らく間違いないだろう。俺たち生徒の知らないところで、何かフレキシブルに生徒を取ることが出来るような規定がある、と俺は考えている」

 

「……なんというか、こんなにすんなりと考えが聞けるとは思ってませんでした」

 

 お前に教える理由はない、と門前払いを受けることも考えていたのだが。

 

「この学校のシステムは複雑で、且つ非常に秘密が多い。入学に関することもその一つだ。そのヒントになり得ることを共有するのは、悪いことではないからな」

 

 この学校に2年いて、生徒会長を務めるこの人でも、まだまだ解けない秘密があるのか。

 

「速野」

 

「……っ!」

 

 急に名前を呼ばれ、一瞬体が跳ねる。

 なんで俺の名前を……と思ったが、先ほど送金作業をするときに、端末に表示されたのを見たんだろう。

 と思っていたが。

 

「俺は端末でお前の名前を見る前から、お前を知っていた」

 

「……どうして」

 

「入試において全科目満点を獲得した新入生の名前は、一度でも聞いたら忘れない」

 

「……」

 

 情報が届くのは稀だとか言っときながら、しっかり俺の点数も知ってんじゃねえか……どうなってるんだこの学校の情報網は。口が滅茶苦茶軽い職員でもいるのか? 口裂け女とか?

 

「始めに聞いたときには驚いた。あの入試で全科目満点を獲得した生徒が出たのは、史上初めてのことだ」

 

「そうでしたか。それは光栄です」

 

 確かに、解いてて「あ、これ満点潰しの問題だな」とあからさまに分かる問題が各科目に1問ずつあった。

 

「今年の1年は、面白い生徒が揃っているようだな。入学1カ月でポイントを0にしたDクラス……お前たちがどう足掻くか、楽しみに見ておこう。……お前の成長にも、期待している」

 

 そう言い残し、3年生の寮へと歩いていく堀北生徒会長。

 

「……化け物か」

 

 いや、もしくは俺の実力が足りないだけか。

 今気づいた。あの人はまだ本気じゃなかった。

 俺が取引成立前にあの映像を堀北に送るのと同時にあの人があの確認をしてきたら、俺は逆に追い詰められていた。

 だが、それをしなかった。

 入学祝いの餞別のつもりか。

 弱者が強者を上回れるのは奇襲のみ、と相場が決まっている。

 学年が違って、直接の対決がなさそうなのを幸運に思うしかないな。

 

 

 




次回更新は11月22日15時です。
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